64 / 156
勇者の特技
懐かしきファミレス
しおりを挟む
| 藤堂 京介
日曜日、朝7時。
時計はパチパチと薄目で確認した。
カーテンを透る光の少なさと、しとしとと降る雨の音にベルクァヘンプ自治区での雨季の始まりを思い出した。そう、あのミルク100%風呂のあいつだ。
昨夜も例のごとく、拘束の魔法をかけ枷をかけ就寝した。だから凄惨な現場にはなっていない。なっていないんだけど。
目覚めた僕を見下ろす人影が二つ。兄妹二人暮らしの家に、なぜか2名立っている。ホラーかな?
「ね、固まってるでしょ?」
「本当だ! 面白い。ありがとう未羽ちゃん」
「ふふ、いいの。ちょっと愛香の気持ちわかるし」
愛香………?人影は未羽と愛香だった。いつの間にか仲直りしてた……? 固まる……? ありがとう…? 気持ちがわかる…?
「ごめんね~朝早くにワガママ言って」
「幼馴染の朝の目覚ましイベントよね。いいよ、やって。した事なかったんだ。意外~」
「……未羽ちゃん?それわざと?」
「何のことかしら」
「ふーん。まあ…いいよ。中学の時の話はやめとこ」
「そうね」
……宿屋の小さな女の子がしてくれてたやつかな?『勇者のお兄ちゃん起きて~』…あれは…どこだっけ。
「京ちゃん、朝だよ!起きて~でも起きなくていいよ~…でも早く起きないと~……」
「兄さん、朝よ、起きて。むしろ起きなくていいわ。……だけど早く起きないと~…」
確かルートニア、違うなルー、ルー、ルートのあ? 違う。ル、ルー、ルー…
「「イタズラしちゃうから!」」
あ! ルーニノアだ! ルーニノアの街だ。懐かしいな、ぁっ! ……そうそうルーニノあっ! だ、あの子元気かなあ"ぁッ!
◆
青い傘を差し、目的地を目指し、街を歩く。雨足は弱く、足下は気にならない。
ガーデン用のレインブーツは、オリーブグリーンでお気に入りだった、はず。それより何より雨なのに魔法要らずで、便利過ぎてむしろ怖い。
アレフガルドの雨具といえば、外套一択だった。それしかなかった。足下や服がぐちゃぐちゃなのが堪らなく嫌だった。嫌だからと魔法をアレンジした。そんな事を思い出しながら、僕はファミレスに一人で来ていた。
今朝の侵入者達は仲良く僕のベッドで寝ている。本当に仲直りしていたようだ。しかし、愛香までおにぃ、おにぃ言ってたのは何故だろうか。
しかし、日曜日とはいえお昼だと言うのにまだ寝ている。けしからん。僕を起こしに来たのではなかったのか。まったく。勢いあまって違うミルク100%にしてしまったではないか。まったく。けしからん。回復魔法はナシだ。
まあいい。僕にはこれからしなければならないことがある。
さあ、現代の科学、その叡智の結晶よ。僕の前に姿を現せ!
「お、お待たせしました!、チージュINハンバーグ、ライスセットになりましゅ!」
「あ、ありがとう…?」
バイト、初日かな? 店員さんは真っ直ぐした黒髪を小さなポニーテールにまとめ、華やかな佇まいの可愛い美人な女の子だった。
奥のテーブルからくすくすと笑い声が聞こえてきた。嘲笑うような、見下すような笑いではなく、親友の面白い様子が見れてほっこりしたような、そんな親愛を含んだ笑い声だった。
「またあがってるな」
「莉里衣が接客業なんて、何の冗談かと思ってたけど、やっぱりまだ慣れないみたいだね」
その座席には二人の女の子がいた。どうやら友達みたいだ。少しハラハラしたような感もある。心配して見に来たのかもしれない。
「では……いただきます」
ついに、きた。この15歳の身体の求めるままに、駅近くのファミレスにハンバーグを食べに来たのだ。
向こうにもハンバーグはあった。だけど、濃かった。駄目だった。だから気も抜けなかった。だというのにこちらではお腹への安心感がまさに、別格。
ああ、これが洋食。
本当は食べたかったんだな。
◆
「これが、科学か」
なるだけゆっくりといただき、現代に慣れるように味わう。ああ、懐かしさで満たされる。
もう殺伐とした生活は終わったのだ。これからは普通の高校生活を……あれ? 普通ってなんだっけ……? まあいい。目標などはこれからゆっくり決めれば良いのだ。モラトリアムなのだ。
朋花との約束もあるし、差し当たっては葛川達だな。とりあえず絹ちゃんと晴風ちゃんが調べてくれるようだから連絡を待とうか。
……面倒だな。
これが魔獣討伐クエストだとしたら一日。魔族から街を救うにしてもだいたい三日。なのになぜあんな小物に時間をかけねばならないのか。
……あ、討伐したら駄目なのか。
ややこしい貴族相手はどうしてたっけ。最初の方は確か、いろいろ思案して落とし所を探したりしてたけど、少ししたらアートリリィが仕切りだして、だったか。
それからはだいたい、さあ勇者様、今こそ悪に鉄槌を! みたいに最後のシュートが多かったからなぁ。
だからそこに至る流れが具体的にはわからなかったけど、瞳の色を見て、まあ良いかと思って斬ってきた。あれ?
……もしかして、僕、脳筋?
そういえばそれから、たたかうしか選んで来なかった。
どうしよう。
日曜日、朝7時。
時計はパチパチと薄目で確認した。
カーテンを透る光の少なさと、しとしとと降る雨の音にベルクァヘンプ自治区での雨季の始まりを思い出した。そう、あのミルク100%風呂のあいつだ。
昨夜も例のごとく、拘束の魔法をかけ枷をかけ就寝した。だから凄惨な現場にはなっていない。なっていないんだけど。
目覚めた僕を見下ろす人影が二つ。兄妹二人暮らしの家に、なぜか2名立っている。ホラーかな?
「ね、固まってるでしょ?」
「本当だ! 面白い。ありがとう未羽ちゃん」
「ふふ、いいの。ちょっと愛香の気持ちわかるし」
愛香………?人影は未羽と愛香だった。いつの間にか仲直りしてた……? 固まる……? ありがとう…? 気持ちがわかる…?
「ごめんね~朝早くにワガママ言って」
「幼馴染の朝の目覚ましイベントよね。いいよ、やって。した事なかったんだ。意外~」
「……未羽ちゃん?それわざと?」
「何のことかしら」
「ふーん。まあ…いいよ。中学の時の話はやめとこ」
「そうね」
……宿屋の小さな女の子がしてくれてたやつかな?『勇者のお兄ちゃん起きて~』…あれは…どこだっけ。
「京ちゃん、朝だよ!起きて~でも起きなくていいよ~…でも早く起きないと~……」
「兄さん、朝よ、起きて。むしろ起きなくていいわ。……だけど早く起きないと~…」
確かルートニア、違うなルー、ルー、ルートのあ? 違う。ル、ルー、ルー…
「「イタズラしちゃうから!」」
あ! ルーニノアだ! ルーニノアの街だ。懐かしいな、ぁっ! ……そうそうルーニノあっ! だ、あの子元気かなあ"ぁッ!
◆
青い傘を差し、目的地を目指し、街を歩く。雨足は弱く、足下は気にならない。
ガーデン用のレインブーツは、オリーブグリーンでお気に入りだった、はず。それより何より雨なのに魔法要らずで、便利過ぎてむしろ怖い。
アレフガルドの雨具といえば、外套一択だった。それしかなかった。足下や服がぐちゃぐちゃなのが堪らなく嫌だった。嫌だからと魔法をアレンジした。そんな事を思い出しながら、僕はファミレスに一人で来ていた。
今朝の侵入者達は仲良く僕のベッドで寝ている。本当に仲直りしていたようだ。しかし、愛香までおにぃ、おにぃ言ってたのは何故だろうか。
しかし、日曜日とはいえお昼だと言うのにまだ寝ている。けしからん。僕を起こしに来たのではなかったのか。まったく。勢いあまって違うミルク100%にしてしまったではないか。まったく。けしからん。回復魔法はナシだ。
まあいい。僕にはこれからしなければならないことがある。
さあ、現代の科学、その叡智の結晶よ。僕の前に姿を現せ!
「お、お待たせしました!、チージュINハンバーグ、ライスセットになりましゅ!」
「あ、ありがとう…?」
バイト、初日かな? 店員さんは真っ直ぐした黒髪を小さなポニーテールにまとめ、華やかな佇まいの可愛い美人な女の子だった。
奥のテーブルからくすくすと笑い声が聞こえてきた。嘲笑うような、見下すような笑いではなく、親友の面白い様子が見れてほっこりしたような、そんな親愛を含んだ笑い声だった。
「またあがってるな」
「莉里衣が接客業なんて、何の冗談かと思ってたけど、やっぱりまだ慣れないみたいだね」
その座席には二人の女の子がいた。どうやら友達みたいだ。少しハラハラしたような感もある。心配して見に来たのかもしれない。
「では……いただきます」
ついに、きた。この15歳の身体の求めるままに、駅近くのファミレスにハンバーグを食べに来たのだ。
向こうにもハンバーグはあった。だけど、濃かった。駄目だった。だから気も抜けなかった。だというのにこちらではお腹への安心感がまさに、別格。
ああ、これが洋食。
本当は食べたかったんだな。
◆
「これが、科学か」
なるだけゆっくりといただき、現代に慣れるように味わう。ああ、懐かしさで満たされる。
もう殺伐とした生活は終わったのだ。これからは普通の高校生活を……あれ? 普通ってなんだっけ……? まあいい。目標などはこれからゆっくり決めれば良いのだ。モラトリアムなのだ。
朋花との約束もあるし、差し当たっては葛川達だな。とりあえず絹ちゃんと晴風ちゃんが調べてくれるようだから連絡を待とうか。
……面倒だな。
これが魔獣討伐クエストだとしたら一日。魔族から街を救うにしてもだいたい三日。なのになぜあんな小物に時間をかけねばならないのか。
……あ、討伐したら駄目なのか。
ややこしい貴族相手はどうしてたっけ。最初の方は確か、いろいろ思案して落とし所を探したりしてたけど、少ししたらアートリリィが仕切りだして、だったか。
それからはだいたい、さあ勇者様、今こそ悪に鉄槌を! みたいに最後のシュートが多かったからなぁ。
だからそこに至る流れが具体的にはわからなかったけど、瞳の色を見て、まあ良いかと思って斬ってきた。あれ?
……もしかして、僕、脳筋?
そういえばそれから、たたかうしか選んで来なかった。
どうしよう。
5
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる