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ランペイジ!
違う。デート。
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| 首藤 絹子
朝日がカーテンの隙間から私の頭に降り注ぐ。目が覚めると机に突っ伏していた。ボーっとした頭のまま、頬の痛さに気付く。
すりすりと頬を撫でる。撫でた拍子に手のひらのキズに気付く。
寝落ちしてた…
目の前のノートPCがつく。起きた拍子に手をぶつけたのかな。
ん、と喉を鳴らし、自作編集動画を再生する。
「すてき…」
京介くんの身体から淡い光が溢れている。何度見ても飽きないから魔法の部分だけのリピート再生動画を作った。
3時間耐久だ。超余裕。みんなには内緒。スマホにも入れた。
静止画も作り待ち受けにした。青いやつだ。
動画はコミカルにならないよう、きちんとフェードイン・フェードアウトさせている。速度も少し落とした。
ああ、私の魔法使いさま。
あの時感じた空気を再現したい。こう、しゅわしゅわしゅわ、みたいな。でも合う音楽がない…環境音でも拾いに行こうかな…
「ん」
パジャマから外着に着替える。薄く化粧をしてから日焼け止めを塗る。
昔京介くんがかわいいって言ってくれた四葉のクローバーのピンバッジをベージュ色のキャスケットにつける。
塗装が剥げては何度も塗り直した思い出ピンバッジ。
ふわりとした緑色のラグランカットソーに白のホットパンツ。円卓のみんなで買ったカメラを首から下げる。
グレーのリュックには緊急用メモリーカードも大量だ。
音が鳴らないように今日もあの日から白いラバーソール。
「ん」
京介くん。今日も一緒に一杯遊ぼ!
◆
昼過ぎにお家を二人で出た。
長年の経験から京介くんの向かう先はわかった。徒歩、この方向、このルート。神社に行くんだ。久しぶりだね。先回りして社側から狙おう。
昨日の円卓、みんなの驚き様は嬉しかった。カメラを撮る側にとって、予期せぬ事態はご馳走だ。
倒れていた京介くんに駆け寄りたい気持ちとご馳走が待ってる予感。私は勝った。握りしめた手が血で滲んだかいもあった。
この神社はたまに来る。だから配置もバッチリ。画面にバエるレイアウトを考え、移動する。
「あ、きぬきぬ」
「…はるはる。乙」
また被った。
知人に出くわした。
二学年下の中学2年、間宮晴風。
京介くんを狙う七人の苛烈な魔女の一人。円卓の敵。魔女の中のボッチ担当、はるはる。
悔しいくらいの色白黒髪の美少女。背は低いけど、出るとこ出てる。中2なのに。
はるはるとは私が中学の時に出会った。私と違って、彼女は京介くんのストーカーだった。
身バレも構わないとばかりに、京介くんの物品を狙っていたから思わず止めてしまったのが、最初の出会い。
それからは私と場所取りが被ることが多かった。
いつもの黒ニャンコピンバッジをカメラのストラップに付けていた。はっ、クローバーの方が可愛いから。
「きぬきぬはお勤め?」
「違う。デート」
仕事みたいに言わないでほしい。ファインダーから覗く京介くんとはいつも楽しく会話を楽しんでいる。
「はるはるは覗き?」
「違います。デートです」
彼女のストーカー行為は常軌を逸している。私はデートの時はきちんと京介くんのお家の前でバイバイして別れる。
彼女は敷地内に平気で足を踏み入れる。流石に限度が過ぎるので、家宅侵入写真でやめさせた。
「…」
「…」
「デート」
「デートです」
「…まあ、いい」
「…ええ、ではいつものようにダブルデートと、行きたい、ところ、ですが……」
シュンとしたはるはる。
珍しい。落ち込んでいる。いつも強気なあのはるはるが?
でもその前にダブルデートじゃない。シングルデートでもない。はるはるのはただのストーキング。
「本当は見たくないし、データ消したいし、記憶も消したいし、」
「?」
「森でもまだ、うみうみにしか見せてないんです。荒れそうで。これ…どう思います?」
森…魔女の森か。まだ魔女たちには伝えてなくて、はるはるが躊躇する写真…何?
「っ!?」
高級コンデジ内の液晶画面には、私服姿の京介くんと京介くんの私服を借りたであろう愛香ちゃんが笑顔で腕を組んでお茶をしていた。
しかも京介くんはバージョン1だ。愛香ちゃんは蕩けた表情………つまり、
「…うわき」
「きぬきぬ付き合ってないじゃないですか…」
「…いつ?」
「昨日の放課後ですよ~…。わたしが待ち合わせていた喫茶店で浮気を……ショックで何も言わず先に帰ってやりましたよっ!」
「はるはる、待ち合わせてないし、付き合ってないから」
昨日の放課後は、私の彼は魔法使い!の発表で浮かれていたから知らなかった…愛香とよりを戻した? あの暴行がきっかけ…? みんなに伝えないと!
スマホを出し、慌てて操作する。
「何してるの?」
「「ッ!?」」
ショックを受け、注意力の下がった私達に京介くんが話しかけてきた。
びっくりしてストーカー系残念魔女はるはると抱き合ってしまった。
京介くんはなおも近寄ってくる。
近い近い! 近いよぉ~! そんなのまだ早いよぉ! すけべだよぉ! 京介くんのすけべ!
朝日がカーテンの隙間から私の頭に降り注ぐ。目が覚めると机に突っ伏していた。ボーっとした頭のまま、頬の痛さに気付く。
すりすりと頬を撫でる。撫でた拍子に手のひらのキズに気付く。
寝落ちしてた…
目の前のノートPCがつく。起きた拍子に手をぶつけたのかな。
ん、と喉を鳴らし、自作編集動画を再生する。
「すてき…」
京介くんの身体から淡い光が溢れている。何度見ても飽きないから魔法の部分だけのリピート再生動画を作った。
3時間耐久だ。超余裕。みんなには内緒。スマホにも入れた。
静止画も作り待ち受けにした。青いやつだ。
動画はコミカルにならないよう、きちんとフェードイン・フェードアウトさせている。速度も少し落とした。
ああ、私の魔法使いさま。
あの時感じた空気を再現したい。こう、しゅわしゅわしゅわ、みたいな。でも合う音楽がない…環境音でも拾いに行こうかな…
「ん」
パジャマから外着に着替える。薄く化粧をしてから日焼け止めを塗る。
昔京介くんがかわいいって言ってくれた四葉のクローバーのピンバッジをベージュ色のキャスケットにつける。
塗装が剥げては何度も塗り直した思い出ピンバッジ。
ふわりとした緑色のラグランカットソーに白のホットパンツ。円卓のみんなで買ったカメラを首から下げる。
グレーのリュックには緊急用メモリーカードも大量だ。
音が鳴らないように今日もあの日から白いラバーソール。
「ん」
京介くん。今日も一緒に一杯遊ぼ!
◆
昼過ぎにお家を二人で出た。
長年の経験から京介くんの向かう先はわかった。徒歩、この方向、このルート。神社に行くんだ。久しぶりだね。先回りして社側から狙おう。
昨日の円卓、みんなの驚き様は嬉しかった。カメラを撮る側にとって、予期せぬ事態はご馳走だ。
倒れていた京介くんに駆け寄りたい気持ちとご馳走が待ってる予感。私は勝った。握りしめた手が血で滲んだかいもあった。
この神社はたまに来る。だから配置もバッチリ。画面にバエるレイアウトを考え、移動する。
「あ、きぬきぬ」
「…はるはる。乙」
また被った。
知人に出くわした。
二学年下の中学2年、間宮晴風。
京介くんを狙う七人の苛烈な魔女の一人。円卓の敵。魔女の中のボッチ担当、はるはる。
悔しいくらいの色白黒髪の美少女。背は低いけど、出るとこ出てる。中2なのに。
はるはるとは私が中学の時に出会った。私と違って、彼女は京介くんのストーカーだった。
身バレも構わないとばかりに、京介くんの物品を狙っていたから思わず止めてしまったのが、最初の出会い。
それからは私と場所取りが被ることが多かった。
いつもの黒ニャンコピンバッジをカメラのストラップに付けていた。はっ、クローバーの方が可愛いから。
「きぬきぬはお勤め?」
「違う。デート」
仕事みたいに言わないでほしい。ファインダーから覗く京介くんとはいつも楽しく会話を楽しんでいる。
「はるはるは覗き?」
「違います。デートです」
彼女のストーカー行為は常軌を逸している。私はデートの時はきちんと京介くんのお家の前でバイバイして別れる。
彼女は敷地内に平気で足を踏み入れる。流石に限度が過ぎるので、家宅侵入写真でやめさせた。
「…」
「…」
「デート」
「デートです」
「…まあ、いい」
「…ええ、ではいつものようにダブルデートと、行きたい、ところ、ですが……」
シュンとしたはるはる。
珍しい。落ち込んでいる。いつも強気なあのはるはるが?
でもその前にダブルデートじゃない。シングルデートでもない。はるはるのはただのストーキング。
「本当は見たくないし、データ消したいし、記憶も消したいし、」
「?」
「森でもまだ、うみうみにしか見せてないんです。荒れそうで。これ…どう思います?」
森…魔女の森か。まだ魔女たちには伝えてなくて、はるはるが躊躇する写真…何?
「っ!?」
高級コンデジ内の液晶画面には、私服姿の京介くんと京介くんの私服を借りたであろう愛香ちゃんが笑顔で腕を組んでお茶をしていた。
しかも京介くんはバージョン1だ。愛香ちゃんは蕩けた表情………つまり、
「…うわき」
「きぬきぬ付き合ってないじゃないですか…」
「…いつ?」
「昨日の放課後ですよ~…。わたしが待ち合わせていた喫茶店で浮気を……ショックで何も言わず先に帰ってやりましたよっ!」
「はるはる、待ち合わせてないし、付き合ってないから」
昨日の放課後は、私の彼は魔法使い!の発表で浮かれていたから知らなかった…愛香とよりを戻した? あの暴行がきっかけ…? みんなに伝えないと!
スマホを出し、慌てて操作する。
「何してるの?」
「「ッ!?」」
ショックを受け、注意力の下がった私達に京介くんが話しかけてきた。
びっくりしてストーカー系残念魔女はるはると抱き合ってしまった。
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