異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第120話 ワールドカップ15

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〈ピッ――!〉


 
 主審の笛が鳴り響き、ついにワールドカップ初戦が始まった。

 俺たち日本代表は気合十分でピッチに散らばる。けれど――

 その瞬間、俺は目を疑った。


 一人がボールを受け取ると、まるで舞踏会の主役みたいに軽やかにターン。
 まるでフロアに敷かれたベルベットの絨毯を踏んでいるかのような柔らかいステップで、俺たちを嘲笑うように舞っていく。


 パスが出る。受け手の選手は、片足を流れるように後ろへ引き、優雅にボールを止める。
 そのフォームすら完璧に洗練されていて、まるで貴族のダンスそのものだった。


 
「な、なんだこいつら……!?」



 村岡が思わず声を漏らす。
 フランス代表の選手たちは、無駄な力が一切入っていない。


 けれど、一挙手一投足が美しく、隙がない。



 俺たちが飛び込んでも、彼らはほんの半歩だけ体をずらして優雅にスカす。
 体をぶつけにいこうとしても、まるでワルツのステップでさらりと受け流される。


 そしてパスは、まるでバトンを渡すように滑らかに繋がっていく。


 
「な、何だよこれ!?」



 村岡が焦る横で、俺も目を見開いた。


 ――これが、フランス流の美学サッカー。



 俺たちの知ってる泥臭いガムシャラな戦いなんかじゃない。
 優雅で、美しくて、それでいて容赦なくエグい。


 
「見惚れてる場合じゃねぇぞ、雷丸!」


 
 長谷川キャプテンの声が響く。


 
「アイツらがどれだけ優雅だろうが、ボールを奪えば同じだ!」



 その言葉に俺も一瞬奮い立った――が、その決意も束の間。

 目の前にはルイ・バルテルミー。
 貴族の微笑みを湛えたまま、俺の前にスッと立つ。


 
「フランスの華麗さ、見せてやるよ、モンアミ(友よ)。」



 眩い笑顔をキラリと輝かせながら、ルイはつま先から踊り始める。


 
「さぁ、アンドゥトロワ!」



 まるでワルツを踊るかのような軽やかさ。
 俺の目の前で、ボールがリズムに乗って弾む。


 右へ、左へ――足の内側から外側へと、まるで生き物のようにボールが舞う。


 
「くっ……!!」



 飛び込んだ瞬間、スッと身体を流される。
 次の瞬間には俺の背後にルイがいる。


 ――完全に踊らされた。


 
「これが、フランスのエレガンスさ。」



 ルイは余裕の表情で、俺を一瞥しただけで前へ進む。
そのままキラリと白い歯を輝かせながら、ペナルティエリアへ侵入。


 
「くそっ!!大久保!!頼んだ!!」



 俺が叫ぶが、ゴールキーパーの大久保も対応に苦しむ。
 ルイの足元はまるでシャンデリアの光を映した湖のように煌びやかで、読みづらい。
 ステップを刻むたび、リズムが変わり、次の動きが予測できない。


 
「なんだ、このリズム……!?」



 大久保が焦る一瞬、その隙に――


 
「ボン・ヴォヤージュ!」



 優雅に放たれた一撃が絶妙なカーブを描き、ゴールネットに吸い込まれた。


 
「――――!!」



 唖然とする俺たち。
 試合開始直後、一瞬で決められた。


 
「これが、世界か……!」



 日本のスタンドが沈黙する。
 誰もが言葉を失い、重たい空気が広がる。


 その対照的に、フランスのサポーターたちは大歓声。
 青と白の旗が揺れ、スタンドのあちこちで飛び跳ねる姿が見える。


 フランス国歌を歌い始めるグループもいれば、陽気に踊りだす連中までいる。

 
 そして――
 海外の観客たちから、日本をあざけるような声が飛んだ。


 
「やっぱりな!アジアのチームが何しに来たんだ?」
「日本代表?No No!SUSHI BOYSだろ!」



 スタンド全体が、フランスへの歓声と日本への冷笑で包まれる。
 まるで最初から勝負は決まっていたと言わんばかりの、見下した空気。
 

 実況も苦い声で叫ぶ。


 
「わずか数十秒!!
 これが、日本と世界との差――!!
 あっという間の痛烈な先制ゴールです!!」



 実況の興奮交じりの声が、スタジアム全体に響き渡る。
 日本の応援席にもカメラが向けられるが、そこに映るのは、声を失ったサポーターたち。


 硬く結ばれた唇、握り締めた拳。

 誰もが、突きつけられた“世界の壁”の高さを痛感していた。


 だが――

 俺は――笑っていた。


 
 驚きでも、諦めでもない。
 この舞台に立っている実感と、ここが俺の戦うべき場所だと確信したから。


 
「へへ……やべぇな。これが、ワールドカップか。」



 その笑みには、悔しさもある。
 だけどそれ以上に、たぎる高揚感が隠せなかった。


 日本じゃ味わえなかった、この世界の熱。

 
 
「さぁ、ここからだ――!」



 俺は胸を叩き、再びボールをセンターサークルにセットする。
 笑ってる場合じゃねぇけど、ワクワクが止まらねぇ。


 
 だって今、俺は間違いなく世界のど真ん中に立ってるんだから。
 

 

 ――――――――――――




 ピッチ中央、センターサークルに立つ雷丸は、ボールに軽く触れると、不敵な笑みを浮かべた。



 失点直後にも関わらず、その表情には焦りも怯えもなく、むしろ楽しげな余裕すら漂わせている。


 
「笑ってる場合かよ……」



 村岡が呆れたように呟く。だが、チームメイトたちは知っている。

 この男にとって、プレッシャーも逆境も、すべてを“楽しむためのスパイス”でしかないことを。


 

 その後、長谷川キャプテンがボールを捌き、リズムを整えながらゲームをコントロール。

 徐々にパスが回り始め、日本代表が試合に馴染んでいく。


 その時だった。


 
「今だ!」


 
 副キャプテン藤井が絶妙なタイミングで前線に飛び出す。


 まるで見えない糸で繋がっているかのようなパスが、藤井の足元へ吸い込まれる。


 
「村岡、頼む!」



 藤井が村岡へとボールを預けると、村岡は狭いスペースでも巧みにボールをキープ。


 フランスのプレスを受けてもビクともせず、次の瞬間、柴田へとふわりと繋ぐ。


 その一連の流れが、あまりにも自然すぎた。
 まるで10年以上一緒にプレーしてきたかのような、阿吽の連携。

 
 スタジアムに響く実況の声も、ほんの一瞬止まる。


 
「日本代表、見事なパスワーク!これはいい形だ!!」



 そして――
 ボールは、最前線に待つ“あの男”へと向かっていく。


 
「暴れろ、ハーレム王。」




 柴田の渾身のラストパスが、その男の足元に吸い込まれる。
 飯田雷丸――。

 

 ピッチにボールが転がった。
 日本代表のエースストライカー、飯田雷丸の足元に吸い込まれるように渡ったそのボールを、世界中のカメラが一斉に捉える。


 “日本の10番”――アジアからやってきた陽気な男。
 だがその瞬間、雷丸の表情からは軽口も茶化しも消え去り、冷たい刃のような鋭さだけが残っていた。


 フランスのディフェンダーが、一気に間合いを詰める。
 容赦のない圧力。
 

 
 ――――だが次の瞬間、驚くべき光景が広がる。



「なっ……!!」



 ワンタッチ。
 それもトラップではなく、まるでボールを吸い寄せる磁力のような柔らかいタッチ。


 
 その動きに合わせて、自分の身体もフワリと重心をずらす。

 
 ――たった、それだけ。


 だが、そのたった一瞬に全てを懸けた。


 目の前のディフェンダーの重心がズレる。
 足が、地面を一歩踏み込んだ瞬間に雷丸はもう次のステップへ移ってる。


 置き去り――

 完全に。


 まるで幽霊に抜かれたように、フランスのディフェンダーはそこに立ち尽くすだけ。




「…………!!!!???」



 観客席から一斉にどよめきが沸き起こる。
 それは歓声ではなく、驚愕の息を呑む音。

 一瞬のタッチ、一瞬の加速。
 全てが完璧に噛み合った“異次元の一歩”。


 その光景に、スタジアム全体が鳥肌を立てた。


 実況席からも声が震えながら響く。


 
「な、なんだ今のは!?信じられないタッチからの突破!!まるで相手が存在していなかったかのようだ!!」
 


 次に現れたのは、フランスのセンターバック2人。
 今度はコンビネーションで挟み込む形。



 ――――次の瞬間。
 

 
 右へフェイント。
 足裏でボールを巻き込むように左へ。
 さらに逆方向へ“鋭角ターン”。


 たった1秒の間に、3つのリズムを刻む。


 パパッ、パッ!!


 ――それは常人ならば膝を壊すほどの角度と速さ。


 センターバック2人がクロスするタイミングを見計らい、その合間をイナズマのように突き抜けた。

 

「な、なんだ今の動きは!?」




 実況席の声が裏返る。
 フランスのDFラインは完全に崩壊し、あとは最後の砦――フランス代表のゴールキーパーとの一対一。


 
「さぁ、飯田選手抜けました!!キーパーと1対1!!ここからが勝負です!」



 実況が絶叫し、スタジアム全体が固唾を飲んで見守る。


 
 ――が、その「勝負」は始まることなく、終わった。


 
〈ズドンッ!!!!〉

 

 破裂音にも似た轟音。
 次の瞬間、ゴールネットが弾け飛ぶように膨らんでいた。


 
「………………は?」


 
 フランスのGKが茫然と声を漏らす。
 顔には「何が起きた?」という疑問しか浮かんでいない。


 その視線の先――
 ボールはすでにゴールのど真ん中に突き刺さっていた。



 キーパーはまったく反応できていない。
 いや、それ以前に「シュートモーションすら見えなかった」。



 何が起きたのか、フランス守護神ですら理解していない。
 実況席も息を呑む。

 

 超高速モーション。
 余計な力みも、助走もない。
 極限までコンパクトにまとめ上げられた、無音のシュート。
 音速を超えた右足のスイングが、振り抜きの瞬間すら“消し去った”。


 
 気づけばボールはゴールに突き刺さり、その余韻だけがスタジアムに残されている。

 
 沈黙。



 数万人の観衆が、一瞬にして声を失った。
 日本サポーターも、フランスサポーターも、全員が信じられないものを見たように息を止める。


 
「…………」



 その静寂を突き破るように――


 
〈ドオオオオオオオッ!!!!〉



 轟く歓声。
 それはまるで「今この瞬間、世界が飯田雷丸を知った」という祝砲のようだった。


 
「決まったぁぁぁぁぁぁ!!!!
飯田雷丸!!!神プレーからの、神ゴール!!!!」



 その声は、ただの実況を超えていた。
 もはや叫びというより、魂の絶叫。
 抑えきれない興奮が、マイク越しに世界中に叩きつけられる。


 
「な、な、な、何ですか今のは!?
トラップから突破まで一瞬!!
そしてDF2人を置き去りにする圧巻のドリブル!!
からのシュート!!!」



 早口になりながらも、言葉が追いつかない。
 頭では理解できていないのに、感情だけが先走る――
 それほど、実況の脳内は雷丸ショックで埋め尽くされていた。


 
「今のシュート、スローで見てようやく足の振り抜きが分かりました!!何ですかあの身体の使い方!?
 ワールドカップ初戦で、伝説級のゴールが生まれましたぁぁぁ!!」


 
 興奮しすぎて声が裏返り、マイクがハウリングする。
 それでも叫ぶ。
 それでも伝えたい。
 世界に、この衝撃を届けたい。


 
「これはもう事件です!!
ワールドカップ史に名を刻むゴール!!
間違いなく、世界が日本の10番――――"飯田雷丸"を知る瞬間です!!!」



 声が震え、息が上がり、心拍数すらマイクに乗る勢い。
 実況席で汗を拭う間もなく、再びモニターを凝視しながら、実況は止まらない。


 スタジアムの歓声と実況の絶叫が重なり、
 ワールドカップ初戦から、誰もが忘れられない幕開けを迎えた。


 
 
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