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第63話 修学旅行23
しおりを挟む黒瀬と鳥丸が去った後、静香さんの指示を受け、中立派の呪術師たちが現場に駆けつけてきた。彼らは迅速に周囲の状況を確認し、必要な手配を進めていく。その動きは慣れたもので、混乱の後の秩序を取り戻すかのようだった。
俺は、彼らの一人に問いかけた。
「なぁ、放たれた妖怪たちはどうなったんだ?」
首里城の封印が解かれたことで解放された琉球の妖怪たち。その中には、俺が確認しただけでも『マジムン』『ピーシャヤムナン』『無鼻の怪』『龕の精』『アカマター』『大鯖』『ユーリー』『片足ピンザ』『ゴリラ婿、ゴリラ嫁』『乳の親』『インヌ』『飛虎』『カムロ』といった名だたる存在がいた。
さらに、俺が目撃していない妖怪たちも数多くいたはずだ。あいつらが沖縄の各地に放たれたままだとすれば、甚大な被害が出ていてもおかしくない。
俺の不安な気持ちを察したのか、呪術師の一人が淡々とした口調で答えた。
「私たちもここ一帯を捜索しましたが……既にすべて……殲滅されていました。」
「……殲滅?」
俺の声が震える。
呪術師は無言で指を差す。その方向に視線を向けると、そこには――。
瓦礫の山の向こうに、無数の妖怪たちの亡骸が折り重なっている。その姿は、圧倒的な力で完全に屠られた跡だった。『ユーリー』や『アカマター』がどれだけ強かったかは俺自身がよく知っている。それでも――。
「あれで全てのようです。」
呪術師の言葉に、俺は息を飲む。
「黒瀬が……全部倒し切ったのか……」
信じられない光景に言葉を失う俺をよそに、麗華が静かに呟く。
「黒瀬禍月――――彼は怪物ね。」
その声には、明らかな恐怖と敬意が混ざっていた。俺も同意するしかない。
「ああ、あいつは怪物だ……今の俺じゃ、相手になんてならねぇ。」
俺の拳が無意識に力を込める。自分の無力さに悔しさが込み上げてくるが、同時に「いつか追いつく」と決意を新たにした。
そんな時、遠くから一人の男がこちらに歩み寄ってきた。日焼けした肌に包帯をぐるぐる巻いた姿――彼の目には疲労と覚悟が滲んでいる。
「伊集院麗華さん、お久しぶりです。」
低い声でそう言った男に、麗華が驚いたように顔を上げる。
「あなたは……南風見悠翔さん。」
麗華が名前を呼ぶと、南風見は軽く頭を下げた。その動作には、どこか申し訳なさそうな雰囲気が漂っている。
「……本当に申し訳ないです。伊集院家に任せて頂いていた首里城の封印を守りきれず……。」
その言葉に、麗華の表情が少し和らぐ。彼女は静かに首を振りながら答えた。
「封印を破られた責任は、貴方一人のせいではないわ。それに、相手が悪かったもの。」
その麗華の言葉に、南風見も少し肩の力を抜いたように見えた。
「そう言って頂けると……ありがたいです。」
南風見は一息つくと、改めて麗華に向き直り、深々と頭を下げる。その動作には、真剣な謝罪の意が込められていた。
「改めて、申し訳ありませんでした。そして……ご無事で何よりです。」
麗華はその真摯な態度に、少しだけ表情を和らげると静かに頷いた。
「えぇ、謝罪を受け入れるわ。南風見悠翔さんも無事で何よりです。」
麗華の言葉に南風見はほっとしたような表情を浮かべるが、すぐにまた真剣な顔つきに戻り、言葉を続けた。
「これからも、何かあれば全力でサポートさせて頂きます。首里城の件、再発防止に向けて私なりに尽力する所存です。」
麗華はその言葉にもう一度頷き、静かに答えた。
「頼りにしているわ、南風見さん。」
そのやり取りを見守りながら、俺は思わず呟く。
「なんかすごく立派な会話してるけど、俺の存在感、ゼロじゃねぇか?」
麗華がこちらを一瞥し、苦笑混じりに小さくため息をつく。
「飯田君も、少しは見習ったらどう?」
「いや、俺には無理だろ、こんな真面目な空気!」
俺の抗議に麗華は微かに笑いを浮かべ、南風見もそれを見て穏やかに微笑んだ。少しだけ重かった空気が和らいだ気がした。
だが、その次の麗華の言葉に、俺の心臓が一瞬で凍りつく。
「でも、飯田君。貴方もいずれ、こういう真面目な空気に慣れる必要があるわよ?」
「えっ?そりゃまぁ、ちょっとずつ慣れていくつもりだけどさ……」
麗華は真剣な目で俺を見つめながら、言葉を続けた。
「だって、貴方は私の婚約者よ?つまり、伊集院家の当主の婿ということ。それに見合った立ち振る舞いをしてもらわなければ困るわ。」
「えっ……婚約者って……いつの間に決心してたんだ?麗華。」
驚きと戸惑いが頭の中を駆け巡り、言葉がまとまらない。確かに、この沖縄修学旅行の目的の一つは麗華と絆を深めることだったし、いずれ婚約の話が出る可能性も考えていた。だが、まさかこんな唐突に話が進むとは思っていなかった。
麗華はその俺の様子に気づき、冷静な声で説明を続ける。
「だって私……さっき貴方からプロポーズされてそれを承諾したじゃない。」
「えっ……?」
その言葉に、頭の中で記憶が蘇る。
アカマターの石化の魔眼を打ち消すため、俺は麗華に全力で賞賛させた。俺力を高めるためにテンションが上がり、こう叫んだのだった。
「麗華!俺はお前が好きだ!俺と結婚するか!?」
そして、麗華は――
「わ、私も好き!!結婚して!!」
そうだ、確かにあの時、俺たちはお互いに言葉を交わし、婚約成立していた……。
「……確かに、俺、言ったわ……。」
俺は呆然と呟く。
麗華は微笑みを浮かべながら、肩をすくめる。
「というわけで、私たち婚約者同士よ。これからよろしくね、飯田君。」
俺は驚きのまま、少しずつ実感が湧いてくる。じゃあ、麗華も俺のハーレムメンバー入りしたってことじゃねぇか!?これ、めちゃくちゃ嬉しい展開じゃねぇか!?
心の中で歓喜のガッツポーズを決めた俺は、にやりと笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ、麗華も俺のハーレムメンバー入りってことでいいんだな!大歓迎だぜ!」
麗華の顔が一瞬赤く染まったが、すぐに冷静を取り戻した様子でため息をつく。
「……まぁ、そういう言い方は好きじゃないけれど。とにかく、私のことを大切にしてくれるなら、それでいいわ。」
俺は拳を握りしめ、意気揚々と叫んだ。
「もちろんだ!麗華!俺が絶対に守るからな!ハーレム王の嫁としてな!」
麗華は呆れたような表情を浮かべながらも、少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。
南風見は少し離れた場所から、俺たちのやり取りをじっと見ていたが、やがてゆっくりと歩み寄ってきた。
「おめでとうございます、飯田さん、伊集院さん。」
南風見は真面目な目で俺たちを見つめながら、力強い声で続けた。
「伊集院さんは、私たち中立派にとって重要な存在です。そして、飯田さん、あなたがその彼女を支える存在になったというのは、とても大きな意味を持ちます。」
「いや、俺なんかまだ全然頼りないし、そんなに大きな存在でもないけど……」
俺が少し気後れしながら言うと、南風見は穏やかに微笑んだ。
「誰でも最初から完璧な支えになれるわけではありません。でも、あなたが彼女のために命を懸けて戦ったこと、それが何よりも大切だと思います。」
その言葉に、俺の胸にじんわりと熱いものが込み上げる。南風見の真剣な祝福が、俺の心に直接響いてきた。
「これから先、大変なことも多いでしょう。でも、二人で力を合わせれば、必ず乗り越えられるはずです。私はお二人の幸せを心から願っています。」
南風見がそう言いながら微笑むと、麗華も少し照れたように目を伏せながら小さく「ありがとう」と答えた。
俺もつい笑ってしまい、頭を掻きながら言った。
「……なんか、ありがとな。南風見さん。こういう真面目な祝福って、けっこう嬉しいもんだな。」
南風見は頷きながら、俺たちの前で背筋を伸ばし、改めて言葉を紡いだ。
「お二人がこれからも幸せでありますように。そして、何かあればいつでも頼ってください。私はいつでも力をお貸しします。」
その誠実な態度に、俺たちは自然と感謝の気持ちを抱き、同時に未来への希望が少しずつ湧いてくるのを感じた。
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