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侍女は見た ~こじらせ王子と婚約破棄したい聖女のお話~
5.まだもう少し
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「そうか、ついに思い出したか」
足を組んでソファに身を投げだし、満足げなほほえみを浮かべるのは、ウィリアム殿下です。
わたくしはその御前に平伏しておりましたが、報告の完了とともに顔をあげました。
本日はウィリアム殿下のお顔を正面から拝謁することができます。
なぜならいまのわたくしは、シェリルローズ侯爵令嬢の侍女ではなく、子爵位を与えられた女騎士ベルタの身分だからです。
「俺とシェリルが出会ったのは聖女の顔見せの日ではない。それ以前、エンウェザー侯爵が登城のおり彼女を連れてきたのだ。そして偶然にも俺のいた裏庭へと迷いこんだ」
それは偶然というよりは当時のお嬢様が持っていた抜群の運の悪さのせいに違いないのですが、黙っておきましょう。
「しばらく語りあううちに、彼女の屈託のない笑顔と底抜けの明るさに俺は心を奪われた……しかし素直な気持ちを口にすることができず、『お前を妃にしてやる』と上から目線なプロポーズしかできなかった。シェリルの答えはこうだった、『あっかんべー!』」
大切な記憶をよみがえらせるかのように目を細めてウィリアム殿下は当時の様子を語ってくださいます。この話はこの六年間、報告のたびに聞いておりますのでもう二百回は聞いたと思います。
おかげでお嬢様から「記憶を取り戻した」とこの話を聞かされたとき、初耳のようにふるまうのにそれはそれは骨が折れました。
ウィリアム殿下幼少期の国王ご夫妻は不仲で、殿下を自分の味方に引き入れようと相手の醜い悪口ばかり吹きこんでいたそうです。ウィリアム殿下にも色々と気苦労があったゆえのいまの性格なのでございます。たぶん。
お嬢様はそのことを思い出しました。……大樹の陰で一人泣いていた男の子を。その子を励ましたことを。結婚を申しこまれて、恥ずかしさのあまり舞いあがってしまったことを。
シェリルお嬢様は、顔を真っ赤に染めながらわたくしに打ち明けてくださいました。
「おまけに木から落ちて記憶をなくすわ、そのくせ聖女の力に目覚めて毎週会えるようになるわ。シェリルはどこまで俺を惚れさせたら気がすむんだ」
目を閉じ、うっとりとため息をつくウィリアム殿下。
……いまの台詞をそっくりそのままシェリルローズお嬢様にお伝えになれば、お嬢様だってもう嫌とは言いませんでしょうに。
信頼のおける近衛兵をわざわざ選びだし、侍女としてエンウェザー家に送りこむほどにウィリアム殿下はお嬢様に惚れ抜いておられるのです。そしてまたそれを素直に言えないくらい、愛をこじらせているのでした。
「それで、どうだ。俺についてシェリルは何か言っていたか? 結婚してもいいとか、結婚してもいいとか、結婚してもいいとか」
「いいえ、何も……」
わたくしは静かに首をふりました。
お嬢様のお気持ちについては黙っていることにいたしましょう。きっとあの様子では隠し通すことはできませんし、こういったことはお互いの腹を割ってお話しになったほうがよろしいですからね。
お嬢様がお尋ねになれば、さすがのウィリアム殿下も素直になるはずです。
わたくしはふたたび礼の姿勢を取り、そっと口をつぐみます。
お二人のお子様が生まれたら、わたくしにお世話をさせていただけるかしら、と考えながら。
足を組んでソファに身を投げだし、満足げなほほえみを浮かべるのは、ウィリアム殿下です。
わたくしはその御前に平伏しておりましたが、報告の完了とともに顔をあげました。
本日はウィリアム殿下のお顔を正面から拝謁することができます。
なぜならいまのわたくしは、シェリルローズ侯爵令嬢の侍女ではなく、子爵位を与えられた女騎士ベルタの身分だからです。
「俺とシェリルが出会ったのは聖女の顔見せの日ではない。それ以前、エンウェザー侯爵が登城のおり彼女を連れてきたのだ。そして偶然にも俺のいた裏庭へと迷いこんだ」
それは偶然というよりは当時のお嬢様が持っていた抜群の運の悪さのせいに違いないのですが、黙っておきましょう。
「しばらく語りあううちに、彼女の屈託のない笑顔と底抜けの明るさに俺は心を奪われた……しかし素直な気持ちを口にすることができず、『お前を妃にしてやる』と上から目線なプロポーズしかできなかった。シェリルの答えはこうだった、『あっかんべー!』」
大切な記憶をよみがえらせるかのように目を細めてウィリアム殿下は当時の様子を語ってくださいます。この話はこの六年間、報告のたびに聞いておりますのでもう二百回は聞いたと思います。
おかげでお嬢様から「記憶を取り戻した」とこの話を聞かされたとき、初耳のようにふるまうのにそれはそれは骨が折れました。
ウィリアム殿下幼少期の国王ご夫妻は不仲で、殿下を自分の味方に引き入れようと相手の醜い悪口ばかり吹きこんでいたそうです。ウィリアム殿下にも色々と気苦労があったゆえのいまの性格なのでございます。たぶん。
お嬢様はそのことを思い出しました。……大樹の陰で一人泣いていた男の子を。その子を励ましたことを。結婚を申しこまれて、恥ずかしさのあまり舞いあがってしまったことを。
シェリルお嬢様は、顔を真っ赤に染めながらわたくしに打ち明けてくださいました。
「おまけに木から落ちて記憶をなくすわ、そのくせ聖女の力に目覚めて毎週会えるようになるわ。シェリルはどこまで俺を惚れさせたら気がすむんだ」
目を閉じ、うっとりとため息をつくウィリアム殿下。
……いまの台詞をそっくりそのままシェリルローズお嬢様にお伝えになれば、お嬢様だってもう嫌とは言いませんでしょうに。
信頼のおける近衛兵をわざわざ選びだし、侍女としてエンウェザー家に送りこむほどにウィリアム殿下はお嬢様に惚れ抜いておられるのです。そしてまたそれを素直に言えないくらい、愛をこじらせているのでした。
「それで、どうだ。俺についてシェリルは何か言っていたか? 結婚してもいいとか、結婚してもいいとか、結婚してもいいとか」
「いいえ、何も……」
わたくしは静かに首をふりました。
お嬢様のお気持ちについては黙っていることにいたしましょう。きっとあの様子では隠し通すことはできませんし、こういったことはお互いの腹を割ってお話しになったほうがよろしいですからね。
お嬢様がお尋ねになれば、さすがのウィリアム殿下も素直になるはずです。
わたくしはふたたび礼の姿勢を取り、そっと口をつぐみます。
お二人のお子様が生まれたら、わたくしにお世話をさせていただけるかしら、と考えながら。
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