異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ランペイジ!

山神神社

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| 藤堂 京介


 土曜日の昼下がり。
 僕は念願の故郷探訪に一人で出かけていた。

 未羽、由真、響子の三人はまだ寝ている。

 それはそうだ。

 あんなに全力を出し切ってしまったのだし。足腰は…立つか。回復かけたし。

 洗浄の魔法をかけ、髪をきちんと整えて、適当に選んだ服を着て、今や懐かしい遠隔のヘッドホンで歌を聴きながら、目的地も決めないまま歩く。

 この世界に慣らすためリハビリも兼ねている。

 やっぱりアートリリィが言った世界な気がしてくる。僕の記憶とこの目に見える風景に違和感はないけど、未羽たちがあんなこと出来るとは思えないし…

 それに、朋花から聞いた話は、本当に平和な世界とは思えなかった。異世界の盗賊も真っ青だ。中学生の発想じゃない。完全にヒャッハーの世界だ。

 もっと安全な世界だと思ってた。

 結局、ここが元の世界と似て非なる世界なのか、貞操逆転世界なのか、世紀末覇王の世界なのか、それらが混ざったパラレル世界なのかはわからない、ことはわかった。何もわからないとも言う。

 だけど、ここで生きて行くしかない。

 召喚はもう終わったのだ。

 そんな事を考えていたからか、近所にある神社に自然と足は向かっていた。

 何というか、こう、リスタートを切るには、神社でお参りが良いかなと思った。

 神託を受けたとき、あれは神の声としか思えなかったと姫巫女たちは言っていた。僕の召喚者は聖女だけど、やはり神はいるのだろう。

 なら、やっぱりお参りかな。そう思った。
 でも神に対する概念があっちとこっちじゃ違うしなぁ。まあ、神社はお願いではなく、感謝と報告するところだしね。

 そうだ。神様に帰って来た報告をしよう。

 そんな事を考えながら、山神やまのかみ神社についた。小学校の時はよく来ていたな。約……十年ぶりか、懐かしい。

 この神社は街を見下ろす高台の林の中に、昔からぽつんとあり、管理人が月二回ほど掃除にきていているくらいで、普段は誰もいない。
 あるのは小さな社務所と賽銭箱、ベンチくらい。

 何にも変わっていない。

 昔から男友達は何故か少なかった。愛香のおままごとに付き合っていると、みんなそそくさと離れていったのだ。

 ここは京ちゃんのお部屋だよ発言もこの時だった。どうやってそこにお邪魔するのか謎だった。普通わからないよ。

 だから純と未知瑠くらいか。仲良かったの。ここにはたまに二人で来てたな。でも何故か三人で来た事はなかった。

 二人にはバレンタインのチョコをもらったっけ。これが友チョコか、と感動したなあ。

 結局別の中学に進んだから疎遠になったんだっけ?

 そういえば、どうも小学6年生頃の記憶があやふやなんだよな。なんでだろう。

 自分に悟りの魔法でもかけるか? いや…止めとこう。何度も言うけど、目の裏側を掻きむしりたくなるあの衝動は純粋にイヤだ。やめよう。

 悟りの魔法は使ってないが、索敵の魔法は自然と使ってしまっていた。昔から知っている神社だけど、建造物を前にすると反射的にどうしても使ってしまう。弓とか嫌だし。砦ならついでに攻略を考えてしまう。

 もう反射は知らない子です。まあ、好意に対しては弱まることがわかったし、出掛けに枷もかけた。今は中学一年生くらい。安心安心。

 あとはリハビリだ。

 その索敵に二人引っかかっている。

 土曜日の神社。参拝客ならわかる。だけど目視してる範囲には見えない。探るとお社の左端、社務所との間だ。二人が一緒に居るのはわかる。

 こっちを伺っていることも。

 神主さんかな? 賽銭ドロの警戒でもしているのかな?

 ま、いっか。

 まずは参拝参拝。二礼二拍手一礼。っと。





 参拝し、手持ち無沙汰になった僕は社務所の手前、木陰にあるベンチに腰掛けた。

 ここからは街が一望できる。

図書館、スポーツセンター、ボーリング場、市営プール、ゴルフ場、釣鐘橋、くじら公園、小学校、中学校、天養駅、商店街のアーケード、そして時計塔…全てが何も変わってないように見える。

 高台から見える街を眺めながら、日差しを遮る木陰の中、そんな事を思いながらボーっとしていた。
 真っ青な空の奥に、高さのある入道雲がある。夏かぁ。


 平和だな…

 異世界に居たなんて嘘みたいだ。
 改めて思い返してみる。

 というか帰ってきてからさっきまでそんな事考えてる余裕なかったよ。

 異世界ではハプニングのオンパレードだったけど、まさかこっちもなんて思わなかった。

ティアクロィエにはまるでハプニングの大商会だね、いい加減にしようね、いい加減わかろうね、なんて言われたものだった。はは。


 ……万人の救い手たる勇者…か。


 ─────では、勇者である京介をいったい誰が救うのだ?


 薔薇の姫巫女、ローゼンマリーに言われたことがあった。
 僕の救いは元の世界に帰ることだよ。なんて言ったら、ローゼンマリーは苦虫を噛み潰したような顔だったな。

 でもそう思わなければ強くなれなかった。

 そうだ。

 召喚当時は愛香のことも未羽のこともあって諦めから悲壮に暮れていた。ただただ現実逃げ出したかった。

 だから召喚された。

 召喚された世界は日本よりずっと暴力的だった。心が折れていた僕には堪らず、日に日に陰鬱な気持ちが増していった。

 自分に嘘をついたままでは強くなることは出来ず、このままだと勇者にはなれない。召喚者たる聖女は言った。逃げるのではなく、帰るために力を振るうのです。と。

 その後は聖女の献身によって徐々に力をつけていったんだった。

 もう五年も前の話だ。

 そうだ。帰って来れたよ。ルトワ。





 …ん?

 何か聞こえてきた。
言い争い? でもないけど、何してるんだろう。

 後ろを肩越しに振り向くと、小柄な子が二人、何やら真剣な表情で話し合っている。

 キャスケットを被っている方はなんとなく見覚えがある…確か、首藤さん?

四葉のクローバーで思い出した。小中一緒の子だ。随分と懐かしいな。記憶にある姿の面影は残しつつ、可愛いくなっていた、

 もう一方はセミロングの黒髪に左耳上あたりに碧色のリボンをしている女の子。黒髪、緑色のリボン…どこかで…

まあ何か困っているようだし、声をかけてみようかな。


「何してるの?」

「すけべだよ!」

「えっちです!」


 何故に!?

 急に声をかけられてびっくりしたのか、二人は威嚇最中に驚かされた猫みたいに飛び上がり、抱き合いながらそんな言葉を言った。

それ、抱き合った百合の説明?

抱き合う百合二人への覗きの罵倒?

どっちのこと!?

そして抱き合った拍子に二人してスマホを投げ出してしまい、それは僕の足元に滑りついた。


「……」

「……」


 二人は無言で抱き合ったまま固まって、ダラダラと顔中に汗を浮かべていた。

 それはもう大量に。

夏が近いとはいえ、ここは林の中、風も冷たい。冷や汗かな?

 そんなに怖がられるのは随分と久しぶりだなあ。…なんだか自分が盗賊にでもなった気になるな。

 僕は盗賊に怖がられてた方なんだけどな。瞳の色を見ればだいたい謀りだとわかるから言い訳なんて聞かずに悪即斬してた。

 ローゼンマリーは引いていたなあ。もうちょっと言い分を聞いた方が…なんて。はは。

とりあえず拾ってあげるか。………え?

 緑リボンの子のスマホには、愛香と喫茶店にいる僕が写っていて。

 首藤さんのスマホには、魔法を使う僕が写し出されていた。
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