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11.俺もだ
「ヴェスカ嬢、ドアを開けてほしい。きちんと顔を見て話がしたい」
真摯な声は、悲しみと、押し隠した憤りを孕んでいるように感じられた。
食堂でのわたくしの言動がロアン様を失望させたのだろうか。
それでも冷静に、話がしたいと言ってくださるロアン様は、やはり騎士らしい正義感にあふれている。
「……俺は君に、謝らなければならないことがある」
どくりと心臓が跳ねた。
冷たい汗が肌を流れていく。血の気が引く、とはこういうことを言うのだろう。めまいがして、喉が干上がる――床に座り込んでいなければ卒倒していたに違いない。
「ヴェスカ嬢……」
答えないわたくしに、ロアン様は縋るような声で名を呼んだ。
かすかな物音がする。
ドアの板に、ロアン様が触れたのだ。
「なら、そこで聞いてくれ。俺は……」
「――嫌です!」
子どものように頭を激しく左右に振り、耳をふさいで、わたくしは叫んだ。
「聞きたくありません! わたくしに失望したのでしょう。婚約破棄ですか! ロアン様と顔をあわせてなんて、聞きたくありません!!」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
自分が何を口走っているのか気づかないまま、わたくしは泣き喚いた。
「嫌に決まっているじゃありませんか!! わたくしは――わたくしは、ロアン様のことが好きなのですから……!! ――えっ?」
んん??
ようやく状況を理解したわたくしが間抜けな声をあげた、その瞬間だった。
バキ、とドアノブから妙な音が立つ。
鍵をかけていたはずのドアが、ゆっくりと開いた。その向こうには、ロアン様がクワッと目を見開いてこぶしを握る……前世風に言うなら、仁王立ちのロアン様。
「今の言葉は事実か」
「え、あ、はい……」
ロアン様のあまりの覇気に、わたくしはとりつくろうこともできずに頷いた。短く切り揃えられた黒髪が逆立っているかのようだ。
「俺もだ」
「え」
「俺も、君が、好きだ」
「えっと」
好き? ロアン様がわたくしを?
ロアン様は「失礼する」とひと言、部屋に足を踏み入れた。目をぱちぱちと瞬かせるわたくしの前にやってくると、手をのばす。
起こしてくださるのかと思ったその手は、たしかにわたくしの手をつかんで引いた。
ただし、勢いはそれでは終わらず、わたくしはロアン様の胸のなかに飛び込んでいた。
痛いくらいに抱きしめられて、視界がロアン様のジャケットで埋まる。
「ずっと、好きだった……! ヴェスカ嬢、君が。怖くて、面と向かって尋ねられなかった……!」
「きゃあああああ!!」
追いつかない思考回路にとどめを刺すように、ロアン様はふたたび愛を告げた。
耳元で囁かれる熱っぽい声にわたくしは悲鳴をあげる。
「お嬢様……!! あっ、失礼しました!」
すぐに箒を振りあげたシェリーがやってきて、顔を真っ赤にしたわたくしをロアン様の腕のなかに見つけて引き返していった。
できればロアン様を止めてほしかったけれど、キッチンメイドの彼女にそれは酷というものだ。デネスを呼んできてくれないかしら!?
「ヴェスカ嬢……?」
ロアン様のお声がまた不安げなものになって、そろりと腕が離れた。
「まさか、好きだと聞こえたのは幻聴か……?」
わたくしを見つめて、ロアン様が呟く。
わたくしもはっと我に返った。
「げ、幻聴ではありません……」
そう、わたくしは勢いのままに想いを告げてしまった。
何を言ってもどうせ罵倒になる。だったら思いのたけをぶつけてやれというやぶれかぶれの気持ちになって、本音をぶちまけた。
しかしそれらは、罵倒に変換されることなく、言葉となった。
「どうして……」
「ああ、よかった。あの聖女の呪いが解けたのだな」
ロアン様は眉をさげて、今度はやさしくわたくしを抱きしめた。
……聖女の、呪い?
わたくしはぽかんと口を開けて、「本当にすまなかった」というロアン様の謝罪を聞いた。
真摯な声は、悲しみと、押し隠した憤りを孕んでいるように感じられた。
食堂でのわたくしの言動がロアン様を失望させたのだろうか。
それでも冷静に、話がしたいと言ってくださるロアン様は、やはり騎士らしい正義感にあふれている。
「……俺は君に、謝らなければならないことがある」
どくりと心臓が跳ねた。
冷たい汗が肌を流れていく。血の気が引く、とはこういうことを言うのだろう。めまいがして、喉が干上がる――床に座り込んでいなければ卒倒していたに違いない。
「ヴェスカ嬢……」
答えないわたくしに、ロアン様は縋るような声で名を呼んだ。
かすかな物音がする。
ドアの板に、ロアン様が触れたのだ。
「なら、そこで聞いてくれ。俺は……」
「――嫌です!」
子どものように頭を激しく左右に振り、耳をふさいで、わたくしは叫んだ。
「聞きたくありません! わたくしに失望したのでしょう。婚約破棄ですか! ロアン様と顔をあわせてなんて、聞きたくありません!!」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
自分が何を口走っているのか気づかないまま、わたくしは泣き喚いた。
「嫌に決まっているじゃありませんか!! わたくしは――わたくしは、ロアン様のことが好きなのですから……!! ――えっ?」
んん??
ようやく状況を理解したわたくしが間抜けな声をあげた、その瞬間だった。
バキ、とドアノブから妙な音が立つ。
鍵をかけていたはずのドアが、ゆっくりと開いた。その向こうには、ロアン様がクワッと目を見開いてこぶしを握る……前世風に言うなら、仁王立ちのロアン様。
「今の言葉は事実か」
「え、あ、はい……」
ロアン様のあまりの覇気に、わたくしはとりつくろうこともできずに頷いた。短く切り揃えられた黒髪が逆立っているかのようだ。
「俺もだ」
「え」
「俺も、君が、好きだ」
「えっと」
好き? ロアン様がわたくしを?
ロアン様は「失礼する」とひと言、部屋に足を踏み入れた。目をぱちぱちと瞬かせるわたくしの前にやってくると、手をのばす。
起こしてくださるのかと思ったその手は、たしかにわたくしの手をつかんで引いた。
ただし、勢いはそれでは終わらず、わたくしはロアン様の胸のなかに飛び込んでいた。
痛いくらいに抱きしめられて、視界がロアン様のジャケットで埋まる。
「ずっと、好きだった……! ヴェスカ嬢、君が。怖くて、面と向かって尋ねられなかった……!」
「きゃあああああ!!」
追いつかない思考回路にとどめを刺すように、ロアン様はふたたび愛を告げた。
耳元で囁かれる熱っぽい声にわたくしは悲鳴をあげる。
「お嬢様……!! あっ、失礼しました!」
すぐに箒を振りあげたシェリーがやってきて、顔を真っ赤にしたわたくしをロアン様の腕のなかに見つけて引き返していった。
できればロアン様を止めてほしかったけれど、キッチンメイドの彼女にそれは酷というものだ。デネスを呼んできてくれないかしら!?
「ヴェスカ嬢……?」
ロアン様のお声がまた不安げなものになって、そろりと腕が離れた。
「まさか、好きだと聞こえたのは幻聴か……?」
わたくしを見つめて、ロアン様が呟く。
わたくしもはっと我に返った。
「げ、幻聴ではありません……」
そう、わたくしは勢いのままに想いを告げてしまった。
何を言ってもどうせ罵倒になる。だったら思いのたけをぶつけてやれというやぶれかぶれの気持ちになって、本音をぶちまけた。
しかしそれらは、罵倒に変換されることなく、言葉となった。
「どうして……」
「ああ、よかった。あの聖女の呪いが解けたのだな」
ロアン様は眉をさげて、今度はやさしくわたくしを抱きしめた。
……聖女の、呪い?
わたくしはぽかんと口を開けて、「本当にすまなかった」というロアン様の謝罪を聞いた。
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