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第114話 ワールドカップ9
しおりを挟む「やべぇぇぇっ!!」
俺の叫びが、リオの夜空に吸い込まれていく。
すでに日本代表チームのミーティングが始まっている時間。俺はキャビンアテンダントの綾乃とのブラジル観光が長引いたせいで、ちょっと遅れてしまった……いや、かなり遅れてしまった。
ホテルのロビーに飛び込むように入る。
すると――
エントランスには、日本代表の選手たちが全員揃っていた。
「……え?」
開けた瞬間、全員の視線が俺に集中する。
「え、なんでみんなここにいんの?」
すると、長谷川キャプテンが腕を組んで、ため息混じりに言った。
「いや、全員揃ってねぇのにミーティングに行くわけねぇだろ。」
「……は?」
俺は思わず硬直する。
「お前が来るまで、全員で待ってたんだよ。」
「……え、マジで? いや、みんな先行っててよかったのに!」
「バカかお前。」
村岡が苦笑しながら肩をすくめる。
「俺たちはチームなんだよ。代表のミーティングに一人だけ遅刻なんてありえねぇだろ? だから、お前が来るまで待ってたんだよ。」
「……!」
俺の胸が、じわっと熱くなる。
「ご、ごめん……みんな……」
俺がしおしおと頭を下げると、藤井がニヤリと笑った。
「いいって、みんなで監督に怒られようぜ。」
「監督、怒るとめちゃくちゃ怖いんだぜ?だったらみんなで怒られた方がマシだろ?」
柴田が俺の肩をポンポンと叩く。
「マジかよ……みんな優しすぎるだろ……」
なんて思っていたその時、大久保がふと真剣な表情で俺を見てきた。
「それより雷丸。なんで遅れてきたんだよ? なんか事故とかあったのか?」
――あ、やべぇ。
心配そうな大久保の顔を見ると、俺はちょっと罪悪感が湧いてくる。
「え? いや、ちょっと……その……」
俺は言いづらそうに目を泳がせた。
「ほら、飛行機で俺がアタックしてたキャビンアテンダントいただろ……?」
「うん?」
「……あの子と、その……デートしてました。」
「………………」
数秒の沈黙のあと――
「ぶははははははっ!!!」
日本代表チームの面々が、一斉に爆笑した。
「お前、マジでかよ!!」
「ワールドカップの直前で、何やってんだよ!!」
「いやいやいや、どんだけブレねぇんだ、お前!!」
村岡が腹を抱えて笑い転げ、藤井は椅子に崩れ落ちそうになりながらツッコむ。
「てっきり何かトラブルかと思ったら、デートかよ!?」
「ほんと、ある意味すげぇわ……」
柴田が呆れながらも笑い、井上は「まぁ……お前ならやりかねん」と冷静に分析する。
「……いや、悪いと思ってるよ!? でもな!? せっかくのチャンスを逃すわけにはいかねぇだろ!?」
俺が必死に言い訳をするが、笑い転げるチームメイトたちはもう止まらない。
「さすが雷丸、お前がワールドカップ優勝宣言したのも、なんか説得力出てきたわ……」
藤井が肩を震わせながら言う。
「いや、そこ関係なくね!?」
こうして、俺の「デート遅刻事件」は、ワールドカップ前の日本代表チーム内での伝説となったのだった。
――――――――――――――
監督がホワイトボードに世界地図をペタペタと貼りながら、各国のエースの顔を次々に指していく。
「ワールドカップ本戦に駒を進めたのは、我々日本を含めて10カ国。その中でも、優勝候補と目されるのは4カ国だ。」
部屋の空気が一気に引き締まる。
全員が前のめりになり、監督の言葉に集中する
まず最初に出てきたのは――
サッカー王国ブラジルのエース――アントニオ・ソルダードの写真だった。
鮮やかなオレンジ色の髪が、まるで燃える太陽のように輝いている。健康的な褐色の肌に、キラキラとした眩しい笑顔。その姿はまさに「太陽の王子」という異名にふさわしい。
「アントニオ・ソルダード。彼は現在、世界一のサッカー選手と名高い男だ。」
監督の声が低く響く。
「ブラジル代表の10番を背負い、『サッカーの神』、『ミスターサッカー』とも呼ばれている。彼のプレースタイルはまさに芸術――ボールが足に吸い付くようなドリブル、観客すら騙されるフェイント、そしてゴール前では絶対に外さない決定力を持つ。」
映像が再生される。
画面の中のアントニオは、まるで踊るようにピッチを駆け抜ける。
相手ディフェンダーが二人、三人と囲みにかかるが、彼はスムーズにボールをさばき、あっという間にすり抜けてしまう。
「うわっ、すげぇ……!」
思わず誰かが声を漏らした。
だが、驚きはまだ終わらない。
アントニオがエリア内でボールを受けると、軽くボールを浮かせ、相手の足の間を抜き――そのまま、ノールックでシュートを決めた。
ゴールネットが揺れ、スタジアム中が熱狂の渦に包まれる。
監督がさらに説明を続ける。
「アントニオの最大の武器は、“すべてのプレーがゴールに直結すること”だ。彼がドリブルすればシュートにつながる。彼がパスを出せば、完璧なアシストになる。そして、彼がシュートを打てば、ほとんど決まる。」
次に監督が指したのは、イタリア代表の守護神――ガブリエーレ・ヴォルカーノ。
スクリーンに映し出されたのは、まるで巨大な壁のようにゴール前にそびえ立つ男。
「ヴォルカーノは、"動く壁”と呼ばれるゴールキーパーだ。セーブ率98%。シュートが枠に飛んでも、ほとんど止められてしまう。」
映像の中では、相手選手が強烈なシュートを放っているが――
ヴォルカーノは微動だにせず、そのまま片手でキャッチ。
「なっ……!?」
村岡が思わず驚愕する。
「この男、止めるだけじゃない。セービングした後、すぐに正確なロングパスを出し、カウンターの起点になる。まさに鉄壁の門番だ。」
次に監督が指したのは――
アルゼンチン代表の司令塔――エンリケ・マルティネス。
映像に映し出されたのは、まるでマジシャンのようにボールを自在に操る男だった。
「エンリケは、一人で試合を決められる天才だ。彼のドリブルはまるで魔法のように相手を惑わし、ディフェンダーが次々と倒れていく。」
映像では、エンリケが軽やかにボールを操りながら、相手ディフェンダーを翻弄し、華麗なパスでゴールを演出している。
「この男にボールを持たせるな。それが試合の鍵だ。」
そして最後に出てきたのは――
スペイン代表のエースストライカー――カルロス・トーレス。
映像に映し出されたのは、まるで闘牛のように突進する巨漢の選手だった。
「トーレスはフィジカルの怪物だ。ディフェンダーを正面から吹き飛ばしながらゴールへ突進する。」
映像では、3人がかりで止めようとしたディフェンダーを次々と吹っ飛ばし、ゴールネットを突き破るような強烈なシュートを叩き込んでいた。
「……こいつ、人間か?」
誰かが思わず漏らす。
「トーレスはトラックを牽引したことでギネス記録を持っている。」
「は!?トラックって、あの何トンもあるやつだろ!?」
俺は思わず叫ぶ。
「そりゃあ、ディフェンダーが吹っ飛ばされるわけだ……」
監督はホワイトボードの前に立ち、改めて俺たちを見渡した。部屋の空気が一瞬で引き締まる。
「今説明した4カ国――ブラジル、イタリア、アルゼンチン、スペイン。この4つが優勝候補と目されている。そして、彼らのエースたちは、それぞれが世界最高峰の実力を持つモンスター揃いだ。」
映像が止まり、ホワイトボードに貼られた世界地図と選手たちの写真が静かに俺たちを見つめる。
「いいか、日本代表。ワールドカップはただの戦いじゃない。世界最高の戦場だ。お前たちは、ここで名を刻むか、それとも名もなき敗者となるか――すべてはお前たち次第だ。」
その言葉に、俺たちは誰もが真剣な顔つきになった。優勝候補たちの実力は映像を見ただけでも理解できた。こいつらが相手となれば、生半可なプレーでは勝てない。
「だが、俺たちには雷丸がいる。」
監督がそう言うと、部屋の視線が一気に俺に集中する。
「お、おう……」
突然の指名に、一瞬戸惑いながらも、俺は堂々と胸を張った。
「雷丸、お前は異世界帰りの男であり、日本サッカーの異端児だ。お前のプレースタイルは、どの国の選手とも違う。いや、世界の誰とも違うと言っていい。」
監督は俺を指さしながら続ける。
「お前が勝負を決める鍵になる。」
そう言われると、俺の胸に熱いものがこみ上げる。
「そりゃあ当然だろ。」
俺は拳を握りしめ、ニヤリと笑った。
「このワールドカップ、日本の、いや、俺のための舞台にしてやるよ。」
その瞬間、チームメイトたちが笑いながらも力強く頷いた。
「こいつがいる限り、俺たちはやれる気がするな。」
「ま、雷丸なら何かしでかしてくれるだろうしな!」
「そうそう、異世界帰りのバケモンがいるなら、なんか勝てそうだよな。」
監督も小さく笑い、腕を組んで俺たちを見渡した。
「よし。お前たちの気合は伝わった。だが、実際に勝てるかどうかは、これからの準備にかかっている。明日からは本戦に向けた戦術練習だ。覚悟しておけよ。」
その言葉に、俺たちは一斉に「おう!!」と気合のこもった声を上げた。
ワールドカップ本戦まで、あとわずか。ここからが、俺たちの本当の戦いの始まりだ――!
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