異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第9話 京都デート

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【京都駅】


 
「ついに来たぜ、京都ぉぉぉぉ!!!」



 俺の声が京都駅の巨大なアトリウムにこだまする。
 頭上に広がるガラスの天井、その下を行き交う観光客たちの喧騒。すべてが俺のテンションを引き上げてくる!


 隣の雪華は、俺のハイテンションを見て若干引き気味だ。

 
 
「雷丸様、少し静かに……周りの人が見ていますよ……」



 いや、そんなの気にしてる場合じゃねぇ!
京都!美少女妖怪!狐!これ以上テンション上がらないわけがないだろうが!!

 俺は拳を突き上げ、さらに叫ぶ。


 
「聞け、京都の街よ!俺が今、降臨したぁぁぁ!!」

 

 通行人たちが何事かとこちらを振り返る。


 
「なんやあの人、修学旅行生か?」「いや、ちゃうやろ」「テンション高すぎやろ」



 すれ違う地元の人たちの視線?気にしねぇ!むしろ注目されるのはハーレム王として当然だ!


 雪華は苦笑しながら小声で言った。


 
「そんなに目立っていたら、狐耳の妖怪も近寄りたくなくなるかもしれませんよ……」



 ハッ!それは盲点だった!!
 だが、俺はすぐに気を取り直す。


 
「大丈夫だ!俺のこの人徳、いやハーレム徳なら自然と可愛い子が寄ってくる!」



 雪華は呆れ顔だ。


 
「本当に不思議ですね……その自信はどこから湧いてくるんでしょうか……」



 俺たちの京都ハーレム探訪の旅が、こうして幕を開けた!
 待ってろ、狐耳ちゃん!俺のハーレム、今日からもっと豪華にするぜ!!





 ――――――――――――――

 


「よし、まずは清水寺に行ってみよう!」



 観光客で賑わう通りには、お土産屋や甘味処が並び、どこからともなく漂ってくる甘い香りが俺たちを包み込む。清水寺の荘厳な雰囲気とは対照的に、この通りはまさに「観光地の祭り状態」だ。
 
 そんな中、雪華が突然立ち止まり、何かを指差した。


 
「雷丸様、あれを見てください!抹茶ソフトクリームです!……美味しそうですね…………!」



 その声には、驚くほどの熱意が込められていた。指差す先には、これでもかというほど濃い緑色の抹茶ソフトクリームが回転台でぐるぐる回っている。目をキラキラと輝かせる雪華を見て、俺は思わず吹き出しそうになる。


「おいおい、そんなにソフトクリームにテンション上がるのかよ!


 俺が笑いながら突っ込むと、雪華は全く動じることなく真顔で答えた。


 
「いえ、冷静です。抹茶ソフトクリームが極めて美味しそうだ、という事実に基づいた感想を述べただけです。」

「いや、その目の輝き、全然冷静じゃねえから!」



 雪華は全く動じることなく、淡々と続ける。

 

「抹茶には抗酸化作用があり、美容にも効果的です。さらに、この温暖な気候において、冷たい甘味は体温調整にも有効かと――」

「ソフトクリームの理屈語り始めるな!ただ食べたいだけだろ!?」

「……雷丸様、お一つどうですか?ご一緒に食べれば、さらに美味しく感じるかもしれません。」

「結局食べたいだけじゃねーか!素直になれ、雪華!」

 

 俺が全力でツッコむと、雪華は少しだけ顔を赤らめながら小さく呟いた。

 

「……はい、少し……食べたいです……。」



 その素直すぎる告白に、俺は思わず爆笑してしまった。


 
「よっしゃ、買ってやるよ!ハーレムメンバーにひもじい思いは絶対させねぇ!お腹いっぱいになるまで食べさせるからな!」



 雪華はわずかに顔を赤らめながら、「ありがとうございます、雷丸様」と小声で答えた。おい、その可愛さは反則だぞ!

 店で買った抹茶ソフトクリームを手にした雪華は、一口食べると、口元に少しだけクリームをつけたまま満面の笑みを浮かべた。


 
「美味しいですね……雷丸様、この街、とても良いところです!」



 その笑顔が、まるで天使のような輝きを放っていて、俺の心臓を直撃した。


 
「かわっ……かわいい……!」



 思わず頭を抱えながらその場にしゃがみ込んでしまう俺。

「雷丸様、どうされましたか?」と心配そうに覗き込む雪華。


 
「いや、ダメだ……その笑顔……俺には眩しすぎる……!」

「えっ……?」



 雪華のキョトンとした表情がまた可愛い。おい、これ以上可愛さを盛られると俺が限界突破するぞ!


 
「もう、なんでお前、こんなとこでそんな可愛い顔するんだよ!観光どころじゃなくなるだろ!」


 
 雪華は「??」と首をかしげているが、その仕草さえも破壊力抜群だ。俺は胸を押さえながら立ち上がり、心の中で密かに叫んだ。



 ――――雪華、お前、反則すぎるだろ!!!


 

 ――――――――――――――――



 
 清水寺の境内に足を踏み入れた俺たちは、目の前に広がる荘厳な光景に言葉を失った。


 
「おお……これが清水寺か……!」



 俺は思わず立ち止まり、その存在感に圧倒される。朱色の柱と緑の屋根が青空に映え、眼下には京都の街並みが広がっている。まさに「日本の絶景」そのものだ。

 雪華も同じように足を止め、静かに景色を見つめながら呟く。


 
「雷丸様……この景色……なんて美しいのでしょう……。」




 その声には、普段の冷静な彼女にはない感情が込められていた。まるでこの瞬間だけ彼女が感動を完全に開放しているようだった。


 
「なぁ、雪華。この景色、どう表現したらいいんだろうな?感動が大きすぎて、言葉が出てこねぇよ。」



 俺が苦笑しながら聞くと、雪華はしばらく考えた後、真剣な表情で答えた。


 
「……詩的に言えば、『この朱塗りの柱は、歴史の重みを支え、我々を未来へと導く道しるべ』……といったところでしょうか。」
 
「めっちゃカッコいいじゃねぇか!詩人みたいだな、お前!」
 
「……いえ、自然に出てきた言葉です。」
 
「普通そんな言葉自然に出てこねぇよ!お前、本当すごいな!」



 雪華は少し照れたように視線をそらしながら続ける。


 
「雷丸様も、何か感じたことを言葉にしてみてはいかがですか?」
 
「俺か?じゃあ……『清水寺、めっちゃでかい!すげぇ!』……とか?」
 
「……ふふっ、雷丸様らしいですね。」
 



 笑顔を見せる雪華に、俺は一瞬見とれてしまった。

 その時、突然どこからか観光客の歓声が聞こえた。振り返ると、大きなカメラを持った外国人観光客が俺たちを撮影している。

 

「え、何これ?俺たち写ってないか?」
 
「どうやら私たちの後ろにある清水寺の景色が目当てのようですが……ついでに写り込んでいるのかもしれません。」
 
「おい、これ完全に『清水寺カップル』みたいになってんじゃねぇか!」
 
「……悪くはないですね。」
 
「え、何その意味深な答え!?やめろ、俺がドキッとするだろ!」



 雪華の微笑みと清水寺の荘厳な景色に心を乱されながらも、俺は改めてこの特別な瞬間を全力で堪能した。


 
「……やっぱり、来てよかったな。」
 
「はい、雷丸様。本当に……素晴らしい場所です。」



 雪華の感動に満ちた声を聞きながら、俺たちは清水寺の空気に浸り続けた――が、後ろの外国人観光客が「あのカップル、すごく絵になる!」と大声で言っているのを聞いて、俺たちは同時に顔を真っ赤にしてしまったのだった。
 
 


 ――――――――――――――――
 


 

 清水寺を堪能した後、俺たちは総本家ゆどうふ「奥丹 清水」に向かった。ここは、雪華をお腹いっぱいにさせたい一心で俺が予約した特別な場所だ。


 
「雪華、今日はお前を絶対に満腹にさせるからな!」



 俺が胸を張って宣言すると、雪華は少し驚いた顔をして首をかしげた。


 
「雷丸様、私はそんなにたくさん食べないので……」
 
「いや、いいんだ!今日は俺が全部おごる!遠慮すんなよ!」
 
「……ありがとうございます。でも、雷丸様がこうして予約してくださるなんて……少し意外です。」
 
「おい、どういう意味だよ!俺だって計画的なとこ見せる時あるんだよ!」



 そんなやり取りをしながら、奥丹 清水の暖簾をくぐる。店内には上品な雰囲気が漂い、木の温もりと心地よい香りが出迎えてくれた。雪華が静かに感嘆の声を漏らす。


 
「……素敵な場所ですね。」
 
「だろ?こういうとこで豆腐料理を楽しむってのも悪くないだろ?」
 
「はい、雷丸様。とても……楽しみです。」



 俺たちは席に案内され、次々と運ばれてくる料理に目を見張った。
 湯どうふ、田楽、揚げ出し、胡麻豆腐――どれも見た目からして美味そうだ。


 
「これ全部、豆腐なんだな!」
 
「豆腐は身体に優しく、栄養価も高い食材です。これは……とても贅沢な食事ですね。」
 



 雪華が慎重に箸を持ち、湯どうふを一口含む。目を閉じてしばらく味わい、静かに呟いた。


 
「……美味しいです……」
 
「だろ!?どんどん食えよ!今日は好きなだけ食べていいんだからな!」



 俺が促すと、雪華は少し戸惑いながらも次々と料理を口に運び始める。田楽を頬張り、胡麻豆腐をゆっくり味わうその姿に、俺は思わず目を細めた。

 

「どうだ?満足してるか?」
 
「……はい、雷丸様。とても幸せです。」



 その言葉に、俺の心は何とも言えない満足感で満たされた。

 しかし、ふと見ると雪華の箸が止まっている。皿の上には揚げ出し豆腐が一つだけ残っていた。俺は首をかしげて尋ねる。


 
「どうした?もうお腹いっぱいか?」


 
 雪華は少し困った顔をして答えた。


 
「いえ……最後の一つを食べてしまうのが、なんだか惜しくて……」
 
「惜しいってどういうことだよ!?食べろよ、残すのはもったいねぇだろ!」
 
「そうなのですが……これは雷丸様にも食べていただきたいと思いまして……」
 
「お前、俺に気を遣ってたのかよ!?」




 俺は笑いながら箸を取り、最後の揚げ出し豆腐を半分に割った。

 
 
「ほら、これで半分こだ!一緒に食べようぜ!」
 
「……はい。ありがとうございます、雷丸様。」



 雪華と一緒に揚げ出し豆腐を口に入れた瞬間、ふわっと広がるだしの香りに俺たちは同時に顔をほころばせた。


 
「これ、最高だな。」
 
「はい……本当に……美味しいですね!」



 雪華が満腹で幸せそうな顔をしているのを見て、俺も満足感でいっぱいになった。やっぱり、こういう時間が何よりも大事だと改めて実感した――食後に雪華が「もう少し食べられるかもしれません」と呟かなければ完璧だったんだけどな!

 

 
 ――――――――――
 

 

 俺たちは次の目的地、八坂神社へ向かうことにした。

 八坂神社の鳥居をくぐった瞬間、目の前に広がる朱塗りの社殿。その荘厳な雰囲気に、俺と雪華は思わず立ち止まった。

 

「うわぁ……すごいな……。写真とかで見たことあったけど、実物は全然違うな!」



 俺が感嘆の声を漏らすと、雪華がそっと手を合わせて小声で呟いた。


 
「……ここ、とても神聖な場所ですね。心が浄化されるようです……。」



 彼女の真剣な表情に、俺は少し感動しながら頷いた。



 
「確かにな。こういう場所に来ると、日頃の悪事とか反省しちゃうよな。」
 
「雷丸様……そんなに悪いことしてるんですか?」
 
「いや、してねぇけど!なんか、そういう気分になるってだけだよ!」



 境内を歩いていると、提灯が並ぶ風景が目に入った。雪華が立ち止まり、その提灯をじっと見つめる。

 

「雷丸様、あの提灯……可愛いです。」
 
「可愛いって……あれ、神社の提灯だぞ?なんかありがたい雰囲気じゃん。」
 
「でも、丸い形と赤い模様がとても親しみやすいです。あのデザイン、お部屋に飾りたいですね……。」
 
「いやいや!お前、神社の提灯を部屋に飾るとかどんな趣味だよ!」



 雪華はそれでも提灯から目を離さず、真剣な顔で言った。


 
「……でも、これを見ていると安心感が湧きます。雷丸様もそう思いませんか?」
 
「まあ……そうだな。確かに落ち着くっていうか……って、俺も乗せられてどうすんだよ!」



 拝殿にたどり着き、俺たちは並んでお参りすることにした。
 まずは鈴を振り、深々と頭を下げて手を合わせる。静かな境内に響く鈴の音が、なんだか心を清めてくれる気がする。だが、俺の心の中は――。


 
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!ハーレム!!ハーレム王に俺はなるぞ!!!」



 もう、全力で叫んでいた。もちろん、心の中だけでな!

 願いを込める俺の姿は、外見だけ見れば真面目に祈っている風だが、頭の中では完全に別世界だ。俺の野望をこの神聖な地で宣言するなんて、もし神様が聞いてたらドン引きだろう。

 俺が祈り終わって顔を上げると、隣の雪華が目を閉じて真剣に祈りを捧げている。
 その姿があまりにも神々しいというか、無垢すぎて――正直、俺は自分の願いを少し反省しかけた。

 雪華が祈りを終え、静かに目を開ける。


 
「雷丸様、何をお願いしたのですか?」



 そう聞かれて、俺は一瞬言葉に詰まった。さすがに「ハーレム!」なんて言えるはずもなく、慌てて誤魔化す。

 

「え、えっと、みんなが元気でいられるように……とか?」
 
「それは素敵な願いですね!」



 雪華が嬉しそうに微笑む。その純粋すぎる笑顔に、俺は胃のあたりがキュッとなるのを感じた。

 だが次の瞬間、俺は心の中で拳を握りしめてこう叫ぶ。



「違う!俺はハーレム王になる男だ!俺の願いは誰にも止められねぇ!」



 そして、ふと逆に俺が雪華の願いを聞いてみたくなった。


 
「なあ、雪華は何をお願いしたんだ?」



 雪華は少し照れたように目を伏せて、小さな声で答える。


 
「……雷丸様がいつも無事でいられるように……と。」



 その瞬間、俺の脳内でなぜか雷が落ちた音がした。



 
「えええええええええ!!?」



 心の中で全力で叫びながらも、表向きは動揺を隠しきれない俺。


 
「そ、そんな願い事……?」

「はい。雷丸様がいなければ、私は何をすればいいのかわかりませんから……。」



 その言葉に、俺は胃がキュッとなるどころか、頭が真っ白になった。


 
「いやいやいや、俺なんて大したことないだろ!?」

「そんなことありません。雷丸様がいるから、私も頑張れるのです。」


 
 ――待て、雪華。その純粋な瞳でそんなこと言うのは反則だろ!?
 俺はもはや、ハーレム王を目指す自分を心の中で問い詰めたくなるくらいだった。


 
「神様……俺、もしかしてとんでもなく幸せ者なんじゃないですか……?」



 そう思いながら、俺は深く息を吐いて、目の前にいる雪華の笑顔をただただ眺めるしかなかったのだった。


  

 ――――――――――
 


 

 祇園の風情漂う通りを歩き、「祇園辻利 祇園本店」に到着した俺たち。京都といえば抹茶、そして抹茶といえば辻利!というわけで、俺と雪華は二人で「抹茶オレ」を注文することにした。

 カウンターで受け取った抹茶オレは、緑の濃さが見た目にも鮮やかで、カップから漂うほのかな抹茶の香りがたまらない。


 
「雷丸様、この香り……素晴らしいですね。」



 雪華が目を細めてカップを手に取り、ゆっくりと口元に運ぶ。その仕草がなんとも上品で、抹茶オレが一瞬高級ワインに見える錯覚を覚える。


 
「おいおい、そんなにゆっくり飲むなよ。冷めちまうぞ。」



 俺は勢いよくカップを一口飲み干す――。


 
「ふおおおっ!なんだこれ!うますぎる!」



 思わず声が漏れる。濃厚な抹茶の苦味と、ミルクのまろやかさが絶妙に混ざり合い、俺の舌を優しく包み込む。


 
「雷丸様、少し落ち着いてください。せっかくの一杯ですから、もっと丁寧に味わわないと。」



 雪華がくすっと笑いながら俺を諭す。

 

「いやいや、これ、丁寧とか関係なくうまいだろ!まじで口の中が京都になってる気分だ!」
 
「……口の中が京都、ですか。」
 


 雪華は一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに小さく吹き出した。

 

「雷丸様らしい表現ですね。でも……その通りかもしれません。この味は、確かに京都そのものです。」



 雪華はもう一度カップを手に取り、慎重に一口味わう。  
 瞳を閉じて味わうその表情は、なんだか幸せそうだ。


 
「……美味しいですね……雷丸様、一緒に来て良かったです。」
 
「だろ?俺が選んだ店だからな、間違いないんだよ。」



 俺が得意げに言うと、雪華は少し赤くなった顔を隠すようにカップを傾けた。

 店の窓際の席から外を見ると、祇園の街並みが薄暗くなり始め、提灯の光が少しずつ灯っていく。そんな光景を眺めながら、俺たちは無言で抹茶オレを飲み続ける。


 
「……こうしていると、なんだか時間が止まっているみたいですね。」



 雪華がぽつりと呟く。

 

「ああ、そうだな。」



 俺も同じ気持ちだった。抹茶オレの温かさと雪華の穏やかな笑顔が、なんだか特別な時間を作り出している気がした。


 
「でも、雷丸様、もう少しゆっくり飲んでくださいね。」
 
「え、もう飲み干しちまったけど。」
 
「早すぎます……。」



 雪華が呆れ顔でため息をつく中、俺は空のカップを手に「もう一杯頼むか!」と提案するのだった。


 

 ――――――――――――


 
 
 京都観光を楽しんでいる最中、ふと雪華が道端のお地蔵さんに目を留めた。
 小さな石のお地蔵さんが、赤い前掛けをして静かに佇んでいる。


 
「雷丸様、あれは……?」


 
 雪華がそのお地蔵さんを指差しながら、少し興味深そうにこちらを見上げてくる。
 おいおい、そんな大真面目な顔で聞かなくても、お地蔵さんくらい誰でも知ってるだろ。


 
「ああ、あれはお地蔵さんだ。道端とかに立ってて、旅人を守ったりするんだよ。」


 
 そう説明すると、雪華はしばらくお地蔵さんをじっと見つめていたが、急にニコッと微笑んでその前に歩み寄った。


 
「……なるほど。では、きちんと挨拶しなくてはなりませんね。」


 
 えっ、挨拶って……お地蔵さんに?

 俺が驚いて見ていると、雪華はスッと背筋を伸ばし、お地蔵さんの前に立つ。
 そして、まるで誰かに敬意を表するかのように、静かにお辞儀をした。

 

「こんにちは。雪華と申します。」



 その言い方が妙に丁寧で、なんだか笑いそうになる。
 いやいや、待て。今は真剣な雪華を邪魔するわけにはいかない。


 
「雷丸様と一緒に、楽しく京都を巡らせていただいております。」


 
 あれ、なんかすごく丁寧な自己紹介が始まったぞ……。
 お地蔵さんにそこまで挨拶する人、見たことねぇけど?

 雪華はそのまま続けた。


 
「これからも、どうか雷丸様と私をお守りくださいませ。」


 
 そう言って、もう一度深々とお辞儀をする雪華。
 おいおい、そこまで本格的にお願いしなくても……!
 でも、雪華の顔は真剣そのもの。お地蔵さんに向かって全力で礼儀を尽くしている。


 俺はその様子を見て、思わず笑いをこらえながら心の中で呟いた。

 

「……いや、そんなにちゃんと挨拶されると、お地蔵さんもビックリするんじゃねぇか?」

 

 すると、挨拶を終えた雪華が、満足そうな顔で俺の方に振り返った。


 
「これで、雷丸様も安心して旅を続けられますね。」


 
 いやいや、俺が安心するかどうかは別として、お地蔵さんにはしっかりと雪華の敬意が伝わったはずだ。


 
「あ、ああ、ありがとうな。雪華。」



 雪華の真剣な姿に少し感心しながら、俺はそっとお地蔵さんにも心の中で「よろしく」と呟いた。


 
 
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