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勇者の特技
レベル上げ
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| 藤堂 京介
食後のコーヒーを飲みながら、考える。コーヒーもなかなかいいな。召喚前は苦手だったけど、味わい方を知らなかったのかもしれない。けどまだ初心者だ。ミルクも少し足すか。
違う違う。
脳筋だったのか、僕。……自分ではわからないもんだな。結構な数の異世界の謎を解き明かしてきたから頭脳派だと思っていたな……恥ずかしい。
そういえば早く帰りたいからと、ショートカットばかり考えていたなぁ。
壁とか天井とか床とか物理的に壊したりして進んでたしな…。確かに言葉だけ聞けば脳筋に見えるかもしれない。
だが違う、違うんだ。合理だ。僕は合理を追求していたんだ。索敵の魔法でだいたい把握出来るから真っ直ぐ進むためには仕方なかったんだ。
ほら例えばゲームとかであるだろ?なんで通路が蛇行してるんだよ、整えとけよ、責任者誰だよ、とか。
天然洞窟はまあいい、あいつに罪はない。ダンジョン…もまあいい。迷わすのが仕事みたいなものだしな。
だが建造物、てめーは駄目だ。なんかこう、設計の段階でマズいって誰か気付くだろ? あ、これ住みにくいなって気付くだろ? なんでGOするんだよ。
そりゃそんなの、壊せたら壊すさ。
ローゼンマリーは困惑し、アートリリィは満足し、ティアクロィエは笑う。そんな冒険だった。……なのに。
いや違う違う。
あれ? 勇者ってこっちでは何が出来るんだ? 負けないだろうけど、勝つシーンが浮かばない。リアクションなら出来るけど、アクションは出来ない。仕留めちゃうし……僕の特技は魔法と、なんだろ。
Q. あなたの特技はなんですか?
A. はい。私の特技は1対多の戦闘やダンジョンや砦の攻略を手際よくこなすことです。また、でかい魔物を倒すことや街を魔族から解放すること。そして、終焉の魔王を倒すことです! 最後に余談となりますが、女性を幸せに 失神させることにかけては並ぶものがないと自負しております!
………駄目だこれ。
僕は頭を抱えた。
どこにも通用しないよ。アルバイトも出来ないよ。捕まっちゃうよ。万国共通なのは幸せ失神だけか……今から何か特技作っとくかな……
今思えば、姫巫女たちに裏で随分とフォローされていたんだろうな。
◆
「なんか、もめてる?」
先程の店員さんが、何やら客に捕まっている。初日なら仕方ないか。無事を祈ろう。
「だからさっきから言ってんだろ? 連絡先よこせって。それで許すって」
「何度でも謝ります。で、出来ません。クリーニング代はお、お支払いしますので、許してください!」
「良いって良いって、バイト上がりに遊び相手してくれたらさ」
「そーそー。俺ら亀工だよ? 他の奴呼んじゃうよ? 簡単じゃん。連絡先くらい。それと今日何時まで?」
チラリと見た座席には6人の男がいた。索敵で把握済みだった。
話の内容からどうやら先程の店員さんが粗相をし、それを理由に高圧的に振る舞い仲良くなろうとしているらしい。
ナンパヘタ過ぎない? ただの脅しじゃん。
やはりここは世紀末ヒャッハー世界なのか…
「莉里衣、そんなの聞かなくていいから。あんたら、そろそろいい加減にしてくんない? 頭悪すぎてボク辛くなるよ」
「だな。店内カメラもあるから警察にも証言できるし、何ならSNSにでも呟こうか?」
それを見た友人二人が黙ってはおれず、口出ししていた。あ、そんなこと言ったら…
「お、君ら友達? なんだよ、めっちゃいけてんじゃん。こっち来て話そうよ。こぼしたこと許すからさ」
「ほらほら、こっちこっち」
ほらー。見たことある光景だ。酒場娘あるあるだ。了承すればここからだいたいセクハラにいく。揉みしだかれる。酔わされて2階に連れ込まれる。ここまででワンセット。
どうも座席に座らせれば=OKだと思ってる節があるからなぁ。こういう人達。
瞳の色、瞳の色…あれ? 諦め早くないかな。店員の子は………
…まあ、救うか。ちょっと考えてたこともあるし。
◆
「何してるの?」
「あ、誰おまえ?」
「藤堂だけど」
「藤堂? え、誰だよ。誰か知り合い?」
「知らん」
「知らねーよ、こんなヤツ。なあ?」
「誰かこん中に知り合いでもいんのかよ、おまえ」
「いや、知らないやつばかりだけど」
「知らねーのかよ! なんで話かけてきたんだよ!」
そりゃ知らないよ。ただ聞いてるだけじゃん。何してんの?って。
というか、選択肢増やさないでよ。2択で良いんだよ。
はー。もう一回最初からか…異世界では勇者って言えば早かった。敵ならすぐ襲ってくるし。
「こいつ、あれか、助けようとかそういうやつじゃね?」
「何々? ヒーロー? 勇者なの、おまえ」
「あっ。まあ、そうだよ」
「………ぷっ」
「ッ、ギャハハハハ、ハー。ハー、ウケる…そりゃ悪かった勇者様。ぶふッ、姫は私どもが助けますので! ここは先にお行きください! ッブッははは、どーよ、俺の名演技」
「ぶっ、面白、そーそー、勇者様は安心して冒険に行ってください! 彼女達の身は俺たちが守りますので! ってか。ギャハハ」
「うそはよくないね」
「あ?」
◆
「早く仲間呼んだら? レベル上げでしょ。こんなの」
「な、なんだよ、こいつ、いきなり殴るとか頭おかしいんじゃねーか!」
「も、もうすぐ来る! 死んだぞてめーは!」
いきなり殴りかかってきたのは君らなんだけど…そして僕にバックアタックは通じないんだ。
ファミレスでまさかの身バレをした僕はキコーと名乗る六人と連れだって、雨の続く中、ファミレス近くの高架下に来ていた。
さあ、話合いをと思った矢先、殴りかかってきたので反射で丁寧に意識を刈り取ってしまった。
はー…、貴族みたいな相手の交渉を練習したかったのにぃ…特技増やしたかったのにぃ。
ま、いっか。
じゃあ、今日は無限湧きだ。身体を慣らす訓練にしよう。さあ、じゃんじゃん持ってきてくれ! キコー諸君!
◆
「君がおかしら?」
「何なんだよ、あり得ないだろ、何なんだよ何なんだよ何なんだよぉっ! おまえは!」
「何って、人間だけど」
あれから10人追加発注が来た。丁寧に意識を刈り取り、壁際に並べてみた。まるで横スクロール格闘ゲームの背景みたいになっている。
高架下の壁に描かれた落書きグラフィティーが、良い感じの雰囲気を出している。ファイッ! みたいな。ユーウィンッ! みたいな。
でもみんな俯いてるからか酷く憂鬱なゲームみたいになるな……これは誰もプレイしないな…
さあ、残りは一人。おかしら(仮)だけ。
あれ? モンスターハウスにしても貧相だな。宝箱薬草レベルじゃん。ヒャッハー世界なんだから、まだまだ湧いてくれよ。だから一人残したんだし。
「また追加発注で。なるはやでよろしくね」
「……許してくれ、こいつらが喧嘩売ったんだろ? 俺は関係ない」
「…うそはよくないね」
◆
「君たちってもしかしてカメコー?キコーなんて言うからわからなかったよ。やっと思い出せた」
「…そ、そうです、か、か、カメコーです…」
やっと追加発注分が来た。納品遅いよ。どうやら彼らは隣の区にある亀田工業高校の生徒らしい。噂しか聞いてなかったけど、どうやら本当に素行が悪いらしい。
なんでもカメコー呼びはダサくて嫌らしい。良いじゃん、亀さん。かわいいし。いや、あっちの亀はデカかったな。キバとかあるし。素早いし。やっぱかわいくないわぁ。
これで撃墜30か。100は行きたいな。宝箱何かな。あ、特技はトレジャーハントです! …いや駄目か。それはただの泥棒だ。はー…特技かー。
「まだ周りが迷惑するやつとか友達でいる?呼んで欲しいな」
「も、もう、居ないです! 本当です! 許してください!」
「嘘は…ついてないね。じゃあ、迷惑かけそうなやつはいる? 呼んで欲しいな」
「………」
なんだ、まだいるんじゃない。壊してばかりだった壁なんて、僕にだって華やかに出来るんだから!
食後のコーヒーを飲みながら、考える。コーヒーもなかなかいいな。召喚前は苦手だったけど、味わい方を知らなかったのかもしれない。けどまだ初心者だ。ミルクも少し足すか。
違う違う。
脳筋だったのか、僕。……自分ではわからないもんだな。結構な数の異世界の謎を解き明かしてきたから頭脳派だと思っていたな……恥ずかしい。
そういえば早く帰りたいからと、ショートカットばかり考えていたなぁ。
壁とか天井とか床とか物理的に壊したりして進んでたしな…。確かに言葉だけ聞けば脳筋に見えるかもしれない。
だが違う、違うんだ。合理だ。僕は合理を追求していたんだ。索敵の魔法でだいたい把握出来るから真っ直ぐ進むためには仕方なかったんだ。
ほら例えばゲームとかであるだろ?なんで通路が蛇行してるんだよ、整えとけよ、責任者誰だよ、とか。
天然洞窟はまあいい、あいつに罪はない。ダンジョン…もまあいい。迷わすのが仕事みたいなものだしな。
だが建造物、てめーは駄目だ。なんかこう、設計の段階でマズいって誰か気付くだろ? あ、これ住みにくいなって気付くだろ? なんでGOするんだよ。
そりゃそんなの、壊せたら壊すさ。
ローゼンマリーは困惑し、アートリリィは満足し、ティアクロィエは笑う。そんな冒険だった。……なのに。
いや違う違う。
あれ? 勇者ってこっちでは何が出来るんだ? 負けないだろうけど、勝つシーンが浮かばない。リアクションなら出来るけど、アクションは出来ない。仕留めちゃうし……僕の特技は魔法と、なんだろ。
Q. あなたの特技はなんですか?
A. はい。私の特技は1対多の戦闘やダンジョンや砦の攻略を手際よくこなすことです。また、でかい魔物を倒すことや街を魔族から解放すること。そして、終焉の魔王を倒すことです! 最後に余談となりますが、女性を幸せに 失神させることにかけては並ぶものがないと自負しております!
………駄目だこれ。
僕は頭を抱えた。
どこにも通用しないよ。アルバイトも出来ないよ。捕まっちゃうよ。万国共通なのは幸せ失神だけか……今から何か特技作っとくかな……
今思えば、姫巫女たちに裏で随分とフォローされていたんだろうな。
◆
「なんか、もめてる?」
先程の店員さんが、何やら客に捕まっている。初日なら仕方ないか。無事を祈ろう。
「だからさっきから言ってんだろ? 連絡先よこせって。それで許すって」
「何度でも謝ります。で、出来ません。クリーニング代はお、お支払いしますので、許してください!」
「良いって良いって、バイト上がりに遊び相手してくれたらさ」
「そーそー。俺ら亀工だよ? 他の奴呼んじゃうよ? 簡単じゃん。連絡先くらい。それと今日何時まで?」
チラリと見た座席には6人の男がいた。索敵で把握済みだった。
話の内容からどうやら先程の店員さんが粗相をし、それを理由に高圧的に振る舞い仲良くなろうとしているらしい。
ナンパヘタ過ぎない? ただの脅しじゃん。
やはりここは世紀末ヒャッハー世界なのか…
「莉里衣、そんなの聞かなくていいから。あんたら、そろそろいい加減にしてくんない? 頭悪すぎてボク辛くなるよ」
「だな。店内カメラもあるから警察にも証言できるし、何ならSNSにでも呟こうか?」
それを見た友人二人が黙ってはおれず、口出ししていた。あ、そんなこと言ったら…
「お、君ら友達? なんだよ、めっちゃいけてんじゃん。こっち来て話そうよ。こぼしたこと許すからさ」
「ほらほら、こっちこっち」
ほらー。見たことある光景だ。酒場娘あるあるだ。了承すればここからだいたいセクハラにいく。揉みしだかれる。酔わされて2階に連れ込まれる。ここまででワンセット。
どうも座席に座らせれば=OKだと思ってる節があるからなぁ。こういう人達。
瞳の色、瞳の色…あれ? 諦め早くないかな。店員の子は………
…まあ、救うか。ちょっと考えてたこともあるし。
◆
「何してるの?」
「あ、誰おまえ?」
「藤堂だけど」
「藤堂? え、誰だよ。誰か知り合い?」
「知らん」
「知らねーよ、こんなヤツ。なあ?」
「誰かこん中に知り合いでもいんのかよ、おまえ」
「いや、知らないやつばかりだけど」
「知らねーのかよ! なんで話かけてきたんだよ!」
そりゃ知らないよ。ただ聞いてるだけじゃん。何してんの?って。
というか、選択肢増やさないでよ。2択で良いんだよ。
はー。もう一回最初からか…異世界では勇者って言えば早かった。敵ならすぐ襲ってくるし。
「こいつ、あれか、助けようとかそういうやつじゃね?」
「何々? ヒーロー? 勇者なの、おまえ」
「あっ。まあ、そうだよ」
「………ぷっ」
「ッ、ギャハハハハ、ハー。ハー、ウケる…そりゃ悪かった勇者様。ぶふッ、姫は私どもが助けますので! ここは先にお行きください! ッブッははは、どーよ、俺の名演技」
「ぶっ、面白、そーそー、勇者様は安心して冒険に行ってください! 彼女達の身は俺たちが守りますので! ってか。ギャハハ」
「うそはよくないね」
「あ?」
◆
「早く仲間呼んだら? レベル上げでしょ。こんなの」
「な、なんだよ、こいつ、いきなり殴るとか頭おかしいんじゃねーか!」
「も、もうすぐ来る! 死んだぞてめーは!」
いきなり殴りかかってきたのは君らなんだけど…そして僕にバックアタックは通じないんだ。
ファミレスでまさかの身バレをした僕はキコーと名乗る六人と連れだって、雨の続く中、ファミレス近くの高架下に来ていた。
さあ、話合いをと思った矢先、殴りかかってきたので反射で丁寧に意識を刈り取ってしまった。
はー…、貴族みたいな相手の交渉を練習したかったのにぃ…特技増やしたかったのにぃ。
ま、いっか。
じゃあ、今日は無限湧きだ。身体を慣らす訓練にしよう。さあ、じゃんじゃん持ってきてくれ! キコー諸君!
◆
「君がおかしら?」
「何なんだよ、あり得ないだろ、何なんだよ何なんだよ何なんだよぉっ! おまえは!」
「何って、人間だけど」
あれから10人追加発注が来た。丁寧に意識を刈り取り、壁際に並べてみた。まるで横スクロール格闘ゲームの背景みたいになっている。
高架下の壁に描かれた落書きグラフィティーが、良い感じの雰囲気を出している。ファイッ! みたいな。ユーウィンッ! みたいな。
でもみんな俯いてるからか酷く憂鬱なゲームみたいになるな……これは誰もプレイしないな…
さあ、残りは一人。おかしら(仮)だけ。
あれ? モンスターハウスにしても貧相だな。宝箱薬草レベルじゃん。ヒャッハー世界なんだから、まだまだ湧いてくれよ。だから一人残したんだし。
「また追加発注で。なるはやでよろしくね」
「……許してくれ、こいつらが喧嘩売ったんだろ? 俺は関係ない」
「…うそはよくないね」
◆
「君たちってもしかしてカメコー?キコーなんて言うからわからなかったよ。やっと思い出せた」
「…そ、そうです、か、か、カメコーです…」
やっと追加発注分が来た。納品遅いよ。どうやら彼らは隣の区にある亀田工業高校の生徒らしい。噂しか聞いてなかったけど、どうやら本当に素行が悪いらしい。
なんでもカメコー呼びはダサくて嫌らしい。良いじゃん、亀さん。かわいいし。いや、あっちの亀はデカかったな。キバとかあるし。素早いし。やっぱかわいくないわぁ。
これで撃墜30か。100は行きたいな。宝箱何かな。あ、特技はトレジャーハントです! …いや駄目か。それはただの泥棒だ。はー…特技かー。
「まだ周りが迷惑するやつとか友達でいる?呼んで欲しいな」
「も、もう、居ないです! 本当です! 許してください!」
「嘘は…ついてないね。じゃあ、迷惑かけそうなやつはいる? 呼んで欲しいな」
「………」
なんだ、まだいるんじゃない。壊してばかりだった壁なんて、僕にだって華やかに出来るんだから!
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