異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ほのぼの

愛香サン

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| 藤堂 京介


 最近、対価をもらい過ぎな気がする。

 ふと、そう思った。

 いろいろな強姦系男子や陵辱系男子、人攫い系男子などぶちのめしてきたが…アレフガルドと違い、難易度がイージーモード過ぎて、なんというか…差し出された対価が見合わない気がしてきた。

 まあ、純粋な気持ちだろうけど…

 嬉しいけど…

 だからせめてとんとんになるよう精一杯のお返しに努めてるんだけども。

 その結果失神させてしまうんだけども。

 ま…いっか。

 いつか何かでお返ししよう。





 難易度といえば、異世界アレフガルドでは位階と職業がモノをいう世界で…弱者は簡単に虐げられてしまう。

 だけど、そうならないよう、大きな街は言わずもがな、各町や各村などには必ず教会があり、ヒエネオスから派遣された神官や、神殿騎士が派遣されていた。

 みんな殺シアム上がりの武闘派だ。

 あのほっこりしたお爺さん神官も、色っぽい仕草のお姉さん神官も、みんなみんな位階30以上の猛者だ。

 位階差は、戦い方次第では下克上も出来るが、基本的にはその差は覆せないのが共通の認識だった。

 それゆえ、何かの理由で悲劇が起きた時はそれはもう悲惨だった。

 そんな時はどうするか。もちろん技術、技能を磨く手もあるが、そんなものは戦闘職でもない人族の暮らしの中ではなかなか身につきにくい。位階もだ。

 だから、魔法だ。

 魔法は、強さや弱さはそれぞれ違うが、アレフガルド人ならほぼ使える。純粋な思いや願いになればなるほど威力は増すから魔法の習熟度や親和性を上げたりする。

 それは、自身の理に触れること。

 瞑想でも何でも良い。自分の中の強烈で純粋で鮮明なイメージ。それを探しておく。

 すぐさま引っ張り出せるように。

 そうすれば、強力な魔法を放つことも出来たりする。だから稀に悲劇に対し、一筋の光が差す事だってあった。


 そして、嘘のない、何も混じらない真っ白で真っ新な空間。

 それが…僕が身につけた魔法の理に触れるイメージ。誓約した原初の風景だった。

 勇者はそのイメージ化の素養の高い者を召喚するよう選定術式───勇者を選ぶ術式に込められていると賢者は言っていた。

 それが魔法の才能の正体らしい。

 攻撃の魔法を使う時はいつも願いを瞬時に、鋭利に、純粋に、ただ只管に纏め尖らせ、敵に行使していた。

 そうすると…特に戦闘時は表情を作ることすら僕には難しくなり、自然と無表情になっていった。





「どーしたの、京ちゃん? 難し…くもない顔で難しい事考えて」


 朝、愛香が家までやってきた。

 未羽はまだ起きれないからと愛香と先に出た。

 一緒に登校しながら先程までそんな事について考えていたら、いつの間にか僕を心配するかのように下から覗き込んで聞いてきた。

 この角度、可愛い。


「うん? 何ー?」

「いや…」


 …なぜ難しいことだと断定出来たのだろう
か。

 しかも難しくもない顔か…うん? え? それどんな顔?

 多分…あまり表情がない顔のことだと思うけど…これは、ポーカーフェイスとかいう格好をつけたようなものではなく、癖みたいなもので。

 ながら行動───何かをしながら何かをする。僕の場合は主に戦闘だったから、ながら戦闘か。

 常に考えながら戦い、相手に考えを悟らせないようにするためにも表情は極力変えないようにしながら戦っていた。

 特に戦闘中の魔法は無表情になるし。

 つまり…考えている時は表情を凪のように平坦にする癖があった。例えどんなに難しいことを考えていたとしても。

 まあ、だいたいみんなそうだろうけど。

 でもなぜ考えを読めるんだろうか…異能者かな?


「あー、なんというか…方針かな」


「…むふふー。京ちゃんは難しく考えなくて、朗らかに笑っていれば良いんだよー」

「そう、かな…」


「そうだよー。朝から兄を起こすと称して違うの起こして返り討ちにあって逆に失神して起きれなくなった未羽ちゃんとかー」

「……なぜ…それを…」


「あそこの角でぶつかり狙い待ちの詩乃ちゃんと好奇心のまま着いてきた純ちゃんとかー」

「……え? あ…いる…」

「その後ろで待機してるフリして出し抜こうとしてる銀髪新顔さんとかー」

「……」

「その次の次の角で偶然を装って待ち伏せしながらどっちが先かでもめてる響子ちゃんと由真ちゃんとかー」

「…」

「強がりくじらちゃんの中で待ち伏せしてる永遠ちゃんと…黒髪新顔ちゃんとかー」

「…ほんとに?」


「ここから200メートル行った先のタバコの自販機の影からオペラグラスで見てる絹子ちゃんと、上のコンビニから双眼鏡で見てる晴風ちゃんとかー」

「え?! あ、ほんとだ……」


「あと駅の改札で肘に保湿クリーム塗りながら夏服身嗜みチェックしながらウキウキ待ってる朋ちゃんとかー」

「……」


「今まさに後ろからそろりそろりと近づいてくる聖ちゃんと瑠璃ちゃんとかー」

「……」


「全部全然難しく考えなくて笑っていれば良いんだよーふふー……まあそれに……ただのどんぐりだしね…」


 有効範囲内の索敵の魔法とだいたい合ってるんだけど…なんでわかるの? それに───


「ただの……どんぐり?」


 ……木の実? 何? 比喩? 暗喩?


「まーそんな事は良いから良いから。ほら、まずはパン咥えて待ってる詩乃ちゃんの夢を叶えてあげて。聖ちゃんと瑠璃ちゃんは止めておくから」

「…わわ」


 愛香に背中を押され、先行させられる。

 教えられるとリアクションめちゃくちゃ困るんだけど……パンとな? なにゆえ? ああ、ノノメちゃん、慌てん坊なとこあったからなあ。…夢とな?

 …ま、いっか。

 よし、朗らかに朗らかに。笑顔笑顔。みんな可愛いしね。朝から嬉し……

 というか、愛香……君、魔法使えないよね?


「んー? 何ー? あ、夏服カワイイ? 回るねー。どーかなー?」


 そう思い、彼女を見るとポワポワと花の咲いたような微笑みでそう言いながらくるりと回ってくれる。


「…可愛いよ、すごく」


 フワフワの猫っ毛な髪と、スカートがふわりと舞い、茶のローファーが乾いた音を鳴らし、アスファルトに朝の影を踊るように描く。その姿はまるで───

 違う違う。

 そうじゃなくて。

 君…魔法、使えないよね? なんか不安になるくらい的中してるんだけど…

 それに糸目になるくらい目を細くしてずーっとニコニコ微笑んでいるから、瞳の色は見えないんだけど…


 そういえば…魔法は教えれるのだろうか。

 僕が使えるという事は、多分この世界でも可能だろうけど…


 位階が僕と一緒で、時に危うい瞳の色をチラチラさせる彼女達に、僕の概念が少し混ざった魔法を教えるのは……


「あ。そうだ。京ちゃん京ちゃん待って待って。えっとね、えっと……海子さんと飛鳥馬ちゃん? だっけ…あ、長月さんも…今度教えて…ね? んー? 何をってー? ふふー…あーなんだろうね~? んー…他県の二人は…まあ…いいか。今のところ」

「……うん」


 あんまり良くない気がする。


「あ、そうそう…エリカちゃんと未知瑠ちゃんと永遠ちゃんは…うーん、まあ…まだいいかな」


 あんまり良くない気がめちゃくちゃする。


 何で知っているのだろうか。

 そうだ。やっぱり魔法は、特に……ニコニコ糸目がゆっくりと見開いた時に現れた……超絶に濁った瞳の色をしている……

 ごくり。

 ……この愛香サンには教えちゃ良くないって。

 そんな気がビンビンしてきた。


「ね?」

「あ、はい」


 何が、ね? なのかは全然わからないけど、僕は鈍感系脳筋を卒業するため、全てを受け入れる事にした。

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