異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第113話 ワールドカップ8

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「ピロン♪」


 
 ビデオ通話を切った直後、スマホが軽快な音を鳴らした。

 
 ん?なんだ?

 
 画面を確認すると、そこには「綾乃」の名前が表示されていた。
 

 
 ――マジかよ!?


 
 思わず背筋がピンと伸びる。飛行機で出会ったキャビンアテンダントの綾乃から、まさかの通知。

 通知を開くと、そこにはシンプルなメッセージがあった。


 
「ブラジル到着、お疲れ様です。ワールドカップ、頑張ってくださいね。」

 

 俺はスマホの画面を見つめながら、しばらく動けなかった。

 

 ――LINE登録してくれたんだ……!!


 
 じんわりと胸が熱くなる。まさか、あの綾乃が俺の連絡先を受け取るだけじゃなく、こうして自らメッセージを送ってくれるとは……!

 

 これはもう、脈アリ確定ってことでいいんじゃねぇのか!?


 
 テンションが一気に上がりながらも、俺は深呼吸をして落ち着きを取り戻す。ここは冷静に、だが大胆に攻めるべきタイミングだ。


 
「ありがとう!飛行機では色々とお世話になったな。綾乃のサービスのおかげで、最高のフライトになったぜ!」

 
 
 まずは感謝の気持ちを伝える。
 

 
 ――よし、ここまでは完璧だ。

 

 だが、俺はそこで止まらない。ハーレム王として、攻める時は攻める!

 俺はスマホを握り直し、続けてメッセージを打ち込んだ。


 
「それでさ……今日、もし空いてたらデートしないか?」



 ――送信!


 
 俺は画面をじっと見つめながら、心臓の鼓動を感じていた。
 

 これは勝負だ。ワールドカップの戦いも重要だが、俺にとってはこの戦いも同じくらい大事。

 
 さぁ、どう出る、綾乃……!?

 
 スマホを握りしめ、俺は次の通知を待った。


「ピロン♪」

 

 ――綾乃からの返信だ!



「OKです!せっかくの機会ですし、私がブラジルを案内しますよ♪」


 
 その瞬間、俺の脳内に歓喜の鐘が鳴り響いた。

 

 ――デート、決まったぁぁぁ!!

 

 
 まさか、ここに来て綾乃と二人でブラジル観光……!

 俺はすぐさま返信を打ち込む。



「マジか!?めっちゃ嬉しい!綾乃の案内、楽しみにしてるぜ!」

「ふふっ、じゃああとで待ち合わせ場所を送りますね!」


 
 そんな綾乃の可愛げな返信が返ってきた瞬間、俺はもうワクワクが止まらなかった。


 
 これぞ異国のロマンス、ハーレム王としての新たな挑戦だ……!


 
「よっしゃあああ!俺、ブラジルでデートしてくる!!」





 
 ――――――――――――
 
 

 
 
 指定された待ち合わせ場所に到着すると、そこにはカジュアルな服装に身を包んだ綾乃が立っていた。

 
 普段の制服姿とは違い、彼女はラフな白のブラウスに、軽やかなデニムのスカートを合わせている。シンプルだけど、大人の落ち着きと爽やかさを兼ね備えたコーディネートだ。

 
 髪はふわりと肩にかかるほどのナチュラルな巻き髪。空港や機内で見た時とは違い、今日はどこか柔らかい雰囲気を醸し出している。

 
 俺は思わず、口を開いた。

 

「……おいおい、綾乃、めちゃくちゃ可愛くないか?」


 
 その言葉に綾乃は一瞬驚いたように目を瞬かせ、すぐに頬を薄く染めながら小さく笑った。



「ふふっ、ありがとうございます。でも、そういうのはもう少しさりげなく言えないんですか?」

「いやいや、これはさりげなく言ったつもりなんだけどな?」


 
 俺が冗談めかして肩をすくめると、綾乃は小さくため息をつきながら、それでも嬉しそうに微笑んだ。


「飯田さんって、本当にストレートなんですね。」

「褒める時はちゃんと褒める主義なんでな!」


 
 俺は胸を張りながらニカッと笑う。


 
「まぁ、でも今日はプライベートってことで、綾乃もリラックスしてくれよ!」

「そうですね。じゃあ、今日はブラジルの素敵な場所をたくさんご案内しますね。」

 

 綾乃が軽くウィンクしながら微笑んだ瞬間、俺の胸が少し高鳴る。

 

「それは心強いな! じゃあ、さっそくだけど、いい飯屋さんはないか? まずはランチにしようぜ!」

 

 俺の提案に、綾乃はくすっと笑いながら尋ねてきた。

 

「何か食べたいものはありますか?」

 

 俺は一瞬考え込んだ後、ずっと気になっていたブラジル名物を口にする。

 

「シュラスコ! 本場のやつを食べてみたいんだよ!」

 

 すると、綾乃の表情がパッと明るくなった。

 

「それなら、おすすめのお店がありますよ! リオでも評判のいいシュラスコ専門店なんです。」

「マジか! そりゃあ期待できそうだな!」

 

 俺のテンションが一気に上がる。

 

「じゃあ、さっそく行きましょうか?」

 

 綾乃がスマートに歩き出し、俺はその後をついていく。

 

 南国の太陽の下、心地よい潮風が吹き抜けるリオの街。

 

 世界一の肉を堪能しに、俺たちはシュラスコ専門店へと向かった。

 

 カラフルな建物が並ぶ通りを抜けると、目の前に堂々としたレンガ造りのレストランが現れる。入口には大きな看板が掲げられ、そこには “Churrascaria do Rio” と書かれていた。

 

 店の前には数組の客が並んでおり、活気あふれる雰囲気が漂っている。店内からは香ばしい肉の焼ける匂いが立ち込め、俺の胃が反応するようにぐぅっと鳴った。

 

「……めっちゃいい匂いするな!」

 

 俺が期待に胸を膨らませながら店の外観を眺めていると、綾乃が微笑みながら言った。

 

「ここが私のおすすめのシュラスコ専門店です。ブラジルでも人気があって、観光客だけじゃなく地元の人にも愛されているお店なんですよ。」

「おぉ、間違いなさそうだな……! よし、さっそく入ろうぜ!」

 

 俺は興奮を抑えきれず、店のドアを押し開ける。

 

 中に入ると、すぐに目の前に広がるのは豪快なシュラスコの光景だった。

 

 広々とした店内には、活気に満ちたウェイターたちが大きな串に刺さった肉を持ち、テーブルを巡りながら客に次々と切り分けていた。

 

 中央にはサラダバーがあり、新鮮な野菜やブラジル特有の料理がずらりと並んでいる。

 

 そして何より――

 

 鉄串に刺さったジューシーな肉が、目の前のグリルでじっくりと焼かれ、滴る肉汁が炎の上で弾ける様子が見える。

 

「うおおおおお……!!!」

 

 思わず感動の声が漏れた。

 

「これが……本場のシュラスコか……!!!」

 

 俺は拳を握りしめながら、その迫力満点の光景をじっくりと堪能する。

 

 すると、綾乃がクスッと笑いながら言った。

 

「気に入ってもらえたみたいですね。」

「当たり前だろ! これを食わずして帰れるわけがねぇ!!」

 

 俺は鼻息荒く、すぐに席へと向かった。



 席につくやいなや、俺はすでにメニューを手にしていたが、正直言って、目の前で焼かれている肉を見たら、細かい選択なんてどうでもよくなった。

 

「よし、決めた!」

 

 俺は勢いよくメニューを閉じ、綾乃に向かって宣言する。

 

「俺、全部食う!!」

 

 綾乃は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑みながら「シュラスコは食べ放題なので、好きなだけ召し上がってください」と優雅に返した。

 

「な、なんだって!? ってことは、あれもこれも全部!? 好きなだけ!? 無制限!?」

「はい、ウェイターが串に刺さったお肉を持ってきてくれるので、食べたいものをどんどんもらえばいいんですよ。」

「なんて天国だ……!」

 

 俺は感動しながら、店内を見渡す。ちょうど隣のテーブルでは、豪快なシュラスコが客の目の前でカットされている。

 

 すると、さっそくウェイターが俺たちのテーブルにやってきた。

 

「Boa noite!(こんばんは!) こちら、ピッカーニャ(牛のランプ肉)でございます!」

 

 ウェイターが持っているのは、まさに肉の塊。表面が香ばしく焼かれ、ジュワジュワとした肉汁が滴っている。

 

「おぉぉぉ!!! それ、ください!! いや、むしろ全部!!」

「では、お好きな量をどうぞ。」

 

 ウェイターが大きなナイフを構え、肉を削ぎ落とす。俺はフォークを手にし、肉が落ちる瞬間を見逃さないようにじっと待つ。

 

 シュバッ――!

 

 分厚い肉がスルリと削ぎ落とされ、俺の皿に着地した。その瞬間、肉の香ばしい匂いが鼻を刺激し、俺の食欲が爆発する。

 

「これが……これが本場のシュラスコか……!!」

 

 俺は目を輝かせながら肉を見つめ、すぐにナイフとフォークを握りしめた。

 

「さぁ、いただきます!!」


 

 フォークをぐっと突き刺し、ナイフで肉を切り分けると、中からじゅわっと肉汁が溢れ出る。焼き加減は完璧なミディアムレア。

 

「これ……絶対うまい……!」

 

 期待を胸に、一口――。

 

 ――ジュワッ。

 

 肉の旨みが口いっぱいに広がり、柔らかい食感が舌の上でとろける。ほんのりと香ばしい焼き目がついた脂の甘みと、赤身の濃厚な風味が絶妙に絡み合っている。

 

「うまぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

 思わず叫びそうになったが、なんとかこらえた。いや、無理だ!これはもう、言葉にならないレベルの旨さだ!

 

 綾乃がクスクスと笑いながら、優雅にナイフとフォークを使い、一口食べる。

 

「ふふっ、気に入ってもらえてよかったです。シュラスコは部位ごとに違った味わいが楽しめるので、いろいろ試してみてくださいね。」

「おう!これはもう全部制覇するしかねぇな!」

 

 次に運ばれてきたのは、カルネ・デ・コルデイロ(ラム肉)。そしてリングイッサ(ブラジル風ソーセージ)も続々とやってくる。

 

「このラム肉、めっちゃ香ばしい!クセがなくてジューシーだ!」


「このソーセージ、肉汁が弾ける!スパイスが効いてて最高!」

 

 肉の種類がどんどん増えていくたびに、俺のテンションもどんどん上がっていく。

 

 気づけば、テーブルには肉の皿が次々と積み重なっていた。


 その様子を見ていた綾乃が、クスッと笑いながら言った。


 
「流石スポーツ選手。沢山食べますね。」



 彼女の声には、少し呆れつつも楽しそうな響きがあった。

 俺はナイフを持ったまま顔を上げ、満面の笑みで答える。

 

「いやぁ、うまい飯が目の前にあるのに食わないなんてもったいないだろ!?しかもここは本場のシュラスコだぞ!食えるだけ食うのが礼儀ってもんよ!」

 

 綾乃はそんな俺を見ながら、ワイングラスを軽く揺らし、微笑んだ。


 
「ふふっ、本当に楽しそうに食べますね。飯田さんって、なんでも全力で楽しむ人なんですね。」

 

 俺は肉を頬張りながら、親指を立てる。

 

「当たり前だろ!俺のモットーは『人生楽しんだもん勝ち』だからな!」

 

 そう豪語した俺を見て、綾乃は少し驚いたように瞬きをしたが、すぐにふっと笑った。

 

「……なんだか、いいですね。そんな生き方、ちょっと憧れちゃいます。」

 

 その言葉に、俺は食べる手を止めて綾乃の顔をじっと見る。


 彼女の言葉には、どこか本音が滲んでいた。

 

「……綾乃?」

 

 すると彼女は少しだけ視線を落とし、ワインを一口飲んでから、静かに笑った。

 

「いえ、なんでもありません。」

 

 そう言って微笑む綾乃。

 

 ――なんだか、気になるな。

 

 でも、今はとにかく目の前のシュラスコを楽しむ時間だ。

 

「よし!じゃあ、この勢いで次の肉もいくぞ!」

 

 そう言って、俺はまた一枚、新たな肉に手を伸ばした。

 

 綾乃も、そんな俺を見ながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。



 
 ――――――――――――



 

 食い終わった俺は、すでに満腹で満足気。

 

「いやー、食ったなぁ。」

 

 俺が伸びをしながら言うと、向かいに座る綾乃も微笑みながらお腹をさすっている。

 

「本当にたくさん食べましたね。お腹いっぱいです。」

 

 彼女の穏やかな笑顔を見て、俺は満足感がさらに倍増した。

 

 さて、ここで重要なのが――そう、お会計だ。

 

 ここはスマートに決めて、俺のカッコよさをしっかりアピールする場面だろ!?

 

「おっ、ちょっと待ってろよ、ささっと会計してくるから!」

 

 そう言って俺は颯爽と席を立ち、レジへと向かう。

 

 レジの前でカバンを開け、財布をサッと取り出す。これぞ雷丸流、華麗なる「シュパッと会計」。

 

「よし、これでお願いします!」

 

 財布からスマートにカードを取り出し、軽く差し出す。俺はカウンターに寄りかかりながら、余裕の笑みを浮かべる。

 

 ピッ……。

 

 カードを通す音が心地よく響き、レジの店員が笑顔でレシートを差し出した。

 

「お会計、完了です!」

 

 俺はレシートをサッと受け取り、軽くウインクを決める。

 

 ――――うむ、サクッと支払い完了。さすが俺!

 

 余裕の表情で振り返り、綾乃のもとへ戻る。

 

「お待たせ!さぁ、次に行こうぜ!」

 

 そう言うと、綾乃は少し照れたように微笑んだ。

 

「飯田さん、ありがとうございます。」

 

 彼女の優しい声に、俺はニッと笑って親指を立てる。

 

「気にすんな!俺が誘ったんだから、当然だろ!」

 

 綾乃はふっと微笑み、柔らかく頷いた。

 

「……じゃあ、お礼に次の場所はとっておきの場所にご案内しますね。」

 

 おっ、とっておき!?それは気になるな!

 

 俺は期待に胸を膨らませながら、彼女の隣に並ぶ。

 

「じゃあ、案内よろしく頼むぜ!」

 

 南国の陽射しの下、俺たちは次なる目的地へと向かう。
 
 

 

 ――――――――――――

 

【セントロ地区 】


 
 昼食を終え、俺たちはリオのセントロ地区へと足を踏み入れた。ここは歴史とアートが入り混じるエリアで、建物の壁にはカラフルなグラフィティが描かれ、まるで一つの巨大な美術館のようだった。


 
「おぉ……すげぇな、ここ……!」


 
 俺は圧倒されるように周囲を見渡した。路地には地元の人たちや観光客が行き交い、陽気なサンバのリズムが響いている。まるで街そのものがリズムに乗って踊っているかのような雰囲気だ。

 
 そして――目の前に現れたのは、色鮮やかな セラロン階段。

 

「これが……世界的に有名なタイル階段か!」


 
 まるで虹のようにカラフルな階段が、上へ上へと続いている。タイルには様々な国のデザインが施されていて、一つ一つが芸術作品のようだ。

 

「アートの世界に迷い込んだみたいだな……!」


 
 俺が感嘆の声を漏らすと、隣で綾乃が微笑む。


 
「ここは、チリ出身のアーティスト・ホルヘ・セラロンさんが、生涯をかけて作り上げた階段なんですよ。世界中の観光客が訪れて、タイルを寄贈したり、写真を撮ったりして、この場所をさらに特別なものにしていったんです。」

「へぇ……そういう歴史があるのか。じゃあ、俺もここに“雷丸印”のタイルを置いとくべきだな!」

 

 俺は冗談めかして言いながら、階段を一歩ずつ登っていく。

 階段の途中には、観光客や地元の人たちが写真を撮っていた。まるで一つの巨大なインスタ映えスポットって感じだ。

 

「綾乃、せっかくだから一緒に写真撮るか?」

「えっ?私もですか?」

「当たり前だろ?せっかく案内してもらってんだから、記念に残さないとな!」

 

 俺がスマホを構えると、綾乃は少し照れくさそうに微笑みながら俺の隣に並んだ。

 

「よし、じゃあ――最高の笑顔で頼むぜ!」

「もう……ふふっ。」


 
 パシャッ!


 
 太陽の光がカラフルなタイルに反射し、俺たちの写真をさらに鮮やかに彩った。


 
「いい感じに撮れたな!」

「本当ですね。すごく綺麗……!」


 
 綾乃もスマホを覗き込みながら、満足そうに頷く。

 
 階段を登り切ったところには、小さなカフェやフルーツジュースのスタンドが並んでいた。

 

「おっ、せっかくだからここでブラジル名物のフルーツジュースでも飲んでくか!」

「いいですね!この辺りではアサイージュースやマンゴージュースが人気なんですよ。」


 
 俺たちはカフェに入り、冷たいフルーツジュースを注文。俺はマンゴージュースを、綾乃はアサイージュースを選んだ。


 
「カンパイ!」

「ふふっ、カンパイですね。」



 グラスを軽くぶつけて、一口飲む。


 
「うまっ!!なんだこれ、濃厚で甘くて最高じゃねぇか!」

「ブラジルのフルーツは日本のものよりも、自然な甘さが強いんですよ。」


 
 南国のフルーツの味が、さっぱりとした酸味と濃厚な甘みを絶妙にバランスさせている。気温の高いブラジルで飲むと、なおさら美味い!


 
「いやー、いい時間過ごしてるな、俺たち!」

「そうですね。ゆっくりとブラジルの雰囲気を感じられて、私も楽しいです。」


 
 穏やかな風が吹き抜ける中、俺はジュースを片手に、色鮮やかな階段を眺めた。ここで過ごす時間は、まるで夢のようだった。



 ふと隣を見ると、綾乃がスマホをじっと見つめている。さっき俺と撮った写真を確認しているらしい。そんなに良い写りだったのか?と覗き込もうとしたその時――。

 

「飯田さん、この写真……弟に自慢してもいいですか?」

 

 綾乃が、少し照れくさそうに笑いながら尋ねてきた。

 

「おぉ、例の俺のファンだっていう弟さんか!」

 

 俺はニヤリと笑い、親指を立てて即答した。

 

「もちろんいいぜ!むしろ、どんどん自慢してくれ!」

 

 綾乃は嬉しそうに微笑み、すぐにスマホを操作して写真を送る。そして――その瞬間だった。

 

 ピコンッ!

 

 LINEの通知音が鳴ったかと思うと、ものすごい勢いでレスポンスが返ってきた。

 

「えっ、早っ!!」と綾乃が驚く。

 

 画面には、短い文章がいくつも並んでいた。

 

「え!?マジで!?雷丸さん!?本物!?」
「うわああああ!!!」
「やばい!!どうしよう!!」
「ちょ、待って、ビデオ通話していい!?」

 

 あまりのハイテンションな反応に、綾乃は呆れつつも笑いをこぼした。

 

「もう……ほんとに、すごい勢いですね……。」

 

 そして、少し申し訳なさそうに俺を見て、こう言った。

 

「飯田さん……弟がビデオ通話したいって言ってるんですけど……いいですか?」

 

 俺はそんなの決まってるだろ、というようにドンと胸を叩く。

 

「もちろんいいよ!せっかくだし、俺もファンと直接話せるのは嬉しいからな!」

 

 綾乃はほっとしたように微笑み、スマホを操作してビデオ通話を開始した。

 

 ――数秒後、画面に映ったのは、興奮しすぎて目を見開いた少年の姿だった。

 

「うわぁぁぁぁ!!!雷丸さん!!!マジで本物だ!!」

 

 画面越しに全力で叫ぶ少年。テンションが爆発しすぎて、後ろにあるカーテンが揺れているのが分かる。

 

 俺は軽く手を振りながら、笑顔で言った。

 

「よっ!元気そうだな!綾乃の弟くん!」

「うわあああああ!!本物が喋ったああああ!!!」

 

 彼はスマホを持つ手をブルブルと震わせながら、大興奮で叫び続けている。もしかして、これヤバいやつか?倒れたりしねぇよな?と一瞬心配になるが、どうやら嬉しすぎてテンションが振り切れてるだけらしい。

 

「ちょっと落ち着いて、落ち着いて……!」と綾乃が優しくなだめる。

 

 しかし、少年のテンションは収まる気配がない。

 

「すっすっげぇぇぇ!!俺、雷丸さんのプレー、ずっと見てました!!ワールドカップで日本を優勝させてください!!マジで!!」

 

 少年の目は、まっすぐに俺を見つめていた。その純粋な情熱に、俺の胸の奥がじわりと熱くなる。

 

「おう!任せとけ!ワールドカップ優勝して、日本を熱狂させてやるぜ!」

 

 俺が力強く宣言すると、少年はさらに興奮した様子で何度も頷いた。

 

「やっべぇ!!俺、もう一生この瞬間忘れねぇ!!」

「ははっ、そんなに喜んでもらえると、こっちも嬉しいな!」

 

 綾乃も、そんな弟の姿を見てクスッと微笑んでいた。

 

「弟がこんなに喜んでるの、久しぶりに見ました。」



 俺はそこで、ピンときた。

 

「もっと喜ばせる方法があるぜ?」

 

「え?」と綾乃が首をかしげる。

 

 俺はニヤリと笑い、スマホに向かって堂々と宣言した。

 

「綾乃が俺のハーレムに入れば、弟君は俺の義理の弟になる!つまり――家族だ!!」

 

 その瞬間――

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 画面の向こうで、綾乃の弟が爆発したように叫んだ。

 

「マジかよ!?そ、それ最高じゃん!!!姉ちゃん、絶対に雷丸さんのハーレムに入ってくれ!!!頼む!!俺、雷丸さんの義理の弟になりたい!!!」

 

 大興奮する弟。スマホがブレすぎて、画面が揺れまくっている。

 

「ちょっ……!?えぇ!?ちょ、ちょっと待って!!」

 

 綾乃は突然の展開に完全に動揺し、頬を赤らめながら俺とスマホ画面を交互に見つめる。

 

「おいおい、そんなに必死に頼まれたら、俺も困っちまうぜ?」

 

 俺は冗談混じりに肩をすくめるが、弟の興奮は止まらない。

 

「お願い!!!姉ちゃん、頼む!!俺、雷丸さんと兄弟になりたいんだ!!」

「えっ、えぇ……!?」

 

 綾乃がオロオロとする中、俺はどや顔で親指を立てる。

 

「ほらな?世間は綾乃のハーレム入りを求めてるんだよ。」

 

 綾乃は頭を抱え、「もう、なんなんですか……」とため息をつく。

 

 弟の叫びはまだ続く。

 

「姉ちゃん、真剣に考えてくれ!!これは一生に一度のチャンスだぞ!!!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて……!」

 

 俺はニヤニヤしながら、綾乃の方を向き、冗談めかして言う。

 

「まぁ、焦らなくてもいいぜ。時間ならたっぷりあるしな。」

「……本当に、あなたって人は。」

 

 そんなやり取りをしながら、弟の大興奮は続き、通話は最後まで大騒ぎのまま終了したのだった。

 



 

 ――――――――――――





 

「もう日が暮れますね……最後に一ヶ所、行きたい場所があるんですが、お時間大丈夫ですか?」


 
 綾乃がふと立ち止まり、俺の方を振り返る。夕焼けが彼女のシルエットを柔らかく包み込み、なんとなく神秘的な雰囲気が漂っていた。


 
「もちろんだ!」


 
 夜から日本代表のミーティングがあるけど……まぁ、少しくらい大丈夫だろ。こんな機会、逃すわけにはいかねぇ。
 
 

「リオデジャネイロといえば、有名な観光スポットがたくさんありますが……最後はちょっと特別なところにお連れします。」

「ほう……特別な場所ねぇ?」

 

 俺は興味津々で歩きながら、彼女の横顔をチラリと盗み見る。南国の太陽の下で、綾乃の髪が風に揺れ、その横顔はどこか優雅な雰囲気を漂わせていた。

 

「もしかして……キリスト像とかか?」

 

 リオデジャネイロといえば、巨大なキリスト像「コルコバードのキリスト像」が有名だ。

 

「もちろん、それも素敵な場所ですが……今回はもっと穴場のスポットです。」

「穴場?」

「ええ。実は、リオには地元の人しか知らない絶景ポイントがあるんです。そこから見る夕陽が、本当に綺麗なんですよ。」

 

 絶景ポイントで夕陽……?

 

 それは確かに、普通の観光とは一味違うな。

 

「おぉ、そりゃあ楽しみだな!」

 

 俺がワクワクしながら歩を進めると、綾乃は満足そうに頷く。

 

「じゃあ、さっそく行きましょう!」

 
 

 綾乃に案内されながら、俺たちはリオの街を歩き続ける。

 

 大通りを抜け、少し坂道を上ると、そこには広大な街並みが見渡せる高台が広がっていた。

 

 吹き抜ける風が心地よく、目の前にはリオデジャネイロの壮大なパノラマが広がる。遠くには白いビーチ、そして青く輝く海――その先には、ゆっくりと沈み始める太陽があった。

 

「……うわぁ。」

 

 思わず、言葉を失う。

 

「どうですか?ここ、観光客はあまり来ないんですが、地元の人たちには人気の場所なんです。」

 

 綾乃が隣で微笑みながら言う。

 

「すげぇ……こんな絶景、今まで見たことねぇよ。」

 

 俺は感動しながら、遠くの景色をじっくりと眺めた。

 

 太陽はゆっくりと水平線へと向かい、オレンジ色の光が海と街を黄金色に染め上げていく。その光景はまるで夢のようだった。

 

「リオの夕陽は、一度見たら忘れられないって言われているんです。」

 

 綾乃が風に髪をなびかせながら言う。


 夕陽に照らされた彼女の横顔は、街の景色に負けないほど美しかった。


 
「なあ、綾乃。これって……カップルで来る場所なんじゃね?」

 

 俺が冗談めかして言うと、綾乃はふと俺を見て、少しだけ頬を染めながら微笑んだ。


 
「……かもしれませんね。」


 
 綾乃の言葉とともに、夕焼けはさらに深い赤へと染まり、ゆっくりと夜の気配が漂い始める。

 潮風がそっと吹き抜け、遠くからは街の喧騒がかすかに聞こえてくる。それなのに、この場所だけは、時間がゆっくりと流れているように感じた。

 俺は静かに息をつきながら、綾乃の横顔をちらりと見る。


 
「今日は本当にありがとうな、綾乃。案内してくれて。」


 
 そう言うと、綾乃はふわりと微笑み、小さく首を横に振った。

 

「いえ、私も楽しかったです。それに、ブラジルを好きになってもらえたなら、それが何より嬉しいですよ。」


 
 穏やかな声が、潮風に溶けていく。

 俺は腕を組み、ふと空を見上げながら呟いた。


 
「それにしても、キャビンアテンダントってすげぇよな。」

「え?」


 
 綾乃が俺を見上げる。


 
「だってさ、世界中の空を飛び回って、いろんな国の文化や土地に詳しくて。普通の旅行者が知らねぇような、こんな地元の人しか来ないすげぇ場所まで知ってるんだぜ? マジで尊敬するわ。」


 
 俺が率直な気持ちを伝えると、綾乃は一瞬驚いたように目を瞬かせた。

 そして、ほんの少しだけ頬を染めながら、そっと視線を海へと向ける。


 
「……そんなふうに言われたの、初めてかもしれません。」


 
 彼女の声は、どこかくすぐったそうで、だけど、嬉しさが滲んでいた。


 
「そっか?でも、マジでそう思うぜ。綾乃みたいな人がいるから、俺たちみたいな旅人は安心して空を飛べるんだろ?」


 
 そう言うと、綾乃はそっと微笑み、静かに夕陽の残る空を見上げた。


 
「……ありがとうございます、飯田さん。」


 
 その横顔は、さっきまで見ていた夕焼けよりも、どこか温かく感じた。

 

「少しだけ……この仕事に就く自分に誇りを持てました。」


 
 その言葉に、俺は即座に応じる。


 
「もっと自分を誇っていいと思うぜ。」


 
 俺の言葉に、綾乃が驚いたようにこちらを見上げる。


 
「こんなデートスポット案内してくれるなんて、もうこれはハーレム候補として100点満点の行動だぜ?」

「なんでそうやって直ぐにハーレムに話を繋げるんですか……せっかくいい話だったのに…………。」


 
 綾乃が少し拗ねたように頬を膨らませる。

 その反応が可愛くて、俺は思わずニヤリと笑った。
 

「ふふっ、まぁ冗談はさておき……今日は本当にいい時間だったよ。」

「私もです。」

 

 俺たちはしばし沈黙し、ただ目の前の景色を楽しんだ。

 

 ここが、俺が世界一を獲る舞台――その頂点に立つのも、もうすぐだ。

 

「……さて、そろそろ戻るか?」

「はい。」

 

 俺たちはゆっくりと展望台を後にし、再びリオの街へと戻っていった。

 


 ワールドカップ本戦まで、あとわずか。

 


 
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