異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第35話 心の隙

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 【雷丸視点】


 今日も俺は全力でアタックだ!
 目指すはもちろん、伊集院静香さん!


 ――いつもなら「結構よ」の一言で即終了するんだけどな、今日こそ俺の本気を見せてやる!


 
「静香さーん!」



 廊下を見つけるやいなや、俺は全速力で駆け寄った。
 おもむろに手に持っていた花束(スーパーで買ったけど気持ちはこもってる!)を差し出しながら、満面の笑みを浮かべる。


 
「これ、静香さんのために用意しました!俺の気持ち、受け取ってください!」



 ……完璧だ!

 そう思った瞬間、静香さんは俺をじっと見つめ――


 
「……ありがとう。」



 ……は?


 耳を疑った。
 いや、目も疑った。
 もしかして俺、幻聴と幻覚のコンボでも発動してる?


 
「い、今なんて言いました!?」



 俺は思わず、確認せずにはいられなかった。


 
「だから、ありがとうって言ったのよ。」



 ――本当に受け入れられた!?



 俺の脳内が大混乱に陥る。
「静香さん=鉄壁」という方程式が、音を立てて崩壊した瞬間だった。


 
「ちょ、ちょっと待ってください!静香さんが『ありがとう』なんて言うわけない!これは何かの罠か、夢か、幻か、それとも呪術か!?」



 静香さんは呆れたように眉をひそめる。

 

「別に罠でも夢でもないわ。ただ、あなたがそこまで一生懸命なら、たまには受け取ってあげてもいいと思っただけよ。」

 

 俺の心臓は爆発寸前だ。
 これはまさに、異世界で魔王を倒した時よりも衝撃的な展開だぞ!?


 
「マジで!?本当に!?じゃあ俺の愛も受け取って――」

「そこまでは言ってないわ。」



 冷静にピシャリと言い放たれ、俺のテンションは急降下。

 
 でも、でもだ!今日は「ありがとう」が聞けたんだ!
「ありがとう」――この一言。
 静香さんの口から出た「ありがとう」という言葉が、俺の胸を貫いた。


 いや、貫くだけじゃ足りない!これは俺の魂を浄化し、天に召されるレベルの破壊力だ!


 
「マジか……!俺、今、夢でも見てんのか!?いや、これが現実……!」



 興奮が止まらねぇ!
 胸の中で何かが弾けた音がした瞬間、俺の体が勝手に動き出した――!

 

「静香さんありがとう!!!」



 大声で叫びながら、俺はその場でターンをキメる!
 まるでダンスの神が降臨したかのような勢いでステップを踏み始めた!

 

「この喜びは俺一人で抱えきれねぇ!踊るぜぇぇぇ!!!」



 右手で拳を突き上げながら、スピン!
 左手で宙を切りながら、ジャンプ!
 そして、見事なガッツポーズと共に決めポーズ――俺はこの瞬間、完全に異世界帰りのダンスキングだ!!


 静香さんは完全に固まっている。
 いや、固まっているどころか、眉間にシワを寄せて呆れ顔だ。


 
「……ちょっと、廊下でそんなに騒がないでくれるかしら。」

「無理です!無理ですってば!!」



 俺は全力でステップを続けながら、さらに叫ぶ。


 
「こんなに嬉しいのに、静かにしていられるわけないでしょ!?これ、俺にとっての国民栄誉賞ですから!!!」

「……何言ってるのかしら。」



 静香さんはため息をつき、俺の踊る姿をじっと見つめる。

 

「まぁ、そこまで嬉しいなら……好きにしなさい。」



 ――マジで!?まさかの許可!?

 

「やったぁぁぁぁぁ!!!」



 俺はさらに回転数を上げて、その場でドリルのようにスピンし始めた!
 さぁ、祝福のダンスはまだまだ終わらねぇ!


 だが、その時――

 

「飯田君、うるさい!」



 廊下の向こうから麗華の怒声が飛んできた。

 
 俺はピタッと動きを止めて振り返る。


 
「え?麗華、今、俺、静香さんに『ありがとう』って言われたんだぜ!?祝うべきじゃね!?」



 麗華は完全に呆れ顔だ。

 

「そんなのどうでもいいから、廊下で暴れないで!みっともないわよ!」



 俺は一瞬ショックを受けたけど、すぐに満面の笑みに戻った。

 

「麗華もありがとう!よし、次は麗華の『ありがとう』を目指して――」

「……いい加減にして!」



 麗華が真っ赤な顔で怒鳴る中、俺はまた踊り始めた。


 
「よし、明日はもっと静香さんに喜んでもらうぜぇぇぇ!」



 俺のハーレムダンス計画はまだ始まったばかりだ!




 ――――――――――――
 
 


 静香さんが書斎から出てこない――これは一大事だ。
 俺は心配になり、そっと書斎の扉を覗いてみた。

 
 中では、静香さんがパソコンに向かって何かを打ち込んでいる。
 その真剣な表情、そして背筋の伸びた姿勢。
 まるで戦場に立つ女将軍のようだ……!

 

「……う、美しい……!!」



 気づいたら心の声が漏れ出ていた。
 いや、こればっかりは仕方ない。仕事に一生懸命な静香さんは、いつも以上に輝いて見える!


 でも、待てよ?
 いくら美しいとはいえ、1日中仕事なんて体に悪いに決まってる!


 俺のハーレム王センサーがビンビンに反応している。


 
「静香さんに疲れを取ってもらうため、俺が動くしかない!」


 そこで俺は、軽食を作り、お茶を淹れることにした。
 愛情を込めてパンにハムを挟み、バターをたっぷり塗る――これぞ、俺特製の「雷丸サンド」だ!


 お茶も、異世界で覚えた秘伝のハーブティー……ではなく、普通の緑茶だが、俺が淹れることで味がワンランクアップするはずだ!


 完成した軽食とお茶を持って、俺は意気揚々と書斎の前に向かう。



 静香さん、待っててくれ!


 
「静香さん、お疲れ様です!これ、俺が作った軽食とお茶です!」



 俺は勢いよく扉を開けて、元気よく声をかけた。

 だが、静香さんは一瞬だけこちらに視線を向けると、すぐにパソコンの画面に戻った。


 
「……何の用かしら?」



 ……あれ?ちょっとだけ予想と違う反応だぞ?


 
「いや、あの……静香さん、1日中仕事してるから疲れてるんじゃないかと思って!これ、食べて元気になってください!」



 俺は笑顔でトレイを差し出した。


 静香さんは手を止めて、軽くため息をつくと、トレイの上の「雷丸サンド」に目を留めた。

 
 
「これ……あなたが作ったの?」

「もちろん!愛情込めて作りました!」



 そう自信満々に言った俺に、静香さんは微妙な表情を浮かべながら一言。


 
「……愛情は要らないけど、まぁ、ありがとう。」



 ありがとう!!!
 再び「ありがとう」が聞けた!!俺の心が天にも昇る勢いだ!


 静香さんの「まぁ、ありがとう」の一言で俺のテンションはマックス。
 だが、次の言葉はさらに衝撃的だった――。


 
「それ、こっちに持ってきてくれる?」



 えっ、マジで!?俺、書斎に入っていいの!?
 だって前に「ここは機密情報が多いから絶対に入るな」って厳しく言われてたんだぞ!?


 俺は信じられない気持ちで、トレイを持ったまま立ち尽くす。

 

「え……いいんですか?」



 静香さんは淡々とした声で答えた。


 
「えぇ、どうせ貴方が見たところで、伊集院家の機密情報は盗まれないだろうし。」



 ……お、おい!それって俺を信用してるってことか!?それとも信用してないってことか!?



 でも、深く考えるのはやめた。何せ今、俺は静香さんの書斎に入るという大チャンスを手にしてるんだからな!



 書斎に一歩踏み入れると、そこは完全に「静香ワールド」だった。
 整然と並んだ資料、ピカピカに磨かれた机、そして机の上にある最新型のパソコン――。
 全部が静香さんの知性と美しさを象徴しているようだった。

 

「あぁ……ここが静香さんの聖域か……」



 思わず感動して呟く俺。
 だが、静香さんは俺のリアクションには目もくれず、パソコン画面を見ながら指を動かし続けている。


 
「そこで置いてちょうだい。」



 指示されて俺は机の端にトレイを置いた。
 その瞬間、俺は思わずトレイに手を添えたまま動けなくなった。


 
 ――近い!静香さんがめっちゃ近い!!


 真剣に画面を見つめるその横顔、柔らかそうな髪の毛の香り……。
 なんだこれ!心臓が破裂しそうなんですけど!!!
 

 
 静香さんは軽く首を傾げながら、俺が作った「雷丸サンド」を手に取った。
 ……ここからが勝負だ!俺の料理スキルが彼女に通じるのか、今試される時!!


 彼女は一口かじり、しばらく無言のまま咀嚼する。


 
「……どうですか?」



 俺はドキドキしながら尋ねた。

 静香さんは咀嚼を終えた後、淡々と言った。


 
「……これ、バターが多すぎない?」

「え!?いやいや、たっぷり塗るのがポイントなんです!」

「これ、パンというより……バターを食べている感じがするのだけど。」

「静香さん、バターは元気の源なんですよ!」



 俺が必死にフォローするも、静香さんは小さく溜息をつく。

 

「まぁ、気持ちは受け取っておくわ。でも、次はもう少しバランスを考えてくれるかしら?」

「もちろんです!次はもっと完璧にして持ってきます!」



 そんなやり取りのあと、静香さんが緑茶を手に取り、一口飲んだ。

 

「……お茶は悪くないわね。」




 ――静香さんが俺のお茶を褒めた!?


 
 もう俺の中でファンファーレが鳴り響いている。
「悪くない」=「最高!」に脳内変換され、テンションは最高潮だ!

 

「ありがとうございます!静香さんのために、これからもお茶淹れます!」



 静香さんは再びパソコンに向き直し、淡々と言った。


 
「いいから、仕事の邪魔をしないでくれる?」

「……はい!」



 こうして俺の「本気アピール作戦・軽食編」は終了した。
 ちょっとしたダメ出しはあったけど、「ありがとう」と「悪くない」が聞けた俺にとっては、これ以上ない大成功だ!

 次はもっと完璧な軽食を作って、静香さんを完全に感動させてみせるぜ!

 

「よーし、次の作戦は――!」



 俺のハーレム王ロードはまだまだ続く!
 
 


 ――――――――


 

【麗華視点】



 私が廊下を歩きながらお母さんの書斎に向かうと、扉が開き、中から上機嫌の飯田君が出てきた。
 しかも、満面の笑顔で鼻歌を歌いながら。

 

「♪静香さん最高、静香さん素敵~、俺のハートは燃えてるぜぇ~♪」


 
 ……何これ。何を見せられてるの、私。


 
「……え?」



 一瞬、思考が止まった。いや、だって飯田君よ?あの飯田君が、お母さんの書斎から出てきたのよ?


 私は慌てて書斎に駆け込み、忙しそうにパソコンに向かっているお母さんに声をかける。


 
「お母さん……今、飯田君が書斎から出てきたけど?」



 お母さんは少しだけ顔を上げ、軽く肩をすくめて言った。

 

「あぁ、彼ね。軽食を持ってきてくれたの。」



 ……軽食?え、飯田君が?


 
「でも、お母さん……書斎って家族以外入れない決まりじゃなかった?」



 私が当然の疑問を投げかけると、お母さんは一瞬だけ目を泳がせたあと、なぜか妙にあっさりとした口調で答えた。


 
「まぁ、彼、バカだし、大丈夫でしょ。」

「……お母さん?」

「だって、彼に機密情報を見せたところで、理解できるとは思えないし。」



 確かにそうかもしれないけど!?
 でも、それでいいの!?私たち伊集院家の誇りはどこに行ったの!?

 

「お母さん、油断しないで。本当に、何かあったらどうするの?」



 私が少し強い口調でそう言うと、お母さんは珍しくバツが悪そうな表情を浮かべた。
 そして、パソコンの画面に視線を戻しながら、小さく溜息をついた。


 
「……わかってるわよ。でも、彼……悪い人じゃないのよね。」



 ……お母さん、それ、どういう意味?


 
 完全無欠のお母さん。
 どんな状況でも冷静沈着で、常に正しい判断を下してきたお母さん。
 そんなお母さんが、今、ほんの少しだけ隙を見せた。


 私はそれに、どうしようもない違和感を覚えた。



 ――まさか、お母さんが……飯田君のことを?



 いやいや、そんなわけないでしょ。お母さんだもの。
でも……でも、もしかして……?


 私は飯田君のさっきの上機嫌な様子と、お母さんの微妙にバツが悪そうな態度を交互に思い浮かべてしまい、全力で首を振った。


 
「ないないないない!ありえない!!」



 廊下に響く私の独り言を聞いた使用人たちが、驚いた顔で私を見ていたけど……もう、そんなの気にしてる余裕もない。


 飯田君……何者なの!?


 私の頭の中は、謎の渦に飲み込まれていった。





 ――――――――――


 
 
【静香視点】



 最初は断固として「書斎に入るのは禁止よ」と突っぱねていたはずだった。
 だって、ここは伊集院家の機密情報を管理する神聖な場所なのだから。


 それなのに――


 
「静香さーん!今日もお茶と軽食持ってきました!」

「……そこに置いておいてくれる?」



 今では当たり前のように、飯田雷丸が書斎の中にいる。



 ……なんでこうなったのかしら。


 
 気がつけば、雷丸は毎日のように軽食を持ってきて、当たり前のように書斎に入ってくるようになった。


 
「静香さん、肩凝ってないですか?揉みますよ!」

「……いらないわ。」

「ですよね!でも、いつでも言ってくださいね!俺、静香さんの健康が心配で!」



 書斎で隣に立っている彼を横目に見ながら、私は仕事に戻る。
 邪魔……ではない。いや、少しは邪魔なんだけど、完全に邪魔とは言い切れない。

 
 そして何より――
 彼の行動に裏がないのが分かってしまうから困る。

 

「静香さん、こんなに長時間働いてると体に毒ですよ!俺がちゃんと見守ってますから!」

「……見守らなくていいから、座っていてくれる?」



 彼が書斎の片隅でちょこんと座り、何かを一生懸命考えている姿を見るたびに、私は心の中で深いため息をついた。



 ――どうして私は、こんなバカを書斎に入れるようになったのかしら。



 だが、そんな私の心を読んだかのように、彼が突然顔を上げて言った。


 
「静香さん!俺、今度はパスタ作ってきます!」

「……雷丸君。書斎は、料理の試食会場ではないのだけど。」



 そう言いながらも、次の日のパスタに少しだけ期待している自分がいることに気づき、私はもう一度、深く深くため息をついた。
 



 
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