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白猫男子と再会の日
俺はノエル、十八歳。
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「ん……夢か」
俺はノエル、十八歳。この世で最高の美貌を持って産まれた超絶可愛い美少年だ。
俺の出身地でもある亜人の居住区、スラムエリア。混血の居住区、ノーマルエリア。そして、そして俺が今居るのがニンゲンの居住区、ロイヤルエリア。この三つにこの国は別れている。
これは夢の続きの話になるのだが、どうやらメルクーリオが亜人だというのは機械の故障で出たもので、本当は純度百パーセントのニンゲンだったらしいのだ。
そして、汚らわしい亜人の元には置いておけないということで兵士によって連れていかれたそうだ。
「お、起きたか。みんなお前のこと待ってたぞ」
この人は俺がお世話になっているサーカスの団長さん。混血なのだが、亜人の孤児を引き取ってサーカス団の一員として育てたりしている。
実はメルクーリオが攫われたあと、両親が死んでしまい、路頭に迷っていた頃に引き取ってもらった。
あの時は十五歳だった為、稼ぐ手段もない。そんな時に団長さんに出会った。
「え、俺そんなに遅かったですか?」
「いや、時間はいつも通りなんだ。ただあいつら全員、やる気に満ちすぎて早く起きちまったらしい」
「? ああ…そういえば、今日は大仕事ですもんね」
俺達の所属しているサーカス団はこの国を回ってショーを披露している。俺達の素性は隠し、混血ということになっている。目の刻印もじっくり見ないと分かりにくいし、コンタクトレンズを付けて隠せる。
基本は混血とニンゲン相手で商売をしているから、ここにいればいつかメルクーリオに会えると思ったのもあってこのサーカス団に入ったのだ。
そして、今日は久しぶりの少ない観客の中で行う。別にチケットが売れなかったわけではなく、サルトルクト家という伯爵家の前で披露するのだ。
団員達も久しぶりだからって昨日張り切って稽古をしていた。
「だから、お前も早く行ってやりな」
「はい!」
勢い良く返事をし、サーカス団で泊まっていた宿から出て、練習用の建物に移動する。
この王都__フロウリーグスはかなり栄えていて、ロイヤルエリアではあるのだが混血もニンゲンも混ざって買い物などを楽しんでいる。
……といっても、ニンゲンは混血に対して威張り散らしているのだが。
ニンゲンがこんなんだから、混血も亜人に対して態度が冷たいんじゃないかと思っている。まあ、勝手な憶測だけど。
「皆、おまたせ!」
その後は本番の会場に向かう少し前まで稽古をし、完璧に仕上げた状態だ。各々が苦手な場所も克服したり、サルトルクト家の方々の前で格好悪い姿は晒せない、とそれぞれがそれぞれを鼓舞していた。
「よし、頑張るか!」
「緊張してるんすか、先輩」
「あ、レイリー。実は……そうなんだよね…」
こいつはレイリー。一年前に入ってきた後輩で、犬の亜人だ。
所謂お兄ちゃん肌というやつで、小さい子の面倒を見たりするのがとても上手なのだ。
こうやって団員の緊張を感じ取った時とか、悩んでたりすると話かけて緊張を解してくれたりする。
しかし、俺より年下なはずなのに俺より背が高いのだけは許せない。俺にその身長を寄越せ。
「大丈夫っすよ、先輩なら。ここまで頑張って来たでしょ?」
「んー……そうなんだけど、大仕事だし、上手くいくかなとか色々心配になっちゃって…」
「そんなウジウジしてないで、いつもの先輩でいればいいんすよ!」
そう言ってわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「ちょ、やめろって」
「ああ…すいません、撫でやすそうな頭が近くにあったもんだから…」
しゅん、とした顔で言われる。くそ、俺がこの顔に弱いこと知ってんのか…!
「別に、怒ってたわけじゃない。レイリーが俺より背が高いのは釈然としないけど」
「あはは……先輩って、何か弟みたいなんすよ。背がちっちゃくて、ちょっと手がかかって、めっちゃ可愛いところとか」
「弟って…俺はレイリーより年上なんだが…。それに、男に可愛いって言われても全く嬉しくない」
ジト目で見つめる。するとレイリーはバツが悪そうに目を逸らし、頬をかいて、
「まあまあ、もう移動時間も近いですし、行くっすよ!」
と、半ば強引に俺を連れていった。レイリーと話してる内に自然と緊張が解れて、いつも通りの万全な状態でこの大仕事に挑めそうだ。
*
少しの間馬車に揺られていると、かなり大きい屋敷が見えてきた。庭も凄く整っているし、到着間近になると沢山のメイド達が出迎えてくれた。
「うわ…おっきい屋敷ですね」
他の団員達も驚きを隠せないようで、これまで緊張しなかった子達もそわそわし始めている。
「みんな、大丈夫!俺ら全員、これまでめっちゃ練習してきただろ?いつも通り、お客さんを喜ばせることだけ考えていればいい。分かった?」
と、緊張しているみんなを奮い立たせる。これまでの練習量は凄まじい。それこそ、プロに匹敵するのでは?と思うレベルの団結力の高さだ。一人では出来ないことも、みんなでなら出来る。それがこのサーカス団の信条だ。
「流石、我がサーカス団のエースだな。さっきまでガチガチだったのがもう元気になってやがる」
団長がふと呟く。急に褒められると思っていなかった俺は驚きのあまり、目を閉じたり開いたりしていた。
「えっと…めっちゃ照れます」
「まあまあ、素直に褒められとけ。これからの大仕事に備えてな」
「そうですね」
周りを見渡す。みんな笑顔で、この仕事が楽しくて仕方ないという顔だ。その中にはレイリーや団長、そして俺も居る。
「みんな、行くぞ!」
*
今回の演技も上手くいった。サルトルクト家の皆さんも楽しんでいたようだし、自分達もミス無く行ったと思っている。
今まで王都には何回か訪れていたのだが、ゆっくり観光する時間が取れなかったのと、大仕事お疲れ様って理由で、団長が観光時間を取ってくれた。今日は休んで、明日楽しんでこい、と。
俺も王都は気になっていたし、折角の機会だから余計なことを考えずに観光を楽しんでいた。
「うわ、これ美味そ」
色々見て回っていた俺の目に飛び込んできたのはクレープというお菓子だった。生地の中に生クリームや苺などが入っていてとても美味しそうだ。値段もお手頃だし、食べ歩きにも丁度良さそうということで既に俺の胃袋を掴んでいる。
「すいません、これ一個ください」
「はいよ」
屋台のおばちゃんは気さくに笑い、作り始めた。素早い手際で生地を焼き、生クリームや苺をトッピングしていく。
「お待たせ。苺クレープだよ!」
「ありがとうございます!」
お金を払い、クレープを受け取る。サーカス団の仕事で給料は貰ってるし、中々使い道が無いからそれなりに持っている。
みんなの為に美味しいお菓子とか買ってこうかな。レイリーには励ましてもらったし、ちょっと違うの買ってあげよう。そうだ、団長にも日頃の感謝を込めて何か渡したいな。
そんなことを考えながら歩いていると、誰かの肩とぶつかり、よろけたせいで真正面から誰かとぶつかってしまった。
「っわ、と!す、すみません!」
真正面からぶつかったということは相手の服に思い切りクレープが付いてしまったということだ。
さっき買ったばかりだな、とか食べてないなとは思うものの、相手の服を弁償とかを先にしないといけない。
「服に着いちゃいましたよね?弁償でもなんでもするので__」
「混血風情がこの私にぶつかるとはなんと無礼なことを!立場を弁えろ!……む、貴様、昨日のサーカスの者か?」
えっ、と思って顔を上げて見てみると、そこにいたのは昨日演技を披露したサルトルクト家のご当主様だった。
「サルトルクト様…!」
「昨日見た時は気づかなかったが、その刻印…貴様、亜人か」
「……っ」
コンタクトレンズを着けて隠しているとは言っても、この刻印は強力すぎて間近で見られるとバレてしまう。
亜人がニンゲンにぶつかって服を汚す。これがどれだけ重大な罪か、計り知れないものだ。良くて終身刑、悪くて死刑だ。
混血に対してはこの国の法律で危害を加えたりするのは罪になるが、亜人に対しては何もない。つまりは何をしてもいいということになる。
サルトルクト家のご当主様はニヤリと笑ってこう告げた。
「罪には問わないでやろう。昨日は良いものを見せてもらったのでな。__代わりに、この服の代金分私の屋敷で働いてもらおう。もちろん、住み込みでな」
「い、いいんですか!?深いご慈悲、感謝致します」
ノエルは救われた、と思った。ニンゲンも良い人がいるんだとメルクーリオ以外に初めて感じた。
しかし、この時のノエルは頭を下げていた為、見ていなかった。当主の下卑た笑いを__
*
その後、ノエルは事の顛末を伝え、一時的にここを離れることと必ず戻ることを伝えた。すると団長は、二ヶ月後にまたこの王都に戻り、ノエルを迎えに来ると言ってくれた。
「ごめん、みんな。俺の不注意のせいで……」
「ノエルちゃんわるくないよ!おされちゃったんだもん!」
「頑張ってくださいね、ノエルさん!」
他の団員達が俺を責めたりせず、頑張ってや待ってるなど、様々な言葉をかけてくれた。
だが、その中でレイリーだけが暗い顔をしていた。
「どうしたんだよ、レイリー。俺は戻ってくるって言ったろ?」
「でも……先輩がいないなんて考えられないっす」
その顔は寂しがっている子犬のようでかなり申し訳なく思ってしまう。
レイリーは泣き出しそうになりながら続けた。
「なんで、なんで先輩が罪を償わなくちゃいけないんすか!先輩はなにも__」
レイリーの口元にそっと人差し指を置き、首を振る。
「しょうがないことなんだ。亜人、だから」
そう、俺たちは亜人。ニンゲンや混血に逆らえない社会的弱者。いくら抗議しようとも上は聞いてすらくれないし、色々理由をつけられて捕まって終わりだ。
だから、こうして少しでも従順でいなければならない。
「じゃ、いってくる!」
「いってらっしゃい!」
笑顔で手を振り、宿を出る。外に出ると馬車が迎えに来ていた。
「乗りなさい」
使用人と思われるニンゲンがゴミを見るような目でこちらを見ていた。
大人しく馬車に乗り込む。
俺は、頑張って、必死で、あの居場所に帰らなければならない。みんなの為に、そして__親友の為に。
俺はノエル、十八歳。この世で最高の美貌を持って産まれた超絶可愛い美少年だ。
俺の出身地でもある亜人の居住区、スラムエリア。混血の居住区、ノーマルエリア。そして、そして俺が今居るのがニンゲンの居住区、ロイヤルエリア。この三つにこの国は別れている。
これは夢の続きの話になるのだが、どうやらメルクーリオが亜人だというのは機械の故障で出たもので、本当は純度百パーセントのニンゲンだったらしいのだ。
そして、汚らわしい亜人の元には置いておけないということで兵士によって連れていかれたそうだ。
「お、起きたか。みんなお前のこと待ってたぞ」
この人は俺がお世話になっているサーカスの団長さん。混血なのだが、亜人の孤児を引き取ってサーカス団の一員として育てたりしている。
実はメルクーリオが攫われたあと、両親が死んでしまい、路頭に迷っていた頃に引き取ってもらった。
あの時は十五歳だった為、稼ぐ手段もない。そんな時に団長さんに出会った。
「え、俺そんなに遅かったですか?」
「いや、時間はいつも通りなんだ。ただあいつら全員、やる気に満ちすぎて早く起きちまったらしい」
「? ああ…そういえば、今日は大仕事ですもんね」
俺達の所属しているサーカス団はこの国を回ってショーを披露している。俺達の素性は隠し、混血ということになっている。目の刻印もじっくり見ないと分かりにくいし、コンタクトレンズを付けて隠せる。
基本は混血とニンゲン相手で商売をしているから、ここにいればいつかメルクーリオに会えると思ったのもあってこのサーカス団に入ったのだ。
そして、今日は久しぶりの少ない観客の中で行う。別にチケットが売れなかったわけではなく、サルトルクト家という伯爵家の前で披露するのだ。
団員達も久しぶりだからって昨日張り切って稽古をしていた。
「だから、お前も早く行ってやりな」
「はい!」
勢い良く返事をし、サーカス団で泊まっていた宿から出て、練習用の建物に移動する。
この王都__フロウリーグスはかなり栄えていて、ロイヤルエリアではあるのだが混血もニンゲンも混ざって買い物などを楽しんでいる。
……といっても、ニンゲンは混血に対して威張り散らしているのだが。
ニンゲンがこんなんだから、混血も亜人に対して態度が冷たいんじゃないかと思っている。まあ、勝手な憶測だけど。
「皆、おまたせ!」
その後は本番の会場に向かう少し前まで稽古をし、完璧に仕上げた状態だ。各々が苦手な場所も克服したり、サルトルクト家の方々の前で格好悪い姿は晒せない、とそれぞれがそれぞれを鼓舞していた。
「よし、頑張るか!」
「緊張してるんすか、先輩」
「あ、レイリー。実は……そうなんだよね…」
こいつはレイリー。一年前に入ってきた後輩で、犬の亜人だ。
所謂お兄ちゃん肌というやつで、小さい子の面倒を見たりするのがとても上手なのだ。
こうやって団員の緊張を感じ取った時とか、悩んでたりすると話かけて緊張を解してくれたりする。
しかし、俺より年下なはずなのに俺より背が高いのだけは許せない。俺にその身長を寄越せ。
「大丈夫っすよ、先輩なら。ここまで頑張って来たでしょ?」
「んー……そうなんだけど、大仕事だし、上手くいくかなとか色々心配になっちゃって…」
「そんなウジウジしてないで、いつもの先輩でいればいいんすよ!」
そう言ってわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「ちょ、やめろって」
「ああ…すいません、撫でやすそうな頭が近くにあったもんだから…」
しゅん、とした顔で言われる。くそ、俺がこの顔に弱いこと知ってんのか…!
「別に、怒ってたわけじゃない。レイリーが俺より背が高いのは釈然としないけど」
「あはは……先輩って、何か弟みたいなんすよ。背がちっちゃくて、ちょっと手がかかって、めっちゃ可愛いところとか」
「弟って…俺はレイリーより年上なんだが…。それに、男に可愛いって言われても全く嬉しくない」
ジト目で見つめる。するとレイリーはバツが悪そうに目を逸らし、頬をかいて、
「まあまあ、もう移動時間も近いですし、行くっすよ!」
と、半ば強引に俺を連れていった。レイリーと話してる内に自然と緊張が解れて、いつも通りの万全な状態でこの大仕事に挑めそうだ。
*
少しの間馬車に揺られていると、かなり大きい屋敷が見えてきた。庭も凄く整っているし、到着間近になると沢山のメイド達が出迎えてくれた。
「うわ…おっきい屋敷ですね」
他の団員達も驚きを隠せないようで、これまで緊張しなかった子達もそわそわし始めている。
「みんな、大丈夫!俺ら全員、これまでめっちゃ練習してきただろ?いつも通り、お客さんを喜ばせることだけ考えていればいい。分かった?」
と、緊張しているみんなを奮い立たせる。これまでの練習量は凄まじい。それこそ、プロに匹敵するのでは?と思うレベルの団結力の高さだ。一人では出来ないことも、みんなでなら出来る。それがこのサーカス団の信条だ。
「流石、我がサーカス団のエースだな。さっきまでガチガチだったのがもう元気になってやがる」
団長がふと呟く。急に褒められると思っていなかった俺は驚きのあまり、目を閉じたり開いたりしていた。
「えっと…めっちゃ照れます」
「まあまあ、素直に褒められとけ。これからの大仕事に備えてな」
「そうですね」
周りを見渡す。みんな笑顔で、この仕事が楽しくて仕方ないという顔だ。その中にはレイリーや団長、そして俺も居る。
「みんな、行くぞ!」
*
今回の演技も上手くいった。サルトルクト家の皆さんも楽しんでいたようだし、自分達もミス無く行ったと思っている。
今まで王都には何回か訪れていたのだが、ゆっくり観光する時間が取れなかったのと、大仕事お疲れ様って理由で、団長が観光時間を取ってくれた。今日は休んで、明日楽しんでこい、と。
俺も王都は気になっていたし、折角の機会だから余計なことを考えずに観光を楽しんでいた。
「うわ、これ美味そ」
色々見て回っていた俺の目に飛び込んできたのはクレープというお菓子だった。生地の中に生クリームや苺などが入っていてとても美味しそうだ。値段もお手頃だし、食べ歩きにも丁度良さそうということで既に俺の胃袋を掴んでいる。
「すいません、これ一個ください」
「はいよ」
屋台のおばちゃんは気さくに笑い、作り始めた。素早い手際で生地を焼き、生クリームや苺をトッピングしていく。
「お待たせ。苺クレープだよ!」
「ありがとうございます!」
お金を払い、クレープを受け取る。サーカス団の仕事で給料は貰ってるし、中々使い道が無いからそれなりに持っている。
みんなの為に美味しいお菓子とか買ってこうかな。レイリーには励ましてもらったし、ちょっと違うの買ってあげよう。そうだ、団長にも日頃の感謝を込めて何か渡したいな。
そんなことを考えながら歩いていると、誰かの肩とぶつかり、よろけたせいで真正面から誰かとぶつかってしまった。
「っわ、と!す、すみません!」
真正面からぶつかったということは相手の服に思い切りクレープが付いてしまったということだ。
さっき買ったばかりだな、とか食べてないなとは思うものの、相手の服を弁償とかを先にしないといけない。
「服に着いちゃいましたよね?弁償でもなんでもするので__」
「混血風情がこの私にぶつかるとはなんと無礼なことを!立場を弁えろ!……む、貴様、昨日のサーカスの者か?」
えっ、と思って顔を上げて見てみると、そこにいたのは昨日演技を披露したサルトルクト家のご当主様だった。
「サルトルクト様…!」
「昨日見た時は気づかなかったが、その刻印…貴様、亜人か」
「……っ」
コンタクトレンズを着けて隠しているとは言っても、この刻印は強力すぎて間近で見られるとバレてしまう。
亜人がニンゲンにぶつかって服を汚す。これがどれだけ重大な罪か、計り知れないものだ。良くて終身刑、悪くて死刑だ。
混血に対してはこの国の法律で危害を加えたりするのは罪になるが、亜人に対しては何もない。つまりは何をしてもいいということになる。
サルトルクト家のご当主様はニヤリと笑ってこう告げた。
「罪には問わないでやろう。昨日は良いものを見せてもらったのでな。__代わりに、この服の代金分私の屋敷で働いてもらおう。もちろん、住み込みでな」
「い、いいんですか!?深いご慈悲、感謝致します」
ノエルは救われた、と思った。ニンゲンも良い人がいるんだとメルクーリオ以外に初めて感じた。
しかし、この時のノエルは頭を下げていた為、見ていなかった。当主の下卑た笑いを__
*
その後、ノエルは事の顛末を伝え、一時的にここを離れることと必ず戻ることを伝えた。すると団長は、二ヶ月後にまたこの王都に戻り、ノエルを迎えに来ると言ってくれた。
「ごめん、みんな。俺の不注意のせいで……」
「ノエルちゃんわるくないよ!おされちゃったんだもん!」
「頑張ってくださいね、ノエルさん!」
他の団員達が俺を責めたりせず、頑張ってや待ってるなど、様々な言葉をかけてくれた。
だが、その中でレイリーだけが暗い顔をしていた。
「どうしたんだよ、レイリー。俺は戻ってくるって言ったろ?」
「でも……先輩がいないなんて考えられないっす」
その顔は寂しがっている子犬のようでかなり申し訳なく思ってしまう。
レイリーは泣き出しそうになりながら続けた。
「なんで、なんで先輩が罪を償わなくちゃいけないんすか!先輩はなにも__」
レイリーの口元にそっと人差し指を置き、首を振る。
「しょうがないことなんだ。亜人、だから」
そう、俺たちは亜人。ニンゲンや混血に逆らえない社会的弱者。いくら抗議しようとも上は聞いてすらくれないし、色々理由をつけられて捕まって終わりだ。
だから、こうして少しでも従順でいなければならない。
「じゃ、いってくる!」
「いってらっしゃい!」
笑顔で手を振り、宿を出る。外に出ると馬車が迎えに来ていた。
「乗りなさい」
使用人と思われるニンゲンがゴミを見るような目でこちらを見ていた。
大人しく馬車に乗り込む。
俺は、頑張って、必死で、あの居場所に帰らなければならない。みんなの為に、そして__親友の為に。
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