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アレフガルド - ミルカンデ 叡智の塔
術式の賢者…の従者
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─
アレフガルド中央大陸、最南端にある城塞都市、ミルカンデ。
ここはどの国にも属しておらず、近隣の国からは自治区のような扱いを受けていた。
それは、このミルカンデが過去、何度も戦争を仕掛けられ、その度に、100人の強力な魔法使いとそれらを束ねる賢者に、その悉くを滅ぼされてきたからだった。
ミルカンデ100家門の魔法使いと、南方の智慧者、術式の賢者。
この勢力がミルカンデを古代から守っていた。
彼らは常日頃から叡智の塔に祈りを捧げていた。
そしてそれを魔法の理にしていた。
魔法の行使のスピードと威力は、幼い頃より捧げてきた祈りがすぐさま自身の中にイメージ出来る、このミルカンデの魔法使いには誰も敵わない。
だから南方の大陸からも、周辺の国からも過去一度たりとも侵略されなかったという。
『ミルカンデには触らない』
これがこの南方に古くから伝わる不文律であった。
◆
ここミルカンデには高さ100メートルほどの高さの叡智の塔を中心に、新円を描く城壁が二重に走り、それぞれ外側から外区、内区と呼ばれている。
外区は自由都市のように商取引が活発に行われ、活気のある人々の営みに溢れていた。
南方にある大陸との交易の玄関口で、ここにはアレフガルド中央大陸中の全ての商品が並ぶと言われていた。
人々は中心に聳え立つ、叡智の塔を眺め、窓の向きを目印に待ち合わせなどをしていた。
内区はその反面、落ち着いた佇まいの比較的富裕層の住まう街で、人々は中央にある叡智の塔への祈りと高額な内区税を義務づけられていた。
そして内区の中にある、聖区。塔に一番近いこのエリアには100家のみが住んでおり、外区、内区の人々からは聖100家門と呼ばれていた。
ここに住まう人々は先祖代々、叡智の塔への祈りを欠かさなかった。
それは、その100家のみがミルカンデの名を継ぐ資格のある家々だからだ。
試練を突破した者の中から、叡智の塔によって賢者として選定され、家名を捨て、ミルカンデの名を継ぐ。
それがミルカンデ100家門の習わし。
それが今はなき、ミルカンデ大神殿崩壊の際に定まった掟であり、呪いだった。
◆
| モカ-アルファルト
「ここに新刊、置いておきますよ」
「ん」
「少しは散歩にでも出られたらどうです?」
「ん」
「また何か入荷したらお待ちしますね、セル様」
「ん。ありがと。モカ」
「ふふ。良いですよー。でもお腹に良くないから散歩しましょうね」
「ん」
ここ、叡智の塔、最上階。
私は主に頼まれた書物を持ってきていた。
人生の大部分を術式の解読や発見や開発に没頭している我が主、術式の賢者、セルアイカ-ミルカンデ。
またの名を、氷の賢者。
そう呼ばれるくらい感情を表に出さず、人とも付きあわず、毎日読書に没頭していた。
でも私は知っている。
勇者様と出会ってから、口の端から涎がまあまあ出ていることを。
そういう時は決まって、夢想しているということを。
そして、何やら西方の聖女様、北方の仙女様、そして姫巫女アートリリィ様。
彼女らと密に連絡を取っていたことを。
◆
セル様は昔から勇者物語とその詩篇、それを読み耽るのがご趣味だった。
それはいい。
それはいいんだけど。
もう一つの趣味が、厄介だった。
勇者様を呼ぶには古代からある選定術式と「星読ミ」が必要だった。
神の使徒、勇者と同義である運命の星を見つけ、それと術式を結ぶ必要があった。賢者にはそれが出来る。
そのため、大昔、人々は賢者のことを星読ミの巫女、そう呼んでいた。
だけど、彼女は自分好みの相手を選ぶような術式に書き換えるのがご趣味だった。
「やっちゃ、駄目、だって」
そう言いながらチマチマ書き換えていた。
氷のような無表情で。
誰がこの子を賢者にしたし…
でも本物の勇者様が現れて、試練と称していつのまにか閨を共にし、何だったら私まで巻き込んで揃って子猫にさせられたあの日。
あの日から全て変わった。
◆
最近のセル様は南方の大陸から入ってくる書物にご執心だった。
曰く、至高の、と一言だけ言っていた。
いつもなら「ん」 ちょっと良い時は「別に」 まあまあ良い時は「良き」
それが「至高の」……
この事から随分とこの南方の書物を気に入っていることが伺える。
そして氷の賢者の名に恥じぬよう、冷静に格付けしていた。具体的には星で評価していた。
「星読ミ、だけに」
そう言っていた。
氷のような無表情で。
誰がこの子を賢者にしたし…
なんでこんなのになったし…勇者様に出会ってから変わり過ぎなんだけど…
◆
特にお気に入りなのは幼馴染もの。
まあ、わかる。
私達100家門でセル様と私だけが同い年の男の子が居なかった。
そして男の子はみんなセル様に夢中だった。
それはセル様がミルカンデ随一の美姫だったからだ。
ほとんど黒に近い紺色の長い髪はまるでアレフガルドの夜空のような透明感があり、透き通るような白い柔肌と、暗い濃紺の瞳はまるで伝説の勇者様のような神秘を携えていた。
伝説の勇者様のような黒に近い色はこのアレフガルドでは神秘の色、そう言われていた。
だからみんな夢中になっていた。
だけど、無駄だった。
昔からセル様は数字には並々ならないこだわりがあった。年がピタリと揃わないのは我慢出来なかったのか、年の近い男の子達も束にかかって話掛けるが無駄だった。
しかも一つも愛想がない。笑えば絶対もっと可愛いのに…当然他の女の子達から反感を買い、唯一残ったのは私だけだった。
沈黙の理由はわかっていた。セル様が次代の賢者を継ぐに値するほどの才覚を持ち、黙っている時は常に何かを思考していて、周りが目に入らないのだ。
幼い私はそれに気付いていた。頭の中ではずーっと一人でお喋りしていた事を。
それに、アルアミカ様。セル様のお母様。彼女もまた若くして賢者に選ばれた才人であった。
賢者に選ばれると、俗世とは切り離されてしまう。その時のセル様はまだ二歳になったばかりだった。そしてお父様は冒険者で、四歳になる頃にはもう亡くなっていた。
そう、セル様は両親の愛を受けていなかったのだ。
だから感情を表に出すことや、他人との関わり方を学べなかったのか、常に本の中に没頭していた。
書物こそが親であり、思考こそが友達だった。
私は…友達ではなかったのだ。
そう思っていた。
だけど、先の賢者アルアミカ-ミルカンデ様が突然崩御された際、資格年齢ギリギリのわずか13歳で賢者に選ばれた時、私に初めて思いを伝えてくれた。
モカと、一緒に居たい。
それだけで私は舞い上がった。
ずっとお側に仕えよう。
そう誓った。
そうして、セル様に付き人として抜擢された私は、アレフガルド中央大陸の中で一、二を争う権威、南方の智慧者、星読ミの巫女、ミルカンデの盟主───術式の賢者。その従者になってしまった。
まあ、妬まれた、妬まれた。
知ってた。
でも、大変なのよ? セル様のお世話は。
基本的に生活能力は皆無、コミュニケーションは壊滅的。愛想なんて一つもない。
そして。
そして聞きたくない事を不意に言ってくるんだから。
◆
賢者しか知ってはいけないとされる過去のミルカンデ大神殿の話。初代勇者様と龍王の話、100人の闇の巫女の生贄の話。そして、二代目勇者様と扉の向こうの魔王の話。
その全てをぶっちゃけられた。
ある日のこと、珍しくお喋りするなーと思えばいつの間にか全て聞いてしまっていた。最初は確かに他愛のない話だった…はず。
なのに…なぜか一歩も動けなかった…多分…会話の中に…単語に…短音に…魔法を混ぜていた…と思う…兆候すら掴めなかった。
なんで?
怖い。なんで言うの?
それは駄目なやつでしょ? なんで教えたの?
やめてよ、セルちゃん。
そういうのはもうやめて。
◆
叡智の塔最上階、の下の間。
勇者様は受付と呼んでいた。
ここが私の仕事場だった。上の階にいるセル様に会うためには、まず私を突破しなければいけないのだ。
「アルファルト…殿。賢者様に御目通りを頼みたい。先日の箒星の件だ」
「ならぬ、今は星を読んでおられる。出直せ」
正確には星三つ作品だけど…
「この塔にぶつかって東方に向かったと、目撃者が何十人もいるのだ! それにアウロラも消えておらぬそうではないか! 何かわからぬのか!」
あはは~何十人もか~~ロゼとリゼだけじゃなかったのか……腹立つ! 勇者様のエッチ!
「それについては調査中だと言ったであろう。ベルスタッフよ。禍々しいものではないと伝えたではないか。しかもお前には見えぬのであろう? それも含めて星を重ねて見ておられるのだ」
正確には星二つ作品との読み比べだけど…
「くそっ、昼間に星などと…一つと見えまい」
あるんだよ、星一つ作品も…
「あほう、夜に観測したものの精査をしているのだ。夜にするわけがなかろう。それでも名門ベルスタッフ家の長か! 出直してこい、ヤルマ-ベルスタッフよ!」
夜はまた読んでるんだよ。主人、読み専なんだよ。
「ぐ、アルファルト家の…落ちこぼれのくせに……失礼した…また…日を改めよう…」
「………ふ─────────っ」
ん~~~このやりとり、もういや!
ベルスタッフとか絶対喧嘩売りたくないのに!
デキる従者ムーブ辛い!
心が痛いよぉ。誰か変わってよぉ。
皆の尊敬を集める賢者様、魔王死んでから、本見てニヤニヤしてるだけだよぉ。
口の端から涎垂らしてるだけだよぉ。
あいつ、出産まだなのに、気分はもうリゾート気分だよぉ。
姫巫女様のお子様と生まれを合わすとか言って狂ってるよぉ。
遅延の魔法をそんな使い方するやついないよお。
あいつ…私にも掛けたよお。
私じゃ解けないよぉぉぉぉ。
もういや…早く産みたい…
◆
それにしてもベルスタッフ家は、ほんっとねちっこいんだから… 無茶苦茶天井睨んでたし!
セル様を目の仇にするのはお門違いだし!
賢者の座をかけて競った中でも一番のライバルだった、名門ベルスタッフの一人娘。セル様に破れて…ここを出て…何年だったかな。
でもそんなの仕方ないじゃない! 塔が選ぶんだから!
それに名門なんだからちょっとは振る舞いに気をつけなさいよ!
ほんっと嫌になる! 従者辞めたい!
………
でも…まあ…セル様楽しそうだったしな…今までの人生であんな前向きな顔……した事なかったしな…
それは嬉しいし…お支えしないとだし…
ただ…なあ。
前向き過ぎて来世とか何言ってるかまったく意味わからなかったけどな…
それに…「聖女、罠、炸裂、ぶい」なんて言ってたな…
なんでそんな事するの? セルちゃん…
なんでバラしたの? 超怖いんだけど…
アレフガルドで賢者とともに一、二を争う権威…神の代行者、台座の巫女…救世大教会最高位二位上……召喚の聖女…に、罠。
…が………炸裂。
つまり、もう全て、終わっている……
ひいいい! そんなネタバレ嫌だ! 絶対会いたくない!
確か…姫巫女様がラネエッタに着くタイミングを狙って行くって言って…嫌だ…絶対顔に出る…
……でも……セル様の従者だし…あんなの一人で行かせたら何が起こるかわからないし…そっちの方が怖い…し……仕方な…
「アルファルトォ殿ぉ! モカ-アルファルト殿ぉぉ! 賢者様にぃ! 御目通りをぉ──────」
今度は筋肉ヘルマン家が! あいつら人の話聞きやしないのに!
「東方の王盾がぁ! ベリルがぁ! ベリル王国が滅びましたぞぉぉぉ────! あの箒星ではないのですかぁぁぁ─────!」
しかもややこしそ──! そもそもミルカンデは外の出来事には触らないのよ! 知ってるでしょ! 脳筋! やっぱもういや──! 早く産みたいよぉ──! 育児休暇欲しいよぉ! 京介パパ助けてよお────! なんで帰ったのよおぉぉ………なんで……なんで……
…ほんと……逢いたいよぉ。
アレフガルド中央大陸、最南端にある城塞都市、ミルカンデ。
ここはどの国にも属しておらず、近隣の国からは自治区のような扱いを受けていた。
それは、このミルカンデが過去、何度も戦争を仕掛けられ、その度に、100人の強力な魔法使いとそれらを束ねる賢者に、その悉くを滅ぼされてきたからだった。
ミルカンデ100家門の魔法使いと、南方の智慧者、術式の賢者。
この勢力がミルカンデを古代から守っていた。
彼らは常日頃から叡智の塔に祈りを捧げていた。
そしてそれを魔法の理にしていた。
魔法の行使のスピードと威力は、幼い頃より捧げてきた祈りがすぐさま自身の中にイメージ出来る、このミルカンデの魔法使いには誰も敵わない。
だから南方の大陸からも、周辺の国からも過去一度たりとも侵略されなかったという。
『ミルカンデには触らない』
これがこの南方に古くから伝わる不文律であった。
◆
ここミルカンデには高さ100メートルほどの高さの叡智の塔を中心に、新円を描く城壁が二重に走り、それぞれ外側から外区、内区と呼ばれている。
外区は自由都市のように商取引が活発に行われ、活気のある人々の営みに溢れていた。
南方にある大陸との交易の玄関口で、ここにはアレフガルド中央大陸中の全ての商品が並ぶと言われていた。
人々は中心に聳え立つ、叡智の塔を眺め、窓の向きを目印に待ち合わせなどをしていた。
内区はその反面、落ち着いた佇まいの比較的富裕層の住まう街で、人々は中央にある叡智の塔への祈りと高額な内区税を義務づけられていた。
そして内区の中にある、聖区。塔に一番近いこのエリアには100家のみが住んでおり、外区、内区の人々からは聖100家門と呼ばれていた。
ここに住まう人々は先祖代々、叡智の塔への祈りを欠かさなかった。
それは、その100家のみがミルカンデの名を継ぐ資格のある家々だからだ。
試練を突破した者の中から、叡智の塔によって賢者として選定され、家名を捨て、ミルカンデの名を継ぐ。
それがミルカンデ100家門の習わし。
それが今はなき、ミルカンデ大神殿崩壊の際に定まった掟であり、呪いだった。
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| モカ-アルファルト
「ここに新刊、置いておきますよ」
「ん」
「少しは散歩にでも出られたらどうです?」
「ん」
「また何か入荷したらお待ちしますね、セル様」
「ん。ありがと。モカ」
「ふふ。良いですよー。でもお腹に良くないから散歩しましょうね」
「ん」
ここ、叡智の塔、最上階。
私は主に頼まれた書物を持ってきていた。
人生の大部分を術式の解読や発見や開発に没頭している我が主、術式の賢者、セルアイカ-ミルカンデ。
またの名を、氷の賢者。
そう呼ばれるくらい感情を表に出さず、人とも付きあわず、毎日読書に没頭していた。
でも私は知っている。
勇者様と出会ってから、口の端から涎がまあまあ出ていることを。
そういう時は決まって、夢想しているということを。
そして、何やら西方の聖女様、北方の仙女様、そして姫巫女アートリリィ様。
彼女らと密に連絡を取っていたことを。
◆
セル様は昔から勇者物語とその詩篇、それを読み耽るのがご趣味だった。
それはいい。
それはいいんだけど。
もう一つの趣味が、厄介だった。
勇者様を呼ぶには古代からある選定術式と「星読ミ」が必要だった。
神の使徒、勇者と同義である運命の星を見つけ、それと術式を結ぶ必要があった。賢者にはそれが出来る。
そのため、大昔、人々は賢者のことを星読ミの巫女、そう呼んでいた。
だけど、彼女は自分好みの相手を選ぶような術式に書き換えるのがご趣味だった。
「やっちゃ、駄目、だって」
そう言いながらチマチマ書き換えていた。
氷のような無表情で。
誰がこの子を賢者にしたし…
でも本物の勇者様が現れて、試練と称していつのまにか閨を共にし、何だったら私まで巻き込んで揃って子猫にさせられたあの日。
あの日から全て変わった。
◆
最近のセル様は南方の大陸から入ってくる書物にご執心だった。
曰く、至高の、と一言だけ言っていた。
いつもなら「ん」 ちょっと良い時は「別に」 まあまあ良い時は「良き」
それが「至高の」……
この事から随分とこの南方の書物を気に入っていることが伺える。
そして氷の賢者の名に恥じぬよう、冷静に格付けしていた。具体的には星で評価していた。
「星読ミ、だけに」
そう言っていた。
氷のような無表情で。
誰がこの子を賢者にしたし…
なんでこんなのになったし…勇者様に出会ってから変わり過ぎなんだけど…
◆
特にお気に入りなのは幼馴染もの。
まあ、わかる。
私達100家門でセル様と私だけが同い年の男の子が居なかった。
そして男の子はみんなセル様に夢中だった。
それはセル様がミルカンデ随一の美姫だったからだ。
ほとんど黒に近い紺色の長い髪はまるでアレフガルドの夜空のような透明感があり、透き通るような白い柔肌と、暗い濃紺の瞳はまるで伝説の勇者様のような神秘を携えていた。
伝説の勇者様のような黒に近い色はこのアレフガルドでは神秘の色、そう言われていた。
だからみんな夢中になっていた。
だけど、無駄だった。
昔からセル様は数字には並々ならないこだわりがあった。年がピタリと揃わないのは我慢出来なかったのか、年の近い男の子達も束にかかって話掛けるが無駄だった。
しかも一つも愛想がない。笑えば絶対もっと可愛いのに…当然他の女の子達から反感を買い、唯一残ったのは私だけだった。
沈黙の理由はわかっていた。セル様が次代の賢者を継ぐに値するほどの才覚を持ち、黙っている時は常に何かを思考していて、周りが目に入らないのだ。
幼い私はそれに気付いていた。頭の中ではずーっと一人でお喋りしていた事を。
それに、アルアミカ様。セル様のお母様。彼女もまた若くして賢者に選ばれた才人であった。
賢者に選ばれると、俗世とは切り離されてしまう。その時のセル様はまだ二歳になったばかりだった。そしてお父様は冒険者で、四歳になる頃にはもう亡くなっていた。
そう、セル様は両親の愛を受けていなかったのだ。
だから感情を表に出すことや、他人との関わり方を学べなかったのか、常に本の中に没頭していた。
書物こそが親であり、思考こそが友達だった。
私は…友達ではなかったのだ。
そう思っていた。
だけど、先の賢者アルアミカ-ミルカンデ様が突然崩御された際、資格年齢ギリギリのわずか13歳で賢者に選ばれた時、私に初めて思いを伝えてくれた。
モカと、一緒に居たい。
それだけで私は舞い上がった。
ずっとお側に仕えよう。
そう誓った。
そうして、セル様に付き人として抜擢された私は、アレフガルド中央大陸の中で一、二を争う権威、南方の智慧者、星読ミの巫女、ミルカンデの盟主───術式の賢者。その従者になってしまった。
まあ、妬まれた、妬まれた。
知ってた。
でも、大変なのよ? セル様のお世話は。
基本的に生活能力は皆無、コミュニケーションは壊滅的。愛想なんて一つもない。
そして。
そして聞きたくない事を不意に言ってくるんだから。
◆
賢者しか知ってはいけないとされる過去のミルカンデ大神殿の話。初代勇者様と龍王の話、100人の闇の巫女の生贄の話。そして、二代目勇者様と扉の向こうの魔王の話。
その全てをぶっちゃけられた。
ある日のこと、珍しくお喋りするなーと思えばいつの間にか全て聞いてしまっていた。最初は確かに他愛のない話だった…はず。
なのに…なぜか一歩も動けなかった…多分…会話の中に…単語に…短音に…魔法を混ぜていた…と思う…兆候すら掴めなかった。
なんで?
怖い。なんで言うの?
それは駄目なやつでしょ? なんで教えたの?
やめてよ、セルちゃん。
そういうのはもうやめて。
◆
叡智の塔最上階、の下の間。
勇者様は受付と呼んでいた。
ここが私の仕事場だった。上の階にいるセル様に会うためには、まず私を突破しなければいけないのだ。
「アルファルト…殿。賢者様に御目通りを頼みたい。先日の箒星の件だ」
「ならぬ、今は星を読んでおられる。出直せ」
正確には星三つ作品だけど…
「この塔にぶつかって東方に向かったと、目撃者が何十人もいるのだ! それにアウロラも消えておらぬそうではないか! 何かわからぬのか!」
あはは~何十人もか~~ロゼとリゼだけじゃなかったのか……腹立つ! 勇者様のエッチ!
「それについては調査中だと言ったであろう。ベルスタッフよ。禍々しいものではないと伝えたではないか。しかもお前には見えぬのであろう? それも含めて星を重ねて見ておられるのだ」
正確には星二つ作品との読み比べだけど…
「くそっ、昼間に星などと…一つと見えまい」
あるんだよ、星一つ作品も…
「あほう、夜に観測したものの精査をしているのだ。夜にするわけがなかろう。それでも名門ベルスタッフ家の長か! 出直してこい、ヤルマ-ベルスタッフよ!」
夜はまた読んでるんだよ。主人、読み専なんだよ。
「ぐ、アルファルト家の…落ちこぼれのくせに……失礼した…また…日を改めよう…」
「………ふ─────────っ」
ん~~~このやりとり、もういや!
ベルスタッフとか絶対喧嘩売りたくないのに!
デキる従者ムーブ辛い!
心が痛いよぉ。誰か変わってよぉ。
皆の尊敬を集める賢者様、魔王死んでから、本見てニヤニヤしてるだけだよぉ。
口の端から涎垂らしてるだけだよぉ。
あいつ、出産まだなのに、気分はもうリゾート気分だよぉ。
姫巫女様のお子様と生まれを合わすとか言って狂ってるよぉ。
遅延の魔法をそんな使い方するやついないよお。
あいつ…私にも掛けたよお。
私じゃ解けないよぉぉぉぉ。
もういや…早く産みたい…
◆
それにしてもベルスタッフ家は、ほんっとねちっこいんだから… 無茶苦茶天井睨んでたし!
セル様を目の仇にするのはお門違いだし!
賢者の座をかけて競った中でも一番のライバルだった、名門ベルスタッフの一人娘。セル様に破れて…ここを出て…何年だったかな。
でもそんなの仕方ないじゃない! 塔が選ぶんだから!
それに名門なんだからちょっとは振る舞いに気をつけなさいよ!
ほんっと嫌になる! 従者辞めたい!
………
でも…まあ…セル様楽しそうだったしな…今までの人生であんな前向きな顔……した事なかったしな…
それは嬉しいし…お支えしないとだし…
ただ…なあ。
前向き過ぎて来世とか何言ってるかまったく意味わからなかったけどな…
それに…「聖女、罠、炸裂、ぶい」なんて言ってたな…
なんでそんな事するの? セルちゃん…
なんでバラしたの? 超怖いんだけど…
アレフガルドで賢者とともに一、二を争う権威…神の代行者、台座の巫女…救世大教会最高位二位上……召喚の聖女…に、罠。
…が………炸裂。
つまり、もう全て、終わっている……
ひいいい! そんなネタバレ嫌だ! 絶対会いたくない!
確か…姫巫女様がラネエッタに着くタイミングを狙って行くって言って…嫌だ…絶対顔に出る…
……でも……セル様の従者だし…あんなの一人で行かせたら何が起こるかわからないし…そっちの方が怖い…し……仕方な…
「アルファルトォ殿ぉ! モカ-アルファルト殿ぉぉ! 賢者様にぃ! 御目通りをぉ──────」
今度は筋肉ヘルマン家が! あいつら人の話聞きやしないのに!
「東方の王盾がぁ! ベリルがぁ! ベリル王国が滅びましたぞぉぉぉ────! あの箒星ではないのですかぁぁぁ─────!」
しかもややこしそ──! そもそもミルカンデは外の出来事には触らないのよ! 知ってるでしょ! 脳筋! やっぱもういや──! 早く産みたいよぉ──! 育児休暇欲しいよぉ! 京介パパ助けてよお────! なんで帰ったのよおぉぉ………なんで……なんで……
…ほんと……逢いたいよぉ。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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