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幕間 - 円卓の乙女
綾取り姫
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| 三之宮 聖
「おっはー、聖ん。みんなには伝えたよ!」
「おはよう、瑠璃。私も送ったわ」
昨日の放課後。
王子と姫の物語は、姫の裏切りによって突如として幕を降ろしたのだ。そういう世論を利用する。次のターンは私達の番だ。
ああ、長かった。
私と新津瑠璃は京介くんを追いかけてこの享和高校に入学した。二人して惜しくも1-B。いや、今となっては良いかも知れない。
「絹ちゃんはなんて?」
「ちょっと良くわからないのよね。直接見せるって」
「なら放課後か~」
「何か予定あった?」
「いや、大丈夫! 朝イチで写真部辞めてきたー」
「思い切りいいわね…まあそれもそうね」
「場所は?」
「いつものところでしょ。絹子が何か発表あるみたいだし」
お揃いの天使のチャームの付いた鍵を触りながらそう答えた。
首藤絹子。同小からの仲間で、円卓の諜報。つまりは京介くんのストーカー。
今回の一次情報は絹子からだった。
血のバレンタイン以降、みんなで宣言した中で、最も貢献しているのが彼女だった。彼女は通信制高校に通いながら活動している。全ては円卓のみんなのために。
小学五年のバレンタイン。
京介くんを巡って、ホワイトデーまで続いた、一ヶ月間のチョコレートウォー。
最終的には乱闘騒ぎにまでなり、誰が言ったか、血のバレンタインなんて呼ばれ出した。腹が立つ。
その時の思い出は苦かった。みんなで失恋した。みんなで泣いた。勝ったのは愛香だけだった。でも諦めきれなかった。
そこからは少年漫画の主人公みたいに手を取り合い、対愛香でまとまった。最終的に諦めきれない12人になった事から円卓と誰かが名前を決めた。
「因みに、全然心配してないんだけど、どう見る?」
「殴られたこと? 大丈夫でしょ。京介くん、頑丈だし。そりゃ打ち身くらいあるかもだけど、あんなくらいでは沈まないでしょ」
「だよねだよね。多分、成ちゃんと未羽ちゃんは近すぎて知らないだろうけど、私達にとってはジョーシキだし。しかも絹ちゃんも助け呼んでないし」
「ね。多分今頃慌ててるんだろうね。くす。いい気味」
京介くんは暴力を見せる事を極端に嫌っていた。嫌っているだけで、振るう事に戸惑いなんて持ってない。
ただ愛香の前では一度も振るわなかった。多分怖がられたく無かったのだろう。腹が立つ。でも円卓のみんなはだいたい暴力で救われてる。
「悪い顔~昔みたい~。…みんな、動くかな?」
「誰がよ…どうかな。随分経つしね…狭川さんと浅葱さんは確実に動く。特に狭川さんは狡猾だから」
「浅ちゃんもあざといでしょ」
狭川響子と、浅葱由真。同小、同中出身の彼女たちは控えめで大人しく、血のバレンタインには関わって無かった。
彼女達が花開くのは中学で京介くんに義妹が出来てからだった。
何度も義妹を通して京介くんの家に行っている。腹が立つ。
「まぁね。けど、落ち込んでるのは間違いないはず。このチャンスは割と長いと思う」
「あー流すんじゃなかったなー」
「いや、内緒にしないほうがいいわ。私達が責められたらいやだし」
「あー永遠とか怒るとヤダよね~ねちこいし。蹴るし。今何してるんだろ。でも良いの?」
「そもそも私はシェア論者だし。愛香とか未羽さんとか永遠とか以外とは上手くやっていけるでしょう」
「あはは。あの独占欲のかたまりの! あの聖んがね~今じゃ円卓の聖女様だ~」
「やめて。私は心を入れ替えたの。それに、いくら私でもあんなサイコパス連中には一人では勝てないわ」
そう、一人じゃ勝てない。
だから手を結んだ。私はもう裏切らない。甘酸っぱいアオハルも、胸キュンな出来事も。円卓のみんなで分かち合う。
「でもほんと成ちゃんミスったよね。ありがとうって感じ」
「同小のみんなはびっくりだろうしね。多分愛香、私達がもう諦めてるって思い込んでる」
「アレ以来、絡み薄めたしね。あと義妹ちゃんに嫉妬丸出しだったし。あはは。諦めるわけないじゃーん」
「これまで存在感消してて良かったわ」
「絶対頭になかったよね、うちらの事」
入学してから明るみになった真実。なんと京介くんと愛香が別れていたのだ。これは私達の事なんて歯牙にも掛けていない表れだと思う。腹が立つ。
この三カ月、ずっとヤキモキしていた。でもまだだ、まだだ、と自分に言い聞かせてきた。
そう、いつかもっと致命的なミスを犯す時を待っていた。愛香は欲しがりサイコパスだから、京介くんとのズレが必ず生まれる。そう信じて進学したのだ。
もしかしたら愛香とのイチャラブを見せつけられ、砂糖を吐く灰色の学生生活かも知れないと覚悟していたけど、他の円卓メンバーの思いも背負って進学した。
同小、同中であんなに可愛いのに、愛香に手を出す男は居なかった。それくらい京介くんには誰もが勝てないと思っていたし、愛香の思いも浸透していた。いや、操りもあるか。
だけど、今回は高校で、学生世論を巻き込んだ話になった。
同小、同中は敵ばかり。愛香の擁護に回ることはあり得ない。ここぞとばかりに引き剥がすように動くはず。
「ま、もし、京介君を思い出の憧れにして、彼氏作ったことのある子は改めて抜けて貰おう。うん、ちゃんと処女宣言させないと」
「シェアだとビョーキ怖いしね。あ、診断書持参なら許そっか」
円卓のメンバーはみんな可愛い。失恋をバネに今まで磨いてきたからだ。だけど高校に入学して三ヶ月だ。だからもしかしたらもある。
「まあ、私達二人しか今のところ連絡手段ないだろうから、言うこと聞くでしょ」
「ほんと良かったよ~こんないいいポジ無いもんね。体育祭、文化祭、修学旅行、校外学習、クラス替え、受験勉強…エトセトラ、エトセトラ…ぁ、濡れる」
「やめなさい。漏らすわよ。でも、ほんと…まさか入ってすぐとはね」
三年間まるまる使えるなんて夢にも思わなかった。他の子は大学狙いとか、社会人狙いとか、結婚後の略奪狙いとか、長期のプランみたいだけど。
まあ、それくらい京介くんと、愛香は強固な二人に見えていた。
みんなはまだ拗らせてるかな? 私達はまだ拗らせてる。だからこの学校に頑張ってきたのだし。
「瑠璃、結ぶわよ」
「うん。絶対に堕とす」
◆
「なになに、三之宮さん達、何話してるの~?」
「おはよう。飯塚さん。ちょっと同窓会の打ち合わせをね」
「そうそう。私と聖ん。同小なの」
「おはよう! そうだったんだ~てか今頃するもん?」
「もうすぐ夏休みでしょ?だからこっちに帰ってくる子も居てて。仲良い子たちで集まろーってね。知らないかな女優のナナナ。同小なの」
「昔は泣き虫だったのにね~泣き虫ナナナ」
「ええ? 有名人じゃん!」
「本人、実は結構口下手でね。私達もTVの向こうの違和感すごいわよ」
「あんまり言わないでね?」
「えー結構自然に見えたけど、そうなんだ」
「本人は自分を変えるんだーって頑張ってたから。進学先も都会だし。私達も応援してるの」
「そーそー、特に昔のキャラ知ってると親心って言うか、見ててハラハラするよー」
「あとは、双子の声優リリララ」
「あ、ワールドマインのセンターもいるよ、同小」
「なんか有名人ばっかしじゃない?」
「まあ、小学校の時の失恋が効いてね…みんな、何かしら努力したんだよ」
「私達と違ってね」
「みんな失恋しそうにない子ばかりじゃん…本当に? それに三之宮さんも新津さんもランキング10内じゃん。ひくてあまたじゃん。
あ! でも、今日からランキング変わるんじゃない? Aの姫。何か問題起こしたんだって」
「成瀬さんが?」
「成ちゃんが?」
多分、飯塚さんはそれを話したいのだろう。でもまだ知らない振りをする。姫、ね。今まではそうだった。
愛香は、昔から可愛い可愛いって言われてきた円卓の子達でも納得しちゃう可愛いさだった。腹が立つ。
でももう違う。
醜悪に彩られた姫。
断罪されちゃう姫。
追放されちゃう姫。
廃棄されちゃう姫。
寝取られちゃう姫。
婚約破棄されちゃう、可哀想な絡繰りの姫。ふふ。
「そうそう。今その話題で持ちきりだよ」
「そっか~けどまだ噂話なら成ちゃんのことは言いたくないかな~。同中だし」
「そうね。確定してから聞きたいわ」
同小だし、なんなら幼馴染みたいなものだけど、黙っておこう。まだこの余韻を噛み締めたい。
「そうそう、同中だったよね。そっか~何か知ってたら教えて貰おうかと思ってたけど、やめとくね」
「ありがとう」
「ごめんね~ふふっ」
「おっはー、聖ん。みんなには伝えたよ!」
「おはよう、瑠璃。私も送ったわ」
昨日の放課後。
王子と姫の物語は、姫の裏切りによって突如として幕を降ろしたのだ。そういう世論を利用する。次のターンは私達の番だ。
ああ、長かった。
私と新津瑠璃は京介くんを追いかけてこの享和高校に入学した。二人して惜しくも1-B。いや、今となっては良いかも知れない。
「絹ちゃんはなんて?」
「ちょっと良くわからないのよね。直接見せるって」
「なら放課後か~」
「何か予定あった?」
「いや、大丈夫! 朝イチで写真部辞めてきたー」
「思い切りいいわね…まあそれもそうね」
「場所は?」
「いつものところでしょ。絹子が何か発表あるみたいだし」
お揃いの天使のチャームの付いた鍵を触りながらそう答えた。
首藤絹子。同小からの仲間で、円卓の諜報。つまりは京介くんのストーカー。
今回の一次情報は絹子からだった。
血のバレンタイン以降、みんなで宣言した中で、最も貢献しているのが彼女だった。彼女は通信制高校に通いながら活動している。全ては円卓のみんなのために。
小学五年のバレンタイン。
京介くんを巡って、ホワイトデーまで続いた、一ヶ月間のチョコレートウォー。
最終的には乱闘騒ぎにまでなり、誰が言ったか、血のバレンタインなんて呼ばれ出した。腹が立つ。
その時の思い出は苦かった。みんなで失恋した。みんなで泣いた。勝ったのは愛香だけだった。でも諦めきれなかった。
そこからは少年漫画の主人公みたいに手を取り合い、対愛香でまとまった。最終的に諦めきれない12人になった事から円卓と誰かが名前を決めた。
「因みに、全然心配してないんだけど、どう見る?」
「殴られたこと? 大丈夫でしょ。京介くん、頑丈だし。そりゃ打ち身くらいあるかもだけど、あんなくらいでは沈まないでしょ」
「だよねだよね。多分、成ちゃんと未羽ちゃんは近すぎて知らないだろうけど、私達にとってはジョーシキだし。しかも絹ちゃんも助け呼んでないし」
「ね。多分今頃慌ててるんだろうね。くす。いい気味」
京介くんは暴力を見せる事を極端に嫌っていた。嫌っているだけで、振るう事に戸惑いなんて持ってない。
ただ愛香の前では一度も振るわなかった。多分怖がられたく無かったのだろう。腹が立つ。でも円卓のみんなはだいたい暴力で救われてる。
「悪い顔~昔みたい~。…みんな、動くかな?」
「誰がよ…どうかな。随分経つしね…狭川さんと浅葱さんは確実に動く。特に狭川さんは狡猾だから」
「浅ちゃんもあざといでしょ」
狭川響子と、浅葱由真。同小、同中出身の彼女たちは控えめで大人しく、血のバレンタインには関わって無かった。
彼女達が花開くのは中学で京介くんに義妹が出来てからだった。
何度も義妹を通して京介くんの家に行っている。腹が立つ。
「まぁね。けど、落ち込んでるのは間違いないはず。このチャンスは割と長いと思う」
「あー流すんじゃなかったなー」
「いや、内緒にしないほうがいいわ。私達が責められたらいやだし」
「あー永遠とか怒るとヤダよね~ねちこいし。蹴るし。今何してるんだろ。でも良いの?」
「そもそも私はシェア論者だし。愛香とか未羽さんとか永遠とか以外とは上手くやっていけるでしょう」
「あはは。あの独占欲のかたまりの! あの聖んがね~今じゃ円卓の聖女様だ~」
「やめて。私は心を入れ替えたの。それに、いくら私でもあんなサイコパス連中には一人では勝てないわ」
そう、一人じゃ勝てない。
だから手を結んだ。私はもう裏切らない。甘酸っぱいアオハルも、胸キュンな出来事も。円卓のみんなで分かち合う。
「でもほんと成ちゃんミスったよね。ありがとうって感じ」
「同小のみんなはびっくりだろうしね。多分愛香、私達がもう諦めてるって思い込んでる」
「アレ以来、絡み薄めたしね。あと義妹ちゃんに嫉妬丸出しだったし。あはは。諦めるわけないじゃーん」
「これまで存在感消してて良かったわ」
「絶対頭になかったよね、うちらの事」
入学してから明るみになった真実。なんと京介くんと愛香が別れていたのだ。これは私達の事なんて歯牙にも掛けていない表れだと思う。腹が立つ。
この三カ月、ずっとヤキモキしていた。でもまだだ、まだだ、と自分に言い聞かせてきた。
そう、いつかもっと致命的なミスを犯す時を待っていた。愛香は欲しがりサイコパスだから、京介くんとのズレが必ず生まれる。そう信じて進学したのだ。
もしかしたら愛香とのイチャラブを見せつけられ、砂糖を吐く灰色の学生生活かも知れないと覚悟していたけど、他の円卓メンバーの思いも背負って進学した。
同小、同中であんなに可愛いのに、愛香に手を出す男は居なかった。それくらい京介くんには誰もが勝てないと思っていたし、愛香の思いも浸透していた。いや、操りもあるか。
だけど、今回は高校で、学生世論を巻き込んだ話になった。
同小、同中は敵ばかり。愛香の擁護に回ることはあり得ない。ここぞとばかりに引き剥がすように動くはず。
「ま、もし、京介君を思い出の憧れにして、彼氏作ったことのある子は改めて抜けて貰おう。うん、ちゃんと処女宣言させないと」
「シェアだとビョーキ怖いしね。あ、診断書持参なら許そっか」
円卓のメンバーはみんな可愛い。失恋をバネに今まで磨いてきたからだ。だけど高校に入学して三ヶ月だ。だからもしかしたらもある。
「まあ、私達二人しか今のところ連絡手段ないだろうから、言うこと聞くでしょ」
「ほんと良かったよ~こんないいいポジ無いもんね。体育祭、文化祭、修学旅行、校外学習、クラス替え、受験勉強…エトセトラ、エトセトラ…ぁ、濡れる」
「やめなさい。漏らすわよ。でも、ほんと…まさか入ってすぐとはね」
三年間まるまる使えるなんて夢にも思わなかった。他の子は大学狙いとか、社会人狙いとか、結婚後の略奪狙いとか、長期のプランみたいだけど。
まあ、それくらい京介くんと、愛香は強固な二人に見えていた。
みんなはまだ拗らせてるかな? 私達はまだ拗らせてる。だからこの学校に頑張ってきたのだし。
「瑠璃、結ぶわよ」
「うん。絶対に堕とす」
◆
「なになに、三之宮さん達、何話してるの~?」
「おはよう。飯塚さん。ちょっと同窓会の打ち合わせをね」
「そうそう。私と聖ん。同小なの」
「おはよう! そうだったんだ~てか今頃するもん?」
「もうすぐ夏休みでしょ?だからこっちに帰ってくる子も居てて。仲良い子たちで集まろーってね。知らないかな女優のナナナ。同小なの」
「昔は泣き虫だったのにね~泣き虫ナナナ」
「ええ? 有名人じゃん!」
「本人、実は結構口下手でね。私達もTVの向こうの違和感すごいわよ」
「あんまり言わないでね?」
「えー結構自然に見えたけど、そうなんだ」
「本人は自分を変えるんだーって頑張ってたから。進学先も都会だし。私達も応援してるの」
「そーそー、特に昔のキャラ知ってると親心って言うか、見ててハラハラするよー」
「あとは、双子の声優リリララ」
「あ、ワールドマインのセンターもいるよ、同小」
「なんか有名人ばっかしじゃない?」
「まあ、小学校の時の失恋が効いてね…みんな、何かしら努力したんだよ」
「私達と違ってね」
「みんな失恋しそうにない子ばかりじゃん…本当に? それに三之宮さんも新津さんもランキング10内じゃん。ひくてあまたじゃん。
あ! でも、今日からランキング変わるんじゃない? Aの姫。何か問題起こしたんだって」
「成瀬さんが?」
「成ちゃんが?」
多分、飯塚さんはそれを話したいのだろう。でもまだ知らない振りをする。姫、ね。今まではそうだった。
愛香は、昔から可愛い可愛いって言われてきた円卓の子達でも納得しちゃう可愛いさだった。腹が立つ。
でももう違う。
醜悪に彩られた姫。
断罪されちゃう姫。
追放されちゃう姫。
廃棄されちゃう姫。
寝取られちゃう姫。
婚約破棄されちゃう、可哀想な絡繰りの姫。ふふ。
「そうそう。今その話題で持ちきりだよ」
「そっか~けどまだ噂話なら成ちゃんのことは言いたくないかな~。同中だし」
「そうね。確定してから聞きたいわ」
同小だし、なんなら幼馴染みたいなものだけど、黙っておこう。まだこの余韻を噛み締めたい。
「そうそう、同中だったよね。そっか~何か知ってたら教えて貰おうかと思ってたけど、やめとくね」
「ありがとう」
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