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もっとウツシミも種も必要だから、迷子を調べて押し出してみた ※

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 不快と快感と恐怖の混ざった我慢の時が過ぎて、お尻から種らしいものが引き抜かれ、ようやく解放されたと安堵した直後。

『やったぁ、これなら発芽するよ、ありがとう、うまくいったよ!』
「……よかったね」
『ありがとう』

 ものすごく嬉しそうな木の様子に、ぼくは恨み言を口にできなくなった。

 初めにお礼がしたいと言ったのはぼくで、木がぼくに強要したわけではない。
 嫌だったけど……強要はされてない、と思う。
 自信ないけど。

「本当に、よかった」

 ほう、と息を吐いたぼくの周囲に、なぜか木の枝が垂れ下がり、全身をなでさするように、疲労を癒すように動き回っている。

 こうやって、いつも気遣ってくれて優しいから、離れたくなくなる。
 木は〝木〟なのに。

 木の枝なのに器用に動くなあ、と今更のように見ていたら、目の前に白い果実が降りてきた。

『はい、どうぞ』
「え?」
『種は一つじゃないよ、全部、お腹の中で発芽促進してもらえないかな』
「ええ……」
『助けが必要なんだ、もらった種を素にコンカクを作っているから、お腹の中で温めないと発芽しないみたい。
 発芽促進が終わったら新しい種をもらって、もっとたくさんいっぱい用意するからね』
「えええええ~~~……」

 うきうき、わくわく、そわそわ。
 木のたてる音からは、そんな様子しか聞き取れない。

 思わず頭を動かして見た先には、親指ほどの大きさで長さの種が、数えきれないほど積まれた葉が揺れている。

 嘘だよね。
 まさか、この量の種に、一つずつ同じことをしないといけないの?
 いやでも、一気にお尻に大量に詰め込まれたら、お腹が破裂して死んでしまう。

『なんでも望みを聞くから、お願い』
「……」

 嫌だ、お尻に種を入れられるのは嫌だ。
 無言で首を振るぼく。
 でも、木は諦めなかった。


 何日も、諦めずに頼まれ続けた。

 寝て起きて懇願、寝て、起きて、懇願。
 ずっとずっと、あまりにも必死な声で、何度も何度も頼まれて。

『どうしたらお願いを聞いてもらえる?』
「……」

 あんまり必死に頼んでくるから、悲壮な雰囲気に流されて、だんだん、なんか、かわいそうになってきた。
 お尻に種を入れられるのを、我慢しても良いかも、と思うくらいには。

『お願いだよ、ねえ……、あ!、そうだ、前の種が芽生えたよ』
「……え?」

 目の前に枝が降りてきて、そこには果実と木の枝を組み合わせて作られたような、小さな人形が座っていた。
 ぼくの手のひらくらいの大きさだ。

 真っ白い果実の体に、手足は木の枝を並べて、蔦で関節に当たる部分を補ったような人形。
 小さな葉が枝のところどころから生えてる。

 可愛い大きさだけれど、発芽した種が木に育ってこれが実った?
 それとも、種が大きくなって果実になった?
 どっちにしろ、いくらなんでも早過ぎないかな。

 そう思っていたら。

 ぴょこん!

「うわぁあっっっ!?」

 人形が動いた。

『ほら、もう動かせる、素晴らしいウツシミだと思わない?』
「え、えええ、なにこれ……すっごい可愛い」

 座っていた葉っぱの上で、ぴょこんと立ち上がった人形は、ぼくにぺこりとお辞儀をした。
 まるで、種をくれてありがとう、お尻……お腹の中で温めてくれてありがとう、と言うように。

 お辞儀をした人形は、じっと山積みの種を見て、それからぼくを見た。
 どうして?、というように首を傾げながら。
 目なんてないのに、言葉がないのに、訴えられた気がした。

 一人は、寂しい。
 一人は、嫌だよ。

 そう言われた気がした。

 どうしよう。
 ぼくが種を発芽させる手伝いをしなければ、この子は、ずっとひとりぼっちだ。

 おかあさまが亡くなった後の、ぼくと同じだ。

 気持ち悪いなんて言ってる場合ではないと気がついた。
 ぼくは、あんなに嫌だと思っていたのに、義母や義姉の真似をしてしまった。

 この子の兄弟姉妹を、発芽させてあげないと。

「木さん、ぼくは裸がいやで、お尻に種を入れるのもいやだ」
『ごめんね、汚れたら嫌だと思ったんだ、それに種を口から入れるのは痛いと思って……』
「木さん……」

 思い返せば、種を入れる前になにかをかけられた。
 服を着たままだったら、汚れていただろう。

 お尻に入れるのも理由があったんだ。
 口から種を入れることを考えると、かまずに飲み込むには親指ほどの種は大きすぎるし、お腹を壊していたかもしれない。

 木はぼくを気遣ってくれていた。
 優しい木の気持ちを、ぼくはまったく理解していなかった。
 なんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。

『大丈夫、服を着たままでもできるよ』
「えっ?」

 いや、まだやるって言ってない。
 お尻は嫌だ。

 水を飲まされて、前のものより酸っぱさの減った小さな果実をいくつも口に押し当てられると、かじらずにはいられない。
 温かさにぼんやりしている間に、枝葉の上に仰向けに倒された。
 やるって言ってないのに。

 女性風の形をした葉の服を着たまま。

 そういう意味じゃない。
 服を着ていれば良いってことじゃないから。

「やぁ、まって、まだ、まだ、っん……んんっ」
『これで、痛みは感じなくなるよ』

 口の中にちょろちょろと注がれる甘い水の味と香りで、頭がぼんやりとしていく。
 水がすごくおいしい。
 ふわふわするの気持ちいい。

 かぱりと開かれた足の間に、数えきれないほどの枝が伸ばされて、どぼどぼと樹液のようなものが股間に注がれた。
 お尻の中に注がれた液体が入ってくると、ぞくぞくと寒気がした。

 どうしよう、気持ちよくなる気がする。
 怖い。

 何本もある細い枝が、親指ほどの大きさの種をいくつも運び、閉じることのできない足の間に消えていくのが見える。

 仰向けだと、見えてしまう。
 いくつも、いくつも種が運ばれていく。
 ぐちゅ、ぐちゅと音がして、前と同じように、お尻の中に入ってくる異物感に、涙が浮かぶ。

「……あっ……あぁ……っっ……ぁああ……ぁ……っぁあ……」

 いやなのに。
 気持ち悪いはずなのに。
 変だ。
 なんだか、気持ちいい。
 気もちいい。
 きもちいいよう。
 こわい。
 きもちよくなるの、こわい。

 おしりのなかにいっぱいたねが入れられて、あまい水がおいしくて、きもちいい。
 おなかがいっぱいでくるしいのに、きもちいい。



 ゆら、ゆら、と枝葉で編み込まれたゆりかごの中で、体が揺さぶられる。
 揺れるたびに、お腹の中の種が擦れあって微かな音がする。
 種が内側からこりこりと当たる場所が、じんじんする。

 何度も繰り返されている間に、まどろんで起きても、ずっとそれが続くから。

 ああ、もれちゃう。
 出ちゃう。

「あっ……あぁっ……っ……でちゃう、だめ……木さん、きさんっ」
『どうしたの?、ああ、そうか、この辺りを中から押すと種が出るんだね、次のウツシミを準備するからちょうど良い、大事にするからこれからもずっと種を育ててほしいな。
 嘘つきのフタツアシどもを駆除できる日がくるなんて、ものすごく嬉しいよ、ありがとう』

 耐えている最中に、たくさん話しかけられたような気がするのに、ぼくはもらしてしまうことが嫌で、きちんと聞き取れなかった。

「あっ……うあぁっっ」
『ありがとう、これでまたたくさん種ができる、たくさんサツリク用のウツシミを作るから楽しみにしていてね』

 出ちゃった。
 出してしまった。
 気持ちよかった。

 ……おもらし、してしまったのかな。
 ぼくは十四歳なのに。
 なにが出たのか、葉でくるまれてしまって分からなかった。
 あの、お腹の中から押し出されるような感覚は、怖くて、でも、とてもぞくぞくして気持ちよくて。

 もう「いやだ」と言える気がしなかった。

 はぁはぁと息をつきながら。
 これからも、ぼくの生活は木さんに守られている限り変わらない。
 追い出されるまでは、きっと。
 と思っていた。

 
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