異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第128話 ワールドカップ23

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 幻想図書館――正式には王立ポルトガル図書館。


 その荘厳な建物の前に立った瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。


 
「……マジかよ、なんだこれ……!」



 思わず声が漏れた。

 歴史を刻んだ石造りの外観、重厚で荘厳な佇まい。まるで中世の城に迷い込んだかのような錯覚すら覚える。


 
「ヤッベぇ……テンション上がってきたぁぁ……!」



 興奮を抑えきれずに、石畳を踏みしめて分厚い扉の前に立つ。分かってる、まだ入ってすらいない。でも、もう勝手に冒険が始まってる気がしてならない。


 
「いざ、突入!」



 重たい扉を押し開けた瞬間――


 
「……うおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 本当に叫んでた。だって、目の前に広がっていたのは想像以上の“異世界”だったから。


 どこまでも高くそびえる巨大な書架。天井まで続く本の壁。その一冊一冊が歴史を物語り、漆黒の木材に金の装飾が施された棚は、まるで神殿の柱のように荘厳だった。


 ステンドグラスから差し込む光が、薄暗い館内に幻想的な輝きを落とし、そこにあるすべての本が神聖な輝きを纏っているように見えた。


 
「ちょ、ちょ、ちょ……なにこれ……!! 伝説の図書館とかそんなレベルじゃねぇぞ……!」



 俺は興奮を抑えきれず、思わず一歩踏み出す。


 
「こんなん、もう絶対チートアイテムあるだろ……魔剣とか……神話級のやつが隠されてるに決まってるだろ……!」



 見渡す限りの本。本。本!!
 どれだけの歴史と知識がここに詰まってるんだよ。いやもう、ここで一生過ごせるレベル。


 
「飯田さん、楽しそうですね。」



 隣で綾乃が微笑む声にハッと我に返る。


 
「……楽しそう? 当たり前だろ!! これが異世界の冒険じゃなくて何なんだよ!!」



 思わず拳を握りしめてしまう。誰か止めてくれ。俺のロマンはもう止まらない。


 
「うわ、こっちの本とか、絶対なんかの呪文書だろ!? いや待てよ、あの奥の本は魔剣の封印解く系のやつか……!? いやいや、もしかしてこの図書館の奥にはドラゴンが……」




 興奮しすぎて言葉が止まらない。自分でもヤバいのは分かってる。でも止められねぇんだよ!


 
「……ふふ、飯田さんって、意外と夢見がちなんですね。」

「夢見がちとかじゃねぇ! こういうのは男のロマンだ!!」



 俺は胸を張って叫ぶ。だが綾乃は、どこか優しげに微笑むだけだった。


 
「じゃあ、探してみてくださいね。魔剣とか、ドラゴンとか。」

「探すに決まってるだろ!」

 

 俺は勢いよく歩き出した。荘厳な書架の間を縫うように進みながら、まるで異世界の迷宮に迷い込んだ冒険者の気分だ。どこかに魔剣が眠っているかもしれない、封印された禁書があるかもしれない。そんな期待に胸が躍る。


 ……が。


 本棚の前で立ち止まった瞬間、俺の動きが止まった。


 
「……ん?」



 その表紙に目を落とす。

 そこに記されていた文字――


 
『História da Humanidade』



 ……読めねぇ。


 
「おいおい……これ、何語だよ?」


 
 まさか、と思いながら隣の本にも目を向ける。


 
『A Arte da Guerra no Brasil』



 ……分からねぇ。



 さらにその隣の本、そしてまたその隣の本。


 
『Cultura e Tradições Portuguesas』

「……ぜんっぜん分かんねぇ!!」



 俺は思わず頭を抱えた。そうだった、ここはブラジル。王立“ポルトガル”図書館。つまり――


 
「ポルトガル語かよ……!」



 文字の形は見覚えがあるのに、意味がまったく分からない。まるで異世界の古代文字を解読しようとしてる気分だ。


 
「ちょ、ちょっと待て……こんなの、どうすりゃいいんだよ!」



 思わず呟く。これじゃ魔剣どころか、何が書いてあるのかすら分からねぇじゃねぇか。

 だが――



「ふふ、飯田さん?これは……」



 綾乃が俺の隣に歩み寄り、そして、柔らかな微笑みを浮かべながら、まるで日常の一部のように言葉を紡いだ。


 
「『ポルトガルの文化と伝統』って書いてあります。」

「……!」



 一瞬、鼓動が跳ねる。


 
「マジか!? 綾乃、ポルトガル語読めんのか!?」



 驚きに思わず声が上ずる。だが、彼女は穏やかに微笑みながら頷いた。


 
「少しだけですけど。」



 さらっと言う綾乃に、思わず目を奪われた。


 
「……いや、それ、普通にかっこいいんだが……!」

「ふふ、ありがとうございます。」



 控えめで、でも確かに誇らしげな笑みが、どうしようもなく眩しかった。翻訳って、こんなにかっこいいもんだったのかよ。まるで、異世界の呪文を解読する賢者みたいだ。

 いや、それ以上に――



「まるで――」



 思わず言葉が口からこぼれそうになった瞬間、綾乃が小さく首を傾げて、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


 
「伊集院麗華さんみたいだなって思いました?」

「えっ……?」



 その名前が出た瞬間、俺の動きがピタリと止まった。

 麗華――その名が脳裏に浮かぶと、動揺で声が裏返る。


 
「麗華のこと、知ってるのか?」



 問いかけると、綾乃は少しだけ視線を落とし、ほんのりと頬を染めながら、少し恥ずかしそうに呟いた。


 
「えぇ……。実は、飯田さんのこと、ネットで調べたりしてたんです。」

「……ネット?」

「はい。『飯田雷丸 まとめ』とか、『飯田雷丸 wiki』とか、色々見てました。飯田さんの情報がたくさん載ってて……」

「俺のまとめとかwikiなんて作られてんの!?」



 驚きと半信半疑が入り混じった声で聞くと、綾乃は「当然じゃないですか」と言わんばかりに、小さく肩をすくめながら微笑んだ。


 
「それはそうですよ。」

「……え?」

「だって、飯田さんですよ?」



 彼女はさらりとした口調で、淡々と続ける。


 
「サッカーのプロ入団式で空から登場して、テロリストを一人で壊滅させて、国内リーグであれだけ騒ぎを起こし、さらにはワールドカップで活躍して、そして……自分のことを“異世界帰りのハーレム王”だなんて自称してる人ですよ?」



 綾乃はそこで一呼吸置いて、俺の顔をじっと見つめる。


 
「……そんな人、ネットにまとめられないほうがおかしいと思いません?」

「……」



 俺は完全に言葉を失った。

 なんだその冷静すぎる分析は。
 言われてみれば確かに……いや、確かに俺は色々やらかしてきた。けど、こうして改めて一つ一つの出来事を並べられると、もう訳がわからねぇ。むしろ、まとめられてなかったら、それはそれで異常な気がしてきた。


 
「……まぁ……それは、そうか……」



 思わず呟くように漏らすと、綾乃は満足げに頷いた。
 彼女の口元には、どこかくすぐったそうな微笑みが浮かんでいる。


 
「え、でもメンバー達も知られてるのか?」



 俺はふと気になって聞いてみた。
 すると、綾乃は「ああ……」と少し苦笑しながら、スマホをいじり始めた。


 
「ハーレムの皆さんが国内の試合で応援していた動画がネットにアップされてて……それがみなさん美少女揃いだから、大人気ですよ。」

「……え?」



 まさかと思い、綾乃の手元のスマホを覗き込む。
 そこには、まるでスポーツ選手の戦術解説かのような詳細な情報が書かれたページが表示されていた。



 『飯田雷丸のハーレムメンバーを徹底解説!』


 
「……マジかよ!!?」



 思わず叫ぶ。
 なんで俺のプライベートなハーレム事情が、ネットの総力取材みたいな扱いになってんだ!?


 焦りながらスクロールしてみると、そこには信じられないほど詳細な分析が並んでいた。


 


 ――――――

 
 

 飯田雷丸 ハーレムメンバー一覧


 伊集院麗華
• ポジション:正妻枠(?)
• 特徴:お嬢様然とした気品と知性を持ち、ハーレムメンバーの中でも精神的支柱的な存在。
• ファンの間では「#麗華様の微笑みは国宝」のタグが定着。

 

 焔華
• ポジション:破天荒系ヒロイン
• 特徴:雷丸との絡みがエンタメ度MAX。試合中の応援でもひときわ目立ち、すでにサッカーファンの間で伝説になりつつある。
• 試合会場で和太鼓を叩いたシーンがバズり、「#焔華の和太鼓」タグが誕生。


 雪華
• ポジション:癒し系清楚ヒロイン
• 特徴:小柄な体型に儚げな雰囲気、しかし応援の際は意外と熱い一面も。
• 「雷丸様~~!!」と叫ぶ動画が可愛すぎると話題になり、「#雪華たんハスハス」タグが生まれる。


 飯田貴音
• ポジション:妹枠
• 特徴:雷丸を「お兄ちゃん!」と慕う姿がネット民の心を掴み、ファンの間では「貴音は俺たちの妹」として扱われる。
• 応援席での無邪気な姿がバズり、「#俺の妹がこんなに可愛いわけがない(リアル)」タグが急上昇。

 
 伊集院静香
• ポジション:包容力のある年上ヒロイン
• 特徴:優雅な雰囲気と大人の魅力で、ファンの間では「静香さんが雷丸を管理してる説」が浮上。
• インタビューの際の落ち着きぶりが話題になり、「#静香さんママ感強すぎ問題」タグが拡散。


 
  ――――――――

 

 さらにスクロールすると、今度はコメント欄が目に飛び込んできた。

 

「やっぱ正妻は麗華さんだろ!」
「いやいや、焔華こそ至高!」
「貴音ちゃんが唯一無二の妹枠、これが強すぎる」
「静香さん、マジで年上の余裕でハーレム支配してそう」
「雪華たんハスハス」


 
「なんだよこれ……もはや俺の知らねぇところで、勝手にハーレム論争が起きてんじゃねぇか……」



 俺は顔を覆った。
 もはやこれは、俺の知らない次元の話になっている。
 なぜか、勝手に俺の周りで陣営が分かれ、論争が繰り広げられてるんだが!?


 嘆く俺を見て、綾乃はくすっと微笑んだ。


 
「……すごいですよね、飯田さん。日本中が“異世界帰りのハーレム王・飯田雷丸”に注目してるみたいですよ?」

「注目のされ方が間違ってるんだよ!!!」



 俺の叫びが、静かな図書館に響き渡った。



 その瞬間、場の空気がピタリと凍る。
 周囲にいた人たちが一斉にこちらを振り向き、静寂の中に緊張が走る。


 本棚の奥から、眼鏡をかけた図書館員が歩み寄ってくる。
 白い手袋をした手には、一冊の分厚い本。
 そして、その表情は限りなく冷静だった。

 

「……すみませんが、ここは静かな図書館です。お静かにお願いします。」




 淡々とした声。
 決して怒鳴るわけではなく、ただ冷静に注意される。
 それが逆に効く。


 
「……あ。」



 俺は一瞬で冷静さを取り戻した。
 しまった、完全にやっちまった。
 図書館で叫ぶとか、小学生レベルのやらかしだろ……。

 
 綾乃が肩を震わせながら、小さくくすくすと笑っている。
「やっぱり……飯田さんって、面白いですね」と言いたげな表情だった。

 恥ずかしさで耳まで熱くなりながら、俺は慌てて頭を下げた。


 
「す、すみませんでした……!」



 図書館員は静かに頷き、再び本棚の向こうへと消えていった。

 残された俺は、額に手を当てながら、深く息を吐いた。


 
「……くそ、完全にやらかした。」



 綾乃はそんな俺を見ながら、穏やかに微笑んでいた。


 
「大丈夫ですよ、飯田さん。怒られたってことは、それだけ存在感があるってことです。」

「なんの慰めにもなってねぇよ……!」



 俺は思わず小声で突っ込んだが、その声すらも抑えめにしながら、慎重に次の言葉を選ぶようになっていた。



 ――うん、しばらくは静かにしよう。
 

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