【R18】ミスルトーの下で

Cleyera

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17 お披露目

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 それにしても妖には、人前でキスやハグをしたがる習性でもあるんだろうか。

 ジョーもそうだけれど、主任さんも、隙あらば志野木さんを抱きしめようとする。
 その度に「アホか!」と怒鳴る声が聞こえてきたので、何回目かにはまたか、と思うようになってしまったし、おれはおれでジョーが笑顔で近寄ってこないように、必死で牽制していた。
 人前で膝に乗せられたり、キスされたり、恥ずかしい目にあうのはごめんだ。

 お披露目……参加したくない。
 経験者らしい人から助言をもらったのに、逆に不安になってしまった。



 そして不安なまま、お披露目の日を迎えてしまった。

 場所は、独身寮の風呂場。
 すでに何度もジョーと湯を使わせてもらっているので、古い水栓の使い方も覚えてしまった。
 壁はタイル張りで天井は漆喰塗りの、古い銭湯みたいな風呂場だ。

 脱衣場で腰にバスタオル一枚を巻いた姿になり、河童の姿になっているジョーに背中を押されて、ここまで来たものの、完全に腰が引けていた。

 湯船に満々と湯が張られて、もうもうと湯気が立ち込める中に、初見の男性たちが十人以上並んでいる。
 体格も身長も様々で、半裸というか、腰にタオル一枚を巻いた姿だ。

 全員の目が、風呂場の入り口で固まったおれと、背後にいるジョーに向けられているのを感じて、膝が震える。

 独身寮の風呂場は広いから、何人も同時に入るのはおかしくない。
 問題なのは、彼らが風呂に入るためにいるのではなく、今から坊主おれと河童がセックスするのを見に来たってことだ。

 なんだその冗談みたいな話。
 大浴場で妖たちに見守られながら、河童に抱かれる?
 風呂場の蒸気が原因なのか、額をぬるい雫が伝っていく。

「シゲ、大丈夫だって、そんなに生真面目に考えなくて良いんだよ」

 後ろからぎゅうと抱きしめられて、暖かい浴室内にいるのに全身に冷や汗をかいていることに気がついた。
 頬を伝っていくぬるい雫をぬぐいながら、呼吸を整えることだけに集中する。

「ガワさん、嫁はん大丈夫か?」
「体調悪いんと違う?」
「毎晩可愛がり過ぎなんだよ、眠れねえっての」
「嫁さんおらも欲しいー羨ましいー」

 おれはガチガチに緊張しているのに、風呂場にいる男どもは、そんなことは知らないと言いたげに、口々に勝手な事を言い出した。

「お前ら、本性出せぇ」
「「「「ええ?」」」」

 ジョーの言葉に男どもが揃って声を上げる。

「お前らが人の姿しとるから、シゲが緊張するんだ!」
「……え?!」

 今度はおれが声を上げる番だった。
 そんなことないから、と口にする前に、タオル一枚を腰に巻いている男たちが反応した。

「りょうかいー」
「怖がらんといてくれよ」
「うちらが善良な妖なんやってアピールするんやな!」
「ええ?マジで本性を見せて良いのか?」

「早よやれ!」

 ……ジョーが声を張った直後に、全員の姿が変わった。
 姿を見ただけで、見当をつけられるやつもいるけれど、ほとんどが種族不明の生き物……知的生命体?だ。

 これまでお化けや幽霊を信じてなかったから、種族名を言われても困るだけだ。
 河童みたいな有名なものならともかく、目が沢山ある肉の塊みたいなやつとか、舌がめちゃくちゃ長い人とか、人間じゃないってことしか判別できない。

 とりあえず、出会いを恐れていた巨大なカエルは見当たらなかった。
 さっきまでとは別の意味で倒れそうになったおれを、ジョーのがっしりとした腕が支えてくれて、おれの膝が笑ってるのを感じ取って、笑いかけてくる。

「怖くねえから」

 広い風呂場に十人以上も人がいるのに、人間はおれ一人しかいない。
 今の状況で、そう言って普段通りに笑えるジョーも、人ではないものの一人、いいや、一体?なのだ。
 何を必死で取り繕おうとしていたのかと、過去の自分に呆れてしまう。
 おれが恥ずかしいと感じていても、ここにいる誰もそれを理解してないのかもしれない。

 この場にいるのは、お披露目の時を楽しみにして、他人の嫁に三度の食事まで用意して、部屋まで運んでくれるような妖たちだ。
 彼らが善良かどうかはともかく、逃がしてもらえることはないだろう。

「……わかったよ」

 最後の抵抗で、目を閉じてキスを受ける。
 早く快楽に流されたい。
 何を言われても理解できないくらい溺れてしまえば、恥ずかしいなんて言ってられなくなるはずだ。

 尻に河童の魔羅を突っ込まれて気持ちよくなっている姿を、ジョー以外に見られなくない、と思っていてもこの場から逃げられない。
 恋人や嫁とセックスしている姿を見せて、周囲に牽制するのが妖の常識なら、ただの人間のおれはそれに従うしかない。
 文字通りの意味で食われるのは嫌だ。

 つるりとして分厚く硬いくちばしに、唇をくっつける。
 舌の先で閉じたままの冷たいくちばしを舐めて、早く口を開けてくれと願う。

 ジョーが初めから河童の姿であることは珍しい。
 河童の姿だと唇がないのでキスがしにくい、と文句を言うので、それが理由だろうけれど、いつも突っ込む頃には河童の姿になっている。

 人の姿のジョーに魔羅を突っ込まれたことないな、とぼんやり思いながら、口の中にトロトロと注がれた甘くて爽やかな体液を飲み下す。
 満たされる喜びを知ってしまった尻、いいや、ジョーが言うところの〝けつまんこ〟が、勝手に口を開くような気さえした。

「どうよ、これがウヌの嫁よ、初々しいのにエロいだろ?」

 風呂場に来る直前に「嫁をお披露目するのは、名誉あることだぞ」と真面目に言われた。
 その嫁が、どこにでもいそうな男で、さらに坊主頭でも名誉なことなのか。

 おれが他の人よりもできて、自信を持ってお披露目できそうなことなんて、声明ショウミョウくらいだ。
 今現在、この場で経文を唱える意味も理由もないけれど、他人にできなくておれに出来ることなんて、それくらいしか思いつかない。
 とっさに説法できるほど、人生経験は積んでない、精進も足りない。
 落語みたいにとんちの効いた問答なんて聞いたこともない。

「いいーなー」
「……やー遅れたっス、あ!うっひゃーもう始めてるんスか!いいとこ見逃したっスか?」
「やっぱ嫁っこ欲しいな、探すか?」
「身持ちが固くってエロい嫁か、難しくね?」
「身持ち固くなくても良いだろ、外で子種もらってこなけりゃ十分さ」
「いやいやいやいやそりゃちょっと……」

 好き勝手に外野が言っているせいで、ジョーにいつもの甘い体液を飲まされているのに、羞恥心で体が強張る。
 いつのまにか、身も心もジョーに躾けられてしまっているのだと思い知る。
 体は芯からじんじんと熱くなってうずくのに、欲しいと言えない心を抱えて切なくなってくる。

「シゲ、大丈夫だから力を抜けって」

 硬い鉤爪の生えた指先が、簡単に引き裂けるはずのおれに優しく触れる。
 もっと触れて欲しいと願ってしまうのは、いつものことなのに、触れられてうずく体が辛い。

「ジョー」
「ん?どした?」
「やっぱり恥ずかしいっ」

 頭では喰われないために必要なことだと理解しているのに、心がついていかない。
 平常心を保つ精進が足りないのか。
 毎朝のお勤めで、迷妄を払い平穏に至る心を磨いているはずなのに。

「そうか、まあ、そりゃあそうだよな」

 破顔したジョーが、おれの口の中に、ひときわ甘い体液を注ぎ込んだ。

「ちょっとだけ強いの使うぞ、すぐに吹っ飛んでからゆっくり楽しめるように、即効性で短時間で効果がきれるようにしたからな」
「……え、えぇ?」

 そうじゃないから!!
 
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