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第110話 ワールドカップ5
しおりを挟む【日本代表・ワールドカップ本戦出発の日】
ついにこの日が来た。
ワールドカップ本戦に向け、俺たちはVIP専用の飛行機に乗る。搭乗口には、日本代表の選手たちと、それぞれの家族や関係者が集まっていた。
スタジアムとは違う、旅立ちの緊張感。俺のハーレムメンバーたちもしっかりと見送りに来てくれている。
「雷丸様、パスポートはちゃんと持ちましたか?あと、飛行機のチケットはちゃんと確認して……」
雪華が一生懸命に俺のバッグを覗き込んで、パスポートやチケットを何度も確認している。まるで小学生が初めて遠足に行く時の母親みたいだ。
「おいおい、雪華。心配しすぎだって。ちゃんとあるって!」
そう言いながら、俺はパスポートを取り出して見せるが、雪華の不安は消えない。
「本当に……?見せてください、もう一度確認を……」
「お前、完全に俺の母親みたいになってるぞ!」
俺が苦笑いしながらそう言うと、雪華はハッとし、少し頬を染めて小さく咳払いをした。
「い、いえ、私は雷丸様のサポートをするのが役目ですから……!」
その真剣な表情に、俺はつい笑ってしまう。
すると、隣から焔華が大きく腕を組んで、どっしりとした態度で口を開いた。
「ふむ、心配せんでも雷丸ならなんとかなるじゃろう!問題が起これば、わしが一発どかーんと炎で解決してやる!」
「おい、飛行機の中でそんなことしたら即アウトだからな!?」
俺がすかさずツッコむと、焔華は「冗談じゃ!」と笑いながら背中をバシンと叩いてくる。いや、力加減考えろよ!
貴音はそんな俺たちのやり取りを見ながら、目を輝かせてニコニコしていた。
「お兄ちゃん、ブラジルに行ったらお土産たくさん買ってきてね!」
「お前、サッカーの試合の応援じゃなくて、お土産の心配かよ!」
俺が呆れると、貴音は「えへへ」と可愛く笑いながら俺の袖を引っ張る。
そして、そんな騒ぎをよそに、麗華は腕を組みながらクールな視線をこちらに向けていた。
「まあ……貴方なら、どこへ行っても大丈夫でしょうけどね。でも、気を引き締めなさいよ。ワールドカップは、今までとは比べ物にならないほど厳しいわよ。」
「ああ、わかってる。けど――」
俺はニヤリと笑い、拳を握る。
「俺はどこへ行っても変わらねぇ。やることは一つ――ゴールを決めて、優勝するだけだ!」
その言葉に、麗華は少し目を細め、口元に微かな笑みを浮かべた。
静香さんは、そんな俺たちのやり取りを静かに見守りながら、ワイングラス……ではなく、エレガントにコーヒーカップを傾けていた。
「雷丸君、ブラジルでの滞在は長くなるでしょうけど、無茶はしないでね。」
「おいおい、静香さん!俺が無茶しないわけないだろ?」
俺がそう返すと、静香さんは「ふふ、そうね」と苦笑しながらも優雅に微笑んだ。
そして、俺はふとみんなの顔を見渡す。こいつらとはしばらく会えなくなるんだよな……そう思った瞬間、自然と口が動いていた。
「なぁ、最後にみんなハグさせてくれよ!」
その場が一瞬静まり返る。俺の突然の発言に、全員が驚いたような顔をしている。
「ちょ、ちょっと飯田君……!周りに人も居るのに、そんな恥ずかしいことを……!」
麗華が顔を赤らめながら抗議するが、俺は気にせずニヤリと笑う。
「ほら、おいで、雪華!」
最初に手を広げて呼んだのは、雪華だった。
彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ、恥ずかしそうにうつむきながら俺の元へと近づいてくる。
「雷丸様……では、失礼します……」
そう言って、雪華はそっと俺の胸に身を預ける。ふんわりとした優しい香りが鼻をくすぐり、俺の胸元で彼女の小さな手がぎゅっとシャツを握るのが分かった。
「……気をつけて、行ってらっしゃいませ。」
小さく囁かれた言葉に、俺の胸が熱くなる。
「おう、必ず戻ってくるからな。」
俺が優しく背中をポンポンと叩くと、雪華は少しだけ顔を上げ、微笑んでからそっと離れた。頬が少し赤くなっているのが可愛らしい。
その様子を見て、焔華が腕を組みながらニヤニヤしている。
「ふむ、では次はわしじゃな!」
「おう、来いよ!」
俺が両腕を広げると、焔華は迷いなく飛び込んできた。
「おおっ……!?」
豪快なハグだ。まるで力比べでもするかのように、ガシッと俺の背中に腕を回し、グイッと力強く引き寄せる。
「お前、力強すぎだろ……!」
「ふふん、これが愛の力じゃ!」
焔華は豪快に笑いながら、俺の背中をバンバン叩く。
「わしの旦那なんじゃから、ちゃんと世界を獲ってこい!そしたら……」
焔華は一瞬言葉を止め、ニヤリと笑う。
「……帰ってきた時、もっとすごいハグをしてやるからのぉ!」
「お、おう……?」
意味深な言葉を残しながら、焔華は俺を解放した。
次に目を向けたのは貴音。
「貴音、おいで!」
「うん!」
貴音は無邪気に駆け寄ってきて、俺に思いっきり飛びついた。
「お兄ちゃん、絶対に優勝してね!」
「当たり前だろ!」
小さな体をぎゅっと抱きしめながら、俺は優しく背中を撫でた。
「お土産も忘れちゃダメだよ!」
「はいはい、ちゃんと買ってくるからな!」
貴音は満足そうに笑いながら、俺の腕の中でクルッと回るようにして離れていった。
そして――次に視線を向けたのは、麗華。
「麗華、お前も、ほら!」
「……私はいいわよ。」
腕を組んで、少しそっぽを向く麗華。でも、その耳はほんのり赤い。
「ほらほら、恥ずかしがるなって! 俺たち、もう家族だろ?麗華にハグして貰えないと、俺、悲しいよ。」
「…………もう。」
麗華は戸惑いながらも、ゆっくりと俺の前に歩み寄る。
そして、ためらうように俺の腕の中に入ってきた。
「……バカ。無事に帰ってきなさいよ。」
「おう、必ずな。」
俺がそう言って腕を回すと、麗華は少しの間だけじっとして、静かに目を閉じた。そして、ふっと俺の肩にもたれかかる。
ほんの数秒――それだけだったけど、確かに感じる温もり。
そして、最後に静香さん。
「静香さん、俺からのお願いです。最後にハグさせてください!」
俺が冗談めかして言うと、静香さんは微笑みながら、優雅に髪をかき上げた。
「えぇ、勿論よ。」
そう言って、俺の前に歩み寄る。そして、ふんわりと俺を抱きしめた。
優しく、包み込むような温もり。
「あなたのこと、信じているわ。必ず勝って、戻ってきなさい。」
「……はい!」
俺はしっかりとその温もりを感じながら、強く頷いた。
――これで、俺はワールドカップに行く準備が完全に整った。
「みんな、行ってくるぜ!」
彼女たちの声援を背に、俺は飛行機へと向かっていった。
世界を獲るために――。
――――――――――――――
飛行機はゆっくりと滑走路を離れ、スムーズに空へと上昇していく。窓の外には小さくなっていく日本の景色が広がっていた。いよいよ、ワールドカップの舞台へと向かう。
機内は、日本代表の選手たちの興奮と緊張が入り混じった独特の空気が漂っていた。
後ろの座席では、キャプテンの長谷川がリラックスした様子でスポーツ雑誌をめくりながら、隣に座る副キャプテンの藤井と軽く談笑している。
「いよいよだな。」
「ですね、長谷川さん。ここまで来たら、あとは俺たちがどれだけやれるか……本番が楽しみっすね。」
藤井はそう言いながら、軽く拳を握る。彼の表情には、自信とワクワクが滲み出ていた。
一方で、守備の要・井上は静かにタブレットを開き、試合のデータを分析していた。
「井上、お前またデータ見てんのか?」
隣に座る山崎が苦笑しながら声をかけるが、井上は目を離さずに答える。
「当たり前だろ。ワールドカップは甘くないからな。事前に相手の動きを頭に入れておくのは基本だ。」
「まぁ、お前がそうやってくれてるおかげで、俺たちは安心してプレーできるけどよ。」
山崎は肩をすくめながらも、頼もしそうに井上を見ていた。
そんな静かな機内で――俺は別のことを考えていた。
「さて、ハーレム王たるもの、このフライト中も楽しむ必要があるよな。」
そう呟きながら、機内販売のメニューを手に取った。ページをめくるたびに、お菓子、ドリンク、飛行機限定の豪華セットまで揃っている。
「おぉ、これ全部頼んだら豪華パーティーできそうだな!ハーレムパーティー in 飛行機ってのも悪くねぇ!」
俺はニヤリと笑い、すぐさまキャビンアテンダントを呼んだ。
「すみませーん!」
しばらくして、綺麗なキャビンアテンダントが笑顔で近づいてくる。
「はい、お客様?」
「これ全部ください!」
俺の言葉に、キャビンアテンダントは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「……全て、ですか?」
「そうそう!全部だ!俺はハーレム王だからな、何事も盛大にやる主義なんだよ!」
俺は自信満々に胸を張る。
キャビンアテンダントはクスッと笑って、「では、しばらくお待ちください」とプロの笑顔を崩さずに去っていった。
すると、そのやり取りを見ていた村岡が、隣で肩を震わせながら笑いをこらえていた。
「お前……マジで全部頼むとはな……!」
呆れたような、それでいて楽しそうな声が聞こえてくる。
俺は満足げに腕を組み、ニヤリと笑いながら答えた。
「一度やってみたかったんだよ!」
飛行機の機内販売で「全部ください」――これは、俺の中で密かに温めていた夢のひとつだった。
そんな俺たちのやり取りを聞いていた前の席のベテランセンターバック・柴田が、興味深そうに振り向いた。
「ん?どうしたんだよ?」
「雷丸が、機内販売を“全部ください”って注文した。」
村岡が笑いながら説明すると、柴田は目を丸くした後、思いっきり吹き出した。
「ははっ!マジか!?お前、どこ行っても変わらねぇな!」
しばらくすると、キャビンアテンダントがワゴンを押して戻ってきた。そこには、機内販売のスナックやドリンク、ホットミールまでずらりと並んでいる。
「お待たせしました、お客様。こちら、すべてご注文の品になります。」
ワゴンいっぱいに積まれたスナックやドリンク、機内限定の豪華セットがズラリと並んでいる。
「おぉぉ、すげぇ!」
俺は目を輝かせながら、次々と商品を受け取る。
周りのチームメイトたちも、この異様な光景に唖然としながらも、ついには笑い出した。
「おいおい、どんだけ頼んでんだよ!」
「これ、普通に宴会レベルじゃねぇか!」
「これはもうチーム全員で楽しむしかねぇだろ!」
俺の注文をきっかけに、機内は一気に賑やかな空間に変わった。
「キャプテン、このコーヒーどうっすか?」
俺が手渡すと、長谷川キャプテンは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐにフッと笑ってカップを受け取った。
「……お前、意外と気が利くな。」
そう言いながらコーヒーを一口飲み、「悪くない」と満足そうに頷いている。普段はクールなキャプテンだが、こういう場面ではしっかり乗ってくれるのが頼もしい。
「大久保さん、お子さんにこれどう?」
俺が差し出したのは、機内限定のぬいぐるみ付きお菓子セット。
「おっ、ありがとな!うちのガキ喜ぶわ。」
「山崎さん、井上さん、これどうっすか!?」
俺は機内の軽食セットを二人に差し出す。
「おっ、悪くねぇな。」
「まぁ、試合前の栄養補給にはなるか。」
山崎と井上は、少し呆れながらも手を伸ばして受け取る。二人ともプレー中は真剣そのものだが、こういう時は割とノリがいい。
俺の配りっぷりを見ていた村岡が、苦笑しながら肩をすくめた。
「お前、完全に機内のホストみてぇになってんぞ。」
「まぁな! ハーレム王たるもの、仲間を楽しませるのも仕事のうちだろ?」
「そういう理屈になるのかよ……」
俺はニヤリと笑いながら、村岡に向かって小さな箱を差し出した。
「ほら、村岡、お前はこれ!」
「いらねぇ!なんだこれ!」
村岡が怪訝そうな顔で受け取ったのは、機内販売のページの隅っこにひっそりと載っていた――謎のカプセルおもちゃ。
「“空飛ぶサウンドチキン”……?なにこれ?」
村岡がパッケージを眺めながら眉をひそめる。箱には、羽を広げた黄色いニワトリのイラストと、「ボタンを押すと衝撃の鳴き声!」の文字が書かれている。
俺は得意げに頷いた。
「これな、押すと“ギィエエエエエエ!!”って鳴くんだよ。しかも、振ると羽がバタバタ動く仕様らしいぞ!」
「いや、いらねぇだろ、こんなの!そもそも機内で鳴らしたら迷惑だろ!」
村岡は突っ返そうとするが、俺はさらに畳みかける。
「まぁまぁ、せっかくだから鳴らしてみろって!ワールドカップの遠征記念だぞ!」
「記念品のチョイスおかしいだろ……!」
しかし、周りの選手たちはすでに興味津々。
「おいおい、ちょっと鳴らしてみろよ!」
「どんな音がするか気になるな!」
「村岡、ここは男を見せろ!」
無駄に盛り上がるチームメイトたち。村岡は渋々箱を開け、中から出てきた黄色いニワトリのおもちゃを手に取った。
「……ホントに押すぞ?俺は責任取らねぇぞ?」
そう言いながら、村岡はゆっくりとボタンを押した。
次の瞬間――
「ギィエエエエエエエエエエエエ!!!」
機内に響き渡る、想像以上に騒々しい鳴き声。しかも、連打できる仕様だったようで、村岡の指が止まらずに――
「ギィエエエエエ!ギィエエエエエ!ギィエエエエエエエエ!!」
「おい、うるせぇ!!」
「めっちゃうるさいじゃねぇか!これ、想像以上にやべぇぞ!」
「誰だよ、こんなの機内販売に入れたやつ!」
チームメイトたちは大爆笑しながらツッコミを入れ、俺は腹を抱えて笑い転げる。
「くっそ!予想以上に面白ぇじゃねぇか!!」
村岡は呆れながらも、「バカか、お前!」と俺の肩を小突くが、表情は完全に楽しんでいる。
その後も数分間、俺たちはニワトリの鳴き声をネタに笑い続け、機内はまるで遠足のような賑やかさに包まれた。
ワールドカップ本戦はすぐそこ。でも、こうして仲間たちと楽しい時間を過ごすのも大事なことだ。
――――――――――
機内でのハーレムパーティーもひと段落し、飛行機は順調に目的地へと向かっていた。俺は座席に深く腰を下ろし、周りを見渡す。
キャプテンの長谷川は雑誌を読んでいるが、時折目を閉じて集中力を高めているようだった。村岡はイヤホンをつけ、リズムをとりながら音楽を聴いている。
そんな中、俺は手持ち無沙汰になり、軽く腕を組んで考えた。
「さて、次は何するかな……」
機内の小さな娯楽では物足りない。ワールドカップを前にした代表選手として、常にエンターテイメントを求めるのが俺のスタイル――そう思いながら、何か面白いことがないか目を凝らす。
そのとき、先ほど機内販売の注文を受けてくれたキャビンアテンダントが、ワゴンを押しながらこちらへ歩いてくるのが目に入った。
涼しげな微笑みを浮かべながら、客席の間を優雅に進む彼女の姿は、まるで機内を舞台にしたトップスターのようだった。
「やぁ、さっきはありがとうな!」
俺は軽く手を挙げて声をかける。彼女は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑みながら立ち止まった。
「いえ、お気になさらず。お楽しみいただけましたか?」
「おう、最高だったぜ。おかげで機内パーティー、大成功だ。」
そう言いながら、彼女の名札に視線を落とす。
『藤咲 綾乃(ふじさき あやの)』
「藤咲綾乃さん、か。なんか気品ある名前だな。」
すると、彼女は少しだけ頬を染め、控えめに微笑んだ。その仕草はプロとしての完璧な接客の中にも、どこか親しみやすさを感じさせた。
「ありがとうございます。」
俺は腕を組み、堂々と胸を張ると、改めて自己紹介することにした。
「俺の名前は飯田雷丸!異世界帰りで、魔王を倒した男――そして、サッカー界に旋風を巻き起こす、未来のワールドカップ優勝者だ!」
自信満々にそう言い放つと、周囲にいたチームメイトたちがクスクスと笑い出した。村岡は呆れたように肩をすくめ、長谷川は「また始まったよ」と苦笑いしている。
しかし、藤咲綾乃は驚くでも呆れるでもなく、落ち着いた様子で微笑みながら答えた。
「ええ、存じ上げています。」
その一言に、俺は一瞬きょとんとした。
「ん?俺のこと、知ってんのか?」
綾乃は微笑を崩さず、静かに頷いた。
「ええ。飯田雷丸さん――あなたは今、日本中で話題の選手ですから。」
「えぇ!?マジかよ!」
俺は思わず身を乗り出し、興奮気味に叫ぶ。
「綾乃さんみたいな美人に知られてんのかよ、俺!」
ニヤリと得意げに笑いながら言うと、綾乃はクスッと笑みを浮かべ、少しだけ肩をすくめた。
「それに……」
彼女は少し考えるように視線を横に流し、それから俺に向き直った。
「――私の弟も、あなたの大ファンなんですよ。」
その言葉に、俺は思わず目を丸くする。
「マジか!?それは嬉しいな!」
「はい。弟はずっとサッカーをやっていて、雷丸さんのプレーをよく研究しているんです。あなたの試合がある日は、テレビの前から離れませんよ。」
綾乃が穏やかに語るその表情には、弟を思う姉の優しさがにじみ出ていた。
「へぇ~、そりゃあ光栄だな。じゃあワールドカップ本戦でも、弟さんの為にも、もっとすげぇプレー見せてやるよ!」
俺が拳を握って宣言すると、綾乃は「弟もきっと喜びます」と微笑みながら頷いた。
――よし、俺のことを知ってくれてるなら話は早い!
俺はニヤリと笑い、ぐっと綾乃に身を乗り出す。
「……なぁ、綾乃さん。」
綾乃は少し驚いたように瞬きをした。
「はい?」
「俺の事を知っているならさ、俺がハーレムを作ってるのも知ってるよな!?」
――その瞬間、周りが一気に静まり返る。
日本代表のメンバーが「ん?」という顔をしてこちらを見る。
俺はまったく気にせず、さらにズバッと言い放った。
「単刀直入に言おう、君――俺のハーレムに興味ないか?」
――ゴトン!!
「……は?」
綾乃がポカンとした顔をするのと同時に、俺の後ろから何かが崩れ落ちる音がした。
振り向くと――
長谷川、大久保、村岡の3人が見事にズッコケていた。
「お前、飛行機の中で何言ってんだよ!!」
まず立ち上がったのはキャプテン・長谷川。
「機内でハーレム勧誘するやつ、聞いたことねぇぞ!?」
村岡は呆れた顔で頭を抱えている。
「なぁ雷丸……お前、いったいどこまで突き抜ける気なんだよ……」
大久保は苦笑しながら、肩をすくめた。
「まぁ、雷丸らしいっちゃらしいが……もう少し場を考えろよ。」
だが、俺はまったく動じない。
「いやいや、チャンスがあれば全力で行くのが俺の流儀だからな!」
そう言い放つと、今度は周りの代表選手たちから「お前、本当にワールドカップ優勝狙ってんのか?」とツッコミが飛んでくる。
綾乃はまだ状況を理解できていないのか、「えっと……え?」と困惑しつつも、どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。
俺はそんな彼女をじっと見つめ、堂々と宣言した。
「いや、マジでさ!」
俺は拳を握りしめ、真剣な目で綾乃を見つめる。
「君みたいな気品があって上品な子が、俺は好きなんだ!!」
ズバッと熱く言い切ると、機内が一瞬静まり返った。
「な、なっ……!?」
綾乃の頬が一瞬で染まる。
「いやいやいや!!お前、ちょっと待て!!!」
すかさずキャプテン・長谷川が立ち上がり、俺の肩をガシッと掴んで止めに入る。
「機内でそんなガチ告白するやついるか!?場を考えろ、場を!!」
村岡も半ば呆れた顔で肩をすくめる。
「いや、なんかもう、すげぇな……お前、ワールドカップ優勝よりハーレム優勝のほうが大事なんじゃねぇの?」
大久保は半笑いで腕を組みながら、こめかみを揉んでいる。
「落ち着け、雷丸。今は試合に集中するべきだろ……って、なんでこんなこと言わなきゃなんねぇんだよ!?」
だが、俺は引かねぇ!!
「いいか、お前ら!!ワールドカップもハーレムも、両方手に入れるのが俺の使命なんだ!!」
俺は拳を握り、熱く宣言する。
綾乃はまだ困惑しているが、その表情には少しだけ楽しそうな色が混じっていた。
「そ、そんな突然……」
彼女は頬を赤らめながら、小さな声で呟く。
「……でも、光栄です。」
――お!?
なんか、悪くない感じじゃねぇか!?
周りの日本代表の選手たちは頭を抱えているが、俺のハーレム道は止まらない。
「光栄ってことは、俺のハーレムに入るってことか!?」
俺が満面の笑みで詰め寄ると、綾乃は少し困ったように微笑んだ。
「うーん……でも、ハーレムというのはちょっと……」
――むむっ!?
俺は思わず前のめりになり、力強く言い放った。
「なにぃ!?ハーレムの良さを知らないのか!?」
周りの日本代表メンバーが「また始まったよ……」という顔をしているのがわかるが、そんなこと気にしてる場合じゃねぇ!
「いいか、綾乃!!ハーレムってのはな、ただ女をたくさん集めるだけのもんじゃねぇんだ!!」
俺は拳を握りしめ、真剣な眼差しで綾乃を見つめる。
「俺はな、俺を支えてくれる大切な女たちを幸せにするためにハーレム王を目指してんだよ!!」
綾乃は驚いたように目を丸くする。
「えっ……?」
「男ってのはな、一人の女を愛するだけがすべてじゃねぇんだ!!俺は、俺を好きでいてくれる女たち全員を幸せにする!!それが俺の信念なんだよ!!」
俺の熱弁に、綾乃は口を開けたまま、何も言えなくなっていた。
――よし、いい感じに説得できてきたぞ!
「だから綾乃!お前も俺のハーレムに加われば、絶対に幸せになれる!!俺が保証する!!」
俺が力強く断言すると――
「お前、仕事の邪魔になるからいい加減やめろぉぉぉぉ!!!」
村岡の鋭いツッコミが炸裂し、俺の襟を掴んで強引に引き戻す。
「ちょっ、村岡!?離せって!!俺は今、めちゃくちゃ大事な話をしてんだよ!!」
「知らねぇよ!!ハーレム論とか機内で語るな!!ここはお前の婚活会場じゃねぇ!!」
「くそっ……!お前、後で覚えてろよ……!」
俺は悔しそうに歯を食いしばりながらも、村岡の制止には逆らえなかった。
そんな俺を見て、綾乃はクスッと小さく笑う。
「ふふ……飯田選手って、本当に面白い人ですね。」
――お!?
まさかの、好感触!?
……いやいや、これはもう、完全に落ちたも同然だろ!?
俺はニヤリと笑い、軽くウィンクしながら綾乃に告げる。
「よし、じゃあこれからゆっくり口説いてくから、よろしくな!!」
綾乃は驚いた顔をしつつも、「ふふっ……」と控えめに微笑み、そっと一礼してワゴンを押して去っていった。
――よし、第一歩は成功だな!!
俺は満足げに頷きながら、周りの日本代表メンバーを見渡す。
「……」
長谷川、大久保、藤井、井上、山崎、そして村岡――全員が揃って頭を抱えていた。
「いや、お前さぁ……本当に何しにワールドカップ行くつもりなんだよ……」
キャプテン・長谷川がため息交じりに呟く。
「そりゃ決まってんだろ?」
俺は堂々と胸を張る。
「ワールドカップ優勝と、ハーレム拡大!!この二つを成し遂げるために決まってんだろ!!」
機内は再び大きなため息とツッコミの嵐に包まれた――。
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