異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

文字の大きさ
15 / 185

第15話 飯田家の過去

しおりを挟む


 俺の名前は飯田雷丸。幼い頃から母親と二人で仲良く暮らしていた。
 
 母さんはとにかく温かくて優しい人で、俺のことをめちゃくちゃ大切にしてくれた。
 まぁ、俺が言うのもなんだけど、かなり幸せな子供時代だったんだ。

 だが――
 そんな平穏な日常に、ある日激震が走った。



「再婚するのよ」



 母さんが言ったその一言が、俺の人生を激変させるきっかけだった。
 しかも、再婚相手としてやってきたのは、謎の義理の父親。
 このオッサン、突然現れたと思ったら、なんと娘まで連れてきやがった。

 
 そう――その娘が、貴音だ。

 
 あの時の俺にとって、彼女は突然現れた謎の存在だった。
 義理の父親と一緒にやってきたその瞬間から、貴音は俺にとって妹のような存在になったわけだが、最初はお互いにぎこちなくてな。まさに、どう接していいのかわからない状況だった。

 
 でも、まぁ――
 俺たちの生活は、次第に落ち着き始めた。
 家族ってそういうもんなんだろうな。
 だんだんと一緒にいるのが普通になっていくってやつだ。


 だが、幸せな日々は長く続かなかった。

 
 突然、義理の父親が蒸発しやがったんだ。
 理由も告げず、何の前触れもなく、まるで煙のようにパッと消えた。

 
「おいおい、ちょっと待てよ!」って感じで、俺も貴音も、何が起きたのか理解できずにしばらくポカーンとしてたわけだ。

 
 でもな、これで終わりじゃなかった。
 次に待っていたのは、さらなる不幸――母さんが病に倒れた。

 
 そして、残酷なことに、そのまま回復することはなかったんだ。

 
 母さんが病室で俺に向かって最後の願いを告げた時、俺の心はぐしゃぐしゃだった。



「貴音を……頼むわね。」



 母さんの言葉に、俺はただ頷くしかなかった。
 義理の父親が蒸発した今、頼れるのは俺だけ。
 それが、母さんの最期の願いだった。

 
 でも、問題はここからだ。

 
 貴音との関係は、めちゃくちゃ難しかったんだ。
 彼女は義理の兄である俺に対して、何とも言えない複雑な感情を抱いていたらしい。
 
 父親がいなくなり、母親代わりだった人も失って――貴音の心には、でっかい傷が残ってたんだろうな。
 それが理由で、時には俺に対して反抗的な態度を取るようになった。

 
「おい、何で俺にキレてんだよ!」って思いながらも、俺は母さんとの約束を守ろうとして、貴音のことを気にかけ続けた。
 
 だが、俺も母さんを失った痛みで余裕がなく、思うように貴音と向き合うことができなかった。
 結果的に、俺たちの間には距離ができてしまったんだ。


 
 そして、今――


 
 俺と貴音は、ぎくしゃくした関係を続けながら、何とか日常を生きている。

 
 ……まぁ、人生ってこんなもんだよな。


 
 でもさ、母さん――
「貴音を頼む」って言われたけど、正直、俺もどうすりゃいいのかわかんねぇんだよ。

 

 ……それでも、あいつの支えになってやるしかないんだろうな。


 

 

 ――――――――――




 
 
 
 私の名前は、飯田貴音。

 小さい頃、私は父と二人で暮らしていた。
 母の記憶はほとんどなく、父だけが世界の全部だった。

 ある日、その父が再婚した。
 その時に現れたのが、優しい義母と――その息子。

 

 飯田雷丸。

 

 突然「兄」として現れたその人を、私はどう扱えばいいのか分からなかった。
 距離の取り方も、声のかけ方も、どこに立てばいいのかも分からない。

 でも――

 お兄ちゃんは、いつも明るくて、よく笑って、
 気づけば自然と隣にいるのが当たり前になっていた。

 気づいたら家はにぎやかで、私は一人じゃなくなっていた。

 

 ……だけど。

 ある日、私の中の何かが決定的に変わった。

 

 お兄ちゃんがサッカーの全国大会で優勝したあの日。

 フィールドを全力で駆ける後ろ姿。
 歓声の中、仲間に肩を抱かれながら笑う顔。
 優勝トロフィーを掲げたとき、太陽に照らされたその姿が――

 

 まるで光みたいだった。

 

 胸がぎゅっと熱くなって、呼吸がうまくできなかった。

 私はそこでようやく気づいた。

 

 お兄ちゃんは、ただの「家族」なんかじゃない。

 
 私は――

 

 あの人に恋をしていた。


 

 でも、その想いに名前を付けた直後、世界は容赦なく崩れた。

 

 父は、理由も何も残さずに、突然姿を消した。
 家族は音を立てて、あっけなく壊れていった。

 

 その中で、ただひとつ残ったものがあった。

 雷丸と、優しい義母。

 それが、私の心が繋ぎとめられる最後の糸だった。

 

 ……なのに。

 

 その義母も、病によって静かに衰えていった。

 病室で、母はお兄ちゃんに向けて、震える声で笑った。

 

「貴音を……頼むわね。」

 

 その言葉は、本当なら優しく胸に触れるはずだった。

 でも、私には痛かった。

 

 私は――ただ、お兄ちゃんを「好き」だと思っていた。
 だけどそれは、その瞬間にはっきりと“許されない気持ち”になった。

 

 “兄に頼らなければ生きられない妹”と
 “妹を支えなければいけない兄”。

 

 その構図が、残酷なくらい、綺麗に形になってしまった。

 お兄ちゃんは必死だった。
 不器用なほど、真っ直ぐに私を守ろうとしていた。

 ……だから私は、それ以上困らせることなんてできなかった。

 

 母がいなくなってから、お兄ちゃんは前よりずっと優しくなった。
 料理も、洗濯も、学校も、将来のことも。
 全部、全部、気にかけてくれた。

 

 その優しさが――

 

 本当に、苦しかった。

 

 支えてくれる手の温度があたたかいほど、
 私は「家族」という言葉で、自分の気持ちを押し殺した。

 

「ありがとう」と笑うたびに。

 本当は「好き」と叫びたかった。

 

 でも、それは言ってはいけない言葉だった。

 

 だから私は、今日までずっと――
 “普通の妹”の顔を続けた。

 
 
 ――そして。

 

 お兄ちゃんは、サッカーを辞めた。

 

 その日を境に、お兄ちゃんは別人のようになった。

 前は、太陽みたいに周りを照らしていたのに。
 今は、前髪で目を隠して、声も小さくて、覇気のない顔で。

 

 まるで、魂だけがどこかに置き去りになったみたいだった。

 

 信じられなかった。
 私があれほど憧れていた人が、こんなに簡単に光を失ってしまうなんて。

 

 父もいなくなって、母もいなくなって――
 そして、私が“好きになった人”もいなくなった。

 

 本当は――あの時、支える番だった。

 

 家族として。
 妹として。
 いや、それ以上の“何かになりたかった自分”を押し殺してでも、お兄ちゃんのそばにいるべきだったのに。


 
 なのに私は――


 

『どうしてサッカー辞めたの?』


 
 あれは心配なんかじゃなかった。
 ただ、自分の“恋した姿”を奪われた悔しさをぶつけただけ。

 支えるべき相手に、傷をえぐる言葉を吐いた。

 なのに、お兄ちゃんは無理に笑って見せた。


 
『サッカーなんてさ、もういいんだよ。
 ゲームしてる方が楽しいし!貴音も一緒にやるか?』


 
 笑顔はとても柔らかいのに――声が震えていた。

 コントローラーを差し出してくれたその手を、私は冷たく払うように言った。


 
「やらない」



 その直後――兄の部屋の前を通った時。

 扉の隙間から、小さく震えるようなすすり泣きが漏れ聞こえてきた。

 そっと覗いた私の目に映ったのは、

 
 ――ボロボロに腫れた足首を抱え込み、
 ――歯を食いしばりながら、
 ――声もなく泣いているお兄ちゃんの姿だった。

 
 
 その光景が焼き付いて離れない。


 

 最近、お兄ちゃんの同級生にバカにされ、殴られたと聞いた。
 ヘラヘラと笑って話すお兄ちゃんの姿が、
 あの眩しかった背中とあまりにも違っていて……

 私はまた苛立ってしまった。


 
「だって、その人サッカー部なんでしょ?
 サッカーで勝って見返せばいいんじゃない?」

「サッカー?……そんなの、もういいよ。」



 その言葉が胸に刺さって、
 私は“いもしない彼氏”を理由に家を出て、
 お兄ちゃんが作ってくれたご飯を食べなかった。

 あんなに頑張って作ってくれたのに。
 温かい匂いだけが、家に残っていたのに。



 思い出しただけで、胸が締め付けられる。
 息が苦しくて、目の奥が熱くなる。

 

(どうして私は……あの時も、その前も……
 寄り添ってあげられなかったんだろう)


 
 お兄ちゃんがサッカーを辞めた時、
 一番つらかったのは――間違いなく“お兄ちゃん自身”だったのに。

 

「最低だ、私……」


 
 私はいつだって、自分の感情を優先して言葉を向けてしまった。
 慰めるべき瞬間に、突き放すことしかできなかった。

 兄に対する恋心と、
 妹としての立場と、
 子供の頃から抱えてきた依存のような愛情と、
 それら全部が絡まり、ほどけないまま――


 
 私の心は、いまだにぐちゃぐちゃだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

【完結】オレの勇者パーティは全員アホだが強すぎる。

エース皇命
ファンタジー
 異世界に来て3年がたった。  オレの所属する勇者パーティ、イレギュラーズは相変わらず王都最強のパーティとして君臨している。  エルフのクリス、魔術師のジャック、猫耳少女ランラン、絶世の美女シエナ。  全員チート級の強さを誇るけど、どこか抜けていて、アホ全開である。  クリスは髪のセットに命をかけて戦いに遅刻するし、ジャックは賢いもののとことん空気を読まない。ランランは3歩あるくだけで迷子になるし、シエナはマイペースで追い詰めた敵を見逃す。  そんなオレたちの周囲の連中もアホばかりだ。  この世界にはアホしかいないのか。そう呆れるオレだったけど、そんな連中に囲まれている時点で、自分も相当なアホであることに気づくのは、結構すぐのことだった。  最強のアホチーム、イレギュラーズは今日も、王都を救う! ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...