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第17話 入団式
しおりを挟む朝。準備万端――のはずだった。
俺は目覚ましが鳴る前に目を覚まし、まるで映画の主人公のようにシャキッとベッドから起き上がった。顔を洗い、歯を磨き、ヘアセットも完璧。スーツのボタンを留めながら、鏡に映る自分にニヤリと微笑む。
「……さすが俺。やればできる男、飯田雷丸!」
今日は俺にとって特別な日だ。何しろ、人生初のプロサッカー入団式!そしてメディアの前での会見まで控えている。スーツ姿でデビューする俺を想像してみろ――完璧すぎて眩しいな!
そう、この俺が、プロの世界に飛び立つのだ!
あの乱入劇がまさかのプロ入りへの切符になるとはな。人生、何が起こるかわからねぇ。
「ありがとう、村岡……お前の推薦がなければ、俺はただの迷惑男で終わってたぜ!」
感謝の気持ちを胸に抱き、俺はネクタイをキュッと締めた。そしてスーツの襟を正しながら、改めて鏡の前に立つ。
そこに映るのは――
準備万端――朝の男、飯田雷丸の完成だ。
「これが、プロフェッショナルの顔だ……!」
俺は満足げに鏡の中の自分を指差し、軽くウィンク。自分を褒める男、それが俺。準備万端、完璧な朝のスタートだ。
だが、次の瞬間、俺は気づいてしまった。
「……あれ?」
ふと時計に目をやると、針が指していたのは 入団式開始5分前。
「お、おい……ウソだろ!?まだ家だぞ、俺!!」
準備が完璧すぎた男、まさかの大遅刻確定――。
あまりに朝の自分が完璧すぎて、鏡の前で「俺のプロ人生最高!」みたいなポーズを決めてた時間が完全に仇となったのだ。
「や、やべぇぇぇ!!」
俺はスーツの襟を直すどころか、靴下も片方履けないまま玄関に飛び出す。そして、頭の中の冷静な俺が囁く。
「落ち着け、落ち着け雷丸……冷静さが重要だ。サッカーでも冷静さが勝敗を分けるんだ……で、冷静に考えて、俺、何分で会場に着く?」
スマホを取り出してナビを確認する。画面には、無情にも表示された数字。
「到着予定時刻:50分後」
「いやいやいや!!50分後!?その頃には、式どころか俺のプロ人生が終わってんだよ!!」
冷静どころか、完全にパニック。家から走れば10分は短縮できるかも――でもそもそも間に合わねぇ!タクシー?いや、そんな奇跡が起きる気配もない!
俺の脳内では、主役不在の入団式がフラッシュバックする。
記者たちがざわつく中、チームスタッフが困り果てる。
「どこ行ったんだ、飯田雷丸は!?」
「……実は、鏡の前でウィンクしてたって話ですよ。」
――そんな理由でキャリア終了なんて、絶対に嫌だ!!
「いや待て、俺は諦めねぇ!!」
俺は拳を握りしめ、全力で自分を鼓舞する。サッカー選手にとって最も重要なのは走力――今こそその能力を最大限発揮するときだ!
「人生最大のスプリント、ここでキメる!!」
そして――俺は走り出した。
地面を蹴るたびに、風が俺のスーツをはためかせる。街中を全速力で駆け抜ける俺は、まるで漫画のヒーローのようだ。いや、もはやそれ以上だろ!
ここで始まる、俺力全開の自画自賛タイム――。
「見ろ、この足の回転数!まるでF1カーのエンジンだ!!」
俺の靴底が地面を蹴る音がリズムを刻むたびに、全身からエネルギーがみなぎる。これはもう、ただのダッシュじゃない。俺自身が走る芸術となっている!!
「これが俺の身体能力……!あのプロ練習場で乱入して評価された理由がよく分かるだろ、通行人たちよ!!」
周囲の人々が俺を振り返るのが分かる。驚きと感動、そして少しの恐怖を混ぜた表情を浮かべているじゃないか。
「ハハハ、驚くなよ!これが俺のポテンシャルだ!!」
信号が赤に変わるが、俺はスライディングで横断歩道を滑り抜ける。着地も完璧。
「うおおおお!!スライディングの美しさ、プロレベルだ!!」
街路樹の隙間を駆け抜けながら、俺はさらに自画自賛を加速させる。
「このフォーム……この疾走感……サッカーだけじゃなくて陸上選手でも通用するんじゃねぇか!?いや、世界記録狙えるぞ!!」
――だが、まだ終わらない。
急カーブを迎えた瞬間、俺は華麗に反応した。
「来たな、カーブ!よし、アウトからイン!完璧なライン取りだ!!」
まるでラリーカーのようにカーブを抜け、次の直線でさらに速度を上げる。風が俺の髪をかき乱し、スーツが汗で貼り付く。だが、それすらも俺の「プロになる男の格好良さ」を演出しているだけだ!
「ハハハ、スーツ姿で全力疾走する俺……これぞ、真のビジネスアスリート!!」
そしてついに会場が見えた――!だが、時計の針は無情にも秒針を刻む。残り10秒。
「どう考えても間に合わねぇ!!!」
会場は吹き抜け構造。目の前に広がる空間が、俺に決断を迫る。
「行くしかねぇ……」
俺は走りながら拳を握り、俺力(おれりょく)を限界まで高める覚悟を決めた。
「俺はカッコいい!!」
言葉が力になる。
「俺は無敵だ!!」
信念が形を作る。
身体中に電流が駆け巡る感覚。全身がビリビリと震え、スーツのジャケットが風圧でバサバサと音を立てる。
「俺は……飛べる!空だって飛べるんだ!!」
青白い光が体中を包み込み、髪が逆立つ。
俺は拳を握りしめ、全力で地面を蹴り上げた。
「飛べるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして――俺は、飛んだ。
――――――――――――――
会場は、異様な緊張感に包まれていた。
プロサッカーチームの入団会見が始まるはずの時間を、とうに過ぎても、主役である飯田雷丸の姿が見えない。スタッフも関係者も、すでに半ば諦めムードだ。
「一体どうなってるんですか!?飯田君は!」
広報担当者が怒声を上げる。声のトーンはすでに危険域だ。
「ただいま確認していますが……連絡が……まだ……。」
マネージャーは小声で絞り出すも、広報の青筋は増えるばかり。
「生中継なんだぞ!これは放送事故だ!」
スタッフの誰もが状況を打開できないまま、空気はどんどん張り詰めていく。
監督も腕を組み、怒りのオーラ全開。
「あいつ、どこで何してやがる!?デビュー前にキャリア終了させる気か!?」
場の空気は完全に沸点直前――その時だった。
「あれ……なんだ?」
控えめな声がポツリと漏れる。誰かがふと空を見上げたのだ。
その視線を追った者たちも次第に唖然とし、声を失った。
空から――何かが飛んでくる。
「あれ……もしかして……」
一人が呆然と呟き、他の誰もが次第に理解する。いや、理解できない。
スーツ姿の何者かが、空中から滑空してくるのだ。しかも、完璧なフォームで。
「まさか……あれが飯田雷丸だとでも言うのか!?」
〈ドカッ!!〉
音を立てて、雷丸が地面に着地する。完璧すぎるスーツ姿に、整いすぎた髪型。まるでCG映像を見ているような光景だった。
「……ふぅ、ギリギリセーフだな。」
堂々と立つ雷丸の姿に、会場全体が静寂に包まれる。
関係者も観客も、完全に思考停止状態。次に動いたのは――カメラだ。
フラッシュが一斉に炊かれ、静寂を切り裂くように記者たちの質問が飛び交う。
「い、今の……どうやって飛んだんですか!?」
「空中滑空ってどういうこと!?」
「いや、まず何が起きたのか説明を――!」
その全てをさらりと受け流しながら、雷丸はにっこり笑って言い放った。
「待たせたな!!飯田雷丸、参上だぜ!」
監督は頭を抱え、広報担当者は椅子に崩れ落ちる。しかし雷丸は気にしない。
胸を張り、これ以上ないほど自然な声で――
「いやー、ちょっと遅れそうだったから飛んできた!」
関係者たちは固まる。だが雷丸はさらに追い打ちをかけた。
「空を飛んだ理由?それは後でじっくり話すさ。まずは入団会見を始めようぜ!」
会場は完全に混乱の渦。だが雷丸は一人、ポーズを決めて堂々と壇上に立つ。
入団会見の主役は――間違いなくこの男だ。
「遅刻どころか、まさかの空中飛行で登場!新たなスターの誕生か!?」
生中継されていた番組のアナウンサーが、興奮しながら実況する。
カメラが雷丸を捕らえ、彼の堂々たる姿を全国に映し出していた。
「さあ、生中継でお届けしています!なんと、驚愕の登場を果たしたのは、本日の主役、飯田雷丸選手です!」
会場に響くアナウンサーの声。その瞬間、混乱していた観客たちが一斉に注目する。
壇上の雷丸は、視線を独占していることに満足そうな表情を浮かべていた。
カメラマンが慌ただしく動き、アナウンサーがマイク片手に雷丸へ接近する。
「飯田選手、あの、まさかの空中飛行での登場、いったいどういうことなんでしょうか!?」
マイクを向けられた雷丸は、堂々と胸を張り、まるで自分が完璧な計画通りにやったかのように微笑んだ。
「ああ、まぁ、ちょっと遅刻しそうだったからな。最速で来る方法を試してみたんだよ。」
そのあまりにも軽い発言に、会場の空気が固まる。
アナウンサーは戸惑いを隠しきれないまま、次の質問を放つ。
「最速……って、空を飛ぶということですか? それ、普通の人にはできませんよね? 何か特別な訓練でもされているんですか?」
雷丸は少し考える素振りを見せたあと、まるで何でもないことのように言い放つ。
「あ、いや、特に訓練とかはしてないんだよね。やってみたら意外とできた、って感じ?まぁ、普通にやればできるんじゃね?」
「普通に……?」
アナウンサーの声が微妙に裏返る。観客たちも「普通に」の意味が全く理解できず、ざわめきが広がる。
「つまり、あれはアドリブ……だったんですか?」
アナウンサーが恐る恐る尋ねると、雷丸は軽く肩をすくめながら答える。
「ああ、そうそう。なんか遅刻したくなかったし、どうせなら派手に登場してやろうかなって思ってさ。」
雷丸は、あたかも「ちょっと飛んでみた」くらいの軽いノリで答えているが、会場の人々はもちろん、テレビを見ている視聴者も、すでにこの状況が理解できなくなっている。
「それでは、飯田選手、プロ入りについても一言お願いします!」
アナウンサーが無理やり話題を戻そうとするが、雷丸は余裕たっぷりの表情でカメラを見据える。
「ああ、プロサッカー入りか。まぁ、俺にとっちゃ当然だな。やればできるって、ずっと信じてたし。結局、どんなこともタイミング次第だよな。飛ぶにしても、サッカーするにしても!」
アナウンサーは一瞬、どう反応すべきか分からない表情を浮かべたが、すぐに切り替えて突っ込む。
「そ、そうですね! では、そのタイミングというものが、今回の空中飛行とプロ入りを繋げたわけですか?」
「そういうこと!俺ってさ、やる時はやるんだよ。遅刻なんて、普通じゃありえないだろ?だから飛んだ。俺にとっては、それが一番早い方法だったんだ。」
雷丸の言葉に会場の一部から笑いが漏れるが、アナウンサーは笑顔を維持しながら話を続ける。
「なるほど、では最後に視聴者の皆さんに一言お願いします!」
雷丸は、カメラに向かってキリッとポーズを決め、堂々と言い放った。
「視聴者のみんな!俺の活躍、楽しみにしてくれよ!空も飛ぶし、サッカーでも飛ばすぜ!!」
会場は一瞬沈黙し、そして――爆笑の渦に包まれた。
「飛ばすって、何を!?」
「いや、意味わかんないけど面白いぞ、こいつ!」
アナウンサーも思わず苦笑しながら、番組を締めに入る。
「えー、というわけで、本日の主役、飯田雷丸選手でした!彼の今後の活躍に目が離せません!まさに空を飛ぶ勢いでのデビューですね!」
アナウンサーがどうにか締めに入ろうとしているが――
俺はそこで終わりにするつもりはなかった。
スッ……と前に出て、
カメラの真正面に立つ。
「ちょっと待ってくれ。」
スタジオの空気が、ピタリと止まる。
「サッカーの話は終わりでいい。
ここからは――俺の人生の話だ。」
照明が鋭く反射し、壇上の俺の顔がスポットライトみたいに輝く。
ただのスポットライトじゃない。日本中の視線が俺ひとりに集中しているあの、特有の圧力。
しかし、俺は余裕の笑みを浮かべていた。
「俺は――夢のある男だ!!」
その瞬間、会場の空気が一拍遅れて震える。
記者席のペンが止まり、カメラマンの指がシャッターボタンから離れ、監督は「何だこいつ……?」という顔で凍る。
俺はゆっくりと右手を握り込み、胸の前で拳を固めた。
「俺には夢がある。それはな……」
溜める。
この“間”が大事だ。
万人の心を引き寄せ、期待させる。
スターの発言とは本来こうあるべきだ。
そして――。
俺は拳を天へ突き上げ、腹の底から声を張り上げた。
「この世界で――ハーレムを作ることだ!!」
言った。
全国生中継の電波に、堂々と乗せてしまった。
0.5秒。
その短い沈黙の中で、空気が“破裂待ち”の風船みたいに膨らむ。
そして――
会場「…………は?」
アナウンサー「……へ?」
監督「はあああああああああああ!!??」
会見場全体が“フリーズしたパソコン”のように固まった。
広報のタブレットが震え、マネージャーは膝から崩れ落ち、カメラマンは「撮っていいのか!?」と目で確認。
テレビ局の音声スタッフがヘッドセット越しに叫ぶ。
『いまカット!……できません!生放送です!うわああ!!』
だが俺は止まらない。
むしろギアが一段上がった。
視線をカメラへロックオンし、口角を上げ――
「全国のみんな!!聞いてくれ!!
俺は“世界一のハーレム王”になる!!
サッカーも!!ハーレムも!!どっちも本気だ!!」
アナウンサーは既に青ざめ、笑顔が引きつっている。
「い、飯田選手!? それはサッカー選手として……いや、人として、その……!」
アナウンサーが半泣きでツッコんでくるが、俺は余裕の笑みを浮かべたまま堂々と返す。
「大丈夫だ。
ハーレムとサッカーは両立できる!!!」
「いや、そういうことを気にしてるわけじゃないんですけどね!?
倫理とか、常識とか、スポンサーとか……!!」
アナウンサーの声色は、もはや絶望そのものだった。
だが――俺は止まらない。止まる理由がどこにある?
拳を握りしめ、テレビの前の視聴者全員に向かって――渾身の宣言を叩き込む。
「全国の! いや全世界の俺のハーレム入りたい女性!!
どこにいても大歓迎だ!!
応募、待ってるぜッ!!!!」
監督「やめろおおおおおおお!!スポンサーが死ぬうううう!!」
広報「放送事故!! いや大事故!!
燃える!! SNSが全部燃える!!」
記者「タイトルどうすんだよ!?
『新人選手、入団会見でハーレム王宣言』って書くしかねぇだろ!!」
会場は悲鳴と混乱の嵐。しかし――俺だけは満面の笑みを浮かべていた。
完璧なデビューだ。
俺の輝けるサッカー人生とハーレム計画は、今ここから始まる!!
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