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第108話 ワールドカップ3
しおりを挟む【アジア地区予選・初戦】
埼玉スタジアム2002――日本最大のサッカースタジアムに、俺たちは足を踏み入れた。
ピッチへと続く通路を抜けると、目の前に広がるのは鮮やかな緑の芝と、何万もの観客が詰めかけた巨大なスタンド。
その光景を見た瞬間、心臓が高鳴る。
「……すげぇな。」
俺は自然と呟いていた。
客席から響く歓声がスタジアム全体を包み込み、鼓膜を震わせる。その音の圧に、体がゾクゾクと反応するのが分かる。
ピッチには、すでにウォーミングアップを終えた相手チームがいた。彼らもまた、ワールドカップ本戦を目指し、ここに立っているライバルだ。
「いよいよ、始まるな。」
隣でキャプテンの長谷川翔が呟く。その表情は普段以上に引き締まり、戦士としての覇気がみなぎっていた。
俺たちは静かに歩を進め、ベンチの前で円陣を組む。チームの士気は最高潮だ。
「さぁ、やってやるか……」
村岡が拳を握りしめながら言うと、チームメイトたちも次々と気合を込めた声を上げる。
「雷丸、調子はどうだ?」
井上が俺の肩を叩く。
「最高に決まってんだろ。俺はこの試合でハットトリック決めて、世界に俺の名を知らしめるつもりだからな!」
俺が自信満々にそう言うと、周りからは「おいおい、調子乗るなよ!」とツッコミが飛ぶが、その誰もが笑っていた。
その時――
「飯田雷丸ーー!!!我らがハーレム王ーーー!!!ここに降臨ーーー!!!!!」
突如、観客席の一角から、まるで実況席かのような大音量の声が響いた。
「――は?」
俺だけじゃない。選手たちも、審判も、相手チームも、スタジアム全体が一瞬固まった。
驚いて顔を上げると、そこには俺のハーレム応援団――焔華、雪華、貴音、麗華、静香さんの姿があった。
全員、日本代表のユニフォームを着ているのはいい。問題は、その格好だ。
なぜか全員、顔に『RAIMARU LOVE❤️』とペイントし、特注の赤と青のサッカー用応援マントを羽織り、さらには特大メガホンまで装備していたのだ。
焔華が先陣を切り、巨大なタオルを掲げながら叫ぶ。
「さぁ!この戦場に降り立ったるは!我らがハーレム王!!」
雪華が続く。
「雷丸様はサッカーも世界一なのです!雷丸様の足元は神の領域なのです!!」
貴音がさらにテンションを上げる。
「お兄ちゃーーーん!!!ぜっっったいにカッコよく決めてねぇぇぇぇ!!!」
麗華は……顔を赤らめながら、なぜか観客席で旗を振る係になっていた。
「もう……なんなのこれ……恥ずかしすぎる……」
しかし、彼女の旗にはしっかりと、
『雷丸 LOVE!日本の救世主!』
と書かれている。やる気満々じゃねぇか。
極めつけは静香さんだった。
優雅な動きでメガホンを構え、なんと英語でアナウンスを始めたのだ。
「Ladies and gentlemen, behold! The one and only King of Harem, the future legend of world soccer, our beloved IIDA RAIMARU!!!」
――おい待て、なんで英語!?
スタジアム中がざわめく。外国人記者たちも興味津々で静香さんにカメラを向けている。
「うおおおおおお!!なんだこの応援団は!?」「雷丸、もしかして王族だった!?」「これは間違いなくサッカー史上最もカオスな応援団だ!!」
SNSもすぐに爆発し――
『#雷丸応援団』
が即トレンド入り。
「な、なにしてんだよお前らぁぁぁ!!!」
思わず俺は叫んだが、もう手遅れだった。
俺の応援団、全世界に配信されちまってる!!!!
笑いをこらえきれず、俺は思わず膝に手をつき、肩を震わせた。
「くっ……ははは……いやもう、お前ら最高だよ……!!」
気づけば、プレッシャーも緊張も全部吹き飛んでいた。
俺はスタンドに向かって拳を突き上げ、叫んだ。
「よっしゃあああ!!!最高の応援、しかと受け取ったぜぇぇぇ!!!」
焔華が「ふははは!!わしらの応援に応えよ!」と笑い、雪華と貴音が「頑張ってくださいね!」「お兄ちゃん、世界一になってぇ!」と声を張り上げる。
麗華は顔を隠しながらも、しっかり旗を振っている。静香さんは余裕の微笑みを浮かべたまま、「ふふ、楽しみにしているわよ」と小さく呟いた。
「さて……やるか!」
俺は息を深く吸い込み、気持ちを切り替える。
ピッチの中央でボールを蹴る準備をしながら、俺は静かに呟いた。
「さぁ、ハーレム王の伝説、ここから始まるぜ。」
―――――――――――――
【アジア地区予選・日本代表 vs アジア某国代表】
ピッチに立った俺たち日本代表の前に、対戦相手のアジア某国代表の選手たちが近づいてきた。彼らの顔には明らかに余裕の表情が浮かんでいる。
「へぇ、日本代表か……ずいぶんと小柄なチームだな。」
身長190cmを超えるセンターバックの男が、見下ろすように俺たちを眺める。背の高い選手たちが、俺たちの周りを囲むように立ち、ニヤニヤと嘲笑を浮かべていた。
「なぁ、お前らって今世界ランキング何位だっけ?確か……70位くらいだったか?」
別の選手がわざとらしく記憶を探るような仕草をする。周囲のチームメイトもそれに呼応するように笑い始めた。
「ハハハ、日本は本当に落ちぶれたな。ワールドカップに行くつもりか?それとも、ただの観光か?」
「この試合、楽しくなりそうだな。何点取らせてもらおうか?」
「せめて一矢報いろよ、日本代表さんよ。」
口々に俺たちをバカにする声が響く。
俺はそんな彼らの態度を黙って見ていた。肩を組み、俺たちを見下すその余裕たっぷりの姿勢。舐めてかかっているのが一目で分かる。
周りの日本代表の選手たちも、明らかに表情をこわばらせていた。だが、俺は違う。
ニヤリと笑い、相手チームのキャプテンと向き合った。
「へぇ……俺たちのこと、ずいぶんと見下してくれるじゃねぇか。」
俺の言葉に、一瞬だけ相手のキャプテンが眉をひそめる。だが、すぐに笑いを取り戻した。
「見下してる?いやいや、現実を言っただけだよ。歴史的に見ても、日本はアジアで二流のチームだろ?」
「それが証拠に、お前たちがワールドカップで何か成し遂げたことがあるか?」
挑発するような視線を向けながら、相手チームの選手たちが笑い声を上げる。
だが――
「へぇ……そうか。」
俺はニヤついたまま、肩をすくめた。
「でもな……一つだけ教えてやるよ。」
俺はゆっくりと、彼らの目を見据えながら続けた。
「俺がこのチームにいる時点で、これまでの日本とは違うってことをな。」
その言葉に、相手チームの選手たちの笑い声が少し小さくなった。
俺は堂々と胸を張り、鋭い視線で相手を睨みつける。
「試合が終わったあと……その余裕、まだ残ってるといいな?」
その瞬間、俺の背後から仲間たちの気迫が伝わってきた。日本代表の選手たちは、俺の言葉に呼応するように、静かに闘志を燃やし始めている。
キャプテンの長谷川が俺の隣に立ち、腕を組んで笑う。
「ふっ、俺たちが二流かどうか……試合で証明しようじゃねぇか。」
村岡がボールを手に持ち、無言でニヤリと笑う。
その場の空気が変わったのを感じた。
――余裕ぶっこいてるのも今のうちだぜ。
俺は静かに拳を握りしめる。
レフェリーがホイッスルを吹き、いよいよ試合が始まる――!
――――――――――
――――試合が始まって数分。
相手チームは序盤から強烈なハイプレスを仕掛けてきている。体格に勝るフィジカルモンスターたちが、執拗に日本代表の選手たちに圧力をかけ、パスコースを遮断しようとしている。
「なかなか荒っぽいな……」
俺は前線で動きを止めず、フィールド全体をじっくりと観察していた。
キャプテンの長谷川は最終ラインから的確な指示を飛ばし、冷静にチームをコントロールしている。彼の声があるだけで、ディフェンスの統率は崩れない。
「村岡、もっと開け!」
「山崎、ワンタッチで捌け!」
長谷川の指示に、ボランチの山崎と藤井が素早く反応する。彼らは相手のプレスをかわしながら、細かくパスを回し、確実に前へとボールを運んでいく。
村岡も相手ディフェンダーの間で絶妙なポジショニングを取り、いつでも裏へ抜け出せる準備をしている。まるで忍び寄る影のように、気配を消しているが、動きの一つ一つが計算され尽くしているのが分かる。
「いいねぇ……みんな、それぞれの役割をしっかり理解してやがる。」
俺はまだボールに触れていない。だが、それがいい。試合の流れを掴むには、まず周りをしっかり見極めることが大事だ。
相手のディフェンスラインは高めに設定されている。これはつまり、裏にスペースがあるということ。
「……チャンスは必ず来る。」
俺はその瞬間を見極めるため、じっと動きを観察し続けた。
相手のセンターバックの癖、ボランチの守備の動き、キーパーのポジショニング……細かい部分まで把握しながら、俺は自分の出番を待つ。
そして、ついに――
藤井からの縦パスが、俺の足元へ向かってきた。
「――さぁ、始めるか。」
俺の本当のプレーが、ここから始まる。
瞬間、相手ディフェンダーが一斉に寄せてくる――が、遅い。
「――読めてるんだよ。」
俺はボールに触れる直前、ワンタッチで流すと見せかけ、逆に軽く足裏で引いた。
相手ディフェンダーのタイミングが完全にズレる。スライディングを仕掛けた一人が空を切り、次の瞬間、俺の横にはぽっかりとスペースが生まれていた。
「おいおい、たったワンタッチでこれかよ……!」
実況席の興奮がスタジアムに響くが、俺はそんなもの聞いちゃいない。
目の前の敵、次の敵――全員、俺のプレーに引き寄せられている。
「――利用させてもらうぜ。」
相手ボランチが俺を潰しにかかろうと前へ出てきた瞬間、俺は村岡に軽くパスを出した。
村岡はダイレクトで藤井へ。藤井がまた俺へ。
――完璧なワンツー。
俺は再びボールを受け取るが、すでにマークは二人付いている。
だが、ここで終わる俺じゃない。
相手の足が出る前に、俺はインサイドでボールをほんの少し浮かせた。
「は――?」
相手ディフェンダーが戸惑ったその瞬間――
俺はボールを自分の頭の上にチップキックし、自らの背後に送り出す。
そのまま軽やかにターンしながら、空中のボールをアウトサイドで再び前へ。
――まるで時間が止まったかのような一瞬。
「な、何だ今の……!?」
観客が息を呑む音がはっきりと聞こえる。
そして次の瞬間――
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
スタジアムが爆発した。
相手ディフェンダー二人が置き去りになり、俺は完全にフリー。
もう、俺を止められる奴はいない。
「決めるぞ。」
ゴール前、キーパーが詰めてくる。だが、すでに読めてる。
俺はギリギリまで突っ込み――
足の甲で軽くボールを弾く。
ボールはキーパーの手をかすめ――ふわりと、ゴールへと吸い込まれていく。
次の瞬間――
「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAL!!!!!」
世界中が鳥肌を立てる瞬間だった。
スタジアムはまるで地響きのような歓声に包まれ、実況席ではマイクを通じて絶叫が響き渡る。
「な、何だ今のプレーは……!?人間技じゃないぞ!!!」
「雷丸!!雷丸!!雷丸!!!」
俺はピッチに立ちながら、両手を広げて歓声を受け止める。
ハーレム応援団の声も、誰よりも響いていた。
「雷丸さまぁぁぁぁ!!!」
「世界一の男ぉぉぉぉ!!!!!」
「抱いてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
……おい、最後のやつは誰だ!?
――――――――――――
雷丸の衝撃的なゴールが決まった瞬間、日本代表の士気は一気に最高潮に達した。
「いくぞ、雷丸に続けぇぇぇ!!!」
キャプテン・長谷川が雄叫びを上げ、チームメイトたちが一斉にギアを上げる。
相手チームの動きに迷いが生じているのが、はっきりと分かった。たった一人のプレーで、流れが完全に変わったのだ。
「日本が……押してる!!!」
実況の興奮がスタジアム中に響く。
それまで猛威を振るっていた相手のプレスは緩み、守備陣形が乱れ始める。その隙を見逃さない日本代表の選手たち。
「――今だ!!」
中盤の藤井が鋭いスルーパスを送り込む。反応したのは――
「雷丸!!!抜けたぁぁぁぁぁ!!!!!」
実況席が悲鳴のような声を上げた瞬間、雷丸はすでに相手ディフェンダーをぶっちぎっていた。
加速――そして、ゴール前。
「もらった!」
右足を振り抜く。
ボールはGKの指先をかすめながら、ネットの隅に突き刺さった。
「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOAL!!!!」
会場が揺れる。スタジアムが爆発したかのような歓声。
だが――これはまだ終わりじゃない。
相手のメンタルが完全に崩れ、日本代表が猛攻を仕掛ける。
パスが次々とつながり、攻撃のテンポが格段に上がる。雷丸のゴールが、全員の動きを一段階加速させた。
そして――
後半30分。
「雷丸がまた抜けたぁぁぁ!!!!」
長谷川からのロングパスを、雷丸は華麗なトラップで収める。
瞬間、相手DFが必死にタックルを仕掛けるが――
「遅ぇんだよ!!!」
スピンをかけたヒールキックで相手をかわし、そのまま左足でシュート!!
ボールは美しい軌道を描き、ゴールネットに突き刺さる。
「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOAL!!!!!」
観客席は熱狂の渦。
「ハットトリック!!ハットトリック!!」
観客が総立ちになり、雷丸の名前を連呼する。
ハーレム応援団も大暴れだ。
「雷丸様ぁぁぁぁぁ!!!!」
「世界一ィィィィィィ!!!!」
「私達の旦那ァァァァァ!!!!」
……最後のやつ、誰だ!?
そして――試合終了のホイッスルが鳴る。
日本、3-0で完勝!!
雷丸のハットトリックにより、日本代表が地区予選一回戦を圧倒的勝利で突破したのだ。
その瞬間、日本中が沸いた。
SNSは雷丸の名前で埋め尽くされ、ニュース速報が次々と流れる。
「日本代表、覚醒!!」
「異世界帰りのハーレム王、伝説のハットトリック!!」
「この勢いなら、優勝もあるぞ!!!」
スタジアムでは、日本サポーターたちが泣きながら歓喜していた。
「すげぇ……日本代表、ここまで強かったのか!?」
「いや、雷丸が異常なんだ……」
「このままワールドカップ優勝するんじゃねぇか……!?」
全員が同じことを考えていた。
「これ、優勝あるぞ。」
日本全国、いや、世界中が、その言葉を口にし始める。
ピッチの中央で、雷丸は胸を張って立っていた。
「ハーレム王の次は、サッカーの王様だ――世界、覚悟しとけよ!!!」
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