15 / 189
第15話 飯田家の過去
しおりを挟む俺の名前は飯田雷丸。幼い頃から母親と二人で仲良く暮らしていた。
母さんはとにかく温かくて優しい人で、俺のことをめちゃくちゃ大切にしてくれた。
まぁ、俺が言うのもなんだけど、かなり幸せな子供時代だったんだ。
だが――
そんな平穏な日常に、ある日激震が走った。
「再婚するのよ」
母さんが言ったその一言が、俺の人生を激変させるきっかけだった。
しかも、再婚相手としてやってきたのは、謎の義理の父親。
このオッサン、突然現れたと思ったら、なんと娘まで連れてきやがった。
そう――その娘が、貴音だ。
あの時の俺にとって、彼女は突然現れた謎の存在だった。
義理の父親と一緒にやってきたその瞬間から、貴音は俺にとって妹のような存在になったわけだが、最初はお互いにぎこちなくてな。まさに、どう接していいのかわからない状況だった。
でも、まぁ――
俺たちの生活は、次第に落ち着き始めた。
家族ってそういうもんなんだろうな。
だんだんと一緒にいるのが普通になっていくってやつだ。
だが、幸せな日々は長く続かなかった。
突然、義理の父親が蒸発しやがったんだ。
理由も告げず、何の前触れもなく、まるで煙のようにパッと消えた。
「おいおい、ちょっと待てよ!」って感じで、俺も貴音も、何が起きたのか理解できずにしばらくポカーンとしてたわけだ。
でもな、これで終わりじゃなかった。
次に待っていたのは、さらなる不幸――母さんが病に倒れた。
そして、残酷なことに、そのまま回復することはなかったんだ。
母さんが病室で俺に向かって最後の願いを告げた時、俺の心はぐしゃぐしゃだった。
「貴音を……頼むわね。」
母さんの言葉に、俺はただ頷くしかなかった。
義理の父親が蒸発した今、頼れるのは俺だけ。
それが、母さんの最期の願いだった。
でも、問題はここからだ。
貴音との関係は、めちゃくちゃ難しかったんだ。
彼女は義理の兄である俺に対して、何とも言えない複雑な感情を抱いていたらしい。
父親がいなくなり、母親代わりだった人も失って――貴音の心には、でっかい傷が残ってたんだろうな。
それが理由で、時には俺に対して反抗的な態度を取るようになった。
「おい、何で俺にキレてんだよ!」って思いながらも、俺は母さんとの約束を守ろうとして、貴音のことを気にかけ続けた。
だが、俺も母さんを失った痛みで余裕がなく、思うように貴音と向き合うことができなかった。
結果的に、俺たちの間には距離ができてしまったんだ。
そして、今――
俺と貴音は、ぎくしゃくした関係を続けながら、何とか日常を生きている。
……まぁ、人生ってこんなもんだよな。
でもさ、母さん――
「貴音を頼む」って言われたけど、正直、俺もどうすりゃいいのかわかんねぇんだよ。
……それでも、あいつの支えになってやるしかないんだろうな。
――――――――――
私の名前は、飯田貴音。
小さい頃、私は父と二人で暮らしていた。
母の記憶はほとんどなく、父だけが世界の全部だった。
ある日、その父が再婚した。
その時に現れたのが、優しい義母と――その息子。
飯田雷丸。
突然「兄」として現れたその人を、私はどう扱えばいいのか分からなかった。
距離の取り方も、声のかけ方も、どこに立てばいいのかも分からない。
でも――
お兄ちゃんは、いつも明るくて、よく笑って、
気づけば自然と隣にいるのが当たり前になっていた。
気づいたら家はにぎやかで、私は一人じゃなくなっていた。
……だけど。
ある日、私の中の何かが決定的に変わった。
お兄ちゃんがサッカーの全国大会で優勝したあの日。
フィールドを全力で駆ける後ろ姿。
歓声の中、仲間に肩を抱かれながら笑う顔。
優勝トロフィーを掲げたとき、太陽に照らされたその姿が――
まるで光みたいだった。
胸がぎゅっと熱くなって、呼吸がうまくできなかった。
私はそこでようやく気づいた。
お兄ちゃんは、ただの「家族」なんかじゃない。
私は――
あの人に恋をしていた。
でも、その想いに名前を付けた直後、世界は容赦なく崩れた。
父は、理由も何も残さずに、突然姿を消した。
家族は音を立てて、あっけなく壊れていった。
その中で、ただひとつ残ったものがあった。
雷丸と、優しい義母。
それが、私の心が繋ぎとめられる最後の糸だった。
……なのに。
その義母も、病によって静かに衰えていった。
病室で、母はお兄ちゃんに向けて、震える声で笑った。
「貴音を……頼むわね。」
その言葉は、本当なら優しく胸に触れるはずだった。
でも、私には痛かった。
私は――ただ、お兄ちゃんを「好き」だと思っていた。
だけどそれは、その瞬間にはっきりと“許されない気持ち”になった。
“兄に頼らなければ生きられない妹”と
“妹を支えなければいけない兄”。
その構図が、残酷なくらい、綺麗に形になってしまった。
お兄ちゃんは必死だった。
不器用なほど、真っ直ぐに私を守ろうとしていた。
……だから私は、それ以上困らせることなんてできなかった。
母がいなくなってから、お兄ちゃんは前よりずっと優しくなった。
料理も、洗濯も、学校も、将来のことも。
全部、全部、気にかけてくれた。
その優しさが――
本当に、苦しかった。
支えてくれる手の温度があたたかいほど、
私は「家族」という言葉で、自分の気持ちを押し殺した。
「ありがとう」と笑うたびに。
本当は「好き」と叫びたかった。
でも、それは言ってはいけない言葉だった。
だから私は、今日までずっと――
“普通の妹”の顔を続けた。
――そして。
お兄ちゃんは、サッカーを辞めた。
その日を境に、お兄ちゃんは別人のようになった。
前は、太陽みたいに周りを照らしていたのに。
今は、前髪で目を隠して、声も小さくて、覇気のない顔で。
まるで、魂だけがどこかに置き去りになったみたいだった。
信じられなかった。
私があれほど憧れていた人が、こんなに簡単に光を失ってしまうなんて。
父もいなくなって、母もいなくなって――
そして、私が“好きになった人”もいなくなった。
本当は――あの時、支える番だった。
家族として。
妹として。
いや、それ以上の“何かになりたかった自分”を押し殺してでも、お兄ちゃんのそばにいるべきだったのに。
なのに私は――
『どうしてサッカー辞めたの?』
あれは心配なんかじゃなかった。
ただ、自分の“恋した姿”を奪われた悔しさをぶつけただけ。
支えるべき相手に、傷をえぐる言葉を吐いた。
なのに、お兄ちゃんは無理に笑って見せた。
『サッカーなんてさ、もういいんだよ。
ゲームしてる方が楽しいし!貴音も一緒にやるか?』
笑顔はとても柔らかいのに――声が震えていた。
コントローラーを差し出してくれたその手を、私は冷たく払うように言った。
「やらない」
その直後――兄の部屋の前を通った時。
扉の隙間から、小さく震えるようなすすり泣きが漏れ聞こえてきた。
そっと覗いた私の目に映ったのは、
――ボロボロに腫れた足首を抱え込み、
――歯を食いしばりながら、
――声もなく泣いているお兄ちゃんの姿だった。
その光景が焼き付いて離れない。
最近、お兄ちゃんの同級生にバカにされ、殴られたと聞いた。
ヘラヘラと笑って話すお兄ちゃんの姿が、
あの眩しかった背中とあまりにも違っていて……
私はまた苛立ってしまった。
「だって、その人サッカー部なんでしょ?
サッカーで勝って見返せばいいんじゃない?」
「サッカー?……そんなの、もういいよ。」
その言葉が胸に刺さって、
私は“いもしない彼氏”を理由に家を出て、
お兄ちゃんが作ってくれたご飯を食べなかった。
あんなに頑張って作ってくれたのに。
温かい匂いだけが、家に残っていたのに。
思い出しただけで、胸が締め付けられる。
息が苦しくて、目の奥が熱くなる。
(どうして私は……あの時も、その前も……
寄り添ってあげられなかったんだろう)
お兄ちゃんがサッカーを辞めた時、
一番つらかったのは――間違いなく“お兄ちゃん自身”だったのに。
「最低だ、私……」
私はいつだって、自分の感情を優先して言葉を向けてしまった。
慰めるべき瞬間に、突き放すことしかできなかった。
兄に対する恋心と、
妹としての立場と、
子供の頃から抱えてきた依存のような愛情と、
それら全部が絡まり、ほどけないまま――
私の心は、いまだにぐちゃぐちゃだ。
11
あなたにおすすめの小説
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる