異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ほのぼの

にんにん

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「京ピ、寝たわね」

「そだね~多分三徹してたんじゃないかな。ふふっ」


 京介は室内が薄暗くなるなり、すぐに眠気に襲われた。みんなの歌が二巡する頃には横になって寝てしまった。

 いろいろ抵抗する前に合いの手や拍手などしていたからか、気付けば落ちていた。

 京介は万が一、睡眠トラップ部屋だとまずいと考え、予めストロング0にしていた。

 愛香はきっちりと徹夜を読んでいて、狙い通り京介は寝てくれた。隣に座り、頭を撫で撫でしながら膝枕を楽しんでいた。もちろん顔はお腹側に向けている。

 いや、なんだったらお腹にくっ付けている。最早膝枕ではなく、腿枕だった。

 京介が寝息する度に、一人ゾクゾクしていた。


「え、マ? 藤堂くんって超人? わたし無理、徹夜とか」

「あーしも。でもほんと超変わったよね。藤堂。にしてもさ…愛香何か知ってんの? 最近絡みなかったし。あと葛川とか…」

「そうそう、学校急に来なくなったってあのドS小説のせいじゃない?」

「そしたら他の三人揃ってはおかしいでしょ。朋花も何か知らない?」


 安藤美月と田代真綾は、ずっと葛川達のことが気になっていた。テストも終わったから今日は丁度良いと思い、愛香と朋花を誘ったのだ。

 何せ、メールも電話も繋がらないのだ。膝枕も気にはなるが、今はこっちだ。


「うーん、朋ちゃん、んん、どーしよか?」

「…う、うん、話すわ。動画もあるし」


 京介も来るとは思ってなかったが、寝てしまった。これはチャンスと思い、美月と真綾の二人は動きだした。もしかしたら何か知っているのかもしれないと。

 どうやら当たりで、愛香と朋花は何かを知っているらしい。ちなみに朋花の訝しげな返事は、甘イキを繰り返す愛香に呆れていたからであった。


「朋花、その感じ…まさか本当になんか知ってんだ」

「えー、聞きたい聞きたい! あ、あといつもはぐらかしてた京ピ呼びも教えてよ! 愛ちゃんと朋花ちゃん、どっちが付き合ってんの?」

「順番にね。まずはこれを見て」


 朋花はスマホを取り出し、長月先輩に許可をもらっていた動画を美月と真綾に見せた。

 もし信じさせたい人が居て、ご主人様の為なら見せても良いと言われていた、過去の…ナイフ動画を。

 長月楓は、なんかいろいろと乗り越えたらしい。

 しかし、朋花には長月先輩の言う、初恋NTRガチヤバいの意味はわからなかった。





「…マジ…何これ…酷い…よ…」

「…思ってたよりとんでもないのきた…つーか、こんな事しでかす奴らだったなんて…ヤバッまだゾワっとする! なんなの…猟奇的過ぎじゃない!」


 美月と真綾は戦慄した。動画では拘束され、泣き叫ぶ全裸の女の子が薄くナイフで皮膚に傷を数カ所入れられていた。

 編集前のものらしく、きっちりと葛川達が音声とともに映っていた。

 こんな事をする奴が居るなんて、想像すらしていなかった。しかも、最近まで同じグループだったのだ。

 美月と真綾は震えた。


「これを中学の時…親友に…されてね……その復讐をしようとしてさ。でも何にも出来なくて……それを京ピが全部叶えてくれたの。だからあいつらは来ない。多分このまま退学だと思う。そして…繋いでくれた愛香のおかげなの」

「え…藤堂くんってそんな強いの?」

「あのリンチの時…あ、ごめん。けど…藤堂あんなボコボコだったのに…」


 美月と真綾は実は高校デビュー組だった。中学の時はそれぞれ大人しくて可愛いからと、同性イジメも受けていた。だから頑張ってギャルっぽく変えた。本当は気弱で優しい彼女達。なのにリンチに加担した。そのことに二人はずっと引っかかっていた。


「そういえばそうね。私はあんまり過去を知らないのよね。愛香は知ってるんでしょ? 幼馴染だし」

「え…、そうなの? 最近やたら一緒にいるから仲良いとは思ってたけど。今も膝枕してるし!」

「…幼馴染か~ラブコメじゃん! でもやっぱり漫画とは違うよねー。あーしもいるけどそんなんならないし! 藤堂はどうなん?」


 二人はさっきの動画の衝撃から逃げるように朋花の話に乗っかった。まだ少し震えている。それを誤魔化すためにも明るく話した。

 何せ、リンチした葛川達が京介にやられたと言う。もしかしたら私達も、なんて考えになったからだった。


「7歳からだけどねー。でも京ちゃん幼馴染15人くらいに今もつけ狙われてるよ? 先輩後輩入れたらまだまだいるけど。あ、京ちゃんちょっと下ろすね~」


 すると愛香はそんなことなど気にも留めず、さらに衝撃的な事をサラリと言った。膝枕からゆっくりと脱して、ドリンクを一口飲んだ。

 水滴が京介の頭に落ちたら嫌だなと思っての行動だった。


「何それ…葛川のも衝撃的だったけど、何それクラス半分じゃん。あ、隣の三ノ宮さんとか? あの子めっちゃ可愛いよね」

「それな。あ…それであんなボサボサに…え、主人公じゃん。整えたら…その、爽やか…だし。他クラスでも騒がれてるし。そうゆーことか」


 きちんとした京介は、やや無表情だが、顔は整っていた。立ち居振る舞いや所作、姿勢も綺麗で、その上身嗜みもきちんとしていた。爪もキレイで、女子の好感度は高い。

 いかに中身が、暴力とエロをカンストし、歪んだ価値観になった元勇者といえど、表面的にはわからない。

 最近は裏掲示板にも載り始めていた。

 ただ三か月ほどあのボサボサの格好だったから、周りの女子は距離間を掴めないでいた。

 それに成瀬愛香という一級品が近くに居るから、誰も近づけなかったのもあった。


「昔っから人助けしてたしな~モテてたな~…一回全部蹴落としたけど…。あ、アレもすっごく上手なんだよ~ね、朋ちゃん?」

「ちょっと愛香! 流石に駄目でしょ!」


「え、アレ? あ…え? マ?」

「…まさか…まさか二人とも?」


 美月と真綾はさらに衝撃を受けた。ずっと気になっていた朋花のファンタジー初体験話がここで繋がろうとしていた。

 しかもこの二人の発言、もしかして…と。

 何気に蹴落としたとか愛香は言っていたが、ボソリと呟いたのでみんなには聞こえなかった。


「いや、まあ、その、ちょっと愛香~」

「朋ちゃん、顔真っ赤だよ? バレバレじゃん。でも仕方ないよ。だって────」


 朋花がテレテレになり、愛香が何かを言い出そうとした時、突然ノックも無しに個室の扉が開いた。

 するとそこには他校生の男子二人がおり、軽薄な態度で喋りだした。どうやらナンパのようだ。


「どーも~ おお! やっぱ美人ばっかじゃん!」

「おーほんとだ。ねーねー一緒に歌わない?俺めっちゃ上手くてさ~つーか君ら可愛い過ぎだよね?」


 軽薄でチャラそうな男子高校生はどうやら彼女達を店内で見かけていたようだ。男子一人だったからもしかしたら混ざれるかもと思い、入ってきたのだろう。

 真綾は、あまりこの手のチャラいタイプが好きでは無くなっていた。何せ、葛川達がこんな感じだったのだ。嫌な目にあった中学の時も連鎖的に思い出した。


「何よ、あんた達! 出て───」

「すぅ~~Pi──────!!」


 だから追い返そうと咄嗟に口が開いた。

 だが、それより早く愛香はどこからともなくホイッスルを取り出し、吹いた。


 すると寝ていた京介はすぐさま横になった姿勢から流れるような動作で入り口まで回転しながら飛び、軽薄男子二人の前に立ち塞がった。

 そして京介はゆっくりと目を開けた。

 軽薄男子二人は動揺した。

 こいつ、今飛んだ? つか、黒目おっきくない? 瞳孔開いてない? 目が明後日に行ってない? 何より無茶苦茶不機嫌で怖くない? と。


「え、わわ、なんだてめ、ぇ、あ、すみません…」

「あ、あ、あご、ごめんな、さい…」


 軽薄男子二人はそそくさと逃げ出した。扉が閉まると、京介はふらふらと元の位置に戻って横になり、再び寝た。


「………ぐぅ」

「でね、朋ちゃんは助けられてから───」


「………え! 愛香、今の無視すんの?! また寝たし! なに今の動き?! 笛!? 藤堂! ちょっと! あんた忍者なの?!」

「笛吹いたら飛んだよ! 藤堂くん飛んだんだよ!? 愛ちゃん、使役してんの?! むっちゃ飛んだし…ほんとに…忍者?…ていうかその笛なに?」


 愛香は何もなかったかのように話し出そうとしたが、その一部始終を見届けた真綾と美月は興奮して会話を被せた。

 何せ目の前を人が飛んだのだ。しかも懸命にではなく、まるで重さを感じさせずにフワリと軽やかに。

 しかも横回転しながら。

 およそ人の動きではなかった。


「ふふー。純ちゃんって子に昔教えてもらったんだ~徹夜明けの京ちゃん、レンジャー試験後の自衛官みたいって。笛ふいたらパッと起きるって。ずっと眠そうだったし、出来るかな~って。ふふっ、夢叶っちゃった。さっきの男の子には感謝だね。…あ、そうだ。二人とも懺悔させてあげルね! 気にしてたデしょ? それに…徹夜明けは…すごいって聞くからねェ。しっかリ確認しないと。どうかな~?」

「うん…いいよ。明日休みだし。にんにん」

「うん、わたしも…興味あるし。にんにん」


 愛香がサラサラと身振り手振りしながら話し終わると、美月と真綾は何やら微睡んだ目になった。意識はあるが、夢心地のような雰囲気で、作りもののギャルは剥がれ、忍者京介に夢中になった。

 忍者ではなく勇者だが、そんな事は女子高生にはわからない。見た目ギャルの二人は忍者ポーズをしてホワホワな笑顔になった。


「にんにんだってー。ふふー。わたしも~~妊妊!」

「………」


 愛香のにんにんとポーズは何か違うが、それを見た朋花は、ここ一月で愛香がだいたい変なのは察していた。京介が変なのはわかっている。

 でも今、私、女子高生してる。あんなに復讐のことばかりだったのに、カラオケなんて。打ち上げなんて。

 もうすぐメグミにも会える。本当にこの二人のおかげだと再度心の中で感謝した。

 だから全てをスルーし、今みたいな邪魔も入るし、打ち上げを家でするのも良いなと考えた。


「愛香、うちで打ち上げの続き…しない?」


 それに何より…徹夜明けすごい。そのパワーワードがとてもとても気になる。だから下心は抑えつつ家に誘ってみた。


「ふふ。いいよ~、一緒に…打ち上がろっか? ぶいっ」


 愛香はウィンクをしながら綺麗な横Vサインをし、とても可憐で可愛いキメ顔で、そう答えた。

 打ち上げと打ち上がるは違うが、朋花はしっかりと見抜かれていたことに、顔を赤らめたのだった。

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