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第165話 富士の樹海3
しおりを挟む俺たちは、富士の樹海に向けて出発する準備をするため、再びリビングに集まった。
今回のメンバーは俺、雪華、焔華、貴音、そして麗華。「天狗捜索ミッション」に気合が入ってるが、みんなそれぞれ準備が独特すぎてツッコミどころ満載だ。
まず雪華は、なぜか大量のホカロンとフリース毛布をカバンに詰めている。
「えっと、富士の樹海って寒いかも知れないので、温かい装備は必須ですよね?」
「いや、気持ちはわかるけど、そんなに寒くはないんじゃないか?」
次に焔華。焔華はというと、なぜか頭にバンダナを巻き、さらに背中にデカい木の棒を背負っている。まるで時代劇から飛び出してきたかのようだ。
「わしはこの棒で天狗をしとめるぞ!!」
「いやいや、しとめるつもりはねぇよ!それに、天狗が見たら怒るだろ!」
貴音は、一応普通の装備を揃えてはいるものの、バッグの中には大量のお菓子が詰められている。俺がチラッと中を覗くと、スナック菓子やら飴やらがゴロゴロ出てきた。
「お兄ちゃん、探索には糖分が必要でしょ?あと、お腹すいた時に困らないように!」
「……お菓子屋さんができそうな量だな。」
そして麗華。彼女はリュックに迷彩柄のハットをかぶり、さらに地図をしっかりと手に握って、スマホで何か調べている。
「これだけは言っておくけど、みんなちゃんとついてきてね?迷子になったら置いていくから。」
――結局、準備というよりも、全員ただの観光気分だろ!と思いつつも、やっぱりこういうメンバーが揃ってると、どんな困難も乗り越えられる気がする。
その時、リビングのドアが静かに開き、入ってきたのは――静香さんだ。いつも冷静でキリッとした彼女が、なぜか少し微笑みを浮かべている。
「雷丸くん、準備は万端のようね。」
「あ、静香さん!もちろん、準備バッチリです!」
俺が胸を張って答えると、静香さんはふと考え込むような仕草をしたあと、俺に近づいてきた。なんだか雰囲気が少し……いや、かなり変わってる気がする。やたらと近くないか?
「雷丸くん、出発前に……何か忘れてること、ない?」
その言葉とともに、静香さんの顔がますます近づいてくる。え?え?まさかの展開?俺の頭は一瞬パニックだ。
「え、えーっと……忘れ物……ですか?」
「そうよ。せっかくのミッションなんだから、出発前のエール……それくらい欲しいんじゃないかしら?」
静香さんはニコッと微笑み、顔をさらに近づけてきた。俺の心臓は爆発しそうだ。
「そ、そんな、出発前のキ、キスなんて……!」
「ふふ、恥ずかしがらなくてもいいのよ、雷丸くん。無事を祈ってるわ。」
気づけば静香さんの唇が頬にふれた。しかも、ふんわりと優しい感触。これが……静香さんのエールってやつか!
俺は完全に目がハートになりそうなほど浮かれてるけど、ふと周りを見れば、雪華や焔華、貴音、そして麗華のジトッとした視線が突き刺さる。
「お兄ちゃん、何してるの……?」
「まさか出発前からイチャイチャとは、あっぱれじゃのう!」
麗華は呆れ顔でため息をつき、地図をペラッとめくる。
「……もう出発していいわよね?」
「お、おう!よし、みんな、行くぞー!!」
静香さんからのエールでテンションMAX!みんなのブーイングもどこ吹く風で、俺は堂々と先頭に立ち、富士の樹海に向かって勢いよく出発した。
――――――――――――
俺たちは東京駅から新幹線に乗り込み、山梨に向けて出発した。窓から見える景色が徐々に都会から緑豊かな田舎に変わる中、車内では早くも旅の楽しさが満ち始めていた。
隣で雪華が、にこにこと微笑みながら保冷バッグを広げる。そして、中から取り出したのは――きれいにラッピングされた手作りのおにぎり。
「新幹線に乗ると、つい旅のお供を揃えたくなりますよね!」
その言葉に、全員の視線がおにぎりに集中する。雪華が持っていたのは、塩むすびや鮭、昆布など定番の具材が包まれたおにぎりだった。袋を開けると、ご飯の香りがふわっと広がる。
「うぉぉぉぉ!!!おにぎりじゃん!!」
俺が驚きの声を上げると、雪華は控えめに微笑んで答えた。
「はい、みんなで分け合えるようにと思って、朝早く起きて作ったんです。」
「おおっ!それはありがたいのぅ!」
焔華が早速手を伸ばし、昆布のおにぎりを手に取る。
「これ、すぐに食べても良いの?」
貴音も興味津々で小さな鮭むすびを手にして目を輝かせている。
「もちろん!みんなで食べましょう!」
雪華の優しい声に、全員が一斉に袋を開け始めた。
焔華が昆布のおにぎりを豪快に頬張ると、満足そうに大きな声で感想を述べる。
「この昆布、しっかり味が染みておる!これぞ旅のお供って感じじゃ!」
隣では貴音が小さな口で鮭むすびを食べながら、嬉しそうに笑顔を見せる。
「鮭がジューシーで美味しいね!やっぱりおにぎりは最高だよ!」
麗華はというと、涼しげな顔で塩むすびを味わいながら感想を漏らす。
「塩むすびもシンプルだけど、味わい深いわね。お茶とも相性が良いし。」
いつも冷静な彼女も、どこかリラックスした様子だ。
「みんな美味しそうに食べてくれて良かったです。」
雪華はそう言いながら、自分も梅のおにぎりを一口。どこか嬉しそうに目を細める。
俺も手に取った明太子むすびをかじると、ピリッとした辛さとご飯の甘みが絶妙にマッチしている。新幹線の心地よい揺れと、みんなの笑顔に包まれながら食べるおにぎり――なんだか特別な味がする気がした。
「やっぱり、おにぎりって旅には欠かせないよな!こういうの、最高だよな!」
そう言うと、焔華がすかさず追加のおにぎりを手に取る。
「おかわりじゃ!もっと食わせろ!」
「ちょっと焔華さん!他の人の分もあるんですから!」
雪華が困ったように笑うが、焔華はすでに次のおにぎりに夢中だ。
そんな中、車窓に突然、大きな富士山が現れた。
「見てみんな!富士山だよ!」
貴音が興奮して声を上げると、全員の視線が窓の外へと向けられる。
焔華は新幹線の窓から外を眺めながら、指でピン!と目標物を狙う真似をしている。
「おおっ、富士山かっこいいのぅ!やっぱり山頂から天狗が舞い降りてくるに違いない!」
俺も窓の外を見つめながら、焔華の言葉に思わずうなずいた。
「確かにな!!もし本当に美少女天狗がいるなら、富士山みたいな立派な山が舞台ってのはピッタリだよな!」
「じゃな!!あの山頂で羽ばたいてる姿を想像するだけでわくわくするわ!」
焔華は拳を握りしめ、まるで目の前に天狗が舞い降りるのを確信しているかのように語る。その目の輝きに、俺もつられて興奮が止まらなくなってくる。
「しかもだぞ!羽ばたくたびに風が巻き起こって、髪がなびいて……いやぁ、絶対かっこいいし美しいに決まってるよな!」
俺が身振り手振りで天狗の姿を語ると、焔華がさらに熱を込めて続ける。
「それに天狗は戦いにも強いんじゃろ!風を操って、雷を裂くような剣技とかありそうじゃのう!」
「お前、それもう完全に異世界ファンタジーの主人公じゃねぇか!」
俺たちのやりとりに、隣で貴音が首をかしげながら無邪気に口を挟んだ。
「じゃあお兄ちゃんも空を飛ばないといけないんじゃない?」
その何気ない一言に、俺は一瞬固まり、焔華がすかさず大笑いする。
「おぉ、それは面白いのぅ!雷丸、お主が空を飛ぶ姿を想像したら、腹がよじれそうじゃ!」
「なんで俺が飛ぶ話になってんだよ!?俺は地に足つけて生きてんだ!」
慌てて否定する俺に、貴音が無邪気な笑顔で追い打ちをかける。
「だって、美少女天狗と空でデートするなら、お兄ちゃんも飛べないとダメじゃない?」
「どんな理屈だよ!」
思わずツッコむ俺だが、貴音の無邪気さには敵わない。頭を抱える俺を見て、麗華が楽しそうに微笑みながら口を開いた。
「ふふ、でも飯田君が飛んでる姿を想像すると……案外似合うかもしれないわね。」
「おい、麗華まで何言ってんだよ!」
「だって、あなたって妙に目立つじゃない?空を飛びながら『俺が最強だ!』とか叫んでそうだし。」
麗華が軽く肩をすくめながら言うと、車内にクスクスと笑い声が広がる。
「叫ばねぇよ!……たぶん!」
完全にからかわれていると分かっても、言い返せない自分が悔しい。そんな俺を見て、雪華も優しい笑みを浮かべながら、静かに口を挟んできた。
「でも雷丸様、もし美少女天狗さんに誘われたら、断れないんじゃないですか?」
「なっ……!」
「だって、『一緒に空を舞いませんか?』なんて美少女に言われたら、雷丸様なら『任せとけ!』って張り切るんでしょう?」
雪華がくすっと笑いながら言うと、焔華まで大笑いしながら同意してくる。
「じゃろう!雷丸なら『俺は飛べるんだぁぁぁぁ』とか叫んで飛び出しそうじゃ!」
焔華が腹を抱えながら豪快に笑い声を響かせる。
「おい、そんなこと叫ぶわけないだろ!」とツッコもうとした俺だったが、ふと思い出してしまった。
「あっ……いや、待てよ……あったわ!確かにそれ叫んでサッカースタジアムまで飛んだことあったわ!」
俺の言葉に、みんなが一斉に驚きの表情を浮かべる。そして焔華が膝を叩きながら叫んだ。
「あぁ!あのプロ入団式の時の話か!!」
貴音も「あったね!あの時、めっちゃ目立ってた!」と目を輝かせて頷く。雪華も微笑みながら静かにうなずいている。
「そうそう!飛んだって言っても、正確には俺力を使ってすごいジャンプをしただけなんだけどな!」
俺は腕を組み、ドヤ顔で説明を始める。
「『俺ならできる!』って思いながら全力で俺力を発動してみたんだ。そしたら、ものすごい勢いで跳んで、気づいたらサッカースタジアムのフィールドのど真ん中に着地してたってわけだ!」
貴音が「あの時、お兄ちゃんがすっごくキラキラしてたの覚えてる!」と嬉しそうに声を上げる。
俺はその流れに乗り、さらにドヤ顔で続けた。
「これで天狗との空中デートもバッチリだな!」
しかし、その言葉に麗華がピタリと眉をひそめた。そして、淡々と冷静に言い放つ。
「でも、飯田君。自由には飛べないんでしょ?だったらぴょんぴょん飛んでデートするのって、なんかシュールじゃない?」
麗華の冷静な一言が、新幹線の車内に静かな笑いの火種を落とした。
雪華がその言葉を受けて、口元を手で押さえながら言う。
「そうですね……空を優雅に飛ぶ美しい天狗と、その横でぴょんぴょん跳ねる雷丸様……想像すると、少し絵面がシュールかもしれません。」
その瞬間、焔華が吹き出して手を叩きながら笑い出した。
「ぷはっ!想像したらやばいのぅ!天狗が『風よ、私を導け!』とか言いながら優雅に飛んでる横で、雷丸が『ぴょん!ぴょん!』って跳ねてるんじゃろ!?あっははは!!」
貴音もつられたようにクスクス笑い始め、頬を赤らめながら声を上げる。
「お兄ちゃん、なんかウサギさんみたいだよ!でもきっと天狗のお姉さんが『ふふ、可愛いわね』って言ってくれるかも!」
その無邪気なコメントに、さらに焔華の笑いが爆発する。
「可愛いって言われても……それ、全然デート感ないじゃろ!あっははは!ただの跳ねる人間じゃ!」
焔華は腹を抱えて椅子にもたれかかりながら、涙を浮かべるほど笑い続けている。
「おい!みんなして俺をネタにするな!」
俺が声を張り上げるが、誰も止まらない。むしろ、みんなの笑い声はどんどん大きくなっていく。
車内に響き渡るみんなの笑い声に包まれながら、俺は窓の外に目をやった。
富士山が堂々とそびえ立つその姿を見ながら、なんだか「まぁ、みんな楽しそうだし、いいか」と少しだけ納得する俺だった。
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