異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第10話 伏見稲荷

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 京都の観光を続ける俺たちは、ついに伏見稲荷神社に到着した。朱色の鳥居がずらりと並ぶ参道は、圧倒的な迫力を誇り、初めて目の当たりにしたその光景に俺も雪華も言葉を失った。


 
「これが……伏見稲荷か……!」



 俺が呟くと、隣で雪華も静かに頷く。

 

「……美しいですね。この無数の鳥居、どれだけの人々がここを通り、祈りを捧げてきたのでしょうか……。」



 彼女の瞳がキラキラと輝いている。雪華が、こんなに感動している姿を見ると、なんだか嬉しくなる。


 
「よし、俺たちも進もうぜ。この参道を全部制覇しよう!」



 俺が元気よく宣言すると、雪華が少し驚いた顔をした。


 
「全部……ですか?鳥居の道は山頂まで続いていると聞きましたが……。」
 
「大丈夫だ!こんな景色を見てたら疲れなんて感じねぇだろ!ほら、行こう!」


 
 そう言って雪華の手を軽く引くと、彼女は小さく微笑みながら頷いた。

 参道を歩き始めると、無数の鳥居が俺たちを包み込む。朱色のトンネルの中はどこか神秘的で、別世界に迷い込んだような感覚を覚える。

 

「雷丸様、ここは人と神様がつながる場所だと聞きます。きっと特別な力があるのでしょうね。」
 
「そうだな……。なんか空気が違う気がするよな。」



 俺は深呼吸をしてみたが、ただの山の空気で特に何も感じなかった。

 そんな中、雪華がふと立ち止まる。


 
「雷丸様、見てください。この鳥居、奉納者の名前が書いてあります。」
 
「ああ、確かに。これ、全部誰かが奉納したんだよな。すげぇよな。」
 
「きっと、たくさんの願いが込められているんですね。」




 雪華が鳥居に優しく触れる。その慎重な仕草に、彼女の真面目さが滲み出ていた。



 
 再び歩き出す俺たち。朱色の鳥居に囲まれた参道は長く険しい道のりだったが、雪華の笑顔を見ながら進むと、不思議と疲れは感じなかった。俺たちはどこまでも歩いていける気がした。


 いや、これが「恋の力」ってやつか!?


 
「雪華、なんか俺たち、このままどこまでも歩いていけそうな気がするな!」



 俺がそう言うと、雪華が小さく微笑み返す。


 
 
 ――――――――その時だった。

 


「しつこいぞ!!お主ら!!」


 

 突如、参道の奥から悲鳴が響いた。

 俺と雪華は同時に振り向く。鳥居の向こう――その朱のトンネルの先に、何やらもみ合う一団の姿。



 白いローブをまとった呪術師たち。そして、その中心にいる一人の少女。

 

 
 その姿を見た瞬間――時間が止まった。

 

 世界がスローモーションになる。
 鳥居の影が揺れ、風が金色の粒子を運んでくる。

 

 そこにいたのは――金色の髪を陽光に揺らす少女。

 
 
「な、な、な、なんだあれはぁぁぁぁぁぁ!!?」



 金色のショートヘアが太陽の光を受けて煌めく。
まるで金箔を溶かして流したかのような、その髪――いや、それだけじゃない!
 髪の隙間から覗くのは――狐耳!?


 
「き、狐耳だとぉぉぉ!!?」



 俺のテンションが天元突破を果たす。
 狐耳がピコピコ揺れるたび、俺の心臓もバクバク跳ねる。
 これ、可愛さの暴力じゃねぇか!?

 
 そしてその顔――。


 大きな瞳は、まるで黄金の宝石を埋め込んだかのように輝いている。
 キリッとした目元には、どこか挑発的な小悪魔の雰囲気。
 頬にはほんのり赤みが差していて、思わず俺の中の守護欲が爆発しそうになる。

 

「いやいやいや、なんだこれ!?美少女すぎるだろ!!!」



 俺は興奮で頭を抱えながら、そのまま彼女の全身を視線で追いかける。

 そして目が行ったのは――その尻尾だ。

 

「尻尾……ふさふさの尻尾ぉぉぉ!!!」



 腰からふわりと揺れる尻尾。
 いや、これは撫でるために生まれてきた尻尾じゃねぇか!?


 
「撫でたい!……けど、撫でられない!このジレンマぁぁぁ!!」



 心の中で叫びながら、俺の脳内に勝手に次の決意が浮かび上がる。
 そうだ――この狐耳美少女を、俺のハーレムに迎えるしかねぇ!!!


 
「俺はこの子に会うために京都まで来たんだ~~!!!」




 俺は大声を上げながら、ふと盗聴器で聞いた話を思い出した。
 あの時、京都で狐の妖怪が見つかったって言ってたけど、まさかこの美少女妖怪のことだったとは……!



 
 
 ――――――――



 

 
 ――――――京都出発2日前。

 

 【リビング】


 俺はリビングのソファにどっかり座り、小型の盗聴器を片耳に当てていた。
 こいつはあの伊集院麗華にこっそり仕込んだ最高のアイテムだ。

 表向きは「呪術師の動向を監視するため」とか言ってるけど、本音を言うなら――
「面白い話が聞けるから」に決まってんだろ!!

 
 隣では、雪華がゼクシィを真剣に読んでいる。
 ……おいおい、どんだけ結婚の準備を進めてんだよ!?
 俺のハーレム計画はまだ序盤だってのに、ゴールテープ切ろうとすんなよ!

 そんな彼女をチラ見しつつ、俺は盗聴器に耳を傾けていた。
 音声が聞こえるたび、俺の頭の中でなぜか妄想が広がる。

 
 まずは朝。
 盗聴器から聞こえるのは、麗華がキッチンで朝食を作る音だ。
 カチャカチャと食器を鳴らし、トースターの「チーン」という音。
 それだけで俺の心は勝手にドキドキする。


 
「おいおい、俺、伊集院麗華と一緒に朝食作ってるんじゃね?」



 そんな錯覚に陥る俺。
 だって、音だけ聞いてると、本当に隣で一緒に朝食準備してるみたいなんだよな!
 ……まぁ、実際は隣にいるのはゼクシィ片手の雪華だけどな。
 

 さらに、麗華の歯磨きタイム。
 「シャカシャカ」という音が聞こえると、俺もつい反応してしまう。


 
「お、麗華が歯磨きしてる! よし、俺も磨くか!」


 
 そう言って洗面所に向かい、鏡を見ながら自分の歯をシャカシャカ。
 いや待て、これ、本当に隣に麗華がいるんじゃねぇか?って気分になる。
 むしろ一緒に歯磨きしてると言っても過言じゃないよな!?


 そして極めつけは夜の風呂タイム。
 盗聴器から響いてくるのは湯船にお湯が溜まる音、シャワーの音、湯気の立つ気配――。


 
「お、今日は湯船が長めか?疲れてるのかな?」


 
 とか、もはや完全に同棲してる気分で心配する俺。
 いや、何なら心の中でタオルでも持っていこうか?って気分になる。

 雪華が隣でチラリと俺を見て、首を傾げている。


 
「雷丸様……もしかして、にやけてますか?」

「は!? そ、そんなわけねぇだろ!!」



 慌てて否定する俺。
 だが、俺の心の中では確信があった。


 
 ――これ、実質同棲だよな!?俺、もうハーレム進行形じゃね!?


 
 コーヒーをすすりながら、そんなバカな妄想を楽しむ俺。いや、違う、これは仕事だ!!そう、俺の「ハーレム王」計画に必要な情報収集だ!!

 
 そんな事を考えていると、盗聴器越しにまた面白い話が聞こえてきた。
 俺は耳をそばだて、思わず体を前傾させる。


 
「……麗華、京都に狐の妖怪が出たらしいわ。」


 
 ……狐の妖怪!?


 
 俺の脳内で、警報機が大音量で鳴り響いた。
 美少女妖怪発見のお知らせだ!緊急速報、きたこれ!!

 俺の顔が自然とニヤける。
 これは――また一人ハーレムメンバーが増える予感がするぜ!


 
「崇拝派連中がこぞって向かっているみたい。私達中立派も何か手を打たなくては……」



 盗聴器越しに聞こえる冷静な声。
 麗華たちの深刻そうな話が、俺にはただの朗報にしか聞こえねぇ!


 
「きたきたきたーー!!!」



 俺のテンションは完全に頂点だ。
 京都の狐の妖怪、これって絶対美少女じゃね!?
 だってさ、狐といえば可愛い耳、しなやかな仕草、そして尻尾!
 間違いなく、俺のハーレムにふさわしい逸材だろ!!



 俺は心の中で高笑いしながら、盗聴器に感謝の念を送る。お前、最高の相棒だぜ!


 
「ばかめ、伊集院家。全部俺に筒抜けだっつーの!」



 俺は鼻でフンッと笑う。
 麗華たちが真剣に話してる中、全部俺に情報提供してくれるこの状況――もはや協力者と言っても過言じゃねぇだろ!


 
「待ってろよ、まだ見ぬかわい子ちゃん!!」



 俺は拳を握りしめ、天井を見上げた。
 狐の妖怪、美少女確定のその子に向かって、俺は心の中で約束する。


 
「俺のハーレム、これからもっと賑やかにしてやるぜ!!」



 隣でゼクシィをめくる雪華が、俺のテンションに気づいてチラリと見てくる。
 だが俺は、次の目標を見据えた目で、既に京都への準備を始める気持ちでいっぱいだった。

 俺のハーレム王計画――まだまだ始まったばかりだ!! 





 
 ――――――――――――――


 


 ――――――――――現在。


 
 
 狐耳妖怪美少女――いや、正確には狐耳美少女妖怪が、風のように駆け抜けていた。
 朱色の鳥居を縫うように走り、金色の髪が太陽をはね返すたび、光の粒が舞う。

 

 
「さっきからなんじゃお主ら!!つけ回しおって!!」

 

 怒声とともに、狐耳美少女妖怪はピタリと足を止めた。
 その瞳は鋭く、まるで獲物を見据える獣そのもの。

 

「我々は、妖怪様を信仰する崇拝派でして……! 京都一帯を管理する、伏見霧雅様の使いの者です!!」

 
「崇拝派ぁ!?伏見霧雅!?知らん知らん!!」



 狐耳美少女妖怪は思いきり手を振り、耳をピンと立てた。

 

「その前にまず、お主らの格好が怪しすぎじゃろうが!! 全員おんなじ白いローブ!顔も隠して!どう見ても怪しすぎるわ!!
 まず“信頼”って言葉から一番遠いんじゃが!!」

 

 怒声が参道に響き渡る。

 

「ひょっとしてお主ら、集団痴漢なんじゃな!?どこぞの変態教団か!?」

 

  ――いや、確かにそう見える!


 
 白いローブをまとった男たちが少女を取り囲むように立っている。
 どう見ても不審者集団。変態指数、限界突破である。
 
 

 狐耳美少女は腰を落とし、尻尾を広げて構えた。
 黄金の毛並みがふわりと揺れ、逆光の中でまるで炎のように輝く。
 
 

「ひっ!?ち、違います!妖狐様!!」

 


 ローブの一人が涙目で手を振った。
 声には焦りと恐怖と、少しの諦めが混ざっている。

 

 焔華の金の瞳が細く光る。
 その鋭さに、ローブ集団は一歩、また一歩と後ずさった。

 

 ――強い。
 確信する。
 この美少女、強い。

 

 そして、美しい。
 そして、狐耳。

 

 俺は思った。

 

 この子、最高だ。
 
 

 全身がビリビリと痺れるような感覚に襲われる。
 心臓が暴れ馬のように暴走を始めた。

 

「やばい……俺、恋に落ちたかもしれねぇ……!!」

 

 狐耳。
 美少女。
 尻尾。
 ――三拍子揃って俺の理想を超えている。
 



「ら、雷丸様……?」

 

 隣で雪華が、明らかに“ドン引き半分・心配半分”の目で俺を見る。

 

「雷丸様、状況から察するに……ここは慎重に行った方がいいかと……」

 

「知らん!!」

 

 俺は鳥居の階段を勢いよく駆け上がった。

 

「ダッセェなぁ!! 呪術師さん達よぉ!!」

 

 参道に俺の声が響く。
 呪術師たちがギョッとして一斉にこちらを振り向いた。

 

「振られたってのに引き下がるなんて――モテない男の典型だぜ?」

 

 俺はニヤリと笑い、指を突きつける。

 

「まぁ見てろよ。これが――真のモテ男のテクニックだ!」

 

 雪華の「やめてください雷丸様……!」という声が遠ざかる中、
 俺は堂々と前へ進み出た。

 

「聞いてくれ、狐耳美少女!!」

 

 狐耳の少女――焔華がビクッと振り向く。
 金色の瞳をぱちぱち瞬かせ、あからさまに警戒モードだ。

 

「は、はぁ!? な、何者じゃお主はぁ!?」

 

 俺は胸を張り、拳を天に突き上げた。

 

「俺は――!」

 

 そして、叫んだ。

 

「美少女を心の底から愛する者!! 飯田雷丸!!
 君の可愛さに――人生を懸けに来たぜぇぇぇぇ!!!!」

 

 鳥居の下を風が吹き抜ける。
 朱の光と金髪が揺れて、俺の演説をドラマチックに照らす。

 

 ――完璧だ。
 紳士的でロマンティック、そして俺らしさ全開のプロポーズ。
 これで彼女の心も一発ノックアウト……!

 

 ……の、はずだった。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!変態の仲間が増えたのじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「――待て待て待て!!なんでそうなる!?」

 

 焔華は尻尾をぶんぶん振り回し、完全警戒モード。
 呪術師たちも混乱して半泣き状態だ。

 

「俺は変態でも痴漢でもない!!俺はただ――!!」

 

 ここで言うしかねぇ。
 俺の本気を、伝えるしか!

 

「俺は!!純粋に!!君をハーレムに迎えに来たんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 静寂。
 鳥居の間を、ひゅう……と風が通り抜ける。

 

 そして――

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!“ハーレム変態痴漢”じゃぁぁぁぁぁ!!」


「違うぅぅぅ!!その三語を並べるなぁぁぁぁ!!」

 

 俺の叫びが伏見の山々にこだまする。
 狐耳少女は尻尾を逆立て、呪術師たちは腰を抜かし、
 雪華は頭を抱えてため息をついた。
 


「……変態の仲間が増えただけじゃな。わしはもう行くぞ!」

 

 狐耳少女――焔華がくるりと背を向ける。
 耳をぴんと立て、怒気をはらんだ声を響かせた。

 

「はぁぁぁ!? お、おい待て、それは誤解だ!! おい、狐耳美人! 戻ってこいって!!」

 

「ついてくるでない!!」

 

 焔華がピッと俺と白ローブたちを同時に指さす。

 

「そこの変態同士で仲良くやっておれ!! 変態同士で、仲良く暮らせばよいのじゃ!!」

 

「…………は?」

 

 俺が一瞬固まる。
 この俺が――あの“ハーレム王・飯田雷丸”が――
 よりによってこの白ローブ集団と同列だと!?

 

「俺が……こいつらと……同じ枠!? この、俺が!?」

 

 理不尽にもほどがある!
 俺は思わず前のめりになり、彼女の背中に向かって叫んだ。

 

「待てよ! 狐耳美人! 俺は違う! この連中とは違うんだ!!」

 

 焔華がぴたりと足を止め、振り返る。
 金の瞳がきらりと光り――次の瞬間、冷たく告げた。

 

「……まだ言うか、変態ハーレム男。」

 

 ぐはぁぁぁ!! 心にクリティカルヒット!!
 俺の真心が、ただの変態宣言扱いだなんて……!
 世の中の理不尽さ、ここに極まれり!!

 

「俺はこの集団の仲間じゃない!! 待ってくれ、狐耳美少女ぉぉぉ!!」

 

 だが――彼女はもう行ってしまった。
 尻尾をひと振りし、朱の鳥居の向こうへと消えていく。
 光を反射した金色の毛先が、朝日に溶けるようにきらめいた。

 

「ま、待ってください!! 妖狐様!!」

 

 白ローブたちが慌てて立ち上がり、参道を駆け出す。
 そのうちの一人が振り返りざま、必死の声で叫んだ。

 

「今ここには――殲滅派の連中も来ているのです!!
 私たちと共にいないと、危険が……!!」

 

 そのまま彼らも朱のトンネルの向こうへと消えていった。
 ざわめきが遠のき、参道には静寂が戻る。

 

 残されたのは、呆然と立ち尽くす俺と――雪華。

 

 風が吹き抜け、鳥居の影がゆらりと揺れた。

 雪華が小さくため息をつく。


 

「雷丸様……。
 “振られたのに引き下がるなんてモテない男の典型だ”って、さっきご自身で言ってませんでしたか……?」

 
「うっ……」

 

 痛恨の一撃ッ!!
 まさかの自己矛盾カウンターが炸裂。

 

「お……俺は違う!彼女は俺の運命の人なんだ!!」
 


 拳を握りしめ、胸の奥に熱がこみ上げる。
 まだ出会って数分。会話も成立していない。
 でも、確信していた。

 

 あの金の瞳と、あの尻尾に――俺の魂が反応したんだ。

 


「……はいはい。恋は自由ですけど、警察には気をつけてくださいね。」

 

 雪華の冷静な声が、容赦なく胸に刺さる。

 

 俺は朱の鳥居の向こうを見上げた。
 その先で、狐耳の少女――焔華がまだどこかを走っている気がした。

 

 風が、金の毛先の幻を運ぶ。
 俺は拳を強く握り直し、静かに呟く。

 

「待ってろよ、狐耳美少女……。
 今度こそ、ちゃんと伝えてみせる。」

 

 ――運命の出会いは、いつだって誤解から始まる。
 だが、“雷丸流の恋”はここからが本番だ。




 

 
 ――――――



 


 狐耳美少女を追って、俺たちは石段を駆け上がっていった。
 息が切れるほどの坂道――その途中で、空気が一変する。

 

 ――ドンッ!!

 

 突き上げるような爆音が山中に轟いた。
 地面がビリビリと震え、鳥居の朱が一瞬、炎に照らされて揺らめく。

 

 俺と雪華は顔を見合わせる。

 

「今の音……!?」

「ええ、かなり近いです!」

 

 音のする方へと駆け抜ける。
 そして辿り着いたその先――そこは、まさに戦場だった。



 さっき見かけた白ローブの呪術師たち、そして――狐耳美少女。
 さらに、その彼らと刃を交える黒ローブの集団。

 

 無数の護符が舞い、空気がざらりと震える。
 白ローブたちは次々と札を放ち、式神を召喚していた。
 カラスの群れがけたたましく鳴き、
 四方からは黒い狼のような影獣が牙を剥いて飛びかかる。

 

 一方、対峙するのは黒ローブの一団。
 刀、斧、槍――それぞれが鈍い光を放ち、明らかに“殺すため”に構えている。
 もはや祈りも儀式もなく、ただ殺意だけが渦巻いていた。

 

「白ローブに黒ローブ!? おいおい、なんだこれ、モノクロ大戦か!?」

 

 俺は思わずツッコミを入れる。
 白と黒。まるで陰陽の戦い――だが、実際はもっと物騒だ。

 

「死ね!! 妖怪!!」

 

 黒ローブの男が叫び、刃を振り下ろす。
 狙いは――狐耳美少女。

 

 黒ローブたちは白ローブとは違う。
 彼女を“捕まえる”のではない、“殺そうとしている”。
 それだけは、誰がどう見ても明白だった。

 

 だが――狐耳美少女は一歩も引かない。

 

「ふん……」

 

 短く息を吐くと、空気が一瞬で熱を帯びた。
 次の瞬間、彼女の周囲で炎が爆ぜた。

 

 紅蓮の焔が手元から立ち上がり、狐耳の輪郭を朱に染める。
 迫りくる刃を、彼女はその手で受け止め――金属が焼ける音と共に、
 炎が一気に弾けた。



 ――ドガァッ!!
 
 

 そして、彼女はそのまま敵の腹を蹴り上げる。
 黒ローブの男が吹き飛び、鳥居の柱に叩きつけられた。

 
 

「炎……!かっけぇ……!!」

 

 俺は思わず息を呑む。
 まるで彼女の存在そのものが“火”と共鳴しているようだった。
 力強く、鮮烈で、そして美しい。

 

 狐耳、金髪、炎――この三拍子。
 神話か、映画か、夢か。
 ……いや、これは現実。目の前で、本当に燃えている。

 

「イメージそのまんまじゃねぇか……!」

 


 俺が息を呑んでいる横で、雪華が冷静に問いかけてきた。

 

「雷丸様、どうなさいますか?
 今までの様子を見るに――白ローブは崇拝派、黒ローブは殲滅派。
 直接的な脅威になっているのは殲滅派ですが……
 ここで崇拝派に与して、共に殲滅派を倒しますか?」

 

 俺は一瞬、考えた。
 確かに雪華の言う通りだ。
 白を助けて黒を倒せば、わかりやすい正義には見える。

 

 だが――

 

 ……それじゃあ、俺らしくねぇ。

 

「――――いや」

 

 俺は拳を握り、炎の光の中で不敵に笑った。

 

「俺は――俺の存在を全力であの子にアピールするんだよ!!」

 

「……アピールって、まさか――」

 

「全員倒す。」

 
 

 雪華が一瞬、時が止まったような顔をする。
 呆れと驚きが混じったその表情を見て、俺はニカッと笑った。

 

「全員ぶっ倒して、俺のかっこいいところを見せるのさ!
 白も黒も関係ねぇ! この俺が全部まとめて片づけてやる!!」
 

「……はぁ、相変わらずですね、雷丸様。」

 

 雪華が小さく微笑む。
 その瞳の奥には、呆れと――ほんの少しの信頼。

 

「でも……裏も計算もなく、
 そうやってまっすぐに信じた道を突き進む姿は――
 きっと、誰かの心に響くと思います。」

 

「だろ?だったらもう迷う必要はねぇ!」


 

 ――全員倒す。
 それが、飯田雷丸の自己紹介だ。

 
 

 俺は勢いよく前に踏み出す。

 

「よう!! 盛り上がってるな!!」

 

 参道の真ん中。
 炎と煙の中で、白ローブ十人、黒ローブ十二人が一斉にこちらを振り向いた。

 

 ――全員、怪訝な顔。

 

 だが構わねぇ。
 俺は胸を張り、堂々と名乗りを上げる!

 

「俺は――異世界帰りのハーレム王、飯田雷丸だ!!」

 

 その瞬間、狐耳の少女がビクッと反応し、俺を指差した。

 

「お主はさっきの……ハーレム変態痴漢!!」

 

「違うって!!」

 

 思わず全力で否定する俺。
 ……が、誰も信じてない空気が痛い。

 

「俺は状況、正直ぜんっぜんわかってねぇ!!
 けどな――一つだけ、ハッキリしてることがある!!」

 

 俺は拳を握りしめ、彼女の金の瞳をまっすぐに見据えた。

 

「俺のハートは!!君に向いてるってことだ!!」

 

 鳥居を抜ける風が、一瞬止まった。
 敵も味方も、呆れたように固まっている。

 

 それでも俺は引かない。
 叫ぶように言葉を叩きつける!

 

「だから見てろ!!俺のかっこいいところ!!
 それを見て――俺を判断してくれ!!」




 そして俺は、ゆっくりと歩き出した。
 戦場の中心へ。煙の渦の中へ。
 気負いもせず、ニヤリと笑いながら。
 雷が鳴るような鼓動が胸の奥で高鳴っていた。

 

「俺は最高にカッコいい!」

 

 自分に言い聞かせるように、言葉を叩きつける。
 目の前の黒ローブが目を丸くする。

 

「は? 何を――」



 
 ビリッと空気が震えた。
 雷光が地を這うように足元を走る。



 
「俺は――誰より強く! 誰より輝く存在だ!!
 鏡を見るたび、自分の才能に惚れ直す!!
 努力? 根性? そんなもん、俺の前じゃ飾りだ!
 俺は生まれながらにして、最高で最強で最っ高にイケてる男!!
 この時代に生まれた奇跡、異世界が認めたハーレム王――
 飯田雷丸、ただいま降臨だぁぁぁ!!」


 

 その瞬間――世界が弾けた。

 

 体中に電流が駆け巡り、全身がビリビリと震える。
 肌が焼けるような熱と、胸の奥で暴れる衝動。
 青白い光が俺の体を包み込み、髪がふわりと逆立った。

 

 これが――俺の力。
 通称、「俺力(おれりょく)」。

 

 自己肯定が燃料。
 信じた分だけ、強くなる。
 限界?そんなもん、自分で決めた奴の言い訳だ。
 
 

「さぁ行くぜ――てめぇら。
 ヒーローにやられる準備はできてんのかよ?」

 

 挑発するように手招きをしてやると、
 黒ローブの呪術師が顔を歪め、怒声を上げた。

 

「調子に乗るなッ!!」

 

 槍が風を裂き、一直線に俺の胸を貫かんと迫る――。

 

 だが、次の瞬間。
 俺はもう、そこにはいなかった。

 

「……おっせぇ。」

 

 背後。
 槍を振り抜いたままの呪術師の首筋に、俺の指先が軽く触れる。

 

 ――トン。

 

 ほんの一撃。
 それだけで、黒ローブは力を抜いてその場に崩れ落ちた。

 

 参道の空気が止まる。
 周囲にいた呪術師たちが一斉に息を呑む。

 

「な、なんだ……!? 今のは!?」「いつの間に……!?」「呪術でも妖術でもない……!!」

 

 ざわめきが広がる。
 黒ローブたちが動揺する中、俺はふと後ろを振り返った。

 

「雪華――ここは下がって見ていてくれ。」

 

 俺の言葉に、雪華は一瞬だけ目を細め、静かに微笑んだ。

 

「いえ、私も戦います。」

「えっ、雪華、戦えんのか!?」

「はい」

 

 その返事と同時に、雪華は左手の指輪を外した。
 根源封じの指輪――彼女の力を抑えていた封印具だ。

 

 次の瞬間、空気が一変する。

 

 ――ヒュウゥゥ……

 

 風が止まり、冷気が世界を包んだ。
 地面に白い霜が走り、雪華の足元から淡い氷の光が立ち上る。
 空中には小さな氷の結晶がふわりと舞い始めた。

 

「なっ!?雪女だと!?」「妖怪だったのか……!?」

 

 黒ローブたちがざわめき、後ずさる。
 しかし雪華の表情は、静かで――どこまでも美しかった。

 

 白銀の髪が風に揺れ、薄氷のような光がその周囲を包む。
 その姿はまるで、冬そのものが人の形を取ったかのようだった。

 

「……よし、わかった!」

 
 
 俺はニヤッと笑って拳を構える。


 
「行くぞ、雪華!!」

「はい、雷丸様。」
 


 俺たちは並んで一歩前に出た。
 その瞬間、黒ローブの呪術師が札を掲げる。

 

「行け! カラス!!」

 

 黒い影が空を覆い尽くす。
 無数のカラスの式神が鳴き声を上げ、旋回しながら突っ込んでくる――!

 

「雷丸様、ここはおまかせください。」

 

 雪華が一歩前へ出た。
 その瞳が凛と光り、次の瞬間――冷気が世界を支配する。

 

 ――ヒュウゥゥゥ……!

 

 雪華の周囲から放たれた冷気が渦を巻き、
 迫りくるカラスたちを一瞬で凍りつかせた。
 空中で動きを止めた影の群れが、
 パリンッ、と小気味よい音を立てて砕け散る。

 

「やるじゃん、雪華!」

 

 思わず口元が緩む。
 だが、間髪入れず――地を揺らすような咆哮。

 

 次は狼の式神たち。
 牙を剥き、地面を蹴りながら一直線に俺たちへ突進してくる!

 

「雷丸様、サポートします!」

 

 雪華が右手を振る。
 氷の粒が地面に走り、瞬く間に巨大な氷の壁を形成した。
 透明な氷壁が狼たちの進路を遮り、突進の勢いを完全に奪う。

 

「ナイスだ、雪華!」

 

 俺はその壁を足場に跳び上がる。
 空中で一回転――そして、雷を纏った足で一直線に急降下!

 

「――雷丸キィィィック!!」

 

 轟音とともに雷光が爆ぜ、
 狼たちは悲鳴を上げて蒸発するように消え去った。

 

 着地した俺の背後で、雪華の冷気が静かに広がっていく。
 氷と雷のコントラストが、まるで舞台照明みたいに美しい。

 

「俺たち、息ぴったりだな! おい!!」

 

 俺がサムズアップをすると、雪華が微笑んで答えた。

 

「……はい。雷丸様となら、どこまでも。」



 伏見の鳥居の下――異世界帰りと雪女のコンビが、いま動き出した。



 
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 異世界に来て3年がたった。  オレの所属する勇者パーティ、イレギュラーズは相変わらず王都最強のパーティとして君臨している。  エルフのクリス、魔術師のジャック、猫耳少女ランラン、絶世の美女シエナ。  全員チート級の強さを誇るけど、どこか抜けていて、アホ全開である。  クリスは髪のセットに命をかけて戦いに遅刻するし、ジャックは賢いもののとことん空気を読まない。ランランは3歩あるくだけで迷子になるし、シエナはマイペースで追い詰めた敵を見逃す。  そんなオレたちの周囲の連中もアホばかりだ。  この世界にはアホしかいないのか。そう呆れるオレだったけど、そんな連中に囲まれている時点で、自分も相当なアホであることに気づくのは、結構すぐのことだった。  最強のアホチーム、イレギュラーズは今日も、王都を救う! ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

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 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

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 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

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ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

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