異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

文字の大きさ
20 / 110

第20話 凱旋

しおりを挟む
第20話 凱旋


 次の日

 
 学校に足を踏み入れた瞬間、俺は気づいた――俺はもうただの高校生じゃねぇってことに。
 昨日の入団会見の影響で、完全に俺は学校のスターだ。
 廊下を歩くだけで、生徒たちの視線が一斉に俺に集中してくる。



「あれ、飯田雷丸だぞ!」
「昨日の生中継、マジでやばかったよな!」
「空飛んでたし、ハーレム募集とか言ってたぞ!?何それ!?」



 ――おいおい、俺って今こんなに注目されてんのか?
 まぁ、当然だよな。あれだけのインパクトを残せば、人気者になるのも時間の問題ってわけだ。
 俺はポケットに手を突っ込みながら、余裕の笑みを浮かべて教室へ向かう。

 教室に入った瞬間、全員が俺の方を見て拍手喝采。



「うおお、雷丸!お前、昨日の放送見たぞ!」
「すげー!プロ入りしただけじゃなくて、空まで飛んでたじゃん!」



 俺は笑いをこらえながら、軽く手を振ってクラスメイトたちに応える。



「ああ、みんな、ありがとな。まぁ、俺にとってはあれぐらい普通のことだけどな!」

 

 すると、オタク友達の石井智也が、満面の笑みで、鼻息荒く近づいてきた。



「デュフフフ!!雷丸殿!あ、あの、昨日の空飛ぶシーン……デュフ、どうやって飛んだんでござるか!?ま、まさか、魔法か何かで……デュフホウ!」



 ああ、そうだ。こいつは俺の唯一の理解者、石井智也。
 普段からアニメやゲームの話しかしない奴だが、俺のことを信じてくれている数少ない友だ。
 俺は肩を軽く叩いて、余裕の表情で答える。



「あぁ、魔法みたいなもんだよな。色々あってさ、飛べるようになったんだよ。やろうと思えば誰でもできるんだけど、俺は特別早かったんだよな!」



 石井は「デュフフフフ!!」と笑いながら、俺を尊敬の眼差しで見上げている。
その様子に、周りのクラスメイトも俺に注目し、また「おお~!」という歓声が上がる。



「まぁ、俺はプロサッカー選手として世界を飛び回る予定だけど、空も飛べるし、ハーレムも作っちゃうってのが俺のスタイルだからさ!」



 教室がドッと爆笑に包まれる。



「雷丸、調子乗りすぎだろ!」
「でも、マジでお前ならやりそうだな!」

 

 その時、女子たちが俺の前に集まってきた。



「ねぇ、雷丸くん、本当にハーレム作るの?」
「募集中って本当なの?」



 おいおい、これって俺のモテ期到来ってやつか?
 女子たちの目がキラキラして俺を見つめてくるのを感じながら、俺はさらに調子に乗って返答した。



「あぁ、俺のハーレム計画は順調だぜ。美少女限定だけどな。」



 そう言った瞬間、女子たちがキャー!と小さな悲鳴を上げ、男子たちは「うぉぉ~!」と歓声を上げる。
 俺はもう、この学校の王様だってことを、しっかりと自覚していた。

 後ろの席から、男子がツッコミを入れてきた。



「お前、ハーレムってどうやって作るんだよ!?方法教えろよ!」

 

 俺は自信満々で笑いながら答えた。



「簡単だよ。まずは異世界に飛んで、次に魔王をぶっ倒す。それで、あとは美少女が勝手に集まってくるんだよな!」



 みんながまた大爆笑。

 その時、廊下から担任が教室に入ってきた。
 俺の方を見るなり、笑顔で手を振ってこう言った。



「飯田!昨日のテレビ見たぞ!お前、スゲェじゃねぇか!プロ入りおめでとう!」



 おいおい、先生まで俺に憧れてんのかよ!?

 俺は先生に向かって軽く手を挙げ、さらに調子に乗った返事をする。



「ありがとうございます、先生!まぁ、プロ入りなんて俺にとっちゃ序章ですから!次は世界を征服してやりますよ!」



 教室が再び大爆笑に包まれ、先生も苦笑いしながら「お前ならやるかもな」と言って教壇に立つ。

 その瞬間、俺は教室中の視線が完全に俺に集中しているのを感じた。
 今や俺は学校の頂点に立つ存在――そう、飯田雷丸という名前が、みんなの心に永遠に刻まれた瞬間だった。



 
 

 
 ――――――――――――――――――


 


 

 【貴音視点】


 昼休みの教室。
 

 いつもなら静かに机に向かって過ごしている私のまわりに、
 今日はなぜかクラスメイトたちがニヤニヤしながら集まってきた。

 
 その瞬間――胸の奥で小さな警報が鳴る。
 


 最近、兄・飯田雷丸の名前がテレビやネットで話題沸騰中だ。
 プロサッカー選手デビュー、空中滑空、そして「ハーレム」宣言――当然、そんな騒動は学校にも伝播する。


 
「貴音ちゃんって、雷丸さんの妹でしょ!?」



 騒がしいグループの一人が勢いよく声をかけてくる。
 私は一瞬だけ眉を動かし、硬い声で返す。


 
「……うん、まあ……そう、だけど」


 
 嫌な予感はさらに強くなる。
 だけどクラスメイトたちは、私の表情に気づく様子もなく――

 

「昨日の生中継見た!? あれ、ヤバすぎでしょ!」
「空飛んでたよね!? なんなのアレ!?」
「プロ選手ってだけでもすごいのに、飛ぶって何!?」
「お兄さん、家でもあんな感じなの? 派手?」

 

 そして――
 私が一番聞きたくなかった言葉が、軽い調子で放たれた。


 
「てかさ……“ハーレム作る”ってマジなの?」


 
 ――ハーレム。

 その単語が、ナイフみたいに胸に触れた。
 私は笑ってごまかそうとするけれど、指先がわずかに震える。


 
「あ、あはは……どうだろうね……テレビのノリだよ……きっと」


 

 ぎこちなく笑った瞬間、脳裏に浮かんだのは――
 家で見た“現実の情景”。

 ソファでリラックスしているお兄ちゃん。
 その両隣には、狐耳の女の子と、お淑やかで綺麗な女の子。
 楽しげに話して、笑って、まるでそこが“お兄ちゃんの世界”みたいで。

 

(そこに……私は、いない)


 
 胸の奥がキュッと握られるように痛む。

 

 クラスメイトたちが盛り上がる。


 
 
「美少女募集中って本当だったのかな?」
「応募したら入れるかなー? 冗談だけど! あはは!」

「……そうだね、どうなんだろ……」


 
 作り笑いを浮かべれば浮かべるほど、胸の奥のモヤモヤはどんどん膨らんでいく。

 クラスメイトたちが楽しげに兄の話題を続ける中、私は耐えきれず立ち上がった。

 

「ご、ごめん、ちょっと用事思い出したから……!」

 

 勢いのまま教室を飛び出す。
 背後で「え、貴音ちゃんどうしたの?」という声が聞こえたが、振り返る余裕なんてなかった。

 

 廊下に出た瞬間、私は壁に背中を預けて、大きく息を吐き出した。

 

(……苦しい。)

 

 空気を吸うたびに胸がざわつく。
 なのに、そのざわめきは少しも収まってくれない。

 教室から漏れるざわめきが、いやでも耳に入ってくる。

 
 ――テレビでも。
 ――ネットでも。
 ――学校でも。

 
 どこへ行っても 飯田雷丸 の名前ばかりが飛び交う。

 空を飛んだ兄。
 プロとして再び輝き始めた兄。
 そして、世界に向けて堂々と「ハーレム宣言」までした兄。

 その全部が、今の私には――

 まるで私への当てつけみたいに思えてしまう。

 だって私は、あの時……
 お兄ちゃんが一番つらかったその瞬間に、
 本当は支えてあげなきゃいけなかったのに。

 なのに、私は――
 何一つしてあげられなかった。

 それどころか、
 自分の恋心をこじらせて、
 わがままばかりぶつけて、
 お兄ちゃんの傷を広げるような言葉まで言ってしまった。

 
 ――それでも。


 
 お兄ちゃんは変わらず優しかった。

 朝早く起きて、慣れない手つきで私のお弁当を作ってくれたり。
 私の好きな味を覚えて、こっそり夕飯に入れてくれたり。

 私が落ち込んでいると、
 変な顔をしてでも笑わせようとしてくれたり。

 
 ――全部、不器用で。
 ――全部、温かくて。
 ――全部、私のためだったのに。
 

 私は逃げた。
 向き合うべき気持ちからも、
 お兄ちゃんの痛みからも。

 “義理の妹” という線を怖がって、
 大事な瞬間に背を向けてしまった。

 だから今――

 お兄ちゃんが別の女の子たちに囲まれて笑っている姿を見ると、
 胸が抉られるように痛い。

 当たり前だ。
 自業自得。
 全部、私の問題。

 ……それなのに、涙が滲む。


 
(ねぇ……お兄ちゃん。
 私は……もう一緒に笑える場所に、いられないの……?)


 
 廊下でそっと唇を噛む。

 誰にも聞こえないように、震えた息を吐き出した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら

リヒト
ファンタジー
 現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。  そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。  その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。  お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。    ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。    お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

処理中です...