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第14話 すれ違う二人
しおりを挟む【雷丸の自宅】
玄関の扉を開けた瞬間――
「ここが……わしの新たなる住処かっ!!」
焔華が弾丸のように飛び込み、リビングへ一直線。
そしてそのままソファにダイブした。尻尾がぶんぶん振れてる。完全に犬のテンション。
「いや“住処”って言い方な?野生復帰しに来たのか?」
俺のツッコミなど聞こえてないかのように、焔華は部屋のあちこちを探索し始めた。
「これは何じゃ?秘宝か?持ち帰ってもよいか?」
「それリモコン!!持ち帰るな!!」
「ではこれはどうじゃ!」
「それ炊飯器のスイッチ!!押すな押すな押すな!!」
「むっ……ならばこれは――」
「それは雪華の漫画!!読め!!」
焔華の好奇心は天元突破していた。
ついさっき号泣してたとは思えない元気さだ。
一方、雪華は玄関でスリッパを履きながら、魂が抜けた声で呟く。
「雷丸様……焔華さん、元気ですね……。このエネルギー、ドリンクとかにして売れませんかね……」
「お前も元気出せよ!ここが俺たちの“ハーレムファミリー”の拠点なんだからさ!」
「家族の拠点で良いと思います……ほんとに……」
雪華の静かな抵抗も虚しく、焔華はソファの上で腕を組んで宣言した。
「うむ!ここ、わしの玉座とする!」
「しれっと縄張り宣言すんな!!」
「では、この空間を“焔華の間(ま)”と名付けよう!」
「名前つけるな!!!共有スペースだ!!!」
俺がツッコむたびに、焔華はケラケラ笑う。
――ほんの少し前まで泣いていた子とは思えないくらい、明るくて、あったかい。
その時、後ろから雪華がそっと声をかけた。
「とりあえず……お茶淹れますね。京都からの長旅でしたし、少し休んでから――」
「待つのじゃ、雪華!」
焔華がバッと手を上げ、尻尾をブンッと立たせた。
「休む前に“宴”じゃ!!まずは焼き団子を作るぞ!!」
「団子!?いや、今!?お前今すぐ団子いける体力あるのか!?」
「ふふん!わしは燃料が尽きるまでは止まらんタイプじゃ!!」
「私はとっくに尽きてますけど!!!??」
雪華は本気でソファに倒れこみそうな顔をしていたが――
焔華の勢いは誰も止められなかった。
「わしの新しき住処の祝いじゃ!
雷丸!七輪を出せ!
雪華は茶を淹れるのじゃ!
団子は……そこに買ってきたやつがある!!」
「号令が完全に戦場のそれ!!」
だが結局、俺たちは押し切られた。
気がつけば――
庭に七輪。
テーブルには串に刺された団子がずらり。
雪華は茶器を並べ、俺は炭を庭に運んでいる。
そして、火加減は焔華の担当になっていた。
「団子はな、“火の育て方”が全てじゃ。
焦らず、じっくり――炎と対話するんじゃ。」
焔華は真剣な表情で炭火を見つめている。
尻尾はふわん、とリズムよく揺れていた。
「……よし、できた。」
彼女がそっと皿に盛った串団子は、表面がこんがりときつね色。
ふわりと、香ばしい甘い匂いが庭に広がる。
雪華は湯呑を置き、そっと一つ手に取って――
「……いただきます。」
ひと口。
噛んだ瞬間、雪華の表情がぱあっとほどけた。
「……っ……これ……
優しい甘さで……香ばしくて……
美味しい……」
その声は、思わずこぼれた本音だった。
焔華は満足げにニヤァと笑う。
「ふふん、当然じゃ。
団子焼きは炎使いの“基礎の基礎”。
団子を上手く焼ける者こそ、優れた炎使いの証明じゃ!!」
「いや基準特殊すぎるだろ!!?」
俺が即座にツッコむと――
「何を言うか!
団子を美味しく焼けてこそ一流じゃ!!」
「どんな流派なんだよそれ!?」
雪華はクスクス笑いながら、もう一本団子を取った。
「……でも、焔華さんらしいですね。
優しくて、あたたかい炎です。」
その言葉に、焔華の尻尾が誇らしげに大きく揺れた。
――――――――――
団子パーティーを終えて、俺たちがリビングでまったりしていた時だ。
玄関から、か細い声が聞こえた。
「……た、ただいま……」
家に戻ってきたのは、俺の妹――飯田貴音。
だが、問題はその「ただいま」では終わらなかった。
貴音がリビングに足を踏み入れた瞬間――
「…………え?」
完全に固まった。
貴音はリビングの光景を見て、目を見開いたまま固まっている。まるで宇宙人が自宅でバーベキューしてるのを見つけたような顔だ。
それも無理はない。
彼女の視線の先には――
俺の両隣に、堂々とくつろぐ 雪華 と 焔華。
ソファでお茶と饅頭を楽しむ雪華。
隣で尻尾ふぁっさふぁっさ揺らしながら豪快に伸びをする焔華。
「……ど、どういう状況……?」
貴音の声は震えていた。
驚きと混乱と、“一旦寝て起きたら全部夢でした”であってほしい願望が混ざり合っている。
だが俺は、それを容赦なく踏み砕く。
「紹介するぜ!俺の新しいハーレムメンバー、焔華だ!」
隣の焔華は勢いよく立ち上がり、腕を広げて豪快に挨拶した。
「わしが焔華じゃ!以後、よろしく頼むぞ!」
焔華の全力スマイルと共に、ふさふさの尻尾が揺れる。貴音の視線はその尻尾に釘付けになり、一瞬言葉を失ったようだったが、次の瞬間――
「ハーレム!?ハーレムって何!?この家、いつからそんなシステムになったの!?」
悲鳴がリビングに響いた。
しかし焔華は、そこでまさかの追撃。
「ふむ、“ハーレム”と言えば聞こえは良いがな。
わしにとってはここが新しい 住処(すみか) じゃ!」
「住処!?
動物!?
いやそういう話じゃなくて!!」
ついに貴音は頭を抱えた。
「なんで!?
一日家を空けただけで!!
家の恋愛制度がアップデートされてるの!?!?」
俺はその混乱をよそに、堂々と親指を立てる。
「ハーレムファミリー、記念すべき第一歩だ!
貴音、お前も歓迎するぜ!」
「歓迎される覚えないよ!!!」
貴音のツッコミが鋭く刺さるが、俺はノーダメージ。
焔華はにこりと微笑み、ふわふわの尻尾を揺らしながら言った。
「ほう、妹か。そなたもなかなか可愛らしいのう。これからよろしく頼むぞ。」
「よ、よろしくされる気もないけど!?そもそも何でそんなに馴染んでるの!?ここ、私の家だよね!?」
妹の頭が沸騰しそうな様子を見て、俺はニヤリと笑った。
「まぁまぁ、貴音。慣れれば楽しいもんだぞ!」
「何に慣れるっていうの!?常識の崩壊に!?!?」
貴音が半ば叫ぶようにツッコむが、俺はどこ吹く風。むしろ、ここぞとばかりにドヤ顔を決め込む。
「ま、貴音に分かりやすく言えば――お兄ちゃんに彼女が二人増えたってことだ!どうだ?にいちゃんがモテモテで、妹として誇らしいだろ?」
「誇らしくないよ!!どこをどう誇れっていうの!!」
「いや、だから俺はモテる体質なんだよ。生まれつき。遺伝。才能。宿命。」
「調子に乗ってる!!ほんとに乗ってるよそれ!!」
「じゃあ聞いてみろって。」
俺はソファの二人へ手を向ける。
「ほら貴音、直接聞いてみな。
雪華も焔華も――俺にメロメロだぞ。」
俺が指を向けると、貴音はおそるおそる二人へ視線を向けた。
「え、えっと……雪華さん、焔華さん。ほんとにそれでいいんですか……?」
雪華は頬を指でつつきながら、気まずそうに言う。
「……雷丸様を慕っているのは、本当です。
“ハーレム”は……まだ複雑ですけど……今は様子見です。」
貴音の顔が引きつる。
そしてその横で、焔華は満面の笑みで胸を張った。
「面白いぞ、この男は!一緒におると退屈せん!
それだけで十分じゃ!」
貴音の表情は――もはや、混乱とツッコミの限界点。
「そ、そんな ノリと勢いで人生決めていいの!?」
だが俺は自信満々に腕を広げる。
「いいんだよ!俺はそういう男だ!!
というわけで――」
雪華と焔華の腰に、がしっと腕を回す。
「おりゃっ!」
そして二人の頬に、軽く ちゅっ・ちゅっ とキス。
「な!?!?」
雪華は顔を赤くしながら手で頬を押さえる。
「わっ……び、びっくりしますよ、もう……!
心の準備くらいさせてください……!」
焔華はきょとんとしたあと、にやり。
「ほう……いきなり接吻か。
大胆なやつじゃな、雷丸。」
そして――
貴音の顔が真っ赤になった。
目はまん丸。口はパクパク。
カワウソみたいになっている。
「お兄ちゃんの……」
震える声で何かを呟いたかと思うと――
「お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
貴音は叫びながらリビングを飛び出し、そのまま玄関から外へと走り去っていった。
「おにいちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!!
ばかばかばかばかーーーー!!!!」
近所中に響き渡る、魂の絶叫。
俺、完全にフリーズ。
雪華はそっと目を閉じ、深い深呼吸。
焔華は尻尾をぱたんぱたん揺らしながら、真顔で言った。
「……のう雷丸。あれは追ったほうが良いぞ。」
雪華も静かに頷く。
「……あれは放っておくと、公園でブランコ揺らしながら泣くタイプです。」
「それは……放置してはいけないやつだな。」
俺は両手を上に向け、空に吠えた。
「でもなんでだよ!!なんで誇らしくねぇんだよ!!?
兄ちゃんがモテてんだぞ!?普通喜べよ!!」
雪華は、無表情で俺を刺すような目で見た。
「雷丸様。あれが正常な反応です。」
雪華はやわらかく息を吐き、俺の肩をとん、と叩く。
「雷丸様、迎えに行ってください。
私と焔華さんが行くと、たぶん拗れますから。
ここで待ってます。」
「……わかったよ。」
俺は走り出す。
案の定、近所の公園のブランコに
真っ赤な目でぷらんぷらん揺れる貴音がいた。
俺は無言で隣に座り、しばらくただ一緒に揺れた。
そのあと――貴音は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、しぶしぶ家に帰ってきた。
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