異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第153話 ワールドカップ48

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 ホテルの部屋に戻った俺は、まだほんのり汗が残る手でスマホを取り出すと――いつものように、ハーレムメンバーのグループ通話に指を伸ばした。

 画面をタップするや否や。

 

「はやっ!?」

 

 1コールもしないうちに、画面がパッと切り替わる。


 そこに現れたのは、まるで待ち構えていたかのように、ずらりと並ぶ顔ぶれ。

 

 焔華、雪華、静香、麗華、貴音――いつものメンバーが揃い、全員がスマホ越しに映る。

 

 画面の向こうで、最初に口を開いたのは――焔華だった。

 

「ようやったのう、雷丸! ほんに見事なゴールじゃった!」

 

 太陽のような笑顔を浮かべ、焔華が画面いっぱいに顔を近づけてくる。その瞳は、興奮と誇らしさに輝いていた。

 

「雷丸様……お疲れ様です。とても……とてもかっこよかったです」

 

 雪華はいつも通りの落ち着いた声で、でもどこか熱っぽくそう言った。
 頬がうっすらと紅潮し、微笑んでいる姿に、思わずドキリとする。

 

「すごかったわよ、本当に……日本中、いえ、世界中があなたに釘付けだったわ」

 

 静香は静かに言いながらも、その声には深い感情が込められていた。


 

「決勝進出おめでとう。これで“世界一かっこいい男”の称号も、近づいたんじゃない?」

 

 麗華は冗談めかして笑いながらも、静かに拍手を送ってくる。

 

「お兄ちゃん、すっっごくカッコよかったよぉぉ!!テレビの前で、わたし叫んじゃったもん!」

 

 貴音は両手をバタバタさせながら画面に顔を寄せてくる。
 その瞳はキラキラと輝き、まるで小さな太陽みたいだった。

 

 ――みんなが、俺を見てくれていた。

 試合を、戦いを、俺の全力を。

 

 スマホの画面越しだって、それは確かに届いてる。
 その言葉が、笑顔が、今の俺の一番のご褒美だった。

 

「……ありがとな。マジで、支えられてるわ、俺」

 

 照れ臭くて、いつもみたいにキザなセリフも出てこない。

 でも、心から出たその一言に、画面の向こうの全員が優しく微笑んだ。

 

 ――なんだよこれ、幸せすぎんだろ。

 

 そんな空気の中、俺は照れ隠し気味に言った。
 
 


「毎度のことだけど、さ……もしかして、俺の電話待ってた?たまにはそっちからかけてきてくれてもいいのに!」

 

 冗談まじりにそう言うと、雪華が少しだけ頬を赤らめ、うつむきながら小さくつぶやいた。

 

「だって……雷丸様、大会に集中したいかなって……」

 

 静香も小さく頷いて、「邪魔になってはいけないと思って……」と静かな声で続けた。

 

 ――ズキューン!!!

 

 やられた。完全にハートを撃ち抜かれた。

 

「いや、違う違う!邪魔なんて絶対ない!むしろお前らの声聞いた方が100倍元気出るし!試合前に電話くれた方が俺の戦闘力、超アップするんだからな!」

 

 必死でそう叫ぶ俺に、みんながちょっとポカンとした顔をする。
 その反応を見て、よし、今だ――と俺は畳みかけた。

 

「サッカーももちろん大事だ。けどな――お前らが一番大事なんだよ!」

 

 真っすぐな声で言い切る。勢いだけじゃない、心の底からの本音だった。

 

「俺はな、サッカーも、ハーレムも、どっちも全力で守る男なんだよ! 私生活捨ててスポーツに全振りなんて、俺のスタイルじゃねぇ!」

 

 その瞬間、画面の向こうで、みんなが照れたように顔を見合わせる。

 ふふっ、と小さな笑い声が重なる。
 その空気の中、焔華がニヤッと笑って挑発してきた。

 

「なら、毎晩鬼電してもいいってことかの?」

 

「おう、かかってこい!」と即答すると――

 

「飯田くん、あとで『多すぎ』とか文句言わせないわよ?」と麗華が鋭く冷静にツッコミ。

 

「ぜってぇ言わねぇ! むしろ、どんどんかけまくってくれ!」と大声で返すと、

 

「じゃあさ、夜中にリレー電話大会とかやっちゃう?」と貴音が言い出し、
 全員が「賛成~!」と一斉に盛り上がる。

 

 もはや俺のスマホは、“ハーレム専用ホットライン”と化したようだ。

 

 本当は、そろそろ寝なきゃいけない。
 明日は大事な試合。でも――そんなこと、もうどうでもいい。

 

 画面越しの彼女たちの笑顔が、
 今日の勝利より、ずっとあったかくて、ずっと大切で。

 

 俺はスマホを持ったまま、少しだけ上を向いた。

 

「――最高の夜だな、こりゃ」

 

 画面の向こうで、みんなが「え? なになに?」って不思議そうに聞いてくる。

 でも俺は答えず、ただ笑っていた。
 世界一、幸せな男の顔で。
 
 

 その時、ふと静香さんが目を細めて口を開いた。

 

「そういえば……雷丸君。今日、試合に遅刻したわよね?」

 

 ピクリと、空気が変わる。

 

 貴音がクスクス笑いながら肩をすくめた。

 

「もしかして、ぎっくり腰じゃなくて……寝坊だったりして?お兄ちゃんらしいけど!」

「それが違うんだよ!聞いてくれ!」

 

 俺は慌てて身を乗り出した。

 

「実は――俺、テロリストに拉致されてたんだよ!!」

 

 麗華がすかさずスッとため息を吐き、冷静に割り込む。

 

「言い訳としてはスケールが大きすぎるわ」

「いや、マジで本当なんだって! 綾乃が誘拐されて、それを助けに行ったら――逆に俺が捕まって、ギャグボールつけられて、ドMスタイルで……」

 

 その瞬間、焔華がニヤニヤしながらツッコミを入れる。

 

「冗談はもうええぞ? 本当のことを言うのじゃ。わしは怒らんからの?」

「いや、マジで本当!!貴音の中学を襲った連中……あいつらだったんだよ!」

 

 一瞬、画面越しのみんなが沈黙する。

 

「……え、ほんと?」

「だからマジなんだって!!」

 

 やっと信じてもらえたらしい。
 その瞬間――全員の顔色が、一気に変わった。

 

 静香が目を見開き、震える声で言う。

 

「雷丸君、それ……本当に危なかったんじゃないの!?」

 

 雪華も、目元を潤ませながら唇を震わせる。

 

「どうしてそんなことに……私たちがそばにいなかったせいで……」

 

 麗華は腕を組み、いつもの冷静な顔を崩さぬまま――静かに、決意の声を発した。



「私、今からブラジルに行くわ。」

 

 その言葉に、誰も冗談だとは思わなかった。彼女の目には、本気の怒りが宿っていた。

 

「ちょ、ちょっと待って落ち着けって! もう解決済みだから!!」

 

 必死でなだめる俺をよそに、スマホの向こうで彼女たちの“守るモード”は確実に火がついていた。



 続いて焔華が勢いよく拳を握りしめる。目にはギラリと炎の輝き。

 

「許せん!今すぐそいつらを『追跡して焼き尽くすリスト』に載せてやる!」

 

 まるで今から炎をまとって飛び出していきそうな勢いだ。

 

「だから、もう捕まってるんだってば!!焼く相手、もういねぇから!!」

 

 必死に止める俺をよそに、焔華の指先からは今にも火が出そうな気迫が立ち上っていた。

 

「大丈夫だって、ほら、俺超元気じゃん!」

 

 そう言って、画面に満面の笑みを見せてみせる。……が。

 

「……元気って言うけど、目の下にクマが……?」

 

 雪華が心配そうに眉を寄せて、じっと俺の顔を見つめてくる。

 

「いやいや、ただの寝不足だから!全然元気だから!」

 

 そう訴える俺に、今度は静香が鋭く問いかけてくる。

 

「元気って言うなら、ちゃんと証拠を見せてちょうだい」

 

 その言葉に、俺はうっと詰まりつつも――観念した。

 

「わかったよ!証明するから見てろよ!」

 

 スマホを置き、画面に映るように少し下がる。

 そして――

 

「はい!1!2!3!」

 

 笑顔でスクワットを連発!!

 声に張りを出し、元気アピール全開で膝を上下させまくる。

 

 ようやく、みんなの表情がほぐれていく。

 

「ぷっ……なにやってるのよ、ほんと……」

 

 静香さんが小さく吹き出し、貴音が「お兄ちゃん、バカ~!」と笑い、

 

 焔華まで「元気アピールというより、変な踊りにしか見えんぞ!」とツッコミを入れる。

 

 そして雪華が、ほんのり頬を染めながら小さく微笑んだ。

 

「……ほんとに、雷丸様って……おかしい人ですね」

 

 その一言に、俺は胸をなでおろしながら、にかっと笑い返した。


 

それに続くように、麗華がふっと息をついて微笑む。

 

「やれやれ、そこまでやるなら元気そうね」

 

 最後には、焔華が肩を揺らして笑いながら言う。

 

「元気な姿が見れただけで、わしは満足じゃ」

 

 全員がようやく安心したようで、画面の向こうには穏やかな笑顔が広がっていた。

 

 そんな空気の中、貴音が吹き出しながら首をかしげて聞いてくる。

 

「でもお兄ちゃん。試合に出る前からそんなハードな戦いしてたの?」

 

貴音が目を丸くして聞いてくる。その声には、驚きと半分呆れたような響きがあった。

 

「そうなんだよ!」 

 

 俺は思わず身を乗り出し、勢いよく語り出す。

 

「試合前の夜に、綾乃がテロリストにさらわれてさ。俺、単独で助けに行ったんだよ。キリスト像の丘で待ち伏せされて、銃撃戦の中を突っ切って、雷撃まとって敵をぶっ飛ばして――ギャグボールつけられたりして――――――」
 

 
 途中、ちょっとだけ顔を引きつらせながらも熱く語る俺に、画面の向こうの全員が言葉を失っていた。

 

 そして、胸を張って続ける。

 

「でもこれで安心だ!俺たちを狙ってたテロリストたちは一掃したから、日本の暮らしもさらに安全になるぜ!」
 

 

 すると焔華が、口元を緩めながら言う。

 

「おぬし、もはやサッカー選手というより、武闘家じゃな」

 

「やめてくれよ!俺はただのハーレム王でサッカー選手なんだから!」

 

 思わず叫ぶ俺に、今度は麗華がさらりと突っ込んでくる。

 

「“ただの”って言ってるけど、もはや異次元のサッカー人生よね」

 

 全員の笑いがどっと広がる。

 

 完全におちょくられてる気がするけど、なんかもう……この空気が心地いい。

 

「本当に大変だったんだよ!」と必死に説明する俺も、気がつけば笑いが止まらなくなっていた。


 

 ――だけど、ふと話題を切り替える。

 

「それよりさ、俺のイタリア戦の話、聞きたくない?」

 

 その瞬間、画面越しのみんなの目がキラーンと輝いた。反応が速い。全員が満面の笑みで前のめりになってくる。

 

「聞きたい!聞きたいー!!」と声が重なり、俺は満足げにニヤリ。

 

「よしよし……今日はハーレム王・雷丸様がどれだけすごい戦いをしたか、余すことなく語ってやるぜ!」

 

 胸を張って語り始める。

 

「試合中な、俺が渾身のシュートをぶっ放したわけよ! そしたら、ヴォルカーノのヤツ、涼しい顔して片手でキャッチしてんの!で、あいつはこう言った訳!!」

 

 俺は椅子を立ち上がり、キメ顔で低く渋く言ってみせた。

 

「さぁ、次はどうする、ハーレム王?」

 

 ドヤァ、とヴォルカーノの真似を決めると、全員が爆笑。

 

「ぶはっ!!」「似てるし!!」

 

 焔華は目をキラキラさせながら、

 

「で、止められた事で……それでお主の必殺技、あの連撃・ツインショットが思いついたんじゃな?」

 

 嬉しそうに問いかけてきた。

 

「そうそう!その通り!」

 

 麗華が不思議そうに首を傾げる。

 

「ねぇ、どうやってあんな技思いつくの?」

 

 俺は誇らしげに胸を張る。

 

「そりゃあ、神が降りたんだよ! サッカーの神様がな!」

 

 貴音も負けじと「じゃあ最後の空中のやつは?」とさらに聞いてくる。

 

「それもだ!完全に神が降りてきた瞬間だったわけよ!」

 

 俺のドヤ顔に、全員が一斉に吹き出した。

 

「神、降りすぎでしょ!!」

 

 静香さんなんて、口元に手を当てて肩を震わせていた。

 

 ふと静香が笑いの合間に思い出したように言う。

 

「でも最後、ヴォルカーノも『おめでとう』って言ってくれたのよね?」

 

「そうそう!」と頷きながら、俺はその時の再現モードに突入。

 

「あいつ、実はめちゃくちゃドラマチックなやつでさ!」

 

 そう言って、俺はヴォルカーノの顔真似をしながら、声を低く落として語る。

 

「『日本代表を侮辱して悪かった。それと、祝福を。……おめでとう、雷丸。今日の勝者は――お前だ』」

 

 しっかりと間を取って、キメ顔を作る。

 

「――って、言ったんだぜ。意外にロマンチストなんだよ、あいつ!」

 

 その瞬間、再び画面の向こうの彼女たちがゲラゲラと笑い出した。焔華は身をよじって笑い、雪華は涙目、麗華すら笑いを堪えられずに顔を伏せるほど。

 

 もはや、俺のイタリア戦は完全にネタ扱い。
 でも――こんなふうに、みんなで笑って話せることが、何より嬉しい。

 

 画面越しだけど、今この瞬間だけは、心は完全に一緒だった。

 



 ――――――――



 

 静香がふと優しい声で言う。

 

「そろそろ寝る時間じゃない?」

 

「あ、そうだな」と返しかけたその瞬間――なぜか胸の奥に引っかかるものがあって、言葉が止まった。

 

 そして、ぽつりと呟く。

 

「……あのさ、最後にちょっと話したいことがあるんだ」

 

 その一言に、画面越しの全員が一斉に静かになる。
 注がれる視線の中、静香が少し驚いたように問い返す。

 

「どうしたの、雷丸君?」

 

 俺は少しだけ照れ笑いを浮かべながら、視線を落とし、思い出をたどるように話し始めた。

 

「――これはさ、俺と貴音の母ちゃん……小さい頃、周りに変なヤツって言われてた俺に、『それは特別ってことよ』って笑ってくれた、世界一の母ちゃんの話なんだけど」

 

 その言葉に、画面の中で貴音がハッと目を見開く。

 

「お母さんとの……?」

 

 小さくつぶやくその声に、俺は頷いた。

 

「ワールドカップ優勝ってな……俺と母ちゃんの夢だったんだよ」

 

 その瞬間、画面の空気がピタリと静まり返る。

 焔華も雪華も、貴音も、誰一人として言葉を発さず、ただ真剣なまなざしで俺を見つめていた。

 

「俺が小学生の頃、母ちゃんと一緒にテレビでワールドカップを見てさ。『いつか出たい』って言ったんだ。そしたら母ちゃん、ニッコリ笑ってこう言ったんだよ――『雷丸なら優勝もできる』って」

 

 話してると、胸が少し熱くなる。
 けれど、それは辛さじゃなく、どこか温かい記憶の熱だ。

 

「母ちゃんはさ、ただ“出場”するだけじゃなくて――最初から“優勝できる”って、心から信じてくれたんだ」

 

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。思い出すのは、小さなリビングのテレビの前。子どもだった俺と、横で微笑む母ちゃん。ワールドカップの熱気が、画面を通して部屋いっぱいに広がっていた。

 

 当時の俺は、ただ無邪気に「出たいなぁ」と言っただけだったんだ。憧れだけで、夢の現実味なんてまだ何もなかった。ただ、かっこよかった。心が揺れた。それだけ。

 

 でも――母ちゃんは、すぐに笑って言ったんだ。

 

 『雷丸なら優勝もできる』

 

 その一言は、子どもだった俺の心にまっすぐ突き刺さった。全力の信頼と、根拠のない自信。けど、何よりも――あの笑顔が、心からの本気だった。

 

「俺はそれが……嬉しくてさ」

 

 声が少しだけ震えたのは、思い出のせいだ。
 あのとき、俺は目を輝かせて言った。

 

『じゃあ、いつか俺が優勝して、トロフィーを母ちゃんに渡すからな!』

 

 それは、ただの子どもの口約束だったのかもしれない。
 でも――俺にとっては、本気だった。

 

 その瞬間から、ワールドカップ優勝は“俺一人の夢”じゃなくなった。
 “母ちゃんと二人の夢”になった。

 

 練習がきつくても、上手くいかなくても。
 何度も転び、何度も負けそうになっても。
 俺が踏ん張れたのは、その夢が、母ちゃんと一緒に見た未来だったからだ。

 

 だから――

 

「それが、俺の人生最大の夢のひとつなんだ」

 

 ぽつりと告げたその言葉には、これまでのすべてが詰まっていた。
 そして今、ついにその夢が――もう、手の届く場所にある。

 

「それが今……もうすぐ、叶う」

 

 静かな確信を込めて、俺はそう言った。

 その声は、画面越しのみんなに向けたものだったけど――
 同時に、天国の母ちゃんに向けた、約束の続きでもあった。
 
 

 言葉を終えた瞬間、画面越しのみんなの表情が優しくも切なく変わっていくのが分かった。

 静香は手を胸に当て、じっと黙って耳を傾けていた。

 雪華は唇をきゅっと結び、どこか涙を堪えるような顔をしていた。

 麗華は目を伏せ、微かに頷いていた。

 貴音は、まるで母の面影を思い出すように、小さな声で「お兄ちゃん……」と呟いた。

 

そんな空気がちょっと気恥ずかしくて、俺は照れ隠しのように、ニッと笑って言った。

 

「……ちなみにさ、人生最大の夢はもう一個あって。それが『ハーレム結婚式』な!」

 

 ふざけて笑い飛ばすつもりだった。
 ……けど。

 

 全員、ポカーン。

 誰ひとりとして笑わない。なんなら静寂すら走ってる。

 

「……今の、笑うとこだよな!? なんだよ、みんなしてそんな真面目に見んなって!」



 焦って笑いながら手を振ってみせる。

 すると、雪華がようやく「ふふっ……」と吹き出し、それにつられるように焔華も「ほんと、馬鹿なやつじゃのう」と肩を揺らして笑い出した。
 

 麗華は少しだけ咳払いして、「場の緊張を解くための“演出”だったのね……なら、評価してあげる」と肩の力を抜く。


 貴音は笑いながら、「お兄ちゃんの“もう一つの夢”も、応援してあげるよっ!」といたずらっぽくウィンクしてくる。



 そして、最後に静香がふと目を細めて、優しく言った。

 

「雷丸君がいつも“自分の無限の可能性”を信じて疑わないのって……お母様の影響なのかもしれないわね」

 

 ――きっと、そうだ。

 

 画面の中で、雪華がそっと微笑みながら言ってくれる。

 

「そのお母様との夢、きっと叶いますよ、雷丸様」

 

 その声が、あまりにも優しくて、あたたかくて――
 その言葉に、俺の中に灯っていた小さな光が、大きな炎に変わる。

 

 少しだけ視線をそらしながら、でもしっかりと、俺は頷いた。

 

「……ああ。絶対に叶えるよ」






 ――――――――――





 ハーレムメンバーとの通話を切った後、画面が暗くなると同時に、ふと胸の奥に引っかかるものが残った。

 

 ――なんか、忘れてる気がする。

 

 その違和感の正体に気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

 「……小野寺か。」

 

 あいつとも、話がしたい。

 

 そう思った瞬間には、もうスマホを手に取っていた。別に用事があるわけじゃない。ただ、話したかった。ただ、それだけだ。

 

 軽い気持ちで発信ボタンを押した――その瞬間。



「……ん?」



 ワンコールで出やがった。



「もしもし雷丸?どうした?なんかあったか?」



 こいつ、早すぎるだろ!?一瞬で電話に出るなんて……もしかして俺の電話、待ち構えてたのか?

 俺は思わず笑いをこらえながら言った。



「おいおい小野寺、ワンコールで出るとか、お前俺のこと好きすぎだろ?」



 小野寺は一瞬沈黙したあと、しれっと答えてきた。



「は?ただたまたまスマホ手に持ってただけだっつーの!お前こそ、こんな夜中に電話してきて、俺のこと好きすぎじゃねーの?」



 おいおい、何その絶妙にキモい返し!?



「はは、まあいいや。……でさ、小野寺、明日の試合さ、お前も見てくれるんだよ?」

「当たり前だろ!お前がハーレム王として大活躍する瞬間、俺が見逃すわけねぇだろ!」



こっちがちょっと照れるくらいのテンションで返されて、俺は思わず一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら、スマホを耳に当てたまま、少しだけ視線を伏せる。

 ……そっか。あいつも、ちゃんと見てくれてたんだな。

 

 「……小野寺……」

 

 少しだけ掠れた声になっていた。

 

 「なんだよ?」

 

 飾らないトーンで返ってくる、そのいつも通りの声がやけに優しく聞こえる。

 

 「俺、とうとうここまで来たぜ」

 

 そう呟いた瞬間――

 

「そりゃそうだ。お前は――俺のヒーローだからな」

 

 静かなその一言が、スッと胸の奥に届いた。

 

 どこか照れくささを押し殺したような、でも一切の嘘がない、まっすぐな声。

 

 まるで過去の自分たちに語りかけるように、そっと置かれた言葉だった。

 

 “ヒーロー”。

 

 その言葉の響きに、心がチクリとした。懐かしい風景がよみがえる。


 小中の頃の無双時代や、転落して燻ってた時期が浮かんできた。色々あったけどよ、ようやくここまで来たってわけだ。
 


「色々遠回りしちまったけどよ、明日、俺は世界一になるぜ」

「……おう。お前ならできるさ」



 小野寺が静かにそう言うと、電話の向こうでふいに鼻をすすっている音が聞こえてくる。



「おいおい、小野寺、泣いてんのか?」

「は?泣くわけねぇだろ!俺はただ……あれだ、なんか目にゴミが入っただけだ!」



 ……はいはい、絶対泣いてるやつだなそれ。でも、そんな不器用な小野寺の“やさしさ”が、すげぇ嬉しかった。

 

 俺も、知らぬ間に胸が熱くなっていた。

 

「おう、小野寺。ありがとな。明日、最高のプレー見せてやるからよ!」

「期待してるぜ、雷丸!」

 

 言葉はそれだけ。

 

 でも、その一言に詰まっていたものは、誰よりも熱くて、誰よりも確かな“信頼”だった。

 

 通話が切れたあと、スマホを胸に置いたまま、俺は天井を見上げて深く息を吐いた。

 

 なんか、心の奥から――力が湧いてきた。

 

 「……よし、いくぜ。世界の頂点へ」

 

 明日は、絶対に勝つ。

 そして――あいつに、みんなに、母ちゃんに。

 約束の続きを見せてやるんだ。


 
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