異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第149話 ワールドカップ44

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 警察にテロリストどもを引き渡し、ようやく外に出た俺たち。
 やっと終わった――と思った、その瞬間。

 

「……あれ?」

 

 外の空が、やけに明るい。
 夜だったはずの空が、まるで昼過ぎのような明るさに染まっている。

 

 まさか、と胸騒ぎがして――俺は急いでスマホを取り出す。

 

 画面には、鮮明に表示された現在時刻。

 

 16:05

 

「――――――――え?」

 

 言葉にならなかった。
 血の気が、スーッと引いていく。

 

 指が震えるまま、画面をスクロールする。
 通知に映るのは――

 

《FIFA W杯 決勝トーナメント:日本 vs イタリア キックオフ!》

 

「始まってんじゃねぇかああああああ!!!」

 

 絶叫と共に顔を覆う。
 俺の魂が、スマホごと落下しそうだった。

 

 隣では、アントニオがいたって冷静にスマホを見てる。

 

「日本はイタリアと対戦か。僕のブラジルは今、アルゼンチンと試合中だね
 
「お前、なんでそんな平然としてんだよ!! 試合始まってんぞ!?ワールドカップだぞ!?」

 

 その声に、綾乃が「ううぅぅ……!」と頭を抱えながらオロオロ。

 

「ど、どうしましょう……! 私のせいで、お二人の大事な試合が……!」
 
「だ、大丈夫だ……!」

 

 反射的に言ってはみたけど、全然大丈夫じゃねぇ!!
 心臓がバックバクで、内臓がダッシュ始めそうな勢いだ。

 

「と、とにかく!監督に――連絡――!」

 

 焦ってスマホを操作しようとしたその時、アントニオがふっと笑った。

 

「連絡してるヒマも惜しいよ。走って行こう」

「は?」

 

 ……今、なんて?

 

「いやいやいや、ちょっと待てって!ここからスタジアムまで何kmあると思ってんだ!? 普通、タクシーだろタクシー!」

「うーん、でもこの時間のリオは渋滞すごいしね。走ったほうが早い。アップにもなるし」

 

 爽やかに言うなバカ!

 

 だが、そんな俺のツッコミを完全に無視して、アントニオは既にランナーズハイ状態で足を伸ばしてる。

 

 綾乃がスマホで調べながら、青ざめた声で言った。

 

「……あ、あの……コルコバードからマラカナン・スタジアムまで……だいたい9キロくらいです!」

「無理じゃん!!!」

 

 俺が絶叫したのと、アントニオがスタートダッシュを決めたのがほぼ同時だった。

 

「遠いのは分かってるさ。だからこそ、走るんだ!」

 

 太陽みたいな笑顔で、彼は風を切って走っていく。


 いや、太陽じゃない。無茶な太陽だよあれ!!

 

「くそっ……!追うしかねぇだろコレ!!」

 

 俺も全力でダッシュを決める。
 道行くブラジル市民が驚いた顔で振り返るけど、気にしてる場合じゃねぇ!!

 

「綾乃――!!」

 

 俺は振り返りながら叫んだ。

 

「ごめん、俺……いくわ!!」

 

 振り返る綾乃の目に、不安が混じった涙が浮かんでいた。

 

「……頑張ってください、飯田さん!!」

 

 その声を背に――

 俺は、俺たちは走る。

 

 ワールドカップ、決勝トーナメント。
 遅れてなんかいられるか。
 全力で走って、駆け込んでやる――勝利の舞台へ!!




 
 ――――――――――

  

 

 夕焼けの下、全速力でスタジアムへ向かいながら――俺はふと思っていた疑問を、隣を走るアントニオにぶつけた。

 

「なぁ、アントニオ。答えろよ」

 

「ん? なにが?」

 

 汗ひとつかかずに、余裕の笑顔で走ってやがる。
 なんでそんな涼しい顔でいられるんだよ。

 

「なんでわざわざ俺を助けに来たんだよ!
 テロリストと戦うリスクも、決勝リーグ遅刻するリスクも、全部無視して――俺を助ける理由なんてあんのか?」

 

 アントニオは少しだけ黙り、けれどすぐに、穏やかに笑った。

 

「そうだね」

「“そうだね”じゃねぇよ!なんでだって聞いてんだ!」

 

 俺のツッコミにも、彼はまっすぐに、少しだけ真剣な目で言った。

 

「前も言ったでしょ?僕は君とサッカーがしてみたいんだ」

「……俺と?」

「そう。君はサッカーをしてる時、すごく楽しそうだろ?負けてる時も、苦しい時も。君が心の底からサッカーを楽しんでいる理由を、どうしても知りたくてね」



 その言葉に、俺は言葉を失った。
 いつも涼しい顔してる男が、今は真っ直ぐすぎる目で俺を見てる。
 なんか、こっちが照れるだろバカヤロウ。



「お前は……楽しくねぇの?サッカー。」



するとアントニオは、あっさりとこう言いやがった。

 

「うん、楽しくないね」

「はあ!?ウソだろ!?お前の試合映像、全部笑顔じゃんか! “ブラジルの太陽”とか呼ばれてるし!」

 

 俺の突っ込みにも、彼は肩をすくめて、少しだけ照れくさそうに笑った。



「あれは、ただの演技さ。君とは違って、僕はただ楽しそうに見せていただけだよ」

 
 

 アントニオの告白に俺は度肝を抜かれていた。
 まさか、ブラジルの太陽が「演技派」だなんて思ってもみなかったからだ。


 アントニオの声が、静かに続いた。

 

「サッカーは美しい。でも、時々ただの“仕事”に見えることもある。
 でも君は――まるで、子どもが遊んでるみたいにピッチで自由だった。
 ……僕には、それが眩しく見えたんだ」

 

 その言葉には、確かな羨望が込められていた。

 

 走りながら、アントニオはふっと真顔になって、俺の肩を軽く叩いた。

 

「だから、次のイタリア戦、絶対勝ってね」

「え、急に何だよ?」

「僕のためにさ。君が僕に教えて欲しい。サッカーは楽しいってことをね。」



 その瞳には、どこまでも真っ直ぐな信頼が宿っていた。

 

 こっぱずかしいけど――言われたからには、負けらんねぇよな。

 

「……ああ、分かった。お前のために、俺が勝ってやるよ」

 

 そう言い切って、俺はアントニオにほんの一瞬だけ視線を投げ――
 ふっと、挑発的に笑う。

 

「けどな、アントニオ。お前が“楽しむ”ためには――
 アルゼンチンに勝たなきゃならねぇぜ? あの、エンリケ・マルティネスに」

 

 その名を口にした瞬間、脳裏に浮かぶ――あの“魔術師”のプレー。
 華麗で、狡猾で、誰よりも自由で。
 まるで世界を塗り替えるようなパスとトリック。
 誰も届かない、世界最強の司令塔。

 

 だが、アントニオは微塵も揺るがない。

 

「もちろんさ」

 

 ニヤリと唇を吊り上げ、瞳には恐れも迷いもなかった。

 ただ――まっすぐな“意志”だけが、そこにあった。

 

 そして俺たちは、再び地を蹴る。

 

 ブラジルの街を駆け抜ける、二つの影。
 燃えるような夕陽が、俺たちの背中を押すように差し込んでいた。

 


 ――――――――――――

 


 
「ついたぁぁぁ!!!!」

 

 全力疾走の末――ようやくたどり着いたスタジアム。

 肺が焼けるほど息を吸い込み、胸はバクバク。
 喉はカラカラ、足はガクガク。
 それでも――間に合った。

 

 隣でアントニオも、さすがに息をつきながら、額の汗を服の襟でぬぐっている。

 

「ふぅ……疲れたね。でも、さ。あとは勝つだけだ」

 

 変わらぬ穏やかな笑顔で、そう言ってくるアントニオに、俺も笑って頷く。

 

「だな」

 

 ふたり、少しの沈黙の後――

 

「それじゃあ、雷丸君。決勝で」

 

 アントニオは軽く手を振り、スタジアムの別の入口へと歩き出す。

 

 どこまでも余裕たっぷりのその背中に、ちょっとムカつきながらも――
 俺は負けじと、その肩を思いきり叩いた。

 

「おう、決勝でな!」

 

 そして、一言――心からの感謝を伝える。

 

「アントニオ。この恩は……一生、忘れねぇから!」

 

 すると、アントニオは涼しい顔のまま、いたずらっぽく笑って肩をすくめた。

 

「じゃあ、僕も君のドMスタイルをしっかり記憶に刻んだから、安心して」

「刻むなっ!!」

 

 俺の全力ツッコミが、空に響き渡る。

 アントニオは腹を抱えて笑っていた。
 ――その笑顔が、なぜだか、疲れも吹き飛ばしてくれる気がした。

 

 彼は手を軽く振り、背を向けて歩いていく。
 太陽みたいな背中が、スタジアムの影にゆっくりと溶けて消えていく。

 

 そして、俺も――深く息を吸った。

 

 拳を握り直し、前を向く。

 

 走って、殴って、叫んで、泣いて――
 それでも俺は、ここに戻ってきた。

 

 そうだ、俺はここに立つために、生きてきたんだ。


 

「――行くぜ、日本代表。俺が戻ってきたぞ!!」

 

 俺は胸を張り、ロッカールームへと駆け出した。
 雷のような心で、ピッチを目指して。







 ――――――――――――



 

【ヴォルカーノ視点】

 

 
 ピッチの上――どこか物足りなさが、じわじわと胸の奥を侵してくる。

 
 俺、ガブリエーレ・ヴォルカーノ。
 イタリア代表の守護神。
 「石壁の巨神」の異名を冠し、今日も鉄壁のゴールで相手の希望を潰し続けていた。
 

 現状は0-0。
 日本の攻撃は、どれも計算の内。プレッシャーにもならない。
 だが――


 
 試合は進んでいるのに、まるでどこか一部だけ空白になっているような、歯車が一枚欠けたような感覚。


 
 ――そう。


 
 「飯田雷丸」が、いない。

 
 
 試合開始前。
 俺はあの男の登場を、心から待っていた。
 ワールドカップ開幕パーティーでの因縁。
 軽口と自信に満ちたあの態度、あの目――あれを忘れるわけがない。


 
 「だったら俺が、その“ビッグマウス”を黙らせてやる」と。


 
 そう誓って、俺はこの試合に挑んだ。雷丸のシュートを、真正面から迎え撃つ。
 そのために、ここまで積み重ねてきたものがある。

 
 なのに――

 
 数分経っても、ピッチのどこにも奴の姿が見えない。
 ボールが動き、選手が走り、歓声が飛び交う中で――あいつだけが、いない。


 
「……おいおい、まさか本当に逃げたんじゃないだろうな?」


 
 そう思った瞬間、胸の奥に熱が灯る。
 怒りというより、期待が裏切られることへの苛立ち。


 
 ――なぁ、飯田雷丸。


 
 俺はお前と戦うために、ここまで来たんだ。
 世界最高の舞台で、お前の“本気”を叩き潰すために。

 
 俺は少し背を反らし、遥か頭上にそびえるスタンドを見上げる。
 まさか、冗談で言ったつもりの「観客席に隠れてる」ってのが、本当じゃないだろうな?


 
「……俺の前に立つ勇気もなくなったか?」


 
 ゴール前に立ち尽くしながら、心の中でそっと呟く。
 観客の声も、ボールの音も、今は遠く霞んで聞こえる。

 雷丸、お前、まさかこれで終わりじゃないだろうな?
 “石壁の巨神”が、お前の本気を待ってるんだ。

 これ以上、失望させてくれるなよ。


 
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