【完結】白い電話 ~もし天国につながる電話があるなら、何を話しますか~

榛玻璃

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白い電話3

「――っ」
 そこは自宅だった。燃料を失った囲炉裏の炎はすっかり消え失せ、黒い炭だけが残されている。
 いつの間にか眠ってしまったらしい。編みかけのセーターを脇に避け、閉められたカーテンから洩れる光に目を向ける。
「……幸せ、だったのよね」
 部屋の隅に飾られた写真立て。その中で笑う男を見つめながら、老婦は独りごちた。
 もしもし、と掛ける電話が遠い。電話しても、求める声は返ってこないと知っているから尚のこと。それでも、電話をかけたら期待してしまうのだ。今日は返事を返してくれるのではないかと、そう。
(……ねえあなた。あなたも私を愛していた?)
 伝えたいことがあった。愛していると、そう伝えたかった。それなのに、それを伝える前に夫は逝ってしまい、彼女だけが残された。
 あの白い電話から掛けたら、本当に死別した相手に伝わるのだろうか。ずっと心の中でくすぶっていたたくさんの想いを聞いてもらいたかった。言えないまま心に溜めてきたものを、彼に聞いてもらいたかった。
 自宅の隅に置かれた黒い電話に目を向ける。鳴り響くのは勧誘の電話ばかりで、いつの間にか自分から電話をすることは稀になった。
 けれどわかっている。
 その電話は、彼の元には繋がっていない。
(――)
 もし、彼と会話ができるのなら。
 幸せな人生だったと伝えたら、どんな表情を見せてくれるのだろうか。
 もう少しだけ待っていてほしいと言ったら、ちゃんと待っていてくれるだろうか。
 伝えたい言葉が山のようにあった。その全てを伝えたくて、けれどももう住む世界が違うから無理だと心のどこかで諦めてしまっていて。
 でも出来るならもう一度、彼と繋がれたら良いのに。
 ――気がつけば、白い電話を目指して歩きだしている自分がいた。
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