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求婚約
しおりを挟む騒いでいた辺境伯は、兄上と呼んでいた侯爵家令息と背中を叩き合い、別れる。
そして。
目が、あった。
靴下一枚の辺境伯は、小さな体から異様な迫力を垂れ流しながら、わたしの方へと向かってくる。
彼に初めて出会った日に、痛感した〝強引すぎる〟は、間違いではなかった。
そう思うことは、もう、恐怖ではないとしても。
わたしの前で、数歩進めば触れられる距離で、片膝をつく辺境伯。
その視線は奇妙なほどに熱を持ち、ねっとりと絡みつくような感覚すら覚えた。
「アルドレイ・ミッサ・アフ子爵家令息、これで貴方との約束は全て果たした、婚約者として共に辺境へ来てくれるか?」
「えええええええ!?」
叫んだのは、わたしではない。
共にいた、友人たちだ。
王国では同性での婚姻が認められている。
けれど女性の爵位継承と同じように、多くはない。
決して子を残せない婚姻が結ばれるとすれば、それは、必要だから。
もしくは他を犠牲にして貫いたから。
だから彼も、要不要でわたしを求めたと思っていた。
でも。
「おれはこれまで同性に恋をしたことはなかったが、貴方に惚れた。
貴方を生涯唯一の伴侶として、不義を働かぬと誓約する。
どうかおれのため、辺境のため、国のため、そしてなによりも、おれのために来てほしい!」
おれのため、を二回言ったのは何故だ。
そう思うのに、嫌ではない。
わたしを求められているから。
傍観者として最後まで見極めてほしい、と言ってくれたのに、どうしてここで巻き込むのか、と呆れてしまう。
嬉しいと思うな、顔に出すな。
「辺境伯閣下、どうか勘違いをしないでもらいたい。
わたしがこの婚約を受け入れるのは、辺境からの薬物流入を取り締まる制度確立の取締官としてであり、王都と辺境の橋渡しにもなるからです」
言い訳じみている。
自分でもそう思った。
だって、顔が熱い。
「嬉しいぞ、大事にするからなアルドレイ!」
「っ、~~~っ」
美少女にしか見えない彼の、まぶしすぎる満面の笑みに胸を撃ち抜かれ。
わたしは顔を両手で覆うことしかできなかった。
殿下の側で浮かべていた儚げな笑みが演技だと、周囲も気がついたようだ。
ざわめきの中に、本当に男だ、という声が聞こえてしまった。
がばり、と抱きつかれて、細い腕がとんでもなく力強いことを思い出す。
令嬢のふりをしていた時に、繊細な器を両手で持ち上げていたのは、強すぎる力で割らないための努力の結果、だと。
彼は真実〝武のティグナレット辺境伯〟閣下だ。
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