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第126話 ワールドカップ21
しおりを挟む試合が終わり、ホテルのミーティングルームに戻った俺たちは、ようやく肩の力を抜いていた。
地獄のようなベルギー戦を終えたばかりで、体も心もボロボロ。けれど、それ以上に“勝った”という事実が、俺たちの胸を満たしていた。
そんな空気の中、藤堂監督が両手を後ろに組み、静かに視線を俺たちに向ける。
「――まずは、よくやった。」
その一言に、全員が顔を上げた。
「誰一人として、手を抜かなかった。命懸けで戦い、勝利を掴んだ。お前たちは、誇れる試合をしたと思っていい。」
監督の言葉は、決して大げさではない。
誰もが命懸けだった。
特に俺は、本気で“喰われる”覚悟で走ってたんだからな。
「お前たちの闘志に、心から敬意を表する。胸を張っていい。」
その言葉に、自然とみんなの顔が緩む。
ホッとしたような、でも少し誇らしいような――そんな表情だった。
そして、監督はゆっくりと続けた。
「……明日は試合はない。休養日だ。」
その言葉に、ざわつく空気。
誰もが疲れを感じていたからこそ、その“休み”という言葉は響いた。
「もちろん、自主トレをするのもいい。身体を休めるのもいい。遊びに行くのもいい。好きに過ごせ。」
監督はそう言って、俺たち一人一人の目を見つめた。
「だが、これだけは忘れるな。次の相手はスペインだ。強敵だ。今まで以上の準備が必要になる。そのためにも、自分の体と心に耳を傾けて過ごせ。」
重くて、でも優しい言葉だった。
命懸けで戦った俺たちに、休養を与えてくれる。
でも、それは“次”のための準備でもある。
「以上だ。あとは自由に過ごせ。」
そう言って、監督は一礼し、部屋を出て行った。
しばしの静寂。
けれど、誰からともなく安堵の声が漏れ始める。
「……やっと休めるな。」
「マジで、もう足が棒だよ……。」
次第に、部屋の空気は和らぎ、みんなの顔に笑みが戻っていく。
「なぁ、せっかくのオフだし、どっか行かねぇか?」
「俺は温泉でも行きてぇな。筋肉痛ヤバいし……。」
「いやいや、街に遊びに行こうぜ!ブラジルだぞ!?せっかくだし!」
それぞれが思い思いのプランを話し始める。
戦いを乗り越えたからこそ、この“自由な時間”が格別に感じられる。
そんな時だった。
〈――――ピロン♪〉
俺のスマホが軽快な音を立てた。
何気なくポケットから取り出すと、LINEの通知が画面に浮かび上がっていた。
――送り主は、綾乃の弟、直人。
「おっ……?」
思わずその場で開く。
「飯田さん、フランス、ベルギーに勝利おめでとうございます!!テレビでずっと応援してました!」
そのメッセージを見た瞬間、自然と口元が緩んだ。
俺たちの戦いは、ただの試合じゃない。
テレビの向こうで、こうして誰かが応援してくれていた。
それが、たとえどんなに過酷でも“戦ってよかった”と思える理由になる。
「……はは、素直でいいヤツだな。」
スマホを軽く握り直し、親指でメッセージを打ち込む。
「ありがとう、直人!応援、ちゃんと届いてたぜ。」
シンプルだけど、心からの言葉だ。
あの戦いの重みを知っているからこそ、素直に「ありがとう」と言いたかった。
数秒もしないうちに、直人から返事が届いた。
「……飯田さん……!」
「まさか、俺の応援が本当に届いてたなんて……!!」
「ずっとテレビの前で叫んでました!フランス戦も、ベルギー戦も……!」
「飯田さんのゴール、マジで鳥肌立ちました!!!」
「俺、飯田さんみたいに、自分の限界を超えて戦える男になりたいって、心から思いました!」
「……だから、次の試合も、全力で応援します!頑張ってください!!」
その文字の一つ一つから、直人の興奮と熱意が伝わってくる。
スマホの画面越しでも、彼の心からの想いがビシビシと響いてきた。
きっと、テレビの前で声が枯れるまで応援してくれていたのだろう。
「次も勝つからな!」
そう打ち込み、送信。
それだけで気持ちは十分に伝わるはずだ――そう思った、次の瞬間だった。
「あ、飯田さん!」
「実は、ねぇちゃんが飯田さんと出かけたがってて……。
でも忙しそうだから、誘うの躊躇してるみたいですよ!!」
「……!!」
一瞬、頭が真っ白になった。
脳内で何かがスパークしたかのように、全ての思考が停止する。
そして次の瞬間――
「うっひょぉぉぉぉぉぉ!!!!」
思わず声が漏れた。
まるで決勝ゴールを決めたかのような、勢いそのままのガッツポーズが飛び出す。
拳を握りしめ、天に向かって突き上げる。
「よっしゃぁぁぁぁ!!!!!」
その声に周りのチームメイトが驚いて振り返るが、今の俺にはそんなの関係ねぇ。
――ナイス情報すぎるぞ、直人……!!
「ははっ……綾乃のやつ、出かけたいくせに誘えずに躊躇してたってか?」
そう呟きながら、スマホの画面を見つめて自然と口元が緩む。
控えめで、でもちょっと素直じゃない――。
そんな綾乃の姿を想像するだけで、自然とニヤニヤが止まらなかった。
「ったく……素直に誘ってくればいいのによ。」
手で口元を覆いながら、肩を揺らして笑いをこらえる。
でも、止められない。
「俺と出かけたいくせに、遠慮しちゃって……かわいいやつだな。」
直人、ナイスパスだ。お前のアシスト、最高に決まってたぞ。
「……いや、これはもう俺から攻めるしかねぇな。」
ニヤニヤしながら、すぐにスマホに手を伸ばす。
何をどう言うか、なんて悩む必要はなかった。
『お疲れ様。明日は試合も自主トレもオフになったんだ。もし良かったら、一緒にどっか出かけないか?』
シンプルに、ストレートに。
これが一番だ。
送信ボタンを押す瞬間、自然と口角が上がった。
まるで、ピッチの上でゴール前に立った時のような、確信に満ちた笑みだった。
送信ボタンを押して、スマホをテーブルの上に置いた瞬間――
〈ピロン♪〉
驚くほど早く、返信が届いた。
「……早っ!」
思わず目を見開きながら、スマホを手に取る。
画面に浮かび上がるのは、たった一言だけ。
『いきたいです!!』
その短い言葉に、俺の心臓はドクンと大きく跳ねた。
「……っは!」
唇が緩むのを止められなかった。
ニヤける。いや、ニヤけるしかない。
シンプルすぎる返信。
だけど、その一言に込められた想いが、痛いほど伝わってくる。
「……はぁ、かわいすぎるだろ。」
溢れそうなニヤニヤを、誰にも見られないように必死で抑える。
だけど、無理だった。
顔の筋肉が勝手に緩んでいく。
マジで、試合でゴール決めた時よりテンション上がってるじゃねぇか、俺。
「よし……!」
どこに誘うか、プランを立てるだけでワクワクしてくる。
何がいい?観光?美味いもん巡り?それとも、夜景とか――。
色々考えるだけで、明日のオフが“最高の一日”になる確信があった。
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