異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第96話 職場体験10

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 天道はグラスを揺らしながら、まるで雑談をするかのように話を続ける。



「ねぇ、雷丸君。鳥丸家って見ての通り、お金がいっぱいあるんだ」



俺は、コーラを片手に微妙に肩をすくめた。「……なんだ、自慢か?」と、軽く流そうとしたんだが、次の天道の一言で、俺の脳内がフリーズする。



「その総資産は……10兆円」

「じゅっ……!!??」



 コーラが喉に詰まりそうになり、俺は思わず咳き込んだ。10兆円!?桁間違ってねぇか!?おい、これただの冗談だよな……?俺の顔が引きつるのを見て、天道はニヤリと笑いながら続けた。



「そう、10兆円だ。これは冗談じゃない。鳥丸家は代々、妖怪崇拝によって蓄えた財産があってね……まあ、これくらいは普通だろう?」



 ――普通じゃねぇよ!お前の普通、どうなってんだよ!?俺は思わず口元を押さえた。冷静にしてようと思ってたけど、こればっかりは無理だ。10兆円って、国家レベルの話じゃねぇか!?

 
 鳥丸は続けて、冷静にとんでもない提案をしてきた。



「この10兆円。君が崇拝派に入ってくれるなら、私の跡取りとしてあげるよ」



 ――――は?



 俺は一瞬、完全に言葉を失った。何だって?跡取り?10兆円?



「10兆円…?」



 頭の中で「10兆円」という数字がぐるぐると回り続けている。10兆円。10兆円って一体どれだけの金額だよ?想像すらできねぇ!俺の脳内に、1000億が100個ある映像がぐるぐると浮かび上がる。10兆円。桁が多すぎて現実味がゼロだ。



「どうだい?その財力を君のハーレムに使ってもいいんだよ?それこそ、君が望むなら……」



 天道はさらに俺を誘い込むように、ニヤニヤしながら言葉を紡ぐ。



「そうだな……たとえば、ハーレム専用の豪華クルーザーとか、ハーレム専用のプライベートアイランドなんかもあり得るんじゃないかな?どうだい、悪くないだろ?」



 ――プライベートアイランド!?クルーザー!?おいおい、さっきから夢みたいなことを次々と提案してくんじゃねぇよ!俺の脳内の現実感がぶっ壊れそうだ!
 


「これが私なりの君への誠意だけど、どうだい?」
 
 

 ――――次の瞬間。

 

「牛角行き放題じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 隣で焔華が急に叫び出したかと思うと、なぜかバットを投げ捨て、両手でギザギザの肩パッドをむしり取った。完全に戦意喪失した様だ。彼女の目はサーロインステーキで輝いている。焼肉の亡者がここにいる。

「雷丸、今すぐ崇拝派に入れ!」と迫る焔華の姿は、完全に肉食系女子の暴走だ。彼女の目は完全に10兆円が特選カルビの山に変わっている。



「いやいや、落ち着け、焔華!」


 
 俺は慌てて焔華を押し戻しつつ、冷静を装った顔を鳥丸に向ける。だが、その裏では頭の中で焼肉とシャトーブリアンのビジョンがぐるぐると踊っていた。『10兆円』――その言葉の重みが俺を揺さぶりまくる。

 
「な、なんで、俺にそこまでするんだ?」と、震える声を抑えつつ鳥丸に尋ねた。

 
 鳥丸はニヤリと笑いながら、一歩近づき、耳元で静かに囁いた。



「私は君を誰よりも評価している」

「君は私の理想像そのものだ。崇拝派のリーダーに相応しい男だよ、雷丸。だからこそ君にこの10兆円を譲る価値がある。」



 10兆円は確かに魅力的だ――いや、魅力を通り越して、完全に頭がクラクラしている。

 一方、焔華はもう別次元に飛んでいた。口元からよだれを垂らし、天に向かって「サーロイン!特選カルビ!トリュフ付き肉巻き!」と踊り出している。完全に肉の亡者。正気を失っている!



「焔華、目を覚ませ!」



 必死に焔華を正気に戻そうとするが、彼女は「10兆円で何でもできる!もう牛角行き放題じゃ!!いや、焼肉チェーン店を丸ごと買収できるぞ!ってか、肉の城でも建てるか!?」と踊り狂っている。何だよこのカオスは……!

 俺の脳内では、焼肉の誘惑と現実の狭間で激しい葛藤が続いていた。焼肉――10兆円――焼肉――俺のハーレム……。何かが崩壊しそうな予感だ!



「と、とにかく落ち着け……!」



 俺は必死に自分自身に言い聞かせるが、頭の中ではまだ特選カルビとシャトーブリアンの大宴会が続いていた。


 いや待て、これはハーレム王としても冷静に判断しなきゃいけない局面だ!


 鳥丸の提案に圧倒されていた俺の脳内で、突然、雪華の冷静な声が響いた。
 


「その10兆円はまともなお金なんですか?」


 
 彼女は鳥丸をまっすぐ見つめ、はっきりとした口調で続けた。



「もし教徒から騙して取ったお金なら、そのお金は雷丸様に使って欲しくありません。」



 鳥丸は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐににっこりと笑って答えた。



「なるほど、さすが雷丸君のハーレムメンバー、しっかりした意見だね。

 

 鳥丸は肩をすくめて続けた。
 


「確かに、鳥丸家の収入源は信者たちだ。だけど、それは彼らが自分の意思で納得してやってることさ。私たちは神のように崇拝されてるんだから、お金を差し出すのも喜びってわけだ。強要なんてしてないよ。」



 ――ん?崇拝の喜びでお金を差し出す?それって普通の感覚か?俺の中で、ちょっとだけモヤモヤが広がった。

 鳥丸はさらに自信満々に言い続ける。



「彼らは自分から寄付してくれるんだ。崇拝派の未来のため、使われるべきお金だと信じてね。だから、無理に要求してるわけじゃないんだよ。」



 ――いやいや、なんかこれ、微妙に洗脳されてるんじゃねぇのか?俺は不安そうに隣の雪華を見た。雪華も鳥丸の言葉をじっと聞いていたけど、その表情はピリッとしてる。



「でも、信者の意思であっても、そのお金が本当に正しい使われ方をしているかどうかは、別の問題です。」



 雪華が冷静に切り返した。
 

 鳥丸は苦笑いを浮かべながら、「貰った物をどう使おうが自由だろう?」と返してきた。

 

 ――いやいや、なんだこの会話!?どんどん深くなってきてるけど、俺、こんな重いテーマに巻き込まれるつもりなかったんだけど……。



「つまり、あなたが言いたいのは、鳥丸家がやることなら、何でも正当化されるってことですか?」



 と雪華がさらに鋭く突っ込む。

 鳥丸は少しだけ笑顔が引きつりながらも、



「もちろんだよ。崇拝の対象が妖怪で、その使いが我々である以上、信者たちは全面的に信頼を寄せている。だから私たちがどんな行動を取ろうが、それは信者たちの期待に応えているだけさ。」



 と返した。


 
 ――やっぱりこの会話、マジで深すぎるだろ……。 俺、どうやってこの場をまとめりゃいいんだよ!?完全に場違いだぞ、ハーレム王としては!


 
 鳥丸が少し笑いながら、「でも意外だね、雪華さん。君は雷丸君のハーレムを容認してるんだろ?もっと倫理観が緩いかと思ってたけど」と突っかかる。

 
 雪華は少しきつい目をしながら、「それとこれとは話が別です。」とピシャリ。



「ハーレムは黙認しますが、雷丸様には道を踏み外してほしくありません。正しい道を進んでいただきたいと願っております。」



 と、毅然とした態度で答えた。




 ――おいおい、雪華!そこだけは一線引いてくれてありがとう!



「雷丸君はどうだい?」



 急に矛先が俺に向いてきた。



 ――え、俺!?何で急に来るんだよ、今めっちゃ話してたじゃん!



「君、ハーレムを目指すくらいだから、倫理観とか柔軟だろ?私と同類さ。ずっと君とは話が合うと思っていたんだよね。」



 鳥丸はにっこり笑いながら、俺をじっと見つめてくる。


 
 ――俺がハーレム王ってだけで、倫理観全部スルーされるのかよ!?ちょっと待て、俺そんな雑に見られてんのか!?


 
 俺は汗が滲む額を拭いながら、何とか返事をひねり出そうとする。



「いや、その……あのさ……確かに俺はハーレム王を目指してるけど、倫理観を投げ捨てた覚えはねぇぞ!?むしろ、俺のハーレムは愛と信頼が基本だからな!」



 鳥丸は俺の言葉に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに再び微笑んだ。「ほほう……愛と信頼か。それもまた一つの形だね。だが、結局それも欲望の延長線上にあるだろう?つまり私と君は、根本的には同じなんだよ。」


 
 ――えぇぇ、なんでそうなる!?俺のハーレムはそんな単純なもんじゃねぇよ!と心の中で叫びながら、さらに追い打ちをかけられる。



「君のハーレムは特別かもしれないけど、結局、君も自分の欲望を叶えるために動いているんだ。それは、私が信者の崇拝を得るために動くのと変わらないだろ?」



 ――そんな雑にまとめんなよ!俺のハーレム、そんな打算的なもんじゃないんだってば!

 

 俺は一気に言い返そうとしたが、隣の雪華がチラリと俺を見て「ここは冷静に」と目で訴えてきた。

 
「……いや、まぁ、俺は愛を重視してるから、そこが違うってことで……」と、何とかその場を取り繕い、鳥丸の熱視線から逃れた。



 ――ただ。

 
 俺は鳥丸を完全には否定できない。そうだ、俺も自覚している。倫理観は緩い方だ。正直、俺のハーレムだって、普通に考えたらぶっ飛んでるし、そこにツッコまれたら返す言葉もない。鳥丸のやってることも……まぁ、なんか「ま、いいんじゃね?」って、つい心の中で許してしまいそうになる自分がいる。



「やれやれ、俺も似たようなもんか……」



 そんなことを考えていた時だった。



「ふふ……」



 ――ん?



 鳥丸の方をちらりと見ると、あいつは俺の心を見透かしたかのように、薄ら笑いを浮かべていた。まるで「そう、君も同じだよね」とでも言わんばかりのその表情。おいおい、もしかして俺の心の中、全部お見通しってやつか?そう思うと、何か急に心臓がドキッとした。



「雷丸君、君は自分の道を進めばいい。私はその姿を応援しているよ。」



 ――なんだその意味深な言い方は!?俺のハーレム道、応援されるのはありがたいけど、なんか鳥丸に背中押されると複雑な気分になるぞ……!

 俺は何とも言えない気持ちで、目の前の飲み物をぐっと飲み干した。
 

 
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