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第136話 ワールドカップ31
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オウンゴールを奪ったものの、まだ俺たちは負けている。
そして――残り時間は、あと10分。
時計の針が刻む一秒一秒が、まるで心臓を締めつけるように重く響く。
時間は容赦なく進み、試合終了の笛が近づいてくる。
――焦りが、俺たちの中に広がる。
柴田が歯を食いしばる。
村岡が拳を握る。
長谷川キャプテンが、何かを考えるようにピッチを睨みつける。
「あと一点……あと一点取れば、追いつける……!!!」
誰もが分かっている。
だが、簡単なことじゃない。
相手はスペイン。
世界最強のチームの一つ。
そして目の前には――“ワールドクラス”カルロス・トーレスがいる。
俺の脚は、もう悲鳴を上げていた。
体は鉛のように重い。
呼吸をするたびに、肺が灼けるように熱い。
それでも――俺は止まれねぇ。
なぜなら、俺は知っているからだ。
ワールドクラスを超えなければ、勝てない。
ただ“いい試合だった”じゃ意味がない。
勝たなきゃ、意味がないんだ!!
俺たちはここまで来た。
フランスに勝ち、ベルギーに勝ち、
スペインとここまで戦ってきた。
ここで負けたら、何も残らねぇ!!
ここで勝ってこそ、俺たちは世界を掴めるんだ!!
俺は、拳を握りしめた。
力が漲る。
心臓が爆発しそうなほど、鼓動が速くなる。
トーレスを――
ワールドクラスを超える。
――――――――――――――
「………………よし、行くぞ。」
俺は全身の力を込め、目の前の“闘牛”――カルロス・トーレスを睨みつけた。
ピッチ全体が震えるような、その圧倒的な存在感。
筋肉の塊のような身体が生み出す衝撃波のようなオーラ。
前傾姿勢で俺を見据え、まるで獲物を狙う闘牛のように息を潜めている。
すべての空気がトーレスの周りで熱を帯び、
まるで空間すら支配してしまうかのような圧倒的なプレッシャー。
――これが「ワールドクラス」。
戦いの中で確信したことがある。
それは、ワールドクラスの選手たちは、皆、自分の“武器”を知り尽くしているということ。
ただ漠然と強いわけじゃない。
フィジカル、スピード、テクニック――
それぞれが己の“最高の武器”を理解し、それを極限まで研ぎ澄ませている。
そして、その武器が世界最高峰だからこそ、“ワールドクラス”と呼ばれるのだ。
カルロス・トーレスの武器は明白だった。
その圧倒的な突進力――まるで暴走する巨獣のようなパワー。
体重100kgを超える分厚い筋肉を誇りながら、スプリンター顔負けの加速力を持つ。
まさに、闘牛そのもの。
相手を吹き飛ばし、圧倒的なフィジカルで支配するそのスタイルこそ、
“カルロス・トーレス”という男の核であり、世界最高峰の”武器”だった。
恐らく、それがワールドクラスになるための条件。
では、俺はどうだ?
俺の”武器”は――何だ?
――脚だ。
俺の脚。
どんな無茶な動きにも耐えうる、強靭な脚。
雷のような瞬発力。
異常なまでの加速と、強烈な踏み込み。
一度は、奪われかけた足。
中学時代の逆恨みによるリンチ――
執拗な狙いにより、俺の足の筋は破壊された。
医者からは「再起不能」と言われ、
誰もが、俺が二度とピッチに立てないと思っていた。
それでも――俺は戻ってきた。
だからこそ――俺は、俺の足を”誇れる”。
この脚こそが、俺の”ワールドクラス”の武器だ。
カルロス・トーレスの突進力に対し、俺は”速度”で対抗する。
ワールドクラスを超えるために――俺の全てを、この脚に賭ける。
――――――パスが来る。
俺はボールを受け取り、視線を上げた。
――目の前には、カルロス・トーレス。
ピッチ全体が凍りつくような緊張感。
観客たちは息を呑み、誰もが固唾を飲んでこの一瞬を見守っている。
ワールドカップ3回戦、日本 vs スペイン。
この試合を決定づける、一騎打ち。
これはただの試合の一場面じゃない。
今、この瞬間が――俺が”ワールドクラス”に成り上がる
ための試練だ。
トーレスと向き合う。
まるで嵐の前の静寂。
息をする音すら聞こえなくなり、周囲の喧騒が遠のく。
俺とトーレス、互いの動きを見極めながら、一瞬の隙を探る。
その目は鋭く、どんな甘さも許さない。
トーレスの筋肉がわずかにピクリと動いた。
そのわずかな動きで、俺は悟る。
――来る。
たった一歩のミスが命取りになる。
一瞬の接触でも、トーレスは容赦なく吹き飛ばしてくる。
この闘牛を真正面から受け止めることは不可能。
触れたら終わりの怪物。
上等だ。
ならば――触れさせなければいい。
「――――いくぞ!」
トーレスが爆発的な踏み込みを見せる。
ピッチが震え、まるで大地を砕くような衝撃。
観客席からどよめきが起こり、空気が一気に張り詰める。
それでも――俺の目は、冷静に彼の動きを捉えていた。
――来た。
俺は全身の集中を極限まで研ぎ澄まし、左へ素早くステップを踏む。
――だが、さすがトーレス。
驚異的な反応速度で、彼もまた左へと踏み込み、俺を追う。
恐るべき順応力。
普通なら、これで捕まる。
だが、俺は更に加速する。
右へ、左へ、切り返しを繰り返し、
地面がめり込むほどの踏み込みを続ける。
“ドンッ!"
まるで雷が落ちるような轟音が鳴り響く。
脚にかかる負荷は常識外れ。
普通の選手なら、筋が悲鳴を上げ、関節が耐えきれず壊れる。
だが――俺の脚は、それを可能にした。
“雷速フェイント”
――この脚が、俺の”ワールドクラス”の武器だ。
俺はボールを細かく操りながら、トーレスの足元を見極める。
次の一瞬――右へフェイント。
トーレスが反応する。
――読んだ。
俺は即座にボールを左へ運び、
トーレスの重心がわずかに傾いた瞬間――
俺はその一瞬を逃さず、全身を弾丸のように放つ。
“バチィィッ!!”
ピッチを蹴る音と共に、俺の身体が”加速”する。
トーレスのバランスが崩れる。
俺はすれ違うように彼を抜き去り、一瞬で背後に消えた。
――抜いた!!
ピッチがどよめく。
観客席が爆発するように歓声を上げる。
「抜いたァァァァ!!!」
「ワールドクラスの男、カルロス・トーレスが、完全に振り切られたァァァァ!!!」
実況が絶叫する。
ワールドカップのピッチで、ワールドクラスの怪物を置き去りにする瞬間。
これが俺の”答え”だ。
突進力じゃなく、パワーじゃなく――
俺の武器は”速度”。
雷の如く走り、風の如くすり抜ける。
それが俺、飯田雷丸の”サッカー”だ!!!
ピッチを切り裂くように疾走する。
目の前には、ゴール。
そして、最後の壁――スペイン代表のゴールキーパーが立ちはだかる。
「10番の異様に速いシュートが来るぞ!!」
ディフェンダーが叫ぶ。
「わかってる! ワンテンポ早く動く!!」
ゴールキーパーがすでに構え、俺のシュートを止める準備をしている。
そうだ、当然対策はされている。
フランス戦、ベルギー戦を経て、俺のシュートは研究された。
今ここで撃てば、読まれているのは間違いない。
でもな――
“対策していようがどうしようもない。”
それが俺のシュートだ。
――撃つ。
俺の右足が、一瞬で振り抜かれる。
そのスイングは、振り抜きの瞬間すら”消し去る”ほどの超高速モーション。
ズドンッ!!!!
空気を切り裂く轟音。
ボールがまるで雷光のように閃光を放ち、一直線にゴールへ突き進む。
「――――――速ッ!!??」
ゴールキーパーがその”異常”なスピードに驚愕し、必死に反応する。
ワンテンポ早く動いた。
読んでいた。
完璧なポジション取りだった。
だが――
間に合わない。
ゴールキーパーの指先が、ほんの数ミリ届かず、ボールはスルリと抜ける。
次の瞬間――
“バゴォォォンッ!!”
ゴールネットが大きく膨らみ、ボールが突き刺さる。
その威力に、ゴールの枠がわずかに軋み、揺れ動いた。
「ワンテンポ早く動いても……間に合わないのか……反則だろ…………」
ゴールキーパーが唖然とした表情のまま、膝をつく。
そして――
スタジアムが爆発したかのような大歓声!!!!
「決まったあああああああああ!!!!!!」
「飯田雷丸!!! 日本代表の10番が!!! スペイン相手に!!!! 同点ゴールを叩き込んだあああああ!!!!」
「日本が追いついたぞォォォォォォ!!!!」
観客が総立ちになり、青いサポーターたちが歓喜の声を上げる。
“日本代表”の応援歌が、地鳴りのようにスタジアム中に響き渡る。
ピッチの上では、仲間たちが俺の元へ駆け寄ろうとしていた。
だが、俺は違った。
手をかざし、全員を制した。
「いい!お前ら、早く戻れ!!」
仲間たちが、驚いたように足を止める。
まだ試合終了じゃない。
まだ、“1分”ある――
“勝つ”。
“ドロー”なんかじゃ終わらせない。
あと1点、決める。
そして、俺たちが”勝者”になる。
誰もが「無茶だ」と思った。
チームメイトですら、その無謀さに声を上げない。
だが、俺は知っていた。
“ここで決めなきゃ、ワールドクラスにはなれねぇ”
〈ピィィィィィィ!!〉
キックオフの笛が鳴る。
スペインがボールを前に蹴り出す。
その瞬間――
「ディフェンスを捨てろ!!!」
長谷川キャプテンの叫びが、全員の意識を引き締めた。
“守る”のではない。“勝つ”ために”奪う”。
日本代表全員が一斉に前へと駆ける。
ボールが中央へ転がる。
スペインがパスを回そうとした、その刹那――
「奪ええええええ!!!!」
柴田がスライディング。
村岡が体を張って潰しにかかる。
ゴチャつくボール。
その隙を突き、長谷川キャプテンが鋭く突っ込んでボールを掠め取る。
俺は全力で叫んだ。
「俺に出せえええええ!!!」
その声に、仲間たちは迷わなかった。
俺の足元へと、“勝利のボール”が飛ぶ――
「最後だよ、お前ら……!!」
右足でボールを触れた瞬間、俺は”全開”で加速した。
まるで風が一瞬止まったかのような静寂。
だが、次の瞬間、俺の身体は稲妻のようにフィールドを切り裂いた。
「なっ……!!?」
「速い……!!?」
スペインのディフェンダーたちが驚愕の声を上げる。
だが、俺の視界に彼らはいない。
いや、“いても関係ない”。
まるで”見えていない”かのように、俺はディフェンスの間を縫うように駆け抜けた。
ワールドクラスのディフェンダーたちが俺に詰め寄る。
だが、“届かない”。
トーレスが相手にしていたように、俺もまた、“1人で試合を破壊する”。
それが――
“ワールドクラスの証”
「――――止められるもんなら、止めてみろ」
ゴール前へ到達。
俺は一瞬、視界をぼやけさせる。
ピッチの音、風の流れ、ゴールキーパーの動き――
全てを”感じる”。
――ここだ。
俺は、右足を振りかぶった。
スタジアム全体が息を呑む。
「止めろォォォォォ!!!!」
スペインのディフェンダーが叫ぶ。
「撃たせるな!!!」
ゴールキーパーが吠える。
だが――
もう”遅い”。
俺の足が、ボールに触れた瞬間、雷鳴のような衝撃が走る。
〈ズドンッ!!!!〉
全身の力を込めた俺のシュート。
まるで稲妻がフィールドを切り裂いたように――
ボールがゴールへ一直線に突き進む。
〈バゴォォォォォォンッ!!!!〉
――――――そして次の瞬間
「決まったああああああ!!!!!」
「日本代表、雷丸が……ラスト1分で、逆転ゴールを叩き込んだぁぁぁ!!!!」
「これは歴史的瞬間だ!!! ワールドカップ史に残る、日本代表の大逆転劇!!!!」
スタジアムが大爆発したかのような歓声が響き渡る。誰もが驚愕し、スペインの選手たちはその場で呆然と立ち尽くす。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
チームメイトたちが次々と俺に飛びついてくる。
全員で抱き合い、飛び跳ねる。
喜びが、一瞬にして爆発する。
〈ピィィィィィィィ!!!〉
試合終了のホイッスル。
俺たちは勝った。全力で走り、全力で挑み、そして――逆転を果たした。
歓声は止まらず、スタジアム全体が日本代表の勝利に沸き立っていた。
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