異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第88話 職場体験2

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【東京某所】
 

「よぉ!!」

 
 俺は大きく手を挙げて、黒瀬禍月に声をかけた。街頭演説のど真ん中で、その威圧感を漂わせながら話している黒瀬。周りにはスーツ姿の秘書やSPが固めていて、まるで現代の武将みたいな雰囲気だ。

 俺と貴音がその場に現れた瞬間、周囲の群衆が少しざわつき始める。



「あれ、あいつ雷丸じゃないか?」
「サッカーの選手だよね?」
「なんでここにいるんだ?」



 通行人が俺たちに気づいてヒソヒソ話し始めたが、俺はそんなの気にせず、堂々と黒瀬の方へ向かった。貴音はその隣で冷静な顔をしてついてきてるけど、やや引き気味だ。



「お兄ちゃん、こんな公の場で、しかも演説中に声かけるなんて……さすがにまずいんじゃない?」



 と小声で貴音が心配そうに言うけど、俺はまったく気にしない。



「いいっていいって、知り合いに声かけんのは当たり前だろ!」

 
 貴音が呆れ顔を見せるが、俺はむしろワクワクしている。この場面、まるで映画のワンシーンじゃねぇか?俺、超カッコいい!

 黒瀬禍月は演説中だったが、俺の「よぉ!」の声に気づいてチラリとこっちを見た。目が合った瞬間、黒瀬の目つきがさらに鋭くなり、眉が少し動いた。あの黒瀬が――微妙にイラッとした表情を浮かべるとはな。



「……お前か、飯田雷丸。」



 黒瀬は演説を一瞬中断し、マイクを持ったまま俺の方へ近づいてきた。観衆が一瞬ざわつく。SPが警戒してこっちに目を光らせているけど、俺は堂々としていた。だって、俺たちは知り合いだもんな。



「久しぶりだな!元気してたか?」



 俺は大げさに手を挙げ、ニヤリと笑ってみせる。

 黒瀬は一瞬無言で俺を見つめた。俺の無遠慮な態度に、まるで「コイツは本当に何も考えてないんだな」とでも思ったように、ため息をもう一度ついた。そして、演説を続けるのかと思いきや、SPに指示して演説を一時中断。マイクを置いてこっちに歩み寄ってきた。



「……いまは街頭演説の最中なんだが、タイミングというものを選べないのか?」



 黒瀬の声は、いつにも増して冷たかった。周囲の警備員たちも、俺にじりじりとプレッシャーをかけてきてるけど、俺はまったく動じない。



「まぁまぁ、そんな固いこと言うなよ。せっかく会えたんだ、気楽に話そうぜ!」



 俺はさらに軽く返して、黒瀬に肩を叩こうとするが、さすがにそれは避けられた。

 黒瀬は顔をしかめていたが、俺に反応しても無駄だと悟ったのか、再びマイクを手に取り、観衆に向けて冷静に言った。



「仕方ない。みなさん、暫くお待ちください。」



 貴音は軽く頭を抱えながら、「お兄ちゃん、もう少し空気読んで……」と呟いたが、それも気にしない。今日も俺を中心に世界が回ってるぜ!





 ――――――――――――





 カフェに入ると、やや静かな空気が流れていた。 俺、黒瀬、そして妹の貴音が一緒にテーブルにつく。この空間で、黒瀬とカフェにいるってだけでもなんかシュールだ。貴音がオレンジジュース、黒瀬と俺がコーヒーを注文したところで、貴音が初めて口を開いた。



「あ、初めまして。飯田貴音と言います。飯田雷丸の妹です。」



 貴音は礼儀正しくお辞儀をし、俺は隣でちょっと誇らしげにニヤリと笑う。やっぱ俺の妹、最高だろ?

 黒瀬は貴音の挨拶に応じて、少し手を挙げながら冷静に言った。



「私は黒瀬禍月だ……。妹の方は常識があるようだな。」

「出会い頭に俺の頭を地面に叩きつけたお前に言われたくねぇわ!」



 思わず反射的にツッコミを入れる俺。沖縄での初対面の瞬間を思い出すと、後頭部がジンジンと痛む気がする。黒瀬、あんたその冷静な顔でやっていいことと悪いことの区別くらいつけろっての。
 

 黒瀬は俺の文句には一切動じず、冷ややかな目で俺を見た後、やや無感情な声でこう言った。



「で、何をしに来た?邪魔をしにきたのか?」



 その一言に、俺はムッとした顔でコーヒーを一口飲みつつ、すぐに返した。



「邪魔?俺がそんなことしに来るかよ。ただ、お前と話がしたかっただけだ!」

「……そんなふざけた理由で、俺の演説を中断させたのか?」



 黒瀬の冷たい目線が俺に突き刺さる。ああ、わかってる、わかってるよ。お前は忙しいんだよな。でも、俺も忙しいんだ!俺はハーレム王として大事なことが山ほどあるし、サッカー選手としてのプロ生活も始まってんだからよ。



「お前だって沖縄の時、俺の頭を叩きつけたろ?それに比べりゃ、話しかけるくらい何でもないだろ?」



 俺の返しに、黒瀬は一瞬眉をピクリと動かすだけだった。



「くだらない。」



 ……やっぱ、こいつマジで感情が読めねぇ。

 だが、ここで引くわけにはいかねぇ!俺は少し前に体を乗り出し、黒瀬をじっと見つめた。



「とにかく、俺はお前と直接話をしたかったんだよ。沖縄のこととか、崇拝派とか殲滅派のこととか、全部。あんたらの派閥にどんな事情があろうと、俺は自分のハーレムと、守るべき仲間を守りたいだけだ!」



 黒瀬はしばらく黙ったまま俺を見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 黒瀬は俺の言葉をじっと聞き終わると、まるで何かを噛みしめるかのように数秒黙り込んだ。そして、まるで重たい鉄扉を開けるように、ゆっくりと口を開いた。



「甘いな」



 ……え?俺の覚悟とか、理想とか、全部ひっくるめて「甘い」って言ってんのか!?黒瀬の冷ややかな言葉に、俺は一瞬動揺したが、彼の視線はコーヒーカップの中に向けられていた。



「そして、このコーヒーは……とても苦い」



 次の瞬間、黒瀬は無言でガムシロップのボトルを取り出し、ドボドボとカップの中に注ぎ始めた。その量、明らかに普通じゃねぇ!マジでガムシロップが止まらねぇ!



「お、おい、そんなに入れて大丈夫か!?苦いのがダメなら、砂糖でよくね?」



 俺が思わずツッコむと、黒瀬は無表情のまま淡々と答えた。



「苦いものは、甘くしなければ飲めない」



 ――その言葉を言い終わる頃には、すでにカップの中はシロップまみれ。おいおい、もはやコーヒーじゃなくてシロップのスープになってんじゃねぇか!?SPたちも俺と貴音もドン引きする中、黒瀬は無言でシロップまみれのコーヒーを一口飲んだ。



「……ふむ。まだ足りないな」



 ――いやいや、何が足りないんだよ!?それ以上甘くしたら、もう飲み物として成立しねぇぞ!?

 俺は唖然としながらも、妙なことを口にし始めた黒瀬をじっと見つめていた。貴音も一緒に困惑気味の顔で俺を見ているが、黒瀬の奇行に一言ツッコミを入れずにはいられなかった。



「だからって、そんなに甘くしなくてもいいだろ!」



 黒瀬はそんな俺を冷ややかに見ながら、淡々と言い放った。



「世の中、甘くないからな……せめて、飲み物くらいは甘くしておかねばな」



 ――えぇぇぇ!?

 おいおい、そんなにガムシロップをドバドバ入れて、飲み物の概念が崩れちまうだろうが!

 俺は一瞬考え込んでから、言葉を選んで慎重に言った。



「お前、いつか糖尿病になるぞ……」



 すると、黒瀬は何の迷いもなく、まるで自信満々に答えた。



「俺は頭を普段から使っているからな。この程度、問題ない」



 ――いやいや、どんな理屈だよ!?俺は思わず自分の頭を抱えた。血糖値が上がるのと、頭を使うのは関係ねぇだろ!?



「いや、頭を使っても血糖値は上がるぞ……」



 黒瀬は冷静に俺の指摘を聞いていたが、そのまま微動だにせず、淡々と次の一言を放った。



「……俺は糖分がないと、脳の働きが鈍る。それが、俺の論理だ」

「論理!?いや、単なる甘党だろ!!」



 俺は完全にツッコミモードに入っていたが、黒瀬はまったく動じる様子もなく、まるでこの状況が予定調和かのようにコーヒーカップを持ち上げた。あのシロップ漬けのドリンクを一口、ゴクリと飲む。



「……うむ。これでようやくバランスが取れた」



 ――お前のバランス、完全に狂ってるだろ!!



 貴音も、隣で「お兄ちゃん、黒瀬さんって……ちょっと変わってるかも……」と、ひそひそ声で俺に耳打ちしてきた。



「いや、かなり変わってるよ……」



 黒瀬がゆっくりと、甘ったるいコーヒーを飲み干しながら、冷静に言い放った。



「それで、このコーヒーのように甘い飯田雷丸。お前、俺と話がしたいと言ったな?」



 ――甘い、だと!? 俺はすかさず反論の準備に入る。



「おいおい、俺はそんなに甘くねぇよ!!」



 心の中で「どう考えても甘党のくせに!」とツッコみたくなるが、そこはグッと我慢しておく。黒瀬は、俺をまるで観察するかのようにじっと見つめながら、ゆっくりとコーヒーカップを置いた。



「そうか……なら、甘くないお前が、何をしに来たのか、聞かせてもらおう」



 その静かな圧力に、俺は思わず背筋を伸ばす。なんだよ、さっきまでガムシロドバドバ入れてたくせに、急にこの真剣な雰囲気はなんなんだよ!?



「いや、だから、俺は自分のハーレムと守るべき仲間を守るために、お前らとちゃんと話をしておきたいんだよ! 俺は甘くねぇし、お前の思い通りにはならねぇ!」



 すると、黒瀬は微妙に目を細めてニヤリと笑った。



「ふむ、強がりだな。だが、実際お前がどれほど甘くないかは、これから分かるだろう」



 ――だから、どんだけ「甘い」ってワード使うんだよ!?俺をお菓子か何かと勘違いしてんのか!?

 俺は自分の立場を必死に守るべく、テーブルをバンと叩き、「俺は甘くねぇ!」と、再び言い放った。

 黒瀬はまたしても無言で微笑みを浮かべ、カップの残りのコーヒーを一口飲んだ。



「……だが、これだけは言えるな。お前の言葉は……甘い」



 ――うっせぇ!

 

 
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