異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

墨色

文字の大きさ
46 / 156
ランペイジ!

ダブル土下座

しおりを挟む
| 藤堂 京介


 二人は抱き合ったままこちらを見ながら黙ってしまった。目をグルグルさせながら。

 でも、友達…ではないような。仲間…でもないような。不思議な二人だ。なんだろうか。


 二人のスマホに写っている画像、カメラを首から下げている二人…
 見覚えのない二人が僕の写真を撮っていた…

 いや、なんで?


 しかも二人同時も、たまたま?

 ストーカー、しかもダブルで?


 …バーで蒸留酒を頼むみたいな感じだな…
マスター、ストーカー、ダブル、ロックで。あ、氷小さめで、みたいな。

 いや、違くて。

 とりあえずスマホの画面を閉じて悟りの魔法を使おう。

 でも、瞳の色を見ようにも二人とも目がグルグル回って見にくい。こっちが酔う。なんとか苦労してやっと見た瞳の色は焦りと不安と後悔で一杯だった。つまり、怒られることを恐れている。


 僕はこの二人をとりあえず獣人くらいの警戒心を持っていると仮定した。

 スマホを見せつけるようにゆっくり振り、注意を引きつける。二人のグルグルがピタリと止むと、さらに左右に大きく振る。

 視線がそれぞれ追うのを確認すると、一旦真上にかざし、ゆっくりと見せつけながらジャケットの両ポケットに入れる。

 目線がポケットに向いた瞬間を狙い、僕は認識を誤魔化す魔法を薄く振った。

 抱き合う彼女達が気づく前に近寄り、頭を撫でた。もちろん弱回復魔法付きだ。
 彼女達は気づいたら近くにいた、と言った認識だろう。ミスディレクションとも言う。違うか。魔法だ。魔法。


 抵抗する事なく、撫でられ続けた二人は、徐々に強張った身体の力が抜けていった。良かった。何せ離れていてもわかるくらい力いっぱい抱きしめ合っていたんだ。身体痛めちゃうよ。


 やっと緊張が解れ、二人が離れ、こちらを向いた。


 離れた拍子に見えた黒猫のピンバッジ。と、緑色のリボン…記憶に薄らと引っかかる。
 まあいい。それよりこんな子が…盗撮を?


 四葉のクローバーが懐かしいのは、元同級生の首藤さん。こっちが問題だな。魔法の盗撮か。映るんだ、魔法。


 バレたらバレたで仕方ないか。嘘つけないし。でも普通信じないか。

 それにしても、どっちも盗撮か。
どうしようか。先ずは聞き取りからしようか。


「二人ともこれについて、お話してくれないかな?」


 再度ポケットから二人のスマホを出し、聞いてみる。


「「ごめんなさいぃぃ」」


 二人は前方に倒れ込むように、ゆっくり滑らかに揃って……土下座した。

 上手いことハモるな。





「すぐに謝れてえらいね。素直が一番だよ。でも土下座はやめてほしいかな…」


 女の子を土下座ダブルとか居た堪れないよ。ドン引きだよ。ストーカーダブルもドン引きだけども。


「ほら、二人とも立って立って。ああ、ああ…汚れちゃってる。せっかく可愛いのに台無しだよ?」


 神社は鳥居からお社に続く道は石畳で、それ以外は土だ。首藤さんはショートパンツだし、黒髪の子は膝丈スカートだし。膝擦りむくよ。二人とも可愛いんだし。


「…プロポーズ?」

「…婚約お申込みですか?」

「はは。揶揄わないでよ」


 ゆっくり立ち上がった二人はそんな言葉を言ってきた。なんか面白い二人だな。というか見た目は違うけど、似ているのか。にしたって随分と唐突な発言だ。ほぼ初対面だよね?

 いや、いつからストーキングしてたかで、彼女たちの中では初対面じゃないし、唐突でもないのか…


 そんな事を考えていたら、首藤さんはお願いを口にした。


「青いのかけて欲しい」

「青いのってなんですか? 血?」

「!…」


「緑のも」

「無視しないでください! 緑って何ですか? たぬき?」

「……」


 膝の汚れを指差し、青。手のひらの絆創膏を指差し、緑、と。……解析したのか…これは知ってるのはわたしだけで、黒髪の子は知らないという首藤さんからのパスか。

 いやカマをかけてきたのか。いや、半分嘘か。なら確信を得るためか。


「……ちょっとここではね。どこか無い?」

「家に来て欲しい。お家デート」


「なっ! さっきすけべって言ってたのに全然違うじゃないですか!……これがロールキャベツ女子!……さすが現役JK…!」


 何言ってるかわからない戰慄している間宮さんは置いておいて、首藤さんの瞳の色は点滅してる、か…


「……うん、いいよ。行こうか。でもその前に二人のこと、改めて教えてくれないかな?」





 さっきは唐突だったから改めて自己紹介をした。元同級生の首藤絹子しゅとう きぬこさんと中学2年生の間宮晴風まみや はるかさん。彼女は後輩だった。

 二人は同時に互いを指差し、

 首藤さんは間宮さんをストーカーと言い、私は違う、という。

 間宮さんは首藤さんをストーカーと言い、私は違いますから、という。


 ……仲良いな、君たち。


 つまりどうやら、どちらも僕のストーカーらしい。やっぱりダブルで、か……いや、なんで?

 まあ、発生の理由はわからないけど、現状はわかった。

 歴は二人とも長くおおよそ3年に渡るそうだ………ストーキングってそんなに長い期間するもんなの?

 昔から僕は勘が良かった。と思っていたけど……人族の傑出した才能を持つのはむしろこの二人だよ。全っ然、気付かなかったし。


「…京介くん、ごめんなさい」

「藤堂さん、すみませんでした」


 推し黙る僕に不安を感じたのか、しおらしい態度で謝ってくる。まあ反省しているのは色でわかるから良いとして。

 悟りの魔法で見た瞳の色はチラチラとたばかりと嘘を示していた。この点滅の仕方は、誰かを庇ってるのかな? 二人とも? でも庇いあってるわけじゃない…


「ね、二人はどんな罰がいいかな?」


 でも、うそはよくないね。





「ついて来ないで」

「いーじゃないですか!」


「ふ」

「なんですか」


「いつもと違う」

「…私だって妄想拗らせてることくらいわかってますよ~…でもこんなチャンス見逃せませんし…」


「条件」

「…なんですか」


「森を抜けて」

「……だめ、です」


「…今日のこと内緒」

「………わかり、ました」


 道案内として先行する二人はひそひそと内緒話をしていた。でも僕、耳良いんだ。難聴系じゃないんだ。すっとぼけたりはするけど。

 森を抜けて…? 何かの比喩かな…? 向こうに綺麗な湖があるんです! くらいにしか使わないと思うんだけど。


「まあまあ、僕からもお願いしていいかな? 二人とも同じこと……してたんだよね?」


 すると二人は、ゆっくり振り返りながら滑らかな動作で…………ダブルで揃って土下座した。


「「ごめんなさいぃぃ」」


 仲良いな君たち……だからそれやめて。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...