異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第139話 ワールドカップ34

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 ミーティングルームに集まった日本代表の選手たち。
スペイン戦から数日――その興奮と疲労がまだほんのりと残る中、全員の顔には誇りと、そして新たな緊張が混ざっていた。


 前方のモニターには、これまでの試合のハイライト映像が流れ、スペインとの激戦が改めて思い起こされる。


 その映像がフェードアウトした瞬間――藤堂監督が、静かに前に立った。

 

「……まずは、スペイン戦。」

 

 その言葉に、部屋の空気がピリリと引き締まる。

 

「お前たちは、歴史を作った。」

 

 その言葉は静かで、だが確かな熱を帯びていた。

 

「ワールドクラスの猛者、カルロス・トーレスを相手に、怯まず、逃げず、全力で戦い抜いた。そして、勝った。」

 

 監督の言葉に、誰もが無意識に背筋を伸ばした。

 

「俺たちはサッカーの常識を破った。組体操で鉄球を受け止めたかと思えば、玉乗りでゴールまで持っていく。……普通は、笑い話だ。」

 

 監督の目が雷丸を一瞬だけ捉える。

 

「だが、お前たちはそれを“本気”でやりきった。だから、世界が笑わずに驚いた。賞賛した。称賛を込めて、“狂ってる”って言った。」

 

 選手たちの表情に、少しだけ誇らしさが混じる。肩を揺らして笑う者もいた。

 

「誇っていい。だが――まだ終わりじゃない。」

 

 監督の声が、次第に厳しさを帯びていく。

 

「スペインを破った。それは事実だ。だが、次は――“南米の王者”、アルゼンチンだ。」

 

 映像が切り替わり、次なる相手、アルゼンチン代表のプレー映像が流れ出す。

 スクリーンに映し出されたのは、一人の男の姿だった。
 
 
 白と水色のユニフォームを身に纏い、滑るようにピッチを舞うその姿。

 

「――エンリケ・マルティネス。」

 

 藤堂監督の声が低く響く。

 

「カルロス・トーレスと並び称される、もう一人の“ワールドクラス”。だが、タイプはまるで違う。」



 映像では、エンリケがボールをトラップし、まるで手品のように相手ディフェンダーの股を抜いていく。
 そのまま空中で半回転しながら、ヒールで味方へノールックパス。

 
 ボールは一直線に、誰も見ていなかったスペースへ吸い込まれるように流れた。

 

「彼のプレーは予測不能。視線、リズム、タイミング――そのすべてを意図的に“ズラす”。守る側にとって、最も厄介なタイプの天才だ。」

 

 映像には、観客が驚愕し、ディフェンダーが立ち尽くし、味方が顔を見合わせるシーンが続く。

 

「“常識外の発想”を、“常識外の精度”で実現するプレイヤー。しかも本人はそれを“無意識”に、“自然体”でやっている。」

 

 監督の表情には、警戒だけでなく――ほんの少しの敬意すら浮かんでいた。

 

「トーレスが“圧倒”する破壊者なら、エンリケは“欺き”、“魅せる”支配者だ。」

 

 室内が静まり返る。
 誰もがスクリーンに映るその異質な存在に、釘付けになっていた。

 

「だが、恐れる必要はない。お前たちは世界を驚かせた。なら、もう一度やってみせろ。」

 

 藤堂監督の声が、チームの芯に火を灯すように響いた。

 

「お前たちなら、アルゼンチンにだって勝てる。」

 

 その一言に、誰もが無言でうなずいた。

 スペインを越えた俺たちが、次に挑むのは――南米最強。

 舞台は、さらに深く“世界”へと突入する。
 
 


 
 ――――――――――





 
 南米の強豪・アルゼンチンと、勢いに乗る日本代表がぶつかる一戦。

 
 試合開始を目前に控えたスタジアムは、すでに異様な熱気に包まれていた。

 
 観客席はまるで巨大な波のように揺れている。
 白と水色のアルゼンチンサポーターたちが歌い、叫び、拳を突き上げる。
 陽気なリズムのチャントが響き渡り、鳴り続けるラッパの音が空気を震わせていた。


 
 対するは、青く染まった日本の応援席。


 
「ニッポン!ニッポン!」と、何万もの声が一つになってスタジアム中を突き抜けていく。
 拍手が波紋のように広がり、太鼓のリズムが鼓動とシンクロする。
 ただの声援ではない――祈り、願い、信念すら込められた、魂の声だった。


 スクリーンには選手たちの顔が順番に映し出され、名前が呼ばれるたびにスタンドから地響きのような歓声が上がる。

 
 空には無数のフラッグが揺れ、ピッチの芝生さえも、この熱気に震えているようだった。

 
 そこはもはや“サッカーの聖地”などという言葉では語れない。
 神話と現実が交差する、“運命の舞台”。

 
 日本 vs アルゼンチン。

 
 笛が吹かれる、その瞬間を、全世界が息を呑んで待っていた。



 ――そして、その時が来た。


 
 巨大モニターに映し出される「ARGENTINA」の文字と共に、スタジアムに重低音のBGMが響き始める。
 アルゼンチン代表の選手たちが、白と水色の伝統のユニフォームに身を包み、堂々とピッチへと姿を現した。

 
 まるで戦場へと進軍する兵士たちのように、一歩一歩に威圧感が宿る。

 
 先頭に立つのは――10番、エンリケ・マルティネス。
 無表情のまま、静かに周囲を見渡すその姿に、スタジアム全体がどよめく。

 
 その一挙手一投足に、まるで空気の密度が変わるような緊張が走る。


 
〈ワァァァァァァァァァ!!!〉


 
 アルゼンチンサポーターが総立ちになり、青と白のフラッグが一斉に翻る。
 太鼓、ラッパ、チャントが鳴り響き、スタジアムはまるで地鳴りのような揺れに包まれた。

 

「ついに来たぞ!! 南米王者、アルゼンチン代表がピッチに姿を現しました!!」
「カルロス・トーレスを止めた日本代表が、今度は“魔術師”エンリケ・マルティネスに挑みます!!」
「ワールドクラスの天才、登場!!これは歴史的な一戦になるぞ!!!」


 
 実況席の声も熱を帯び、テレビ越しに見る視聴者さえ巻き込む熱狂がスタジアム全体を包み込む。

 
 その中で――静かにエンリケは、ピッチの中心で立ち止まり、日本代表のほうを見据えた。


 
 カルロス・トーレスとは違う“圧”をまとった存在――エンリケ・マルティネス。

 
 ピッチに似合わぬ、どこか優雅で気怠げな歩調。
 だが、その一歩一歩に、観客の視線が釘付けになる。

 
 エンリケがこちらを見据える。
 俺もまた、視線をそらさずに立つ。


 やがて――彼がニヤリと口元を緩めた。

 

「……ヘイ、雷丸。」

 

 その一言に、背筋がピンと伸びた。

 そして、思い出す。
 あの時――
 ワイングラス片手に現れ、俺の口にいきなりオリーブをねじ込んできた天才マジシャン。

 

(ま、まさか……今日も……?)

 

 身構える俺を見て、エンリケは肩をすくめ、いたずらっぽく笑う。

 

「今日はさすがにオリーブは持ってないぜ。……試合中だからな。」


 

 そう言いながら、軽くポケットを裏返して見せる仕草。
 ……演出がいちいち芝居がかってる。



「……お前、そのポケットからハトとか出てきても俺は驚かねぇからな!」


 
 俺が軽くツッコミを入れると、エンリケはクスッと笑った。
 その笑みの奥には、明らかに“仕掛ける側”の余裕と楽しさが滲んでいる。

 

「お前との再会を、ずっと楽しみにしてた。」

 

 彼の目は冗談を飛ばしながらも、獲物を見つけた狩人のそれだった。
 かつてワイン片手に俺を“ご指名”した、あの時と同じ目。

 

「今日は、ステージにふさわしい舞台が整った。お前となら、最高のマジックが演じられる。」

 

 まるで演者のように語るエンリケ。
 けれど――その魔術の対象は、ボールであり、リズムであり、そして“俺”だ。
 
 

「お前にだけは、絶対にやらせねぇからな。エンリケ。」

 

 俺の言葉に、エンリケは満足そうに目を細める。

 

「その言葉、待ってたぜ。」

 

 そして彼は、そっと右手を差し出してきた。

 握手――かと思いきや、俺の手に何かをこっそり握らせてきた。

 

「…………って、またオリーブじゃねぇか!!!」

 

 あのときと同じ、プルンとした感触。
 まさかの“前哨戦”オリーブ再び――!

 

「アルゼンチン流のエールってことで。幸運を、雷丸。」

 

 そう言い残し、エンリケは軽く指を立て、さっと背を向けて去っていった。

 白と水色の背中が、すでにピッチの中心を支配している。

 

「……ふざけた野郎だ。」

 

 口元に笑みを浮かべつつも、俺は心を研ぎ澄ませる。

 今日の相手は、“天才マジシャン”エンリケ・マルティネス。

 常識のすべてを壊しながら、美しさで世界を欺く男。

 だが――

 

「そいつを超えてこそ、俺は“世界一"になる。」

 

 静かに、手の中のオリーブを口に放る。
 独特の塩気と香りが舌に広がる。


 
 ……よし。

 

 さぁ、ショータイムだ。
 

 

 
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