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第166話 富士の樹海4
しおりを挟む気づけば3時間があっという間に過ぎ、ついに山梨に到着!俺たちの新たな冒険が、いよいよ幕を開けるぜ!
山梨のホームに降り立つと、全員が新鮮な空気を吸い込むように深呼吸し、周囲を見回していた。その瞬間、雪華が手を挙げて声を張り上げる。
「みなさーん!ここは富士山の見える大自然です!新鮮な空気を思いっきり吸い込みましょう!」
まるでツアーガイドみたいにキラキラと笑顔で言う雪華に、全員の視線が集中する。
「おぉ、さすがじゃのぅ!雪華がガイドなら安心感あるのぅ!」と焔華が感心する中、雪華はさらに意気揚々と手を振り上げて続けた。
「そして、富士山といえば名産品がたくさんあります!名物のほうとうや信玄餅……あっ、あれ見てください!」
突然彼女の視線が一点に集中する。
「富士山クレープですよ!」
全員が「え?」と同時に声を出す間もなく、雪華は目を輝かせて真っ先に走り出した。ホームに設置された小さな売店に、大きな富士山の形をしたクレープの看板が掲げられている。
「雪華、ちょっと待て!」
俺が慌てて呼び止めるが、彼女はまるで風のようにスルスルと列車の乗客の間をすり抜けていく。
売店の前に立ち止まると、雪華はメニューを見ながらワクワクと足を小さく跳ねさせた。
「ほら見てください、皆さん!このクレープ、富士山みたいに盛り上がった生クリームとブルーベリーソースが乗ってるんですよ!すごく可愛いですね!」
遅れて追いついた俺たちは、売店のポスターを見上げて目を丸くした。
「ほんとに富士山の形してるじゃん……しかもブルーベリーって、雪の上に山の木々みたいだな!」
貴音も感動したように手を叩きながら、「可愛い~!お兄ちゃん、買おうよ!」と無邪気に言う。
焔華は腕を組みながらポスターをじっと見て、「ふむ……これは、ただのクレープではないな。きっと富士山のエネルギーが詰まっとるに違いない!」と謎の分析を始めた。
麗華は冷静にため息をつきながら、「観光地らしいけど……まさか雪華が一番はしゃぐとはね。」
雪華は店員さんに向かってにっこり微笑みながら、「これ一つください!」と迷わず注文。そして、手渡されたクレープを両手で大事そうに抱えながらみんなの方を振り返る。
「ほら、見てください!とっても綺麗ですね!」
そのクレープは、富士山を模した山型の生クリームにブルーベリーソースがかけられた一品で、見た目も華やかだ。雪華は微笑みながら一口頬張ると、表情をさらに輝かせた。
「美味しい~!」
目を細めて至福の表情を浮かべる雪華を見ていると、ついこちらも頬が緩んでしまう。
「旅のスタートには甘いものがぴったりですよね!」
「……まあ、確かにそうかもな。」
そんな中、焔華がポスターを見つけて目を丸くする。
「なんじゃと!手裏剣ソフトクリームじゃと!?」
興奮した様子で焔華が指差した先には、黒い手裏剣の形をしたクッキーが刺さったソフトクリームの看板が掲げられている。
「おぉ、これは面白いのぅ!わしも食べたいぞ!」
店員さんに勢いよく「これじゃ!」と注文した焔華は、ソフトクリームを手にするとそのユニークな見た目にさらにテンションを上げた。
「ほれ、見ろ!手裏剣が刺さっておるぞ!これぞ忍者の術に相応しいスイーツじゃ!」
麗華がそんな焔華に冷静に解説を入れる。
「山梨県は忍者八海で有名だから、きっとそれをモチーフにしたスイーツなんでしょうね。」
「ふむ、なるほど。ならばこれは天狗も認める味に違いない!」
焔華は手裏剣ソフトクリームをじっと眺めていたが、突然何かを思いついたように顔を上げ、ソフトクリームを高々と掲げた。そして、満面の笑みで叫ぶ。
「よぉし、天狗の術、スイーツの陣、炸裂じゃ!!」
その言葉とともに、ソフトクリームを軽く空に掲げ、手裏剣を投げるようなポーズを決める焔華。その真剣な表情と大袈裟すぎる仕草に、俺は思わず目を丸くした。
しかし、そんな焔華の突然の行動に周囲は騒然。特に店員さんは一瞬引いたような顔をして、少し後ずさりしている。そりゃそうだろう。普通の人は、ソフトクリームを手裏剣に見立てて戦闘モードに入るなんて想像もしない。
「ソフトクリームは投げるものじゃねぇ!食うものだ!」
俺は全力でツッコむが、焔華は全く気にしていない様子で、胸を張って堂々と言い返す。
「わしにとっては、この手裏剣こそが戦いの象徴なんじゃ!これを掲げることで、勝利の味がさらに際立つんじゃよ!」
「どんな理屈だよ!手裏剣ソフトクリームに勝利とかいらねぇから!」
すると焔華は俺の肩を叩きながら、目を輝かせて続ける。
「ほれ、雷丸、お主もやってみぃ!ソフトクリームの陣を体感するのじゃ!」
「絶対やらねぇよ!俺まで巻き込むな!」
俺が拒否しても焔華は全く気にせず、満足げにソフトクリームを口に運ぶ。そして、一口食べると目を閉じてじっくりと味わい、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「うむ!甘さと濃厚さ、さらにこの手裏剣のクッキーのカリカリ感がたまらんのぅ!」
焔華の絶賛に、俺はなんだか呆れながらもつい笑ってしまう。やっぱり焔華らしいと言うべきか、彼女は何をしても全力で楽しむ才能がある。俺は小さく肩をすくめながら、心の中でつぶやいた。
(まあ、これが焔華だしな……楽しいなら、いっか。)
そんな焔華の姿に、周囲の観光客もつられてクスクス笑い出し、何だかその場が少し和やかな空気に包まれていった。
次に俺たちは、お土産屋さんに向かうことにした。
お土産屋の店先に並ぶ数々の品々を見て、全員がそれぞれ興味を引かれるものを物色し始めた。そんな中、貴音が富士山の形をした小さな鈴を見つけて、目を輝かせながら手に取る。
「お兄ちゃん、これかわいい!見て、富士山の形してるよ!」
貴音は鈴を大事そうに両手で持ちながら、店の中でチリンチリンと音を鳴らしている。その澄んだ音色が、どこか心を落ち着かせるような雰囲気を漂わせていた。
「しかもね、この鈴、幽霊を遠ざける効果があるんだって!」
そう言って、さらに鈴を振り、音を鳴らしてみせる貴音。その無邪気な笑顔に、俺は思わず笑いそうになる。
「幽霊を遠ざけるって……そんな効果、本当にあるのか?」
「あるよ!お店の人が言ってたもん!」
貴音は自信満々にそう答え、鈴を軽快に鳴らし続ける。その様子を見ていた麗華が、少し呆れたようにため息をつきながら言った。
「貴音、それ、ただの飾り用のお土産でしょ。本気で幽霊を遠ざけるなんて信じてるの?」
しかし貴音は、そんな麗華の言葉にも全く気にせず、胸を張って笑顔で答える。
「だって、音が可愛いから幽霊も逃げちゃう気がするもん!」
その無邪気すぎる理屈に、俺は苦笑いしながらツッコミを入れる。
「いや、幽霊ってそんな単純な理由で逃げるのかよ!」
隣で雪華が、楽しそうに微笑みながらフォローを入れる。
「でも、可愛い鈴の音ってなんだか安心しますよね。旅の思い出にピッタリかもしれません。」
その一言に、貴音はさらに嬉しそうに笑い、鈴をじっと見つめながら呟く。
「じゃあ、この鈴を買って、旅のお守りにしようかな!」
そう言ってレジに向かう貴音の姿を見て、俺は「本当に気に入ったんだな……」と心の中で笑いながらつぶやいた。
一方で、焔華は隣の棚に並んでいる「富士山型のこけし」を手に取り、「おぉ!これは富士山が戦う準備をしておる姿じゃな!」と独自の解釈を始めていた。
……おい、みんな好き放題楽しんでるけど、俺の財布の中身、大丈夫か?
全員が自由奔放に楽しんでいる様子を見て、俺もつい笑ってしまった。富士山型の鈴を振り続ける貴音、富士山こけしを「戦う富士山だ!」と熱弁する焔華、そして雪華や麗華が落ち着きつつも微笑みながら次々とお土産を選んでいる。なんだかんだで、みんな笑顔だ。
気づけば、目的地のことなんて頭の片隅に追いやられていて、全員が完全に観光モードだ。富士の樹海に入る緊張感なんてどこへやら、ただ楽しい旅行のひとコマが続いている。
まぁ、こうやって大笑いしながら進むのも悪くないか。少しズレてるけど、これが俺たちらしい“冒険”なんだろう。
みんなで騒ぎながら店を後にし、俺たちは富士の樹海への道を一歩ずつ進んでいった。旅の目的地に辿り着くまでのこの時間さえ、きっと大切な思い出になる――そんな気がしていた。
――――――――――
駅を出ると、俺たちはすでにお土産袋で両手がいっぱいになっていた。それぞれの袋から、富士山型の鈴や手裏剣ソフトクリームの包装袋、さらには焔華が持っていた謎のこけしまで、旅の記念品が飛び出している。
その中でひときわ目を引いたのは、雪華が大事そうに抱えているお土産袋。見るからに丁寧に詰められているが、なぜか少し甘い匂いが漂ってくる。
俺がふと気になって袋を覗き込むと、中には先ほど買ったはずの「富士山クレープ」がきっちりと包まれた状態で入っていた。
「なんか富士山クレープ入ってんだけど!」
俺が思わず声を上げると、雪華はにこっと無邪気な笑顔を浮かべながら返事をする。
「あ、これですか?途中でまた甘いものが食べたくなるかもしれないと思って、一つ買い足しておいたんです。」
俺が雪華の袋を覗き込んで、富士山クレープが完璧な状態で保管されているのを見て思わず聞いた。
「え、溶けないの?普通、クレープなんて持ち歩いてたらグチャグチャになるだろ?」
すると雪華はいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、さらっと答える。
「だって私、雪女の妖怪ですよ?こういうのはお手の物です。」
その言葉に全員が一瞬固まり、次に焔華が驚いた声を上げた。
「ほ、本当か!?まさかお前、自分で温度を調節して保冷しておるのか!?」
雪華は微笑みながら小さく頷く。
「ええ、私の能力でクレープをちょうど良い温度に保っているんです。ちょっと冷やしすぎると味が変わっちゃうので、そこは細かく調整してますけどね。」
その言葉を聞いて、俺は思わず顔を引きつらせた。
「なんだその無駄にハイレベルな使い方!雪女の能力って、そういうことに使うもんじゃねぇだろ!」
だが雪華は気にする素振りもなく、むしろ誇らしげに続ける。
「旅先で甘いものを美味しいまま食べるためなら、能力を最大限に使うのは当然です。雷丸様、旅の楽しみはこういう細やかな工夫から生まれるんですよ?」
「いやいや、細やかすぎるだろ!そんな冷蔵庫みたいな使い方する雪女、聞いたことねぇよ!」
隣で麗華が腕を組みながら感心したように呟く。
「確かに……妖怪の能力ってこういう実用的な使い方もあるのね。雪華、少し見直したわ。」
その言葉に雪華は控えめに微笑み、「ありがとうございます。日常生活にも役立てるのが私の目標ですから」と答える。
すると、貴音がピョンと跳ねるように雪華に近寄り、目を輝かせながら言った。
「雪華がいれば、いつでも冷たい飲み物が飲めるじゃん!アイスとかジュースとか、夏でも超便利だよね!」
その無邪気な言葉に雪華は少し困ったような笑顔を浮かべながらも頷く。
「そうですね……必要であればいつでも冷たい飲み物をご用意しますよ。私がいる限り、皆さんが暑さで困ることはありません。」
その言葉を聞いた貴音はさらにテンションが上がり、焔華の袖を引っ張りながら声を上げた。
「ねえねえ、焔華!雪華がいればキャンプとかバーベキューでもアイスクリームが食べられるんじゃない?」
「おおっ、それは確かに!わしの炎と雪華の冷却で、熱いものも冷たいものも完璧じゃな!これぞ最強の食材管理チームじゃ!」
二人が盛り上がる中、麗華は呆れ顔でため息をついた。
「まるで移動レストランみたいな話になってるわね……」
こうして、雪華の妖怪能力をフル活用した「クレープ保冷術」は、俺たちの旅の中でも忘れられない珍エピソードになったのだった。
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