異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第148話 ワールドカップ43

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 奥の部屋に突入すると――

 

 まるで舞台の幕が上がったかのように、静寂と重圧が支配していた。

 

 その空間の中心に、彼はいた。

 

 アレクサンドル・ヴァルター。

 

 漆黒のスーツを纏い、月光のような銀髪を揺らしながら、王座のない玉座にでも座っているかのような風格で、俺たちを迎えた。

 

 その瞳には焦りも怒りもない。ただ、すべてを見透かした“支配者”の眼差し。

 

 そして――彼の隣に立つ、ひとりの少女。

 

 綾乃。

 

 手錠も鎖もない。自由なはずの身体なのに、彼女はただ、そこに立っていた。

 

 うつむいたまま、目を逸らしたまま。

 震える肩が小さく揺れている。それを見た瞬間、俺の胸がチクリと痛んだ。

 

「綾乃!!」

 

 叫ぶ俺の声が、凍った空気をかき裂いた。

 

 だが――彼女は反応しない。まるで、その声さえ届いていないように。

 

 隣でアントニオが無言で構えを取る。その気配を感じながら、俺はゆっくりと一歩、また一歩と前へ進み出す。

 

 ヴァルターは、まるで演説を始める舞台俳優のように、ゆるやかに両手を広げ、言った。

 
 

「ようこそ、“最終幕”へ――Mr.雷丸、Mr.アントニオ」

 

 その声はまるで、カーテンの向こうで息を潜めていた演者が、静かに歩み出る瞬間のようだった。

 静寂の空間を滑るように、冷たく、確信に満ちた響きで。

 

 だが――俺はそんな芝居がかったムードに、黙って付き合うつもりはなかった。

 

「……いや、お前さ――大物ぶって語ってるけど、さっき思いっきり逃げたよな?」

 

 静かな部屋に、俺の声が鋭く突き刺さる。

 俺はゆっくりと数歩踏み出し、口元に皮肉な笑みを浮かべながら続けた。

 

「銃撃戦が始まった瞬間、さっさと“奥の部屋”に引っ込んでよ? で、今になって“ようこそ”とか言っちゃう? なんかダサくねぇ?」

 

 わざとらしく肩をすくめ、嘲るような視線をぶつける。

 

「いや~、これはちょっと……“支配者”としての威厳に傷がつくんじゃね?」

 

 ピクリとも動かぬヴァルターの顔。

 だがその目の奥で、何かが淡く燃えるのを俺は見逃さなかった。

 静かなる怒り――いや、確信か。

 

 ヴァルターは、まるで挑発すら予定のうちとでも言いたげに、ただ淡々と口を開いた。

 

「……ふふ、やはり君は“らしい”な、ミスター雷丸。だが、愚者は最後まで“理解”できないものだ」

 

 そして――彼の指が、ゆっくりと懐から出した小型のリモコンへと伸びていく。

 

「ここに来た時点で、君たちの“敗北”は決まっていたのだよ」

 

 カチリ。

 

 軽い電子音と共に、床下から機械音が響き――

 足元の床パネルが、一斉に発光を始める。

 

「なっ――!?」

 

 次の瞬間、ガシャンッ!!という重厚な金属音と共に、俺とアントニオの足元に仕込まれていた拘束装置が作動した。

 

 鋼鉄のアームが瞬時に足を絡め、腰、腕、首元へと次々にロックがかかる。

 

「ぐっ……クソッ!!」

 

 抵抗する間もなく、全身を固定され、膝から床へと押しつけられる形になる。

 アントニオも同様に拘束され、眉をひそめながらも冷静に状況を見つめていた。

 

「なるほど……最初から“この部屋に入ること”が罠だったわけか」

 

 ヴァルターが満足げに微笑む。

 

「そう。君たちが英雄として、世界に希望を与える存在であるのなら――私はここで、その希望を完膚なきまでに叩き潰す。舞台は整った。あとは……“最終演目”を始めるだけだ」

 

 俺は歯を食いしばりながら、再びヴァルターを睨みつけた。

 

「テメェ……最初から、こうするつもりだったのか……!」


 

 ヴァルターの背後、目を伏せたままの綾乃の肩が、わずかに揺れた。

 

 そして――天井から機械音と共に降りてくる無数のカメラ。

 

〈ギュイィィン……カチ、カチ……〉

 

 まるで舞台照明のように俺たちを囲み、無機質なレンズが冷たい光を放っていた。

 

「これから君を裸にする。再び世界に“晒す”時が来たよ、Mr.雷丸」

 

 ヴァルターが静かに、冷笑とともに囁く。

 

「はああああ!? またかよ!?」
 

 
 拘束されながらも、全力で叫ぶ俺のツッコミが室内に響く。

 

「どんだけ俺をドMコーデで晒したいんだよ!!変態か!? てめぇ、顔は賢そうなくせに中身は中学二年生レベルじゃねぇか!!」

 

 怒りと羞恥とツッコミの嵐。俺の唯一の“反撃”が今、牙をむいている。

 

 その言葉に、ヴァルターの表情がピクリとわずかに動く。

 

「国力を削る手段が“ドM晒し”って……お前の思考、どのルートで歪んだらそうなんだよ!!」

 

 隣のアントニオが小さく吹き出す。

 

「……ふふっ。ごめん、雷丸君……ちょっと今のは笑った」

「笑うな!! こっちは命かかってんだぞ!!」

 

 そのやり取りすら嘲笑うように、ヴァルターが冷ややかに言い放つ。

 

「必死だな、Mr.雷丸。だが覚えておけ。私が重視するのは――“結果”だ。手段の滑稽さなど、些末な問題にすぎん」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を傾けた。

 

「やるんだ――Ms.綾乃」

 

 その言葉に、綾乃の肩がピクリと震える。

 

「……せめて愛した女に服を脱がせてもらえ。君の“最後の舞台”にはふさわしい儀式だろう?」

 

 吐き捨てるような、歪んだ優しさ。

 

「嘘だろ……綾乃?」

 

 縛られた体を揺らし、震える声で呼びかける。

 

 彼女は答えない。顔を伏せたまま、沈黙のなかに立ち尽くす。

 

 だが、その指がかすかに動いた。まるで、迷いの果てに何かを選び取ろうとするように。

 

「綾乃……俺は……」

 

 喉元で言葉が絡まり、出てこない。怖かった。彼女の目が見られなかった。

 

 ――けど、それでも信じたい。あの綾乃が、こんな命令に従うわけがない。

 

 天井のカメラが無情にカチカチと音を鳴らし、焦点を合わせる。

 部屋の空気は冷たく、張りつめていく。

 

 そして――

 

 綾乃が、ゆっくりと歩き出した。

 

 一歩ずつ、俺に向かって。沈黙のまま、感情を閉ざした顔で。

 

「やめろ……綾乃……」

 

 絞り出すような声。言葉にならない思いが胸の奥で叫んでいる。

 

「そんなこと、しなくていい……お前が……そんなことを……!」

 

 でも、彼女は目を逸らしたまま俺の目の前に立ち――

 その手が、ゆっくりと、俺の服に伸びた。

 

 心臓が――張り裂けそうだった。

 

(……綾乃……)


 

彼女の手が、震えながら俺のシャツのボタンに触れる。
 ひとつ、またひとつと――静かに、ためらいがちに外されていく。

 

「いいぞ、Ms.綾乃」

 

 ヴァルターの冷ややかな声が、部屋の冷気に溶けて響く。

 

「夢を勝ち取るには、代償が必要だ。
 この世界に“純粋な栄光”など存在しない。
 血か、涙か、誇りか――何かを捨てた者だけが、ようやく光に手を伸ばせる」

 

 まるで信仰者に教義を説くような声だった。
 冷たく、それでいて甘く響く。
 耳元で囁かれる“悪魔の契約”のように。

 

「君は今、その扉の前に立っている。
 後悔はすべて、舞台の上で拍手に変わる。
 この瞬間を超えれば、君は“本当のスポットライト”を浴びることになる」

「スポットライト……?」


 
 
 その言葉が、まるで記憶の奥底に閉じ込めていた幻を引きずり出すかのように、
 綾乃の肩がビクリと震えた。

 

 目を合わせないまま、彼女は小さく――まるで罪の告白のように、吐き出すような声で言った。

 

「……私は、アイドルになりたかったんです」

 

 その声は、あまりにもか細く、そして――痛々しかった。

 

「小さい頃から、ステージに立つ人に憧れていました。
 歌って、踊って、笑って……たくさんの人を笑顔にする、そんな存在になりたかったんです」

 

 俺のシャツのボタンにかかる彼女の指先は、まだ震えている。
 それでも、止まらない。

 

「でも……そんな時でした。……両親が、交通事故に遭って……意識が戻らないまま、入院することになって……医療費が、どうしても必要で……」

 

 苦しげに吐き出された言葉に、俺の胸が締めつけられる。

 

「夢を諦めて、働かなくちゃいけなかった。
 ……キャビンアテンダントの仕事は、やりたいことではなかったけど……でも、それしか選べなかった……!」

 

 うつむいた綾乃の横顔は、どこまでも弱く、傷ついていて。
 それでも彼女は、言葉を止めなかった。

 

「……だから私は、どんな形でもいいから、“アイドル”として“舞台”に立って、輝きたかった。」

 

 そのとき――綾乃の視線の先、ヴァルターが静かに笑った。

 

 その笑みは、まるで自分の“手柄”を見守る監督のような、歪んだ満足に満ちていた。

 

「……この人に言われたんです。“君の夢を叶えさせてあげよう”って。
 “その代わりに、少しだけ役を演じてほしい”って……」

 

 俺の拳が、縛られた鎖の中でギリッと鳴った。

 ――こいつ、そこまでして、人の夢に踏み込んだのか。

 

 綾乃の声が、震えながら、最後の言葉を紡ぐ。

 

「……私、馬鹿みたいですよね。
 こんな裏切りが、アイドルへの道だなんて……でも、でも……それでも……“輝きたい”って……思ってしまったんです……!」

 

 その告白は、まるで心の底に閉じ込めていた何年分もの涙を、
 ようやく誰かに預けるような、壊れそうな祈りだった。

 

 俺は――その姿を見て、どうしようもなく、苦しくなった。

 それは裏切りなんかじゃない。
 綾乃は、自分の“夢”を、たったひとつの希望を――どうしても捨てられなかっただけなんだ。


 

 綾乃の声が途切れた、その瞬間――
 俺は、深く息を吸い込んだ。

 

「……そっか」

 

 その一言に、いろんな感情が詰まってた。
 納得でもあった。理解でもあった。
 そして、怒りでも――哀しみでもない、“覚悟”だった。

 

「お前が抱えてきたもの全部、俺は知ってるわけじゃねぇ。
 でもな――それでも、お前が今まで、どんだけ我慢して、どんだけ努力してきたか……
 少なくとも、俺には見えてたよ」

 

 綾乃の手が、わずかに止まる。
 ほんの一瞬の迷いが、その指先に宿る。

 

「……飯田さんには、わからないですよ」

 

 ぽつりと、綾乃が呟く。

 

「サッカー選手として、あんなに光り輝いてる飯田さんには……私の気持ちなんて……」

 

 その声は震えていて、でもどこか、諦めているようで。
 その姿に、俺は――迷わず叫んだ。

 

「――いいや、わかる!」

 

 それは、ただの慰めなんかじゃなかった。
 本気の声。本気の想い。

 

「俺だって、一度……足を壊して、医者に“もう二度と走れねぇ”って言われたことがあるんだ。
 夢も希望も、全部崩れて――世界から取り残された気がした」

 

 綾乃がハッと目を見開く。

 

「でも、それでも――もう一回立ちたくて、
 もう一度、“夢”ってやつを信じたくて……
 俺は、ここまで戻ってきたんだ」

 

 静かに、けれど熱く、言葉を重ねる。

 

「だから綾乃――
 お前が、夢にしがみついたことを、俺は責めたりなんかしねぇ。
 どんな形であれ、お前はずっと“夢を捨てなかった”んだろ?」

 

 それは――俺にとって、何よりも強いことだった。

 

「俺も、もし同じ立場だったら……きっと、同じように、
 “何か”にすがったかもしれねぇ。
 だから……お前の気持ち、ちゃんとわかるよ」

 

 その言葉に、綾乃の唇がわずかに震えた。



 俺は言わなきゃならなかった。
 このままじゃいけない。彼女がこれ以上、誰かの手で踏みにじられるなんて、絶対に見たくなかった。

 

「でもな――その上で、言わせてもらう」

 

 俺の声が、冷たい床に響いた。
 絞り出すような本気の“叫び”だった。

 

「綾乃……ヴァルターに乗るのは、やめておけ」

 

 綾乃の表情が、一瞬だけ揺れる。
 だけど、俺は目を逸らさずに続けた。

 

「今のお前が、こんな奴の言葉を信じて……テロリストに加担して、アイドルになったとして――それって、本当に“輝き”か?」

 

 静かな問いかけだった。だがその刃は、どんな怒声よりも鋭かった。

 

「俺は……お前の輝きが、そんなふうに始まったら、きっとすげぇ色褪せて見えると思う。
 違うんだよ、綾乃。お前は……そんな風に終わる人間じゃねぇ」

 

 綾乃の目が、はじめてこちらを向いた。
 潤んだ瞳。揺れるまつ毛。声にならない震え。

 それは、俺の言葉を真っ正面から受け止めようとしている証だった。

 

「お前は、輝いてるぜ、綾乃」

 

 その言葉に、彼女の唇がわずかに開きかける。
 けれど俺は、止まらずに語り続けた。

 

「なりたかった夢と、なれなかった現実――その間で、ずっともがいて、それでも折れずに頑張ってきた。
 それって、すげぇことじゃねぇか。
 俺はな……そんな綾乃が、マジでかっこいいって思ったんだよ」

 

 彼女の目から、じわりと涙が溢れかけていた。

 

「キャビンアテンダントとして働いてた時もそうだ。
 俺には誇らしく見えた。笑顔で接客してる姿、子どもに優しくしてた姿……
 あれ、全部、ちゃんと“輝いてた”んだよ」

 

 俺の言葉が、ようやく綾乃の胸の奥に届いた――そんな気がした。
 彼女の肩が、小さく、小さく震えた。

 

「お前の人生、誰がなんと言おうと――
 “ちゃんと、戦ってきた人生”なんだよ。
 そんなお前に……俺は惚れた」

 

 その瞬間、綾乃の瞳が大きく見開かれる。
 声にならない言葉が、唇の奥で震えていた。

 

「ここから先は俺のわがままだ。だけど――言わせてくれ」

 

 俺は強く、真っ直ぐに叫んだ。

 

「そんなお前が、そんな奴に乗っかってアイドルを始めるなんて――絶対に見たくねぇ!」

 

 ヴァルターが小さく鼻で笑う気配がした。
 だけど俺は、やめなかった。やめられるわけがなかった。

 

「こんなクソみてぇな野郎に、お前の“夢の価値”を語らせるな!!」

 

 怒鳴る俺の声が、部屋全体を震わせた。

 

「綾乃、お前が輝きてぇって思うなら――そんなの、俺がいくらでもステージ用意してやる!!
 どんな無茶でも、無理でも、支えるって決めたんだ!
 だからお願いだ……俺を選んでくれ。」

 

 その瞬間――綾乃の肩が大きく震えた。

 

 彼女の目から、ぽろっと大粒の涙がこぼれ落ちる。

 

「……飯田、さん……っ」

 

 震える声が、涙に濡れながら俺の胸を貫いた。

 

 その声に、俺の胸が熱くなる。
 そして何より――彼女の手はもう、俺のシャツを脱がそうとはしていなかった。

 

 ようやく――本当の“綾乃”が、そこに戻ってきた気がした。

 

 隣にいたアントニオが、わずかに目を見開く。
 そして小さく、驚いたように呟いた。

 

「……へぇ。これは、完全に予想外だね」

 

 その言葉を背に、綾乃が俺の前に立った。
 震える手で、ゆっくりと拘束装置のパネルに触れる。

 

「――ありがとう、飯田さん」

 

 その声は、かすかに震えていた。
 けれど、確かに決意に満ちていた。

 

〈ガシャンッ!!〉

 

 鋼鉄の拘束が一斉に外れ、全身から重苦しい圧が抜け落ちる。
 ようやく取り戻した自由に、俺は大きく息を吸い込んだ。

 

 ……だがその直後。

 

「――愚かな女め……!」

 

 ヴァルターの低い声が、空気を裂いた。

 

 次の瞬間――
 ジャケットの内側から抜かれた黒光りの拳銃が、ためらいなく綾乃に向けられる。

 

 銃口に、迷いはなかった。

 

 そして――引き金が、引かれた。

 

 ――バン!!

 

「綾乃っ!!」

 

 思考よりも先に、体が動いていた。

 

 本能のまま――怒りよりも速く。
 ただ一つ、彼女を守る。それだけの衝動で。

 

 俺は――綾乃をお姫様抱っこで抱き上げ、跳んだ。

 

 銃弾が空気を裂いて迫る。
 床を蹴り、滑空するように宙を駆け、わずかにその軌道を外す!

 

 風圧が顔を撫で、背中に鋭い冷気が走る。
 直後――壁に弾丸が激突し、火花と共にコンクリートが爆ぜた。

 

 地面に着地するや否や、俺は即座にアントニオの拘束装置の制御パネルへ駆け寄り――

 

 拳で、迷いなくスイッチを叩きつけた。

 

〈ガシャンッ!!〉

 

 鋼鉄の拘束が一気に解かれ、アントニオの四肢が自由になる。

 

「アントニオ――綾乃を頼んだ!」

 

 その一言に、アントニオは鋭い光を帯びた眼差しで頷く。
 彼に綾乃を預けたその瞬間、俺は――振り返った。

 

 ヴァルターが立っていた。
 赤く染まった床の上、なおも銃を構えるその男の瞳に、狂気と支配欲が燃えていた。

 

 だが、もう怯む理由はない。

 

「――さぁ、幕を下ろそうぜ。ヴァルター」

 

 その一言とともに、俺は拳を握りしめる。

 ドクン、と脈打つように――“俺力”が全身に満ちた。

 

〈バチバチバチッ!!〉

 

 青白い雷が、俺の腕、背、脚を奔る。
 空気が焼けるような焦げた匂いを放ち、足元の床にはひび割れが走った。

 

「根源解放――Level1」

 

 部屋が雷鳴のような轟音に包まれる。

 まるで生きているかのように、蒼白い電撃が体を巡り、オーラのように空間ごと震わせた。

 

 綾乃も、アントニオも、息を呑む。

 

「出たな……その不可解な力……!!」

 

 唇を震わせながら、ヴァルターが叫ぶ。

 

「貴様は……一体、何者なのだ……!?」

 

 俺はにやりと笑って、親指を胸に当てた。

 

「俺?ただの――異世界帰りのハーレム王だよ」

 

〈ズン……ッ、ズン……ッ!〉


 
 雷を纏った俺の足音が、部屋に重く響く。

 ヴァルターが焦り、震え、ついに引き金を引いた――!

 

〈バンッ!!〉

 

 銃声が鳴り響いたその瞬間――俺の指が、その弾丸を摘んで止めた。

 

 人差し指と親指で挟まれた弾丸が、虚しく揺れながら宙に浮いていた。

 

「……ば、化け物め!!」

 

 恐怖に駆られたヴァルターが後退りする。

 

「くるな……くるなくるな、こっちへくるなぁ!!」

 

 俺は止まらない。
 ズンズンと、雷の王のように歩を進める。

 

 そして――目の前に立ったヴァルターに、右手を引き絞った。

 雷が拳に集束する。




「くたばれ、アレクサンドル・ヴァルター。」

 

 次の瞬間、

 

 〈――ドゴォォォォォン!!!〉

 

 雷のアッパーカットが、ヴァルターの顎を撃ち抜いた。

 蒼白い閃光と共に、彼の身体が宙を舞い、スローモーションのように天井へ向かって吹き飛んでいく。

 

 気を失い、崩れるように落ちていくその姿に、俺は静かに呟いた。


 
「お前の幕はここで閉じろ――綾乃の未来に、お前の出番はねぇ」
 
 

 その瞬間、部屋中に響く静寂。

 雷の余韻だけが、空気の中でまだ静かに鳴っていた。


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