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第18話 鑑賞会
しおりを挟む俺はリビングのソファにふんぞり返り、ポップコーンを片手に録画した入団式の映像を再生する。
左右には雪華と焔華。
この布陣――まさに “ハーレム王の玉座” だ。
誇らしげにリモコンを掲げ、カチッと押す。
「さぁ!!雷丸様の輝かしいプロ入り会見――いよいよ開幕です!!」
雪華が突然立ち上がり、
実況アナウンサーのようなテンションで宣言した。
普段のしとやかさ?
そんなものは跡形もない。目がキラッキラだ。
焔華はソファから前のめりになり、狐耳まで画面へ全集中している。
「くるぞ……くるぞ……!」
そして――
画面には、完璧なスーツ姿の俺が空中を優雅に滑空する映像が再生された。
「おおおおおお!! 雷丸じゃあああ!!
ほ、本当に飛んでおるぞおお!!」
焔華が腹を抱えて爆笑して転げ回る。
画面の中のカメラマンが動揺しながら叫ぶ。
《な、なんだあれは!?人間か!?》
雪華も目を離さないまま、青ざめた声でつぶやいた。
「ら、雷丸様……本当に滑空してます……!
揚力(リフト)と抗力(ドラッグ)のバランスが完璧に取れています……!
もはや人間の挙動じゃありません……!」
俺はそんな二人を横目で見ながら胸を張る。
「へっ、人間限界突破男・飯田雷丸だからな。」
再生はそのまま続き、会場で騒然となっているアナウンサーや観客の姿が次々と映し出される。映像の端には、混乱しながらも必死に実況しようとするアナウンサーの悲鳴じみた声が入り、もう完全にバラエティ番組の様相だ。
その異常な現場を見て、ついに雪華が肩を震わせ――堪えきれずに吹き出した。
「ぷっ……ふふっ……これ、サッカー選手の入団会見じゃなくて……
ほとんど雷丸様の一人劇場じゃないですか……!」
普段は冷静沈着な雪華が、目に涙を浮かべながら笑っている。そんな彼女を見るのも珍しくて、俺はちょっと得意げになる。
「うむ……!場の空気すら炎に変えて支配しておる……!
さすが雷丸じゃ!
わしの見込んだ男は違うのう!!」
焔華はテレビの前で尻尾をブンブン振り、狐耳パコパコさせながら絶叫。
テンションが振り切れている。
「ふふ……そうだろ?」
俺はソファにふんぞり返り、ドヤ顔で顎をクイッと上げる。
そして――
リビングのテレビ画面に、いよいよ“例のシーン”が映った。
画面の中の俺が、ゆっくりと拳を握りこみ、胸の前で固める。
『俺には夢がある。それはな……』
そして、拳を天へ突き上げ――
『この世界で――ハーレムを作ることだ!!』
リビングの空気が一瞬、完全に静止する。
……の、ほんの0.5秒後。
「言ったーーーーーー!!!」
雪華がテーブルをバァンッと叩き、両手で顔を覆いながら悲鳴を上げる。
「つ、ついに……ついにやりましたよ雷丸様……!!
全国ネットでのハーレム宣言ッッ!!
入団会見で!!!やる人います!?これ!!?」
完全に壊れた雪華のリアクションに、俺はますます気分が良くなる。
「だろ?
やる時はやる男ってのは、こういうことなんだよな。」
俺は胸を張り、俺自身の勇姿を俺が褒めるという謎の構図が完成する。
そして――問題の“あの場面”がついに再生される。
『全国の!! いや全世界の俺のハーレム入りたい女性!!
どこにいても大歓迎だ!!
応募、待ってるぜッ!!!!』
画面の中の俺が満面の笑みで指を突き出した瞬間――
ピッ!
という効果音とともに映像が強制終了。
直後に切り替わったのは――
【ニュース速報】交通渋滞情報
道端の渋滞マップがドーン。
一瞬の静寂。
そして――
「ぶははははははは!!!」
焔華、ソファの上で転げ回る。
尻尾までバタバタ暴れ、もはや画面どころか空気も揺れている。
「くっ……ふふっ……!交通情報で終わるなんて……面白すぎます……!」
雪華は肩を震わせ、目に涙を浮かべながらハンカチで必死に拭っている。
一方の俺は――当然、腕組みを決めたままドヤ顔全開だ。
「いや~、まさか中継が切られるとは予想外だったな!
完全に放送事故だろ、あれ!」
俺が自信満々に語ると、焔華はソファの上で尻尾をばっさばっさ振りながら爆笑した。
「いやいや!!雷丸のハーレム計画自体が事故じゃろ!!」
「失礼な!俺のハーレム計画は“未来への投資”なんだよ!」
必死に反論する俺を見て、雪華も涙を拭いつつ苦笑いする。
「雷丸様……未来への投資って……
交通情報に負ける投資計画、聞いたことありませんよ……!」
その言葉でまた笑いが再燃し、リビングは笑いの嵐に包まれた。
焔華と雪華は息を切らしながら、それでもリモコンを奪い合って何度も例のシーンを巻き戻す。
「ほらほら、もう一回再生じゃ!あの瞬間がたまらんわ!」
「雷丸様の声が“ピッ”で消える瞬間……何度見ても完璧です……!」
焔華は狐耳をぴこぴこ揺らしながら転げ回り、
雪華も普段のクールさを完全に忘れてクスクス笑い続けている。
俺は二人の反応に満足しつつ、胸を張ってドヤ顔をキメる。
「でもよ、あの“ハーレム募集”のおかげで――
俺のSNSに応募者が殺到したんだぜ?」
その言葉に、焔華の狐耳がビクッと跳ね上がる。
「おぬし、あの後ハーレムの募集を本当にしおったのか!?」
「当たり前だろ?」
俺は胸を張り、さらに自慢を続ける。
「それでな……なんと俺のフォロワー数が――
400人から、一気に200万になったんだ!」
「に……にひゃ……!?
200万だとぉぉぉ!?!?!?」
あまりの衝撃に、焔華の狐耳が垂直にそびえ立つ。
雪華も、普段の冷静さが吹き飛ぶほどの目を見開いた。
「……雷丸様。すごすぎます……。
本当に、ハーレム王の名にふさわしいフォロワー数ですね……!」
「だろ?俺は数字すら惹きつける男なんだよ。」
俺はポップコーンをつまみながら、完全に“玉座の王”の姿勢でふんぞり返る。
その時、焔華がふと思いついたように呟いた。
「……それだけのフォロワーがいるなら、
わしの“肉球コレクション”も売れるのではないか?」
「いや待て、急に何の話!?」
困惑する俺を無視し、焔華は胸を張る。
「わしが拾い集めた、動物の肉球そっくりの石じゃ。
全て手磨きでなかなかレアなんじゃぞ?」
「売れるかぁぁぁ!!趣味全開すぎるわ!!」
すると、今度は雪華がそっと手を挙げた。
「あの……雷丸様のフォロワーに、
私の“雪結晶”を販売するのも……ありなのでは……?」
「お前もかよ!!
てか“雪結晶”って何!?」
「新鮮な氷を妖術で加工して作る、美しい雪の結晶です。
溶けません。保存できます。飾れます……。」
「需要が未知数すぎるわ!!
それ、誰が買うんだよ!?」
俺は両手をぶんぶん振り回しながら必死に訴えた。
「200万フォロワーがいるからって、急に通販市場にしようとすんなよ!
あれは俺の“ハーレムSNS”なんだぞ!?」
しかし焔華は、まったく聞いていない。腕を組んで真顔でうんうん頷いている。
「ふむ……では、肉球コレクションと雪結晶をセットで売るのはどうじゃ?」
「なんでいきなりコラボ始めてんだよ!?
しかも俺ほぼ関係ねぇだろそれ!!」
すると雪華が、珍しくキラキラした目で焔華の案に乗っかってくる。
「いいですね、それなら“限定BOX”として販売できます!」
「お前まで参戦すんな!!
俺のフォロワー200万だぞ!?
神聖なハーレム募集フォロワーだ!勝手に物販市場に改造するな!」
俺が頭を抱えて叫ぶと、焔華は自信満々に胸を張り、雪華はクールに微笑んだ。
「雷丸がいるから商売が成り立つのじゃ!」
「そうです。雷丸様の存在こそが最大のブランドです。」
「お前ら、俺をどういう存在だと思ってんだ!?
“歩く通販番組の司会者”じゃねえぞ!!」
焔華はケラケラ笑い、雪華は肩を震わせて微笑む。
結局、俺もつられて笑ってしまった。
――これこそハーレム生活の醍醐味だよな。
いや、たぶん違うけど。
そんな騒がしい時間の中。
突然、焔華がふっと真剣な顔になり、こちらをじっと見つめた。
「しかし雷丸……お主、サッカーとやらで昔はすごかったんじゃろ?
どうして一度、辞めてしまったんじゃ?」
珍しくまっすぐな質問に、俺は少しだけ顔をしかめた。
昔は――俺は本当にすごかった。
全国大会優勝。
皆が俺を天才って呼び、俺自身もそう思っていた。
だが――。
「……足の筋をやっちまってな。
それ以来、走れなくなったんだ。」
少し足元を見つめ、わざと“哀愁”を滲ませる。
こういうのは雰囲気が大事だからな。
だが、雪華は即座に鋭いツッコミを入れてきた。
「? でも今は普通に走れていますよね。」
「お、おう……まぁ、それにはちょっと理由があるんだよ。」
俺はニヤリと笑い、焔華と雪華が前のめりになるのを待つ。
二人とも興味津々。目がギラギラしている。
「……お前らに、まだ話してなかったよな。
俺の――異世界での出来事を。」
リビングの空気が一気に静まる。
焔華の狐耳がピンと立ち、雪華は息を呑む。
「異世界……? 本当にあるんですか?教えてください!」
「雷丸!それで足が治ったんか!?」
二人の期待が爆発寸前になったところで、俺はゆっくりと口を開いた。
「ああ……実は、俺な――――――」
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