世界観制約で罵倒しかできない悪役令嬢なのに、なぜか婚約者が溺愛してくる

杓子ねこ

文字の大きさ
11 / 18

11.俺もだ

しおりを挟む
「ヴェスカ嬢、ドアを開けてほしい。きちんと顔を見て話がしたい」
 
 真摯な声は、悲しみと、押し隠した憤りを孕んでいるように感じられた。
 食堂でのわたくしの言動がロアン様を失望させたのだろうか。
 それでも冷静に、話がしたいと言ってくださるロアン様は、やはり騎士らしい正義感にあふれている。
 
「……俺は君に、謝らなければならないことがある」
 
 どくりと心臓が跳ねた。
 冷たい汗が肌を流れていく。血の気が引く、とはこういうことを言うのだろう。めまいがして、喉が干上がる――床に座り込んでいなければ卒倒していたに違いない。
 
「ヴェスカ嬢……」
 
 答えないわたくしに、ロアン様は縋るような声で名を呼んだ。
 かすかな物音がする。
 ドアの板に、ロアン様が触れたのだ。
 
「なら、そこで聞いてくれ。俺は……」
 
「――嫌です!」
 
 子どものように頭を激しく左右に振り、耳をふさいで、わたくしは叫んだ。
 
「聞きたくありません! わたくしに失望したのでしょう。婚約破棄ですか! ロアン様と顔をあわせてなんて、聞きたくありません!!」
 
 ぽろぽろと涙がこぼれる。
 自分が何を口走っているのか気づかないまま、わたくしは泣き喚いた。
 
「嫌に決まっているじゃありませんか!! わたくしは――わたくしは、ロアン様のことが好きなのですから……!! ――えっ?」
 
 んん??
 ようやく状況を理解したわたくしが間抜けな声をあげた、その瞬間だった。
 
 バキ、とドアノブから妙な音が立つ。
 
 鍵をかけていたはずのドアが、ゆっくりと開いた。その向こうには、ロアン様がクワッと目を見開いてこぶしを握る……前世風に言うなら、仁王立ちのロアン様。
 
「今の言葉は事実か」
「え、あ、はい……」
 
 ロアン様のあまりの覇気に、わたくしはとりつくろうこともできずに頷いた。短く切り揃えられた黒髪が逆立っているかのようだ。
 
「俺もだ」
「え」
「俺も、君が、好きだ」
「えっと」
 
 好き? ロアン様がわたくしを?
 
 ロアン様は「失礼する」とひと言、部屋に足を踏み入れた。目をぱちぱちと瞬かせるわたくしの前にやってくると、手をのばす。
 起こしてくださるのかと思ったその手は、たしかにわたくしの手をつかんで引いた。
 
 ただし、勢いはそれでは終わらず、わたくしはロアン様の胸のなかに飛び込んでいた。
 痛いくらいに抱きしめられて、視界がロアン様のジャケットで埋まる。
 
「ずっと、好きだった……! ヴェスカ嬢、君が。怖くて、面と向かって尋ねられなかった……!」
「きゃあああああ!!」
 
 追いつかない思考回路にとどめを刺すように、ロアン様はふたたび愛を告げた。
 耳元で囁かれる熱っぽい声にわたくしは悲鳴をあげる。
 
「お嬢様……!! あっ、失礼しました!」
 
 すぐに箒を振りあげたシェリーがやってきて、顔を真っ赤にしたわたくしをロアン様の腕のなかに見つけて引き返していった。
 できればロアン様を止めてほしかったけれど、キッチンメイドの彼女にそれは酷というものだ。デネスを呼んできてくれないかしら!?
 
「ヴェスカ嬢……?」
 
 ロアン様のお声がまた不安げなものになって、そろりと腕が離れた。
 
「まさか、好きだと聞こえたのは幻聴か……?」
 
 わたくしを見つめて、ロアン様が呟く。
 わたくしもはっと我に返った。
 
「げ、幻聴ではありません……」
 
 そう、わたくしは勢いのままに想いを告げてしまった。
 
 何を言ってもどうせ罵倒になる。だったら思いのたけをぶつけてやれというやぶれかぶれの気持ちになって、本音をぶちまけた。
 しかしそれらは、罵倒に変換されることなく、言葉となった。
 
「どうして……」
「ああ、よかった。あの聖女の呪いが解けたのだな」
 
 ロアン様は眉をさげて、今度はやさしくわたくしを抱きしめた。
 
 ……聖女の、呪い?
 
 わたくしはぽかんと口を開けて、「本当にすまなかった」というロアン様の謝罪を聞いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

眠り姫は十年後、元婚約者の隣に別の令嬢を見つけました

鍛高譚
恋愛
幼い頃、事故に遭い10年間も眠り続けていた伯爵令嬢アーシア。目を覚ますと、そこは見知らぬ大人の世界。成長した自分の身体に戸惑い、周囲の変化に困惑する日々が始まる。 そんな彼女を支えるのは、10年前に婚約していた幼馴染のレオン。しかし、目覚めたアーシアに突きつけられたのは、彼がすでに新しい婚約者・リリアナと共に未来を築こうとしている現実だった――。 「本当に彼なの?」 目の前のレオンは、あの頃の優しい少年ではなく、立派な青年へと成長していた。 彼の隣には、才色兼備で知的な令嬢リリアナが寄り添い、二人の関係は既に「当然のもの」となっている。 アーシアは過去の婚約に縋るべきではないと分かりつつも、彼の姿を目にするたびに心がざわめく。 一方でレオンもまた、アーシアへの想いを完全に断ち切れてはいなかった。 幼い頃の約束と、10年間支え続けてくれたリリアナへの誠意――揺れ動く気持ちの狭間で、彼はどんな未来を選ぶのか。 「私の婚約者は、もう私のものではないの?」 「それでも私は……まだ、あなたを――」 10年間の空白が引き裂いた二人の関係。 心は10歳のまま、だけど身体は大人になったアーシアが、新たな愛を見つけるまでの物語。 運命の婚約者との再会は、果たして幸福をもたらすのか――? 涙と葛藤の三角関係ラブストーリー、ここに開幕!

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

処理中です...