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第97話 職場体験11
しおりを挟む「答えはもう少し考えさせてもらってもいいか?」
俺は少し頭を抱えながら鳥丸に頼んだ。何しろ、10兆円とか跡取りとか、さすがに即答できる話じゃねぇ!
「うん、いいよ。」鳥丸はにこやかに答える。あまりにもあっさりとした返事に、逆に俺がびっくりしてしまった。
――何だこの軽さ!? 10兆円の話だったはずだよな?
「じゃあさ、連絡先交換しない?LINEでいい?」
――え、LINE!?
俺は目を見開いて思わず確認した。
「お前、鳥丸家の当主で住職で、そんなノリでLINEかよ!?」
鳥丸は真剣な顔をしながらも、あっさりと言い放つ。
「もちろんだよ。時代は変わってるからね、連絡手段も最新がいいだろ?」
――いや、どう見てもそんな現代的なキャラじゃないだろ!朱色の柱に囲まれた寺院に住んでてLINE交換って、ギャップがすごすぎるだろ!!
「じゃあこれ、QRコードね!」と、さっとスマホを差し出す鳥丸。――いや、その対応、どんだけ現代的なんだよ!俺は半ば呆れながらも、鳥丸とLINEを交換することになった。
「……マジかよ……これで10兆円の交渉をLINEで進めるのか?」と心の中でツッコミを入れつつ、俺はスマホを握りしめていた。
――――――――――――――――
「だーっ!!疲れた!!」
俺は全身の力が抜けて、伊集院家のソファにダイブした。まるで溶けるかのように体を沈めていく。二日連続で黒瀬と鳥丸、あんな濃ゆいメンツと話したんだから、そりゃあ疲れも倍増ってもんだ。
「お兄ちゃん、お疲れ様」
――ん?肩に優しく触れる手が。振り返ると、そこには貴音が俺の肩を揉んでくれていた。俺の肩にぴったり寄り添いながら、無邪気な笑顔を浮かべてる妹。
「お前だって疲れてるだろうに……なんて優しい妹なんだ……」俺は思わず感動で涙ぐみそうになった。
でも、俺はそこで気づいた。
――ん?この展開、ハーレム王としては完璧すぎじゃねぇか!?ちょっと待てよ、俺、今このソファで贅沢すぎる癒しを受けてんじゃねぇか!?
「いやいや、さすが俺の妹!お前、将来のハーレム女王だな!俺の肩を揉むなんて、完璧なスキルだぜ!」
と思わず口走りながら、俺はまたソファにぐでーっと沈んでいった。
貴音は苦笑いしながらも、「お兄ちゃん、褒めすぎだよ」と言いながら、肩揉みを続けてくれる。
ソファで至福のひとときを味わっていたところ、突然現れた静香さんの冷静な声が響いた。
「雷丸君。貴音ちゃんから纏めてもらったレポートを見たわ。」
――レポート?何だそれ!?そんなの知らなかったぞ!
俺が驚いて貴音を見ると、彼女は少し恥ずかしそうに、ふわっと微笑みながら言った。
「文章に自信はないけど……お兄ちゃんの負担を少しでも減らしたくて……」
「お前、ハーレムの秘書かよ!!」
思わず俺はそう叫んでしまった。妹がこんなにできる子だったとは……!
俺がその場で慌てて体を起こすと、静香さんは淡々と、しかし少し楽しそうに続けた。
「あなた、相当二人に気に入られてるわね……黒瀬禍月と烏丸天道、両方から。」
――そうなんだよなぁ。全然嬉しくねぇんだけども!
俺は心の中で叫びながら、静香さんに顔を向けた。
「でも、あの二人って、妖怪殲滅派と崇拝派のリーダーだぞ!?両方から気に入られるとか、ハーレム王として困る相手すぎるだろ!!俺、平和にハーレム王やってたかったのに!」
そんな俺の焦りをよそに、静香さんはニヤリと笑い、まるで子供の戯言を聞いているかのように軽く返してきた。
「まぁ、あなたにはそれだけの魅力があるってことよ。どっちも、貴方を自分の陣営に欲しがってるんだから、ある意味では羨ましいわ」
――羨ましくねぇ!!どっちもヤバい奴らだぞ!?誰かこの事態を止めてくれよ……!
それでも静香さんは、そのまま優雅にティーカップを持ち上げ、「あなたがどうするかは、ハーレム王としての手腕にかかってるわね」と、またも他人事のように言い放った。
「――――ねぇ、雷丸君?」
突然の静かな声に、俺は驚いて振り返った。静香さんが、いつもと違う、何か重いものを感じさせる表情で俺を見つめていた。
「もし貴方が伊集院家ではなく、他の陣営に行っても、私は文句は言わないわよ?」
「――え?」
思わず口を開けてしまう。そんなこと言われるなんて、予想してなかった。
静香さんは、少し微笑みながら、でもその目はどこか寂しそうに続けた。
「だって、すごい条件じゃない。黒瀬につけば、大統領の後継者としての名声が手に入る。鳥丸につけば、大富豪としての富が得られるのよ。」
「それは……確かに、そうだけど……」
俺は言葉を探しながら、静香さんの言葉に頷いてしまった。実際、あの二人の提示してきた条件は、普通の人間なら飛びつきたくなるようなものだ。
静香さんは、少し目を伏せて続けた。
「それに対して、私が貴方にあげられるものは何もない。それなのに、貴方を伊集院家に縛り付けておくのは……申し訳ないのよ。」
「静香……」
俺は、彼女の言葉の重みを感じて、胸がギュッと締め付けられる思いだった。静香さんは俺を信頼して、ずっと支えてくれていたのに、今は何か迷っているように見える。
「大事な決断よ。しっかり考えなさい。」
静香さんはそう言い残し、静かに部屋を出て行った。俺はただ、その背中を見送るしかなかった。
――何も言い返せなかった。あの二人の提示してきた条件は、確かにすごすぎる。俺はハーレム王として、どうすべきなんだろう……?
でも、俺は……静香さんを見捨てるなんて、そんなこと……できるわけがないじゃないか!
俺はソファに深く腰を下ろし、天井を見上げながら、これからの道について真剣に考え始めた。
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