異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

墨色

文字の大きさ
65 / 156
勇者の特技

レベル上げ

しおりを挟む
| 藤堂 京介


 食後のコーヒーを飲みながら、考える。コーヒーもなかなかいいな。召喚前は苦手だったけど、味わい方を知らなかったのかもしれない。けどまだ初心者だ。ミルクも少し足すか。

 違う違う。

 脳筋だったのか、僕。……自分ではわからないもんだな。結構な数の異世界の謎を解き明かしてきたから頭脳派だと思っていたな……恥ずかしい。

 そういえば早く帰りたいからと、ショートカットばかり考えていたなぁ。

 壁とか天井とか床とか物理的に壊したりして進んでたしな…。確かに言葉だけ聞けば脳筋に見えるかもしれない。

 だが違う、違うんだ。合理だ。僕は合理を追求していたんだ。索敵の魔法でだいたい把握出来るから真っ直ぐ進むためには仕方なかったんだ。

 ほら例えばゲームとかであるだろ?なんで通路が蛇行してるんだよ、整えとけよ、責任者誰だよ、とか。

 天然洞窟はまあいい、あいつに罪はない。ダンジョン…もまあいい。迷わすのが仕事みたいなものだしな。

 だが建造物、てめーは駄目だ。なんかこう、設計の段階でマズいって誰か気付くだろ? あ、これ住みにくいなって気付くだろ? なんでGOするんだよ。

 そりゃそんなの、壊せたら壊すさ。

 ローゼンマリーは困惑し、アートリリィは満足し、ティアクロィエは笑う。そんな冒険だった。……なのに。

 いや違う違う。

 あれ? 勇者ってこっちでは何が出来るんだ? 負けないだろうけど、勝つシーンが浮かばない。リアクションなら出来るけど、アクションは出来ない。仕留めちゃうし……僕の特技は魔法と、なんだろ。


 Q. あなたの特技はなんですか?

 A. はい。私の特技は1対多の戦闘やダンジョンや砦の攻略を手際よくこなすことです。また、でかい魔物を倒すことや街を魔族から解放すること。そして、終焉の魔王を倒すことです! 最後に余談となりますが、女性を幸せに 失神させることにかけては並ぶものがないと自負しております!


 ………駄目だこれ。

 僕は頭を抱えた。

 どこにも通用しないよ。アルバイトも出来ないよ。捕まっちゃうよ。万国共通なのは幸せ失神だけか……今から何か特技作っとくかな……

 今思えば、姫巫女たちに裏で随分とフォローされていたんだろうな。





「なんか、もめてる?」


 先程の店員さんが、何やら客に捕まっている。初日なら仕方ないか。無事を祈ろう。


「だからさっきから言ってんだろ? 連絡先よこせって。それで許すって」

「何度でも謝ります。で、出来ません。クリーニング代はお、お支払いしますので、許してください!」

「良いって良いって、バイト上がりに遊び相手してくれたらさ」

「そーそー。俺ら亀工キコーだよ? 他の奴呼んじゃうよ? 簡単じゃん。連絡先くらい。それと今日何時まで?」


 チラリと見た座席には6人の男がいた。索敵で把握済みだった。
 話の内容からどうやら先程の店員さんが粗相をし、それを理由に高圧的に振る舞い仲良くなろうとしているらしい。

 ナンパヘタ過ぎない? ただの脅しじゃん。

 やはりここは世紀末ヒャッハー世界なのか…


「莉里衣、そんなの聞かなくていいから。あんたら、そろそろいい加減にしてくんない? 頭悪すぎてボク辛くなるよ」

「だな。店内カメラもあるから警察にも証言できるし、何ならSNSにでも呟こうか?」


それを見た友人二人が黙ってはおれず、口出ししていた。あ、そんなこと言ったら…


「お、君ら友達? なんだよ、めっちゃいけてんじゃん。こっち来て話そうよ。こぼしたこと許すからさ」

「ほらほら、こっちこっち」


 ほらー。見たことある光景だ。酒場娘あるあるだ。了承すればここからだいたいセクハラにいく。揉みしだかれる。酔わされて2階に連れ込まれる。ここまででワンセット。

 どうも座席に座らせれば=OKだと思ってる節があるからなぁ。こういう人達。

 瞳の色、瞳の色…あれ? 諦め早くないかな。店員の子は………

 …まあ、救うか。ちょっと考えてたこともあるし。





「何してるの?」

「あ、誰おまえ?」


「藤堂だけど」

「藤堂? え、誰だよ。誰か知り合い?」


「知らん」

「知らねーよ、こんなヤツ。なあ?」


「誰かこん中に知り合いでもいんのかよ、おまえ」

「いや、知らないやつばかりだけど」


「知らねーのかよ! なんで話かけてきたんだよ!」


 そりゃ知らないよ。ただ聞いてるだけじゃん。何してんの?って。
 というか、選択肢増やさないでよ。2択で良いんだよ。
 はー。もう一回最初からか…異世界では勇者って言えば早かった。敵ならすぐ襲ってくるし。

「こいつ、あれか、助けようとかそういうやつじゃね?」

「何々? ヒーロー? 勇者なの、おまえ」


「あっ。まあ、そうだよ」

「………ぷっ」

「ッ、ギャハハハハ、ハー。ハー、ウケる…そりゃ悪かった勇者様。ぶふッ、姫は私どもが助けますので! ここは先にお行きください! ッブッははは、どーよ、俺の名演技」

「ぶっ、面白、そーそー、勇者様は安心して冒険に行ってください! 彼女達の身は俺たちが守りますので! ってか。ギャハハ」


「うそはよくないね」

「あ?」





「早く仲間呼んだら? レベル上げでしょ。こんなの」

「な、なんだよ、こいつ、いきなり殴るとか頭おかしいんじゃねーか!」

「も、もうすぐ来る! 死んだぞてめーは!」


 いきなり殴りかかってきたのは君らなんだけど…そして僕にバックアタックは通じないんだ。

 ファミレスでまさかの身バレをした僕はキコーと名乗る六人と連れだって、雨の続く中、ファミレス近くの高架下に来ていた。

 さあ、話合いをと思った矢先、殴りかかってきたので反射で丁寧に意識を刈り取ってしまった。

 はー…、貴族みたいな相手の交渉を練習したかったのにぃ…特技増やしたかったのにぃ。

 ま、いっか。

 じゃあ、今日は無限湧きだ。身体を慣らす訓練にしよう。さあ、じゃんじゃん持ってきてくれ! キコー諸君!





「君がおかしら?」

「何なんだよ、あり得ないだろ、何なんだよ何なんだよ何なんだよぉっ! おまえは!」

「何って、人間だけど」


 あれから10人追加発注が来た。丁寧に意識を刈り取り、壁際に並べてみた。まるで横スクロール格闘ゲームの背景みたいになっている。
 高架下の壁に描かれた落書きグラフィティーが、良い感じの雰囲気を出している。ファイッ! みたいな。ユーウィンッ! みたいな。

 でもみんな俯いてるからか酷く憂鬱なゲームみたいになるな……これは誰もプレイしないな…

 さあ、残りは一人。おかしら(仮)だけ。

 あれ? モンスターハウスにしても貧相だな。宝箱薬草レベルじゃん。ヒャッハー世界なんだから、まだまだ湧いてくれよ。だから一人残したんだし。


「また追加発注で。なるはやでよろしくね」

「……許してくれ、こいつらが喧嘩売ったんだろ? 俺は関係ない」


「…うそはよくないね」





「君たちってもしかしてカメコー?キコーなんて言うからわからなかったよ。やっと思い出せた」

「…そ、そうです、か、か、カメコーです…」


 やっと追加発注分が来た。納品遅いよ。どうやら彼らは隣の区にある亀田工業高校の生徒らしい。噂しか聞いてなかったけど、どうやら本当に素行が悪いらしい。

 なんでもカメコー呼びはダサくて嫌らしい。良いじゃん、亀さん。かわいいし。いや、あっちの亀はデカかったな。キバとかあるし。素早いし。やっぱかわいくないわぁ。

 これで撃墜30か。100は行きたいな。宝箱何かな。あ、特技はトレジャーハントです! …いや駄目か。それはただの泥棒だ。はー…特技かー。


「まだ周りが迷惑するやつとか友達でいる?呼んで欲しいな」

「も、もう、居ないです! 本当です! 許してください!」


「嘘は…ついてないね。じゃあ、迷惑かけそうなやつはいる? 呼んで欲しいな」

「………」


 なんだ、まだいるんじゃない。壊してばかりだった壁なんて、僕にだって華やかに出来るんだから!


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...