異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ダズンローズの花束

シュピリアータァァ!

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| 藤堂 京介


 聖剣に示された道を進み、隣接した建物に入ると、そこに居た男女八人は全員固まっていた。

 この理解不能な現象に驚いたのではない。思考を奪う聖剣の権能の一つだ。位階の低い今だとすぐに切れるだろうが充分だ。

 すぐさま女の子達に襲い掛かっている男共を蹴り飛ばし、仰向けに横になっている女の子の横にしゃがみ、声を掛ける。

 震えながら顔を逸らし、長い髪が乱れ、伏せっている女の子だ。


「無事か?」

「…こんな…わたしなんかを…なんで…」


 随分と憔悴している女の子だった。

 ぴっちりと太ももを閉じていて、スカートを両手でぎゅっと抑えていた。長いグレージュ色の髪が顔を隠し、瞳の色はわからないが幸いまだ決定的なことは起きていないようだ。


間に合って良かった


「助けるに決まってるだろ。これを使え」


 制服のブレザーを脱ぎ、彼女の下半身に掛けてやる。真っ白なパンツは横に落ちていた。可哀想に…


 それよりも、だ。

 は立ち上がりながらネクタイを緩め、シャツのボタンを上から二つ外す。

 彼女に背を向けシャツの袖を捲り上げながら男共を見やる。


「で………〝こんなことを/仕出かしたのは/誰だ?/言え〟」


 そして俺は、言葉に魔力を乗せ命令した。聖剣のバフにより強い強制が掛かる。


「おれ俺俺オレおれおれ俺だ!俺たちだ!」
「オレオレ俺俺オレアレ?!口が俺俺!」
「俺俺俺俺なんコレ!俺俺なんなんだよ!」
「おれおれ、俺俺おれおれなんだコレ俺!」
「おれだ!俺おれ、あれ俺俺!オレおれ!あ?!なんだか俺俺わかんねーけど俺俺逃げるぞ!」
「あ、あ、俺俺俺、俺も逃げる俺俺し!」


 俺は再び言葉に魔力を乗せ、すぐさま逃げようとするこいつらをこの場に縫い止める。


「〝動くな〟」


 そして羽交締めにされていた女の子に声を掛ける。


「何をされた?」

「姫は! 私の、ために! 脱がされて! スマホで動画も!」

「………ぐすっ、んっ…」


「そうか………」


 酷い話だ……至る所で動画、動画とまるで隷属の魔法みたいに…きちんと契約しない奴隷商のように…カジュアルにポンポン使いやがって…


 女が涙を…許さねぇ。

 女の悲しみの涙は、すべからく俺の敵であるべきだ…!


 俺は悲しみに項垂うなだれる姫に背中で語りかける。


「姫…ならばそこで見ていろ。……君のような優しい子猫ちゃんに涙なんて似合わない────〝俺が全部上書きしてやるぜ〟」

「キタコレずっきゅんドストラィク」


 そして今にも倒れそうな女の子にも声を掛ける。気丈に振る舞ってはいたが、ふらついている。怖かっただろうに。

 優しく抱きとめ、頭を撫でて、俯き震える姫の横に座らせる。


「そこに座って良い子で待ってな〝可愛い子猫ちゃん〟」

「はぃ…」


 二匹の子猫ちゃんを背中に庇いながら拳を鳴らし、俺は安心させるように言う。


「よく二人とも堪えたな。後は俺に任せろ。───〝ビッとキメるぜ〟」


「はわわわわ、もう無理、わたし無理、顔見れないよぉ………」

「…え…ぁー、くん…?……」





 ティッティラリー♪


 勇者京介の攻撃!

「───こっから先は全部俺のターンだぜ」
「何言ってんだ!──ぐぎゃっ」

 悪漢Aを倒した!


 勇者京介の攻撃!

「───子猫ちゃんを泣かせた罪は重いぜ」
「ひぃい、なんだよコイツ──ぐべっ」

 悪漢Bを倒した!


 勇者京介の攻撃!

「───罪には罰をってな。ガキでも知ってるぜ」
「そんなこと──ぎゃっ」

 悪漢Cを倒した!


 勇者京介の攻撃!

「───知ってるか? 姫の涙は嬉し涙が一等いっとー綺麗なんだぜ?」
「何臭えこと──うぎゃっ」

 悪漢Dを倒した!


 勇者京介の攻撃!

「───俺に勝てるのは俺だけなんだぜ」
「来るな来るな来るなぁぁ──あぎっ」

 悪漢Eを倒した!


 勇者京介の攻…… 

「ほら、不運ハードラックダンスっちま──あ! 戻った!! ふんっ! おらぁ!」

 勇者京介はなんと目を覚ました! 八つ当たりの手加減2回攻撃!

「いがぁっ! いぎゃっ!」

 悪漢Fは両肘を壊されタタラを踏む!

「くだらないことをするから……だっ!」

 勇者京介は得意の『腕外科結び』を使った!

「あぎゃあ───っいでえぇぇ───俺の腕がああ!腕がぁぁぁ、捻れ…あっ………」

 悪漢Fを倒した!


 ティィィィラリー♪

 悪漢達を全員気絶させた!



 ふー…。

 ……はい、そうなんです。

 正解は、聖剣シュピリアータを使うと一定時間、聖剣に宿る精霊、シュピリアータの望む勇者像になってしまう、

 でした……


 僕は悪漢全員の意識が無い事を確認した後、一人天井を見上げ、目を見開き、声なき声を上げた。

 すぅ───────────────っ。

 シュピリア──タァァ───────!!

 クセ強いんだよキミィィィィ!

 いっつもいっつもこんな言葉遣いばっかりさせて! しかもなんか古いんだよ! 今時子猫ちゃんなんて言わな…ん?…使い勝手!? 良いよ! そりゃ良いさ! 思うままに答えてくれるし! 誰も巻き込まないし! 数々の魔剣を振ってきたけど! 君が最強だよ…ん? 過去の女の話はやめて? 浮気? …え? 何言ってんの…? ふ──…そんな事言うから少し落ち着いたよ…けどさ、対価とはいえさ、こんなにイキらせなくても良くない? 毎度毎度さぁ~魔法もこっち側の制限かけるしさぁ~魅せ場のために手加減したりさぁ~全員拘束の魔法で良いじゃん。それに言葉のチョイスだってさ、いや別に嘘ってわけじゃないし嘘じゃないからこそ余計タチ悪いって言うかさぁ…小さな時の勘違いした時の話し方みたいになるしさぁ…そんなの男だったら誰だってあるんだよ。ヒーローに憧れたりさぁ…渾名作ったり呼ばせたりさぁ…男にはいろいろあるんだよ。でももう大人なんだよ実質二十歳なん…うん? いくつになっても男は勇者? いやまあ…そう…かもなんだけど、でもさ例え思ったとしても声に出させなくたって良いと思わない? それに出すなら出すでさぁ、もう少し言い方をこう、マイルドにさぁ、何もこんなビンビンに尖らせなくたって…こないだも高架下で女の子助けた時にもさぁ~この口調になるしさぁ~そもそもだいたいこのせいで持ち主がロエベ以来ずーっと見つかんなかったんじゃないのシュピリアータさんさぁ? 聞いてる? あいつとはプラトニックだった? はじめてはあげてない? とかじゃなくって…何それどういう意味…ん? そんな事より実力? いや実際アレフガルド一の攻撃力は凄いよ。自動修復だしさあ。お手入れも要らないし…ん? 女の嗜み? それと…身体? そりゃ美しいし綺麗だ…え? ふつくしい? はいはいふつくしいよ。本当だよ…ん? 好き? そりゃ君が好きだよ。なんなの? いや、好きだけどさあ…君、口撃力強すぎてさあ…普段使い出来ないんだよ。気付いてたよね? 気付いてるけど止めないってなんなの? どうせ最後はワタシに泣きつくんでしょ? ふんっ? はは。ここは元世界でしたー頻度減ってますー残念でしたーっていやさっきみたいに頼るんだけどさあ…でもなんで君こっちいるの?しかも僕にも見えないし。いや居るのはなんとなくわかるんだよ? 顕現させたら絶対こうなるのわかってるからしたくないだけで…もしかして精霊のままついてきたの? でも抜刀の鳴音するし……何? …鞘は…服? …鳴音は…きゃ──エッチィィだって?! 驚愕の新事実なんですけど! …何で今言ったし…余計使い辛いんだけど…というか何で見えないわけ? 影から助ける的なムーブなの? そりゃこの世界に剣は確かに合わないんだけどさ…ん? そうそう耳で試したよ…それに…最後お互いボロボロだったし…あの世界はやっぱり夢だったんじゃないかって…ん? そりゃ嬉しいさ、当たり前だよ。会いたいさ。ん? そりゃ握りたいよ。は? …スケベ? はは。何それ。ついでに言うけどさ君を長時間使ったら謎テンションで女の子口説いてる時結構あったしさあ…あれなんだったの? …ん? いや嬉しいのは嘘じゃないんだけどさあ…そりゃあみんな可愛いかったよ? でも剣にはわからないかもだけど、避妊魔法なかったら大変なことですよ? 危うく子沢山ですよ? 愛と書いてめぐみですよ? 最低でも三人ですよ? 三人もですよ? こっちじゃ結構多いんですよ? それはあっちもか…ん? いつも10人侍らせてた? それ剣ね。魔剣ね。それはともかくさぁ~女の子と二人きりなら別に良いんだけどさぁ~まあまあ人前でも平気で子猫ちゃんとか言わせてさあ~そりゃそのあと無茶苦茶ニャンニャンしたよ? ムチャクチャにゃんにゃんされたよ? 大変よろしかったよ? ありがとう、どういたしまして。じゃなくてさ…何度も言うけどこっちでも子猫ちゃんなんて言わな…うん? 正妻の余裕? はは。何言ってんの? 君、剣じゃん。めっちゃつるぎじゃん。むしろ挿されるの僕じゃん。やだよ。ん? …何高笑いして…みんな…ぶっちぎってやった…? ざまぁ…? …何の話? いやだからそうじゃなくってさあ─────


「マイダーリン…もぅダメ~にゃ~ん…」

「マイヒーロー…見っけたにゃ~ん…はにゃ~ん…」


 あ~も~つまりこっちの世界だと恥ずかしいんだよお──────っ!あっちにそういうの全部置いてきたんだよぉ────っ!


 僕はやっぱり、無茶苦茶後悔した。


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