異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第162話 ワールドカップ57

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 朝の光が、カーテン越しに柔らかく差し込んでくる。

 まどろむような空気の中、俺はゆっくりと目を開けた。

 

 ふと隣を見ると――綾乃もちょうど目を覚ましたところだった。

 

「……おはようございます」

 

 眠たげな声と、少し照れたような微笑み。その何気ない一言が、胸の奥をふわっとあたためる。

 

「おはよう」

 

 俺も静かに返しつつ、そっとベッドを抜け出す。

 全裸状態から急ぎ服を着るあたり、昨夜がいかに盛り上がったかは語るまでもない。

 

 サンバに負けず劣らず、熱い夜だったとだけ言っておこう。

 

 しばらくして、俺は荷物をまとめながら呟いた。



 
「そろそろ戻らないとな」

 

 代表チームとの合流時間が近づいている。俺はバッグに荷物を詰めながら、背後の綾乃に声をかけた。

 

「綾乃、じゃあキャビンアテンダントの仕事は……もう少し続けるんだな?」

 

 綾乃はシーツを胸元まで引き上げて、コクンと頷いた。

 

「はい。……ハーレム結婚式は、たしか4ヶ月後の予定ですよね?」

「そうだな」

 

 俺が軽く頷くと、綾乃はしっかりした声で続けた。

 

「なので、それに合わせて“寿退社”という形にしようと思ってます」

 

 その口調は落ち着いていて、だけどちゃんと覚悟がこもっていた。

 

「残り4ヶ月。引き継ぎもありますし……最後まで責任を持って働きたいんです」

 

 ふと遠くを見るような目になり、優しく呟く。

 

「キャビンアテンダントは、アイドルを諦めた私が選んだ道でしたけど――お客様に“ありがとう”って言ってもらえるたびに、心が救われてきました」

 

 目に宿るのは、確かな誇りだった。

 

「飯田さんにも“誇れる仕事だ”って言ってもらえて……この仕事を選んだ自分を、ちゃんと肯定できた気がしてるんです」

 

 ――真面目で、優しくて、頑張り屋。

 それが藤咲綾乃という女だった。

 

 俺はにやりと笑い、親指で自分を指す。

 

「じゃあ結婚式が終わったら……正式に“ハーレム加入”&アイドル活動、スタートだな!」

 

 綾乃は頬を染めて、でも嬉しそうに笑った。

 

「……はいっ。ハーレム王のプロデュース、楽しみにしてますね?」

 

 その言葉に、俺の心臓がまた一発――ドンッと跳ね上がった。

 

 よし、そろそろ行くか。

 

 そう言ってバッグを背負おうとした瞬間――

 

「ま、待ってください!」

 

 背中から慌てた声が飛んできた。

 

「……あの、飯田さん」

 

 振り返ると、綾乃がカバンをごそごそと漁っている。

 

「渡したいものがあって……」

 

 なんだ?プレゼントか?まさか、朝食?それとも高級スイーツ??

 

 ――いや、まさか愛情弁当!?

 

 俺の期待が爆発寸前になったところで、彼女の手から出てきたのは……

 
 ピンクと白のリボンで丁寧に包まれた――分厚すぎる“紙の塊”。

 

「……え、何それ?」

 

 目をぱちくりさせる俺に、綾乃はパァッと明るく笑って答えた。

 

「ファンレターです!飯田さんへの気持ちを整理してたら、こんなにたくさんに!」

 

 いや、たくさんってレベルじゃねぇ!!

 重っ!文庫本二冊分!いや、厚み的には“上中下巻”の三部作だろ!!

 

「気づいたら……30通くらい書いてました!」

 

 うっそだろ!? それ、もはや“恋文大全集”じゃねぇか……!

 

 俺はやや引き気味に手に取って、恐る恐る聞く。

 

「……ぜ、全部読むって……かなりのボリュームだけど……?」

 

 すると綾乃は、まるで「もちろんです!」と言いたげにキラキラと目を輝かせ――

 

「はいっ!全部読んでいただけたら……きっと私の気持ち、ちゃんと伝わりますから!」

「そ、そういう展開かよ……!」

 

 頭を抱えつつ、一通目を手に取る。

 封を開けてみると、そこには綺麗な文字でびっしり書かれた手紙が。

 

 しかもページ数が振られてるし、章タイトルもある……これ、まさかの連作形式!?

 

「“序章・はじまりのとき”?!?!」

 

 驚愕する俺の横で、綾乃はちょっと得意げに微笑む。

 

「じゃあ、続きは……帰りの飛行機で読んでくださいね?」

 

 そっと俺の背中を押しながらそう言う綾乃の笑顔は――
 

 
 夜のサンバの余韻と、新しい関係の始まりを映すような、あたたかな笑顔があった。

 

(……こりゃあ、気合い入れて読まなきゃならんな)

 

 俺はファンレター“全30通”を胸に抱きしめて、再び走り出す準備を整えた。






 ――――――――――――





 自分のホテルに戻ると――

 

 ロビーには、日本代表のメンバーがズラリと整列。

 ……しかも、全員ニヤニヤしてやがる。

 

 なんだこの不穏な出迎えは……?

 

 そこへ、村岡が前に出てきて、わざとらしく腕を組みながら言いやがった。

 

「おお、雷丸。昨夜はどこで“全力プレー”してたんだぁ?」

 

 ……うるせぇよ!!!

 

「って、なんで初っ端からスライディングタックル並みの切り込み入れてくんだよ!!」

 

 俺がツッコむと、後ろから別のメンバーが「さすが俺たちの“モテエース”!行動力が違うぜ!!」と爆笑。

 

 いや、行動力ってなんだよ!試合じゃねぇんだぞ!?

 

「なんでそんな話になってんだよ!!」

 

 キレ気味に叫ぶと、ひとりがドヤ顔で新聞を広げてきやがった。

 

「ほら見ろよ、証拠写真な?」

 

 見せられた紙面には――

 夜風に吹かれながら綾乃と語り合ってる俺の姿がバッチリ。

 まるで映画のワンシーンみたいにエモい構図で撮られてて……

 

 その下にデカデカと書かれていたのは、

 

 《ハーレム王、新たなメンバー獲得か!?》

 

 ってうるせぇよォォォォォォ!!!

 

「うわっ!?どこで撮られてたんだコレ!!??バレバレじゃねぇか!!」

 

 新聞を奪い取って顔を真っ赤にしながら叫ぶ俺を見て、チームはもう大爆笑。

 

「おいおい、飛行機の中でその“愛の軌跡”聞かせてもらうからな~!」

「座席隣だったら詳細レポ頼むぞ~!」


 

 ……くっそ、火に油しか注がれてねぇ……!!

 

「もういい!!さっさと日本帰る準備するぞ!!」

 

 俺は天を仰ぎながら、荷物と羞恥と共に、帰国への時を迎えるのだった――。




 
 
 ――――――――――――

 



 帰りのバスに揺られながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。

 

 ヤシの木がゆっくりと風に揺れ、青い海がきらきらと輝いている。
 砂浜には子どもたちの笑い声。
 日差しはまぶしいのに、どこか穏やかで、やけに胸に染みてくる。

 

 気づけば――

 

「……これが、俺たちが闘った場所か……」

 

 そんな言葉が、無意識に口をついて出ていた。

 

 誰に聞かせるわけでもなく、ただ自分の中で、確かめるように。

 

 その瞬間、隣からポンと肩を叩かれた。

 

「雷丸、お前……意外とセンチなとこあんのな?」

 

 振り向けば、村岡がニヤニヤ顔で肘を突いてきやがる。

 

「うるせぇよ」

 

 小声で返しながら、俺は視線をまた窓の外に戻した。

 

 ――でも、否定はしなかった。

 

 だって本当にそうなんだ。
 サッカーして、戦って、笑って、叫んで――泣いて。

 

 このブラジルという地で、確かに俺たちは“物語”を残してきた。

 

 まるで映画のエンドロールのように、車窓の景色がスローに流れていく。

 

 心の奥で何かがひと区切りついたような、不思議な感覚。

 

 でも――

 

 これで終わりじゃない。

 物語は、まだまだ続く。

 

 そう思いながら、俺は静かに、窓の景色を目に焼きつけていた。


 

 ***

 


 空港に着いて、一息つく間もなく――俺はお土産コーナーをうろついていた。

 

「えーと、あいつらには……何がいいかな……」

 

 完全に脳内は“ハーレム仕様”。
 もう日本帰ってからの顔ぶれが浮かんじまって、足が勝手に土産物屋に吸い寄せられてる。

 

 ……しかし、改めて見るとブラジル土産ってクセが強ぇ!

 

 カラフルすぎるブレスレット、
 何に使うか分からない謎の羽飾り、
 “99%アロエ”と書かれた得体の知れないクリーム、
 あと謎の楽器“カシシ”とかいう振るとジャラジャラ鳴るやつ……。

 

 うーん、ブラジルっぽさは満点だけど、もらって嬉しいかは別問題だな。

 

 そんな中――ふと視界に入った、一匹のぬいぐるみ。

 

 もっさりした灰色の毛並みに、ちょっとだけ哀愁漂うまぬけ顔。

 耳は大きくて垂れてるし、どことなく“人生悟ったコアラ”みたいな雰囲気を醸し出している。

 

「……なんだこいつ」

 

 思わず手に取って見つめると――なぜか、脳内に浮かぶのは貴音の笑顔だった。

 

(……これ、逆にウケそうだな)

 

 ちょっととぼけたこの表情。
 たぶん貴音は「えー!?なにこの顔~!かわいい~!」って爆笑しながら、寝るとき抱いてそうだ。

 

「よし、決定。お前は貴音行きだ」

 

 ぬいぐるみの頭をぽんっと叩いて、カゴに放り込む。


 
 次に頭をよぎったのは――焔華。

 

 俺のハーレムの中でも特に火力担当、そして辛い物大好き女王。

 

「焔華には……やっぱ“火”だろ……!」

 

 そう呟きながら土産物屋の調味料コーナーへ突撃すると、ズラリと並ぶ瓶の群れ――そして、その中でも異彩を放つ一本が目に入った。

 

 ラベルには“Inferno Total!!(全焼地獄)”という文字。

 背後に火山、燃える唐辛子、叫ぶ人間の顔。

 

「……なんだこのセンス、嫌いじゃないぞ」

 

 瓶の裏を見ると、説明文には「使用量は歯先にちょっとでOK」との注意書き。

 なのに、焔華の顔が浮かんだ瞬間、俺の脳が即決した。

 

「むしろコイツで『辛味修行』とか始めそうだな、焔華なら……!」

 

 想像してみる。

 焔華が、朝ご飯の味噌汁にこのソースを入れて「ふむ、まだぬるいのう」とか言ってる姿。

 

「よし、君に決めた!“火炎属性強化ソース”、焔華に送るぜ!!」

 

 そう叫びながら、俺は激辛地獄ソースをカゴへIN。

 

 まるで伝説の武器を手に入れたかのような気分だった。
 ……使い方を間違えれば、人類にも牙を剥く凶器だが、それを使いこなすのが焔華だ。

 

「日本帰ってからの食卓、ちょっと怖ぇな……」

 

 
 だが心のどこかで、焔華の嬉しそうな笑顔を期待している自分もいた。


 
 続いて頭に浮かんだのは――麗華。

 

 中立派の頭脳派にして、気品と威厳の権化。
 クールで理知的、いつも冷静沈着……なのに、たまに俺のアホに巻き込まれて頭を抱えてる姿が妙にかわいい、俺の“高嶺の花”枠だ。

 

「麗華に変な土産渡したら、速攻で“はぁ?”って言われそうだな……」



 妙なプレッシャーを感じながら、俺はちょっと高級なコーナーに足を運ぶ。

 

 そこで目に留まったのは――ブラジル産のカカオを使った、極上のビターチョコ。

 

 パッケージにはシンプルでクラシカルな金のロゴ、カカオ80%以上。余計な甘さはなく、洗練された大人の味。

 

「これだな……」

 

 麗華の知的な雰囲気と、少しツンとした余韻。
 でも、たまにふっと見せる柔らかい笑み。
 このチョコ、まるで麗華みたいだ。

 

「お土産ってより、これは……お前への“感謝”ってやつだな」

 

 俺はそう呟きながら、ビターチョコの箱をそっと手に取る。

 

 ――きっと渡した瞬間、麗華は少し眉を上げて「……意外と、いいセンスしてるじゃない」って言ってくれるだろう。

 

「くぅ~~想像だけでニヤけちまうぜ!」

 

 見た目はクール、中身は甘い。
 その“ギャップ女王”にこそ、ふさわしいお土産だ。
 


次に頭に浮かんだのは――雪華。

 

 物静かで優しくて、俺の冗談にも小首をかしげて「……ふふっ」と微笑んでくれる癒し枠。
 おしとやかで繊細、でもいざって時には頼りになる、まさに“雪の女神”。

 

「雪華には……こう、あったかい気持ちになれるやつがいいよな」

 

 そう思いながら、ふと目に留まったのは――手のひらサイズのハチドリのガラス細工。

 

 透き通るような淡いブルーの羽。
 胸元には小さな花をくわえていて、羽を広げる姿がすごく優雅。
 小さくても、なんだか“希望”とか“癒し”とか、そういうものを感じさせる。

 

「……これ、雪華にぴったりだな」

 

 繊細だけど壊れそうじゃない。
 優しさの中に、どこか“信念”が見える。

 

 ――まるで、雪華そのものだった。

 

「これを部屋に飾れば、雪華もほんの少しブラジルを感じられるかもな」

 

 そう言いながら、俺はハチドリのガラス細工を包んでもらう。
 彼女の微笑みが、このガラスの中にも浮かんでる気がして――思わず、ちょっと照れた。

 

「帰ったら一番に渡してやるか。で、『……ありがとうございます。雷丸様』って、また可愛く微笑むんだろ?ふふふ、完璧だ」

 

 ……にやけが止まらねぇ!!

 

 
 最後に思い浮かんだのは――静香さん。

 

 ――ハーレムファミリーの、絶対的な大黒柱。

 包容力は母親級、品格は女王級、色気は……もはや犯罪級。

 

「静香さんには……やっぱ本場のブラジルコーヒーだろ」

 

 だが、そこらの土産物屋のパックじゃ納得できねぇ。
 俺が向かったのは、空港内でも**“王族レベル”の価格帯を誇る高級コーヒー専門店**。

 

 並んだ豆の中でも、最上段――“プレジデンテ・インペリアル・クラシコ”。

 

 金色のラベルに“限られた農園でのみ栽培された幻の豆”とある。

 

 値段を見て一瞬ビビったが――

 

「……構うかよ。静香さんのためだ」

 

 即決。カウンターに叩きつけるようにクレカを出す俺。

 

 高級な木箱に入ったコーヒー豆は、香りもすでに格が違った。
 焙煎前の時点で、鼻の奥に深く響く、重厚でまろやかな香り――まさに“女帝専用”って感じだ。

 

「これを、俺が丁寧に挽いて……静香さんのためにドリップするわけだ」

 

 想像しただけで、胸が熱くなる。

 柔らかな朝日が差し込むリビング。
 湯気の立つマグカップを渡したら――

 

『……こんな贅沢、いいのかしら』

 

 なんて、あの優雅な微笑みで言ってくれるはず。

 

 ――たまらん!!!

 

「絶対に喜ばせてみせる……!」

 

 その覚悟とともに、俺は静香さんへの“極上の一杯”を手に入れた。
 

 さぁ、帰ろう。ハーレムに。勝利に。最高の朝に――。



―――――――――――――――
 





 お土産の袋をぎゅっと抱えながら、俺は帰りの飛行機に乗り込んだ。

 

 ようやく座席に腰を落ち着けた瞬間――

 

「……ああ、やっと帰れるぜ……」

 

 まるで試合直後にピッチへ倒れ込んだ選手のように、全身の力が抜けていく。

 

 あれもこれもあった。
 踊って、戦って、撃たれて、縛られて、逃げて、叫んで、笑って……。

 

 それでも、今こうして帰りの便に無事乗れているという事実が、やけに胸に染みた。

 

 そのタイミングで、機内アナウンスがふわっと流れ始める。

 俺は反射的にスマホを取り出し、グループチャットを開いた。

 

 『今から帰るぞ~!お土産、楽しみにしててな!!』

 

 ――送信。

 

 画面に映る既読の文字を見ながら、自然と口元がゆるむ。

 貴音にはあの哀愁アニマル。焔華には灼熱の激辛ソース。麗華には気品漂うブラジル扇子。雪華には静謐なる月光アクセ。静香さんには、王の名を持つコーヒー。

 

 「……ふふ、早く渡したいな」

 

 どんな顔をして受け取るだろうか。驚くだろうか。笑ってくれるだろうか。

 そんなことを考えていたら、ニヤニヤが止まらなくなってきた。

 

 そして飛行機が、ゆっくりと滑走路を動き始める。

 エンジンの低い唸りが響き、車輪が震え、じわじわと加速していく。

 

 俺はふと、窓の外に目を向けた。

 

 空港の向こうに広がる、リオの街並み。
 海、砂浜、ヤシの木、陽気な音楽、サンバの笑顔――

 遠ざかっていく景色の中に、戦った日々と、もう一人の“俺”が小さく見える気がした。

 

 「じゃあな……ブラジル。ありがとうな」

 

 手を振る代わりに、心の中でそっと呟いた。

 この国で得たものは数知れない。
 出会いも、笑顔も、痛みも、全部――俺の中に刻まれてる。

 

 そして、いよいよ機体が空へと浮かぶ。

 

 リオの景色が、ゆっくりと、やさしく視界から消えていった。


 

 ――――――――――



 

 飛行機が高度を安定させ、エンジン音が心地よい振動に変わる。

 窓の外にはどこまでも続く雲の海と、淡い青空――まるで現実と夢の境目をふわふわと漂っているような、不思議な感覚。

 

 そんな中、通路から飲み物ワゴンが近づいてきた。

 機内サービスの始まりだ。なんとなく視線を向けたその瞬間――

 

「……あ、綾乃!?!?!?」

 

 見覚えのあるシルエットが、視界の端に飛び込んできた。

 

 白と紺の制服に身を包み、完璧な笑顔と姿勢でサービスを行うその姿。

 

 どう見ても、どう見ても――藤咲綾乃本人だった。

 

「なんでここにいんの!?え!?え!?え!!?」

 

 思わず半分起き上がる勢いで叫ぶ俺に、綾乃はプロフェッショナルな笑顔を崩さぬまま、静かに一言。

 

「帰りのフライトも、よろしくお願いしますね、飯田さん」

 

 その一言に、俺の脳内でファンファーレが鳴り響いた。

 まさかの搭乗サプライズ。どこまで仕掛けてくるんだこの人は……!

 

「コ、コーヒーください……」

 

 緊張のあまり噛みそうになりながらも、ようやく頼んだ。

 綾乃は静かにコーヒーを差し出してきて、ほんの少しだけ、私的な笑顔を添えてくれる。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 なんかもう色々と反則だこの流れ!

 

 受け取ったコーヒーを一口すすりながら、俺は荷物から“例のブツ”――綾乃がくれた『恋文三〇選』を取り出す。

 

 厚みは文庫本2冊分。読みごたえありすぎて、逆に笑えるレベル。

 

 と、そんな俺を隣の席からのぞき込んだ村岡がボソッと一言。

 

「お前……それ、なんかの小説じゃなくて“ガチの手紙”か?」

「……ああ、“ガチ”だ」

「引くわ」

 

 村岡が若干ドン引きしながらも、どこか嬉しそうに肩をすくめて苦笑していた。

 

 そんなやりとりをしながらも、手紙の中身は本気だった。

 綾乃の想いが一文字一文字に込められていて、読んでるだけで胸がポカポカする。

 

 ――気づけば、まぶたが重たくなっていた。

 コーヒーの温もりと手紙の余韻が、まるで優しい毛布のように俺を包んでいく。

 

 俺はゆっくりと背もたれに体を預け、そのまま目を閉じた。

 

 夢の中には、リオの陽気な街並みとサンバのリズム。

 踊るように笑う綾乃、熱狂のピッチ、そして――これから始まる“俺たちの物語”が、ぼんやりと浮かんでいた。

 

 ……しばらくすると。

 

 誰かが、そっと肩にブランケットをかけてくれる気配がした。

 

 ――綾乃だった。

 

 プロの表情の奥に、ほんの少しだけ優しさのにじんだ目元で、そっと俺に囁いた。

 

「ワールドカップ、お疲れさまでした。……飯田さん。ごゆっくりお休みくださいね」

 

 静かに微笑む彼女の姿が、夢の中へ溶けていくように遠ざかっていく。

 

 俺は心の中で、そっと呟いた。

 

 ――ありがとう、綾乃。

 

 飛行機は雲の上を、まっすぐに進んでいく。

 ワールドカップを終えた英雄――いや、“ハーレム王”は今、再び日本へと帰る旅路の中で、次の夢を見始めていた。





 ――――――――――


 



 飛行機が無事に着陸し、長い旅の終わりを告げるようにタラップのドアが開いた。

 空港内、ワールドカップ出場者専用ゲートでは、すでに家族や関係者たちがずらりと待ち構えている。

 あちこちで感動のハグ、涙の抱擁、スマホの連写音――選手たちが次々と再会を果たす中。

 

「……ふぅ、やっと帰ってきたか……」

 

 伸びをしながらゲートをくぐったその瞬間――

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

 爆音のごとき声が空間を裂いた。

 そして次の瞬間、俺に突進してくる突風のような何か――

 

「うおっ!?ちょ、おまっ……貴音ぉぉ!?」

 

 小麦色の元気娘が、まさにロケットタックル。

 

 ドゴォン!!

 

 見事なジャンピングハグで俺の胴に飛びついてくる。

 

「お兄ちゃんっ!!おかえりっ!!」

 

 涙目で笑うその顔は、まるで忠犬タカネ公。しがみつく力が強すぎて、息が詰まるほどだ。

 

「って、貴音!ちょ、くっつきすぎ!胴が折れる!!」

 

 騒がしくも温かい再会。

 だが――それだけじゃ終わらないのが、俺の帰国。

 

「――雷丸様!」

 

 凛とした澄んだ声が、耳をくすぐる。

 振り返ると、雪華が優雅に駆け寄ってきて、ふんわりと俺の隣に立つ。

 

「ご無事で、本当によかったです」

 

 石鹸のような清らかな香りとともに、ふわりと微笑む姿に、緊張がほぐれていく。

 

 続いて――

 

「よく戻ったのぅ、雷丸!!」

 

 元気そのものの笑顔とともに、焔華が勢いよく突っ込んできた。

 

「お主は世界一の男じゃ! わし、鼻が高いぞー!!」

 

 そう言って、遠慮ゼロの肩バン連打。

 痛ぇけど……なんか嬉しい。焔華らしくて、つい笑っちまう。

 

 そして――しっとりとした気配が、すぐ背後から近づいてくる。

 

「飯田くん、よく帰ってきたわね」

 

 艶やかな黒髪をなびかせながら、麗華が静かに現れる。

 

「……世界一、おめでとう。あなたの努力、ちゃんと見てたわ」

 

 視線を逸らしつつも、確かな想いを乗せたその言葉に、胸がジンと熱くなる。

 

「ありがとな、麗華」

 

 ぽつりと返すと、麗華は小さく笑って頷いた。

 

 そして最後に――

 

「……おかえりなさい、雷丸君」

 

 落ち着いた声とともに、静香さんがゆっくりと歩いてくる。

 その優しげな笑みとともに、そっと俺の頬に手を添えてくる。

 

「よく、頑張ったわね」

 

 その瞳は、母のようでもあり、恋人のようでもあって――俺の中の何かを、そっと満たしてくれた。

 

 気づけば、俺の周囲には――ハーレムメンバーが勢ぞろいしていた。

 空港ロビーのど真ん中で、圧倒的な華と美貌に包まれた集団が爆誕している。

 

「え、なにあの人たち……」「美人ばっかり……アイドル?」「ハーレム王ってガチだったのか……」

 

 ざわつく人々、スマホのシャッター音、羨望の視線。

 

 俺はちょっと照れながらも、堂々と胸を張って――

 

「……ただいま、みんな」

 

 その一言に、彼女たちは一斉に笑顔を返してくれた。

 

 ――帰ってきた。俺の場所へ。

 そして、ここからまた始まる。俺と、俺の“家族”の物語が。

 
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