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本編
32 戴冠式の準備で耐えるおれ
しおりを挟む戴冠式でのおれの役目は少しだけ。
特注品の王妃の椅子に座って、寝ないで我慢していること。
あと、国王になった兄と一緒に、宣言すること。
ええとたしか「この国の更なる繁栄を、国王と王妃である我らが身命を賭して成し遂げることを、ここに宣言する」だったかな。
長いから、途中で噛みそう。
昨夜も一緒に練習したけれど、きっとこういうので、兄のノンブレスが鍛えられてんだよな、と感心した。
宣言の意味は知らない。
とにかく、兄と一緒にいれば良いってことだ。
そんなこんなで、戴冠式当日。
おれは空が暗い頃に叩き起こされて、全身がもっこもこのきらっきらになるまで磨かれている。
まだ眠いと訴えたのに、兄がおれの鼻先に、硬くなったおっぱいのちんこをゆらゆらするからいけないんだ!
つい夢中になってなめだしたら、そのままちんこを揉まれて起こされた。
風呂に突っ込まれて、洗われて、とろっとしたものを全身にすりこまれた。
まだ寒い時期の被毛から生え変わってないから、体を揺すってふぁっさーっとすると、おれが光って見える。
なんかそういう魔術薬らしい。
なんのために、体を光らせる?、薬を使うのかは分からないけれど、戴冠式で王妃が光る必要があるのかもしれない。
きっと兄上が褒めてくれる。
きれいだよ、って。
そう思えばこの日だけは、使用人たちに触れられるのを耐えられた。
兄だって今頃、ぴっかぴかのきらっきらに磨かれてるはずだ。
すごいきれいだろうな。
白銀の髪を、今日は公式の場だから編み込まずに垂らすのかな。
兄の真っ直ぐな髪の毛が、さらさらーって動くのを、おれは見ているのが好きなんだよな。
同じ魔術薬を使っているなら、兄の髪の毛もきらきらするのかな。
きれいだろうなぁ、早く見たい。
現実逃避しながら。
使用人たちを威嚇しないように、兄がくれた服をがじがじしつつ全身を磨き上げられた。
ものすごく緊張しながら、顔周りの被毛をはさみで刈り込まれた。
美しく見えるようにって。
準備が終わってから鏡に映ったおれは、確かにシュッとして見えたね。
おれ以外の獣人を知らないから、おれ自身が美しいかどうかなんて判断できない。
ちぇ、どうせ今のおれはまんまるだよ。
でも太ってないから。
ぜんぶ筋肉だから。
もこもこなのは寒い時期の被毛だからだよ!
真っ白にきらきらの青糸で模様が入ってる袖なし上着、まんまるパンツ、鉤爪が出る手袋もどき、白銀に光るマント。
今回は足元もできるだけ見えないようにと、まんまるパンツの上に折り込んだ布のようなものを巻かれて、背中側で結ばれている。
白銀と薄青が王族の色らしい。
兄の髪の毛と瞳の色だよな。
おれの全身はちょっと青みがかった白銀だけど、これも王族の色の中に入るらしい。
あ、おれね、目は兄と同じ薄い青色なんだよ。
こんなところで、おれはきちんとこの国の王族の血を引いてるんだなーって実感。
王族らしいことなんて、何一つしたことないし、習ってもないのに。
処刑された時も今回も、一度だって王族じゃない、とは言われなかったのは、この被毛と瞳の色のおかげだろう。
服を着たまま、椅子に座って迎えを待つ。
落ち着かないうえに、動きにくい。
でも我慢。
国王の兄はおれ以上にたくさんいろいろと身につけるんだから、王妃が文句を言ったらいけない。
着替えは終わっているはずなのに、なぜか使用人たちが忙しく立ち回る中で、おれは兄が早く来てくれないかな~と待った。
不意に扉を叩く音がした。
兄だ、と思った直後、閉まった扉の奥からの複数の臭いが、別人であることに気がつく。
あれ、使用人か護衛かな。
それにしては臭いが違う。
なんかくっさい。
がっくりしてしまって、動きにくい服を着て頑張ってるのに、とひどく悲しい気持ちになる。
早く兄が来てくれないかな。
「失礼いたします」
開けていいよって言ってないのに、誰かが扉を開けたようだ。
そして、現在おれがいる王妃専用だとかいう、だだっぴろい衣装部屋に、何人もの男たちが入ってきた。
線の細い男。
筋肉質な男。
髪の長い男。
髪の短い男。
化粧した男。
老年の男。
背の高い男。
小さい男。
なんだこいつら。
おれが城の中で見たことのある人々は、使用人か護衛か文官。
役職とか所属部署で細かい部分は違っていても、基本的に制服を着ているから城内で働く者だと分かる。
でも、部屋に入ってきたやつらは、違う。
兄が人前に出る仕事中に着用するような、たくさんの飾りのついた服。
瓶ごとぶっかけた香水。
明らかに数日は風呂に入ってない体臭。
くっせえから寄ってくるな、と思うと顔がさらに歪む。
「王妃様、御目文字仕りましたこと感謝いたします」
「……」
「我々は陛下の万代なる治世を支えるため、お側に侍らせていただく所存で御座います。
王妃様への御目通りが叶いましたこと、心より喜ばしく思っております」
どうしよう、何言ってんだろうこいつら。
おめもじつかまつまいましってなに?
くっさいのが何人もいるので、口を薄く開けて呼吸する。
距離が近すぎて、口で呼吸していてもつらい。
顔を背けたいけれど、視界にいれておかないと不安だ。
牙が見えてしまわないように気をつけるのに必死で、何を言っているのか聞く余裕がない。
鼻で呼吸したら倒れる。
気絶はしなくても、苦しんでのたうち回るのは間違いないだろう。
あと、一番大事なことな。
こいつら、だれ?
早朝から洗われて刈り込まれてこねくり回されて、ようやく着替えが終わって兄を待っていたはずなのに、知らない奴らが勝手に入ってきた。
もう、ぜんぜん余裕がないのに。
この状況を、おれはどう受け止めたら良いんだ。
「王妃様のお好みが、どのようなものかお教え頂きたく馳せ参じました。
お望みの者が、我々の中におりますでしょうか?」
おれの、このみ?
んー、と考える。
おれの好みは簡単だ。
一番好きなのは、歯応えしっかりの木の実。
滋味がたっぷり詰まっていて、ちょっと渋いところが最高だ。
そして熟れた果実。
ついでに野菜と肉に魚もあれば大満足だ。
でもこいつら、食べ物を持ってない。
教えたら持ってくるのかな。
いや、持ってこられても困るな。
おれの食事は基本的に兄にあーん、してもらっている。
兄以外にあーんをされたくない。
鉤爪が伸び、大きくなって分厚くなった手で、人用のカトラリーは握れない。
顔を皿に突っ込んで良いなら、何も問題ないけれど、人はそういうのを嫌がるだろ?
それに、知らない奴らの渡してくる食事には、毒が入っているかもしれない。
「王妃様」
男たちが、一歩おれに近付く。
来るな、と顔が歪む。
おれののどが、う゛う゛、と鳴ると、男たちが顔色を青くして後ずさった。
決めた。
おれはこいつらと話さなくて良いと思う。
おれは、王妃らしい話し方なんてできない。
前王妃の真似ならできるかもしれないけれど、あのねっちょりべっちょりした話し方を思い出すだけで、嫌悪で全身の毛が逆立ちそうだ。
「王妃様、如何なさいました?」
歳をとった男が伸ばしてきた手を反射的に叩き落とそうとして、止まる。
兄の言葉を思い出したのだ。
〝僕以外がスノシティに触れるのは許せないな〟
これって、これを叩き落としたら触ることになるんだろうか。
触ってるよな。
どうしよう。
おれ専用に作られている、低くて巨大な椅子から飛び上がる。
椅子の後ろに四つ足で着地したのと同時に床が揺れて、何人かの男が倒れた。
幸いなことに、衣装部屋と教えられたこの部屋は広い。
少しくらいは逃げ回れそうだ。
おれの服が多くなくてよかった
これまではまんまるパンツと袖なしシャツだけ。
王妃になってからも、人前に出ない時はそのままで良いと兄が言ってくれた。
本当はパンツもシャツもいらないんだけどな。
兄に揉まれて、ぷっくりとふくらんでしまった六個の乳首を、他人に見られたくない。
いつもぬるぬるしているらしい尻も、兄以外には知られたくない。
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