異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

文字の大きさ
147 / 185

第147話 ワールドカップ42

しおりを挟む

 ――その瞬間だった。

 

 ヴァルターが構えたカメラに、シュパァンッ!!という鋭い音とともに何かが直撃した。


 
〈バキィィン!!〉

 

 甲高い破砕音。カメラのレンズが砕け散り、本体が火花を散らして床に転がる。

 

「……なっ!?」

 

 ヴァルターの表情が一瞬にして険しくなる。

 テロリストたちが一斉に振り返る。

 

 そして――その視線の先に、堂々と立っていたのは。

 

 アントニオ・ソルダード。

 

 ブラジル代表のワールドクラス。

 

 暗がりに差し込む非常灯の光を背に、彼は昼の太陽みたいな無邪気な笑顔を浮かべていた。

 

「……ブラジル代表、アントニオ・ソルダード……!?」

「なぜここに……!?」

 

 困惑と動揺がテロリストたちに走る。

 

 だが、アントニオはまったく気にしていない様子で、ゆっくりと檻の前まで歩み寄ってきた。

 

 そして、檻の中――ドMスタイルでギャグボールを咥えた俺を見下ろすや否や。

 

「ぷっ……ふはっ……っははははははははは!!!」

 

 腹を抱えて、笑い転げた。

 

「雷丸君、どんな趣味してるのさ!?こんな姿で出迎えられるとは思ってなかったよ!」

 

 爆笑が止まらない。

 檻を叩いて笑い、しゃがみ込むほど笑ってる。

 

「ちょっ……待って……お腹痛い……ッ!!やばい……これは想像を超えてる……!」

 

 ――やめろおおおおおおお!!!

 

 こっちは命の危機だってのに、笑いのツボに入りやがってこの野郎!!

 

「うぐーっ!! うぐぐぐっ!!」

 

 ギャグボール越しに、全力で抗議する俺。

 目は潤んでる。怒りと羞恥と、ちょっとした感謝と。



 ――その瞬間だった。

 
 爆笑しているアントニオの背後――
 一人の見張りが、音もなく忍び寄っていた。


 
「うぐーっ!! うぐぐぐっ!!」

 

 ギャグボール越しに、俺は必死に叫ぶ。
 声にはならないが、心の中では全力で叫んでいた。



「アントニオ!後ろだ、危ない!!」


 
 見張りの男は右手に鋭いナイフを握りしめ、アントニオの背中へと静かに一閃を狙う――

 
 
 ――しかし。

 

「……ふっ」

 

 アントニオは、まるで背中に目でもあるかのように、振り返らずにその腕を掴んだ。

 

「無駄だよ。全部“視えてるから”」

 

 その言葉と同時に、ギリッと音がするほど腕を捻り、反動を乗せて地面に叩きつける!

 

〈ドガァッ!!〉

 

 見張りは地面にめり込むように沈み、呻く暇もなく意識を飛ばした。

 

 俺も、そしてヴァルターも、その一連の流れるような動作に目を見開いた。

 

「なるほど……やはり本当だったようだな」

 

 ヴァルターが静かに言った。

 

「アントニオ・ソルダード。君のことは調べさせてもらった。リオのスラム街出身、そして――」

 

 男の目が、ほんの僅かに細められる。

 

「“特殊な目”を持つ男。反応ではない、予知でもない――“視えている”」

 

 アントニオは肩をすくめて、軽く笑った。

 

「秘密にしてたつもりなんだけどな。……ま、今さらか」

 

 ヴァルターはそれ以上何も言わず、すっと背を向ける。

 

「全員でアントニオを仕留めろ。私は奥の部屋に行く。」

 

 その言葉を合図に、部屋中に張り詰めた空気が一気に爆ぜる。


 テロリストたちが一斉に武器を構え、アントニオへと殺到する!

 
 

 スタンロッドを手に突撃してくる前衛、重装備の盾兵がじりじりと包囲を狭め、アントニオを“確実に仕留める”動きを取ってくる。

 

 ――だが。

 

 アントニオ・ソルダードは、軽やかに、自然体のまま“その場にいるべき位置”に動く。

 

 弾丸がかすめるはずだった軌道に、彼の姿はなく。

 スタンロッドが叩きつけられる寸前の瞬間、アントニオはまるで未来を“知っていた”かのように、するりと身体を傾けて回避。

 

 そして――

 

「そこだ」

 

 撃とうとしたテロリストの隣に滑り込み、弾道を一歩ずらせる。

 ――味方の背中に命中。

 

「あっ……!」

 

 同士討ち。味方を庇おうとした動きが、逆に連鎖的な混乱を招く。

 

 右へ逃げるかと思えば、左へステップ。

 正面から撃ち抜くと思えば、背後へ跳び下がる。

 

 まさに――「そこしかない」安置。

 

 誰もが狙っているのに、誰も“当てられない”。

 まるでアントニオだけが別の時間軸にいるように、全ての攻撃をいなしていく。

 

 盾兵が吠えるように突進してくる。

 だがアントニオは、一歩、横へずれるだけ。

 重装の男が止まれずに――スタンロッドの部隊に激突!

 

「ぐあっ!?な、何してやがる!?」

「いや、こっちが聞きてぇよ!!」

 

 隊内で混乱が広がる中、一人また一人と無力化させていく。



 ――そして。
 

 アントニオは、最後に残った一人の足元へふわりと跳び上がった。

 

 その身体が、まるでスローモーションのように空中を舞う。

 

 そして――「フィニッシュ」

 

 華麗な回し蹴りが、水平に振り抜かれた。

 

 バシュッ!!

 

 鋭い音と共に、蹴りは男のこめかみを的確に捉え――

 その巨体を、ぐるりと横に吹き飛ばした。

 

 男は一言も発せぬまま、地面に崩れ落ちる。

 

 ……静寂。

 

全員が倒れ伏した戦場の中心で、アントニオはひとつ深く息を吐き、乱れた前髪を指でかき上げた。

 

「……ったく。乱暴な歓迎だね」

 

 軽口とは裏腹に、その瞳にはまるで一点の曇りもない。焦りも怒りも、戦いの高揚さえもない。

 あるのは――すべての展開を“読み切っていた”者だけが持つ、確信の光。

 

(こいつ……何者だよ……!!)

 

 俺は檻の中で驚愕を隠せないまま、ただその背中を見つめていた。

 

 アントニオは倒れている見張りの一人から器用に鍵束を拝借すると、くるりと俺の方へと振り返った。

 その瞬間――またしても爆笑。

 

「ぷっ……ははっ、いやぁ……やっぱりその姿、何度見てもひどいね!」

 

 こいつ……ぜってぇわざと笑ってやがる!!

 

「うぐーっ! うぐぐぐぐーーっ!!」

 

 ギャグボール越しに必死の抗議をかます俺。顔を真っ赤にしながら身をよじって訴えかける。

 

 だが、アントニオは肩を揺らしながら、にやりとイタズラ少年みたいな笑みを浮かべ――

 

「よしよし、今すぐ助けてあげるよ、“ドMの王様”」

 

 ――誰がドMの王様だあぁぁぁ!!!

 

 羞恥と屈辱で、俺のプライドがまたひとつ崩れ落ちた。ギャグボールの下で歯ぎしりしながら、俺は地団駄を踏む勢いで悔しがる。

 

 だが。

 

 それでも――

 

〈ガチャリ。〉

 

 檻の鍵がゆっくりと回る音は、今の俺にとって救いの鐘のように聞こえた。




 ――――――――――






 アントニオが俺の口からギャグボールを外した瞬間――

 

「アントニオ!!マジで助かったぞ!……けど、どうしてここがわかったんだ!?」

 

 声が出せるって、こんなに爽快だったのか。俺は思わず叫び、解放の喜びに肩で息を吐いた。

 

 そんな俺に対して、アントニオは――軽やかな笑顔で、さらっと言いやがった。

 

「僕の愛人の一人がね、警察官なんだ。彼女が教えてくれたんだよ、君が連れ去られたって」

 

「……愛人んんんんん!?!?」

 

 叫んだ。反射でツッコまずにはいられなかった。

 

「ちょ、ちょっと待て!今サラッと“愛人”って言った!?しかも一人ってことは複数!?!?」

 

 アントニオは平然と肩をすくめ、まるで「天気がいいね」くらいのノリで微笑む。

 

「うん。僕の彼女たちはみんな納得してるよ。愛も自由も、分け合う時代さ」

 
「……どこの太陽神だお前は……!」

 
「ふふっ。君だって立派なハーレム持ちじゃないか。同じようなものでしょ?」

 
「いや違う!全然違ぇし!!俺のはもっとこう、流れとか偶然とか、感情の積み重ねとか……!」

 

 ――っていうか何この会話!? 脱出直後とは思えない温度差!!

 

 でも、事実として助けられたのは間違いない。

 

「……まぁ、いいや。とにかく、本当にありがとうな。お前が来なきゃマジで終わってた」

 

 そう言うと、アントニオは満足げに笑って――

 

「どういたしまして、ミスター・ドMヒーロー」

「やめろその呼び方ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 アントニオがふっと真顔になる。

 

「これからどうする?雷丸君。このままテロリストのアジトから抜け出す?」

 

 ――だが、即答はしなかった。頭に浮かぶのは、あの姿。

 

 綾乃。裏切られた。けど、まだあいつがここにいるってんなら――

 

「いや、綾乃がいる。俺は行く」

「ああ、あの子ね。前に君とデートしてた子でしょ?」

 

 妙に淡白な言い方だ。さっきまで命がけで助けに来てくれた男とは思えない。

 

「……別にいいんじゃない?裏切られたんでしょ?もう気持ちも離れてたみたいだし。」

 

 冷たい。だが、俺はきっぱりと返した。

 

「俺一人でも行く。お前はついてこなくて大丈夫だ。っていうか、ここまでやってもらって、もう十分感謝してる」

 

 だが、アントニオはフッと笑って――

 

「いや、雷丸君が行くなら、僕も行くよ」

 
「え……」

 
「言ったでしょ? 君とサッカーするの、楽しみにしてるんだ。こんなとこでくたばられても困るよ」

 

 ――クールで、どこか眩しいその笑顔に、また救われた気がした。

 



 ――――――――


 


 

 俺とアントニオは、テロリストのアジトを突き進む!

 

 ――ドォォン!!バァァン!! 

 

 爆発音が次々と鳴り響き、敵がまるでボーリングのピンのように吹っ飛んでいく!

 

「いや、これもうサッカー選手の仕事じゃねぇだろ!!」

 

 叫ぶ俺。応じるアントニオ。

 

「たまにはボールじゃなく、人を蹴るのも面白いね!」

「怖ぇよお前!!」



 その瞬間、右手から銃撃が――!

 

「アントニオ、右だ!!」

 

 俺が叫ぶと同時に、アントニオは華麗なターン。

 

 銃を構える敵の腕を、まるでフリーキックのように左足で蹴り飛ばす!!

 

 銃が宙を舞い、壁に突き刺さる。敵はそのまま尻餅をついて戦線離脱!

 

「お前さぁ……ほんと何者なんだよ!?」

「まぁ、スラム出身だからね。育ちが悪いんだ」

「それにしたって限度があるだろ!!」

 

 俺も負けじと、正面から突っ込んでくる敵の攻撃を、壁を蹴って三角跳びの要領でかわし――

 

 反転しながらの膝蹴りで昏倒させる!

 

 ガッ!と鈍い音が響き、敵が床に沈んだ。

 

「君もなかなかやるね、雷丸君!」

「そりゃそうだろ!俺は異世界帰りのハーレム王だ!」

 

 二人で蹴って、避けて、ぶちかます!

 

 ――爆風と破片が舞う中、俺たちは進み続ける。

 

 目指すはただ一つ。綾乃のもとへ!!


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

【完結】オレの勇者パーティは全員アホだが強すぎる。

エース皇命
ファンタジー
 異世界に来て3年がたった。  オレの所属する勇者パーティ、イレギュラーズは相変わらず王都最強のパーティとして君臨している。  エルフのクリス、魔術師のジャック、猫耳少女ランラン、絶世の美女シエナ。  全員チート級の強さを誇るけど、どこか抜けていて、アホ全開である。  クリスは髪のセットに命をかけて戦いに遅刻するし、ジャックは賢いもののとことん空気を読まない。ランランは3歩あるくだけで迷子になるし、シエナはマイペースで追い詰めた敵を見逃す。  そんなオレたちの周囲の連中もアホばかりだ。  この世界にはアホしかいないのか。そう呆れるオレだったけど、そんな連中に囲まれている時点で、自分も相当なアホであることに気づくのは、結構すぐのことだった。  最強のアホチーム、イレギュラーズは今日も、王都を救う! ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...