異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第151話 ワールドカップ46

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 パスが繋がる。

 日本代表が刻む、俺たちのリズム――その中で、ボールは自然と俺の足元に流れてきた。

 

 周囲は思ったはずだ。「これは横パスだ」と。

 

 右足を引く。
 体の角度、視線、膝の向き――すべてが“横流しのパス”を示していた。

 

 ――だが。

 

 (……今だ)

 

 0.3秒の“変化”。

 

 フォームが、まるで変身でもしたかのように切り替わる。

 

 俺の右足が、風を裂き、空間を捻じ曲げる勢いで振り抜かれる。

 

《偽装の一閃(フェイントフラッシュ)》――!

 

 観客席が爆発したようなどよめきに包まれる!

 

「来たァァァァァァァァッ!!」
「これが“日本の雷”――飯田雷丸の最速トリックシュートだァァァ!!」

 

 ボールが閃光のように走る。

 目標は――ゴール右下。
 普通なら、誰も反応できない。読みも反射も間に合わない。
 これまで、誰にも止められなかった。

 

 ――だが。

 

 その一撃に、“音”が割り込んだ。

 

 ヴォルカーノが、動いた。

 

 195cm・92kgの巨体が、空気を裂いて沈む。
 ゴール右下へ、衝撃の速度で飛び込む!!

 

 それは、反射ではない。
 ――もはや“予知”だった。

 

〈バァンッ!!!〉

 

 鋭く、重たい音が鳴り響いた。

 

 ヴォルカーノの右手が、完璧なタイミングでボールを受け止めていた。


 

「止めたァァァァァァァァッ!!!!!」
「雷丸の“偽装一閃”を止めたぞォォォォォ!!!!」
「これが“石壁の巨神”――ガブリエーレ・ヴォルカーノ!!これが“世界最強の守護神”の本気だァァァ!!」

 

 ヴォルカーノはゆっくりと立ち上がると、無言のまま俺を見据えた。

 

 その眼差しには挑発も誇張もない。
 ただ、ひとつの“誇り”と“尊敬”が宿っていた。

 

「“フェイントの中の真実”か……面白いシュートだったぜ」

 

 静かに、低く――だが確かに、俺の“意思”を読み取ったように呟いた。

 

 俺は唇を噛み、歯を食いしばる。

 

(……これすら、通らねぇのかよ……!)

 

 通用しない。
 圧倒的なまでに、止められる。

 

 だが――それが、“世界一”という壁だ。

 

 そして、だからこそ。

 

 越えなきゃならねぇんだ――この壁を。



 そう、心の奥で誓った矢先だった。

 

「おい、飯田雷丸」

 

 静かに、けれど鋼のような声音で呼び止められる。

 

 顔を上げると、ゴール前の“巨神”が俺を見下ろしていた。

 

「お礼だ。面白いものを見せてやる」

 

 その言葉とともに、ヴォルカーノはボールを片手で握りしめた。


 

 そして、次の瞬間。

 

 ――ヴォルカーノが振りかぶった。

 

 その腕の軌道は、まるで大砲。
 いや、“砲撃”そのもの。

 

「ッ……何か来るぞ!!」

 
 
 誰かが叫ぶ間もなく――

 

〈ドガァァァァァァン!!!〉

 

 空気を裂く音とともに、ボールがスタジアムの半分を越えて飛んだ。
 飛んだというより、“射出された”のだ。

 

「なっ……なんだその肩はァァァァァァ!!!!」


 
 実況が叫ぶ。

 

「これは……超ロングスロー!!いや、もはや“ミサイル投擲”!!!」
「日本ゴール前、危ない!!」

 

 その砲弾のようなスローを――
 イタリアのフォワードが完璧にトラップ!

 

 右足で受けたその勢いのまま――
 反転、そしてダイレクトでシュート!!

 

〈ドゴォォォン!!〉

 

 鋭い一撃が、日本ゴールの右隅へ突き刺さる!!!

 

〈ピィィィィィィッ!!!〉

 

 スタジアムが揺れるような歓声。
 
 実況席も、混乱と興奮で大爆発。


 
「な、なんて肩をしているんだあぁぁぁぁ!!!!」
「公式戦で見たことないぞこんなスローはァァァ!!!」

 

 実況席が悲鳴のような叫びを上げる。
 信じられないものを見たというより、“受け入れがたい現実”に動揺していた。

 

「ボールが……ボールが一直線にゴール前まで……!!」
「まるでピッチ全体を弓矢で貫いたみたいなスピードでしたよ今の!!」

 

 スローインとは名ばかり。
 ヴォルカーノの放った一撃は、ただの“スロー”ではなかった。

 あれはもう、“投擲兵器”だ。

 

「そういえば、ヴォルカーノ選手といえばご自身のSNSに投稿していた野球の動画、覚えてますか!?」
 
「ええ、練習の合間に撮影された、野球の動画ですよね!?覚えてますとも!時速160キロを超えるストレートを、軽々と放っていたあの映像!」

 

 映像では、ヴォルカーノがキャッチャーミットめがけてストレートを叩き込み、音速のごとき“ズドン”という音が響き、球速表示が赤く点滅する。
 それはプロ野球投手をも凌ぐ球速だった。

 

「まさに“モンスターアーム”!!」
「その肩こそが、イタリアの最大兵器!!!」
「止めて良し!投げて良し!――規格外中の規格外ッ!!」

 

 ヴォルカーノの腕一本が、まるで戦術そのもの。
 日本代表の陣形を無視する“一投必殺”。

 

 観客はどよめき、ピッチの選手たちは固唾をのんだまま動けない。
 まさに、“物理法則を疑うしかない現象”が、今この場で起きたのだ。
 

 ヴォルカーノの規格外すぎる“超ロングスロー”に、ピッチ上の日本代表はフリーズ。

 

 そして――次の瞬間。

 

「いやいやいやいやいや!!おかしいだろ!!」

 

 ヴォルカーノを思いっきり指差し、目をひん剥いたまま絶叫した。

 

「スローインでアシストって何!?ていうかアレ、もはや投球だろ!?助走なしで飛距離どんだけあるんだよ!!」

 

 さらに大久保が頭を抱えながら叫ぶ。

 

「ストライカーより怖ぇんだけどあのGK!!守るし攻めるしどうなってんだよ!!」

 

 もはや笑うしかないカオスの空気に、長谷川キャプテンが両手を上げて場をなだめにかかる。

 

「お、お前ら落ち着け!深呼吸だ!まずは一回、落ち着いて呼吸整えろ!」

 

 全員が本気で困惑しながらツッコミを入れている中、ヴォルカーノはというと――

 

 ゴール前で、静かに笑っていた。

 

 その笑顔には余裕も、挑発も、何もない。
 ただ――「それが普通だ」とでも言いたげな、絶対的な自信だけが宿っていた。

 

 まさに、“鉄壁”を超えた、“規格外の存在”――ガブリエーレ・ヴォルカーノ。

 
 ゴール前に立っているだけで、あらゆる希望を押し潰すような圧倒的な威圧感。

 
 だが――その重さに飲まれそうになる空気を、一人の声がぶち破った。

 

「おいおいおいおい!!今さら何にビビってんだよ、お前ら!!」

 

 村岡だ。
 いつもの軽口とは違う、芯の通った力強い声がピッチに響く。

 

「ワールドクラスの相手が普通じゃないなんて、トーレスやエンリケとやった時点でわかってただろ!!

 

 振り返った彼の目には、燃えるような情熱と、仲間への信頼が宿っていた。

 

「でもな――よく考えろ!!」

 

 村岡は俺を指差す。

 

「うちにもいるんだよ!!“ワールドクラス”が!! しかも、世界一バカで、世界一ムチャして、世界一決める男がな!!!」

 

 俺の名を、力強く叫ぶ。

 

「飯田雷丸だよ!!!」

 

 ピッチの空気が震える。
 味方たちの視線が、一斉に俺へと集まる。



「この試合、雷丸中心に動くぞ!!漫画みたいな存在には――漫画みたいな存在をぶつけるしかねぇ!!雷丸を主役にして――ヴォルカーノって怪物をぶっ壊す!!」

 


 拳を突き上げた村岡の言葉に、熱が乗る。

 

 俺は応えるように、深く息を吐いた。

 

「……あぁ。見せてやるさ。」

 

 声に、熱と決意を乗せる。

 

 どれだけ相手が規格外でも――
 ぶつかって、超えて、勝ち取るんだ。

 この手で、“世界”を。

 

 ――“石壁の巨神”ガブリエーレ・ヴォルカーノ。

 

 スコアは1-0。

 

 だが――終わっちゃいねぇ。
 “負ける”には、まだ早すぎる。



 
 俺はチームメイトたちに顔を向け、言葉を吐き出す。

 

「……だけど、俺一人じゃ、あいつの壁をぶち破れる気がしねぇ。」

 

 一瞬、静寂。だがすぐに村岡がツッコんでくる。

 

「おいおい、何弱気なこと――」

 

 俺はかぶせるように言い返す。

 

「“俺一人じゃ”、だ。――お前の助けが必要だ、村岡。」

 

 村岡が少し目を見開いた。

 

「……俺が……?」

「あぁ、他ならぬ、お前だ。」

 

 俺の声に、迷いは一切なかった。

 

「プロを目指してたあの頃、俺を推薦してくれたのはお前だった。
 プロになっても、同じチームで、同じ時間を重ねて、磨いてきた。
 お前とじゃなきゃできねぇ技がある。」



 その言葉に、チームの空気がピリッと引き締まる。
 そして、俺の考えを手短に説明すると、周囲の仲間たちは皆、息をのんだ。

 

 村岡の表情が変わる。迷いのない、勝負師の顔だ。


 そこへ、静かに、だが芯の通った声が届く。

 

「そのスイッチ、任せろ。」

 

 長谷川キャプテン――全体を見渡せる男が、前に出る。

 

「お前らのタイミングは、俺が作ってやる。」
 
「頼む、キャプテン。」

 

 この連携は、俺一人じゃ成立しない。
 村岡と、長谷川。俺たち三人で初めて、世界一のGKを撃ち抜ける。

 

「……行こうぜ。」

 

 そして――試合、再開。

 

 日本ボールでスタート。
 緊張感が満ちる中、俺たちはじわじわとラインを押し上げる。

 

 数本のパスが繋がり、敵陣へ。

 

 そのときだった。

 

「――ここだ!!」

 

 長谷川キャプテンの鋭い声がピッチに響き渡った瞬間、精密機械のような正確さで放たれるパス。

 一直線に走るボールは、村岡の足元へと届く。




 ――――――そして。

 

「村岡が……ロングシュートを打ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 実況の絶叫と同時に、スタジアム全体がざわついた。

 村岡が右足を大きく振り抜く。
 放たれたボールは、鋭く、力強く、弾丸のようにゴールへと向かう。

 

 だが――

 

 ゴール前には、世界最高の守護神。
 “石壁の巨神”ガブリエーレ・ヴォルカーノが、まるで神殿の柱のように構えていた。

 

 その鋼の肉体がわずかに沈み、重厚な重心移動と共に、右サイドへスライドする。

 

「いいシュートだが……見えてる。」

 

 その低く確信に満ちた声が、ピッチに響く。
 すでに反応している――止めにくる。

 

 だが。

 

 ――これで終わりじゃない。

 

 その瞬間、俺の脚が動いた。

 

 「行けっ……雷丸!!!」

 

 ピッチの上を、風より速く、雷のように俺は駆ける。
 クラウチングスタートを切った俺の目は、村岡の放ったボールの軌道と完全に重なっていた。

 

 これは――ただのシュートじゃない。
 俺にとっては“縦パス”だ。

 

 迫るボール。合わせるタイミングは、0.01秒の世界。
 だが、心配などない。

 

 村岡と俺の呼吸は、何千、何万と繰り返してきた中で磨かれた“信頼のパターン”だ。

 

 そして――

 

 俺の右足が、閃く。

 

「連撃・ツインショットッ!!!」

 

 村岡の放ったロングシュートの勢い。
 そこへ俺の“零拍子(ゼロびょうし)”が直撃する。

 

 もはや加速ではない。加速を“加速”させるという、前代未聞の攻撃。

 その衝撃は、ボールを閃光に変えた。

 

〈ズバァァァァァンッ!!!〉

 

 空気が割れる。
 観客席から悲鳴にも似た歓声が湧き起こる。

 

 ヴォルカーノが動く。
 だがその巨体が一歩目を踏み出した時――すでに、ボールは消えていた。

 

 光の弾丸は、ゴール右下へ。

 

 そして。

 

〈ピィィィィィィィィィィ!!!!〉

 

 主審の笛が高らかに鳴る。

 

「ゴォォォォォォォォォォォル!!!」

 

 スタジアムが炸裂した。
 万雷の拍手、雄叫び、歓喜の波。

 

「日本!ついに決めたァァァァァァ!!!」
「雷丸の“零拍子”が炸裂!!!村岡との連携、連撃・ツインショットが炸裂したァァァァァ!!!」
「セーブ率98%のヴォルカーノの壁を――打ち破ったァァァァァァ!!!」

 

 その瞬間、スタジアムは歓喜の渦に飲み込まれた。

 観客の絶叫が波のように押し寄せ、スタンドが揺れるほどの熱気に包まれる。

 

 ベンチが総立ちになる。

 スーツ姿のコーチ陣すら、拳を突き上げて吠えていた。


 

「雷丸うぅぅぅぅ!!!」
「村岡もだァァァァ!!お前ら、マジでやりやがったなァァァァ!!」

 

 誰よりも先に飛びついてきたのは大久保だった。

 ゴールを守る男が、今はまるで子どものように叫びながら抱きついてくる。

 

「やっべぇ!鳥肌止まんねぇってマジで!!」
「お前ら、本当に――ヴォルカーノの壁、ぶち破りやがった!!」

 

 村岡が小さく笑って、俺に肩をぶつける。

 

「な?言っただろ、雷丸。お前ならやれるって。」

 

 俺も返すように、拳をぶつけた。

 

「お前が撃ってくれたからだ。お前じゃなきゃ、できなかった。」

 

 輪の中には、キャプテン長谷川もいた。

 その表情はいつものようにクールだが、目元には確かな熱と笑みが宿っている。

 彼の手が俺の肩に置かれ、ぐっと力が込められる。

 

「……よくやった。これで、振り出しだ。」

 

 静かなその一言に、胸の奥が熱くなる。

 

 だが、次の瞬間――

 

「……だけどさ、名前だけはもう少しマシにならなかったのか?」

 

 長谷川キャプテンが、ふと真顔で続けた。

 

「ツインショットって……昭和かよ!」

 

 その瞬間、静まり返っていた輪が、一気に爆発する。

 

「ブッ……ははははははっ!!」

「やっべぇ、腹いてぇ!」

「確かに古すぎるだろ!何だよツインって!戦隊ものか!!」

 

 村岡なんて笑いすぎて膝に手をついていたし、大久保は「まじでやめて腹筋ちぎれる」と涙を浮かべている。

 

「いや、連撃とか名乗っておいて“ツイン”って!!逆にイイわ!」
「しかも雷丸がマジ顔で叫んでたから余計にウケる!!」

 

 俺は耳まで赤くなりながらも、笑いを堪えきれなかった。

 

「……うるせぇ!もう名前とかどうでもいいだろ!!決めたからオールOKだろ!」

 

 笑いと歓声が渦巻く日本代表の輪の中。

 重苦しい空気が吹き飛び、再びチームは“ひとつ”になっていた。



 
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