異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第168話 富士の樹海6

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 呪術師の集団が通り過ぎたあと、麗華がふっと口を開いた。

 

「今のは崇拝派の呪術師ね、翠嶺と水月……そして取り巻きのモブ三人」

「知ってるのか、麗華?」



 俺が驚きつつ尋ねると、麗華は頷きながら説明を始めた。


 
「えぇ、二人とも崇拝派の幹部よ。白髪で長い髭が特徴的だったのが翠嶺。温和な顔をしていたけれど、信仰には狂信的なところがあるの。あの見た目に騙されないほうがいいわ。」

「あのヒゲのおっさんがそんなヤバい奴だったのか!?」



 俺は驚きを隠せず、さっきの穏やかそうな顔を思い浮かべながら呟いた。麗華はさらに続けた。


 
「そして、彼と共にいた女性、水月。茶髪でおとなしい雰囲気だったでしょ?でも、彼女は美しいものに絶対的な価値を置くタイプ。妖怪や自然の美を崇拝しているの。そして、自らの力に絶対の自信を持っていて、他者を見下すような態度を取ることが多いわ。」



 俺は「まじかよ……見た目は穏やかそうだったのに、そんなに危ない奴だったのか」とつぶやき、ますます気が引き締まるのを感じた。さっきまで観光気分だった俺たち全員の空気が、一気に緊張感を取り戻していく。


 麗華はきっぱりと言い切った。


 
「あの二人がいるということは、天狗が本当にいる可能性が高いわ。崇拝派が動く理由なんて、それくらいしか考えられないもの。」

「ってことは、俺たちの情報は間違ってなかったってことか!」



 俺がそう言った瞬間、全身が熱くなるような興奮が一気に沸き上がってきた。


 
「テンション上がってきたァァァァァァ!!!」



 俺は声が森中に響き渡る勢いで叫びながら、両手を天高く突き上げる。勢い余ってその場で軽くジャンプし、何度も腕を振り回して、まるで「これから伝説を作るぞ!」という意気込みを全身で表現していた。


 
「やっぱりいるんだな!?美人天狗!これは絶対に会いに行くしかねぇ!むしろ俺を待ってるまであるだろ!!」


 その勢いに任せてさらに叫ぶ。


 
「崇拝派ありがとう!!お前らのお陰で確信持てたよぉぉぉぉぉぉぉ!!!協力者かよ!お前ら!」


 
 勢いのまま叫び続ける俺を見て、麗華が冷静に一言。


 
「飯田君……そのテンション、どこから湧いてくるのかしら。すごく……迷惑よ。」

「待ってろ天狗!俺様が会いに行ってやるからなぁ!!!」


 俺は完全に自分の世界に入り、拳を握りしめながら天に向かって謎の勝利宣言を繰り返す。


 すると焔華が、「おお、雷丸が本気じゃな!わしも負けておれん!」とソフトクリームの棒を高々と掲げ、俺のマネをして「天狗よ、出てくるがいい!われらがここにおるぞ!」と叫び出した。

 

 お前、棒掲げても何も起こらないから!

 

 貴音はそんな二人を見てケラケラ笑いながら、「お兄ちゃん、天狗に告白でもする勢いだね~!」とからかい始める。


 雪華は口元を抑えてクスクス笑いながら、「雷丸様、森中の動物たちもビックリして逃げちゃうかもしれませんよ~!」と、優しくたしなめる。


「俺は絶対会うぞ!美人天狗!いや、むしろ向こうから『やっと来てくれたのね!』とか言って迎えてくれるだろ!?ハーレムの新メンバー確定だ!!」



 麗華は呆れ顔でため息をつきながら、「……飯田君の頭の中、全力で幸せそうね」とボソッと呟いた。


 しかし俺は全く動じない。


 
「崇拝派が来てようが関係ねぇ!美人天狗は俺が必ずハーレムに迎えるんだ!」



 こうして俺たちは、再び気合を入れ直して、天狗がいるであろう富士の樹海の奥へと足を進めたのだった。

 


 
 ――――――――――――――



  
 樹海の奥深くへと歩みを進める俺たち。すると、急に「ガサガサッ」と音がして、一同がビクリと立ち止まった。全員の視線が一斉に音の方向へと向かう。

 
「なんだ、今の音…?」と俺が呟くと、貴音が無邪気に「お兄ちゃん、もしかして幽霊…?」と、ちょっと楽しそうに目を輝かせてくる。いや、怖がるところだろ?

 
「まさか、本当に天狗かもしれない」と麗華が真剣な目で言ったかと思うと、俺たちは静かに音のする方へと進んでいった。

 
 遊歩道を外れ、樹海の中を進んでいくと、木々の間に何やら人影が見えてきた。



「いた!あそこだ!」



 俺がそう呟くと、全員の視線が一斉にその人影に向かう。近づいてみると、そこには――長い黒髪をたなびかせた少女が、地面に倒れていた。


 
「こ、これは……!」



 俺は驚きのあまり言葉を失ったが、次の瞬間には全身が震えるほどの感動が込み上げてきた。

 
 全員が息を飲むのも無理はない。だって、目の前にいる彼女は、ただの少女なんかじゃない!美しさと迫力の化身そのものだ!


 彼女は黒地に金の模様が入った戦闘服を纏い、その姿はまるで闇夜に舞う黄金の雷。衣装は無駄をそぎ落としつつも、どこか気高い雰囲気を纏っていて、ただそこにいるだけで周囲の空気が引き締まるようだ。そして、彼女の高い位置で結ばれたポニーテールが風になびき、黒髪の輝きが夜の闇を切り裂くように美しく映える。


 透き通るような白い肌はまるで陶器のように滑らかで、光を受けるたびに柔らかな輝きを放っている。その肌の美しさは、荒れた自然の中にあって全くそぐわないほど神秘的で、まるで森そのものが彼女を守るために存在しているかのような錯覚を覚える。


 高い鼻筋ときゅっと引き締まった小さな唇。特にその唇はほんのりと薄桃色で、まるで一輪の花びらがそっと置かれているようだ。目を閉じたままの彼女の表情は、冷たさと静寂を象徴するようでいて、どこか儚さも感じさせる。


 そのまつげは驚くほど長く、伏せた瞼の上で軽く影を落としている。それがまた彼女の顔立ちをより洗練されたものに見せているのだ。


 頬骨のラインは柔らかく、鋭さと美しさの絶妙なバランスを作り出している。全体として、彼女の顔は戦士としての強さを持ちながらも、女性としての魅力があふれる造形美そのものだった。

 

「……すげぇ……」



 俺は思わず声を漏らした。目の前に倒れている美人に、完全に心を奪われていた。いや、奪われたなんてもんじゃない。もはや俺の心臓は彼女に捧げるためだけにバクバク動いてるんじゃないかってくらいだ。

 次の瞬間、俺の中で何かが弾けた。


 
「美人の天狗だーーーーー!!!」



 俺の叫び声が樹海中に響き渡った。鳥たちがバサバサと飛び立つ音すら気にせず、俺は両手を天に突き上げ、喜びを全力で表現する。


 
「飯田君、声がでかいわよ!」



 麗華が呆れたように眉をひそめるが、そんなの知ったこっちゃねぇ!


 
「なぁ!?あれ、天狗だよな!?羽、生えてるし!」



 興奮気味に振り返りながらメンバーに問いかける俺。

 すると、雪華が小首をかしげながら優しく微笑み、のんびりとした声で答える。

 
 
「天狗って、鼻が長いイメージですけど……あれ?あの方は長くないんですね。」



 言われてみれば確かに鼻は普通だ。でもそれがいいんだよ!むしろこの美しい顔には鼻長いとか似合わねぇだろ!



 
「今時の天狗はそうなんだよ!きっと時代に合わせてデザインを一新したんだ!」



 俺は声を張り上げながら、全力で擁護する。

 その瞬間、麗華が鋭い目つきでツッコんできた。


 
「デザインを一新って、何よそれ!天狗は妖怪よ!?ファッションブランドじゃないの!」

「いいや、天狗だって進化する時代だ!ほら、最近の妖怪ってみんなスタイリッシュだろ!?雪華も焔華もさ!そういう流れなんだよ!」


 
 俺がそう言うと、焔華が腕を組みながら真剣な表情で頷く。



「ふむ、確かに妖気を感じるのぉ……この羽の威厳、この姿!ただ者ではないことは間違いない。わしの直感がそう言っておる!」



 焔華がその直感を力強く宣言する。


「だろ!?妖気も漂ってるし、見た目も完璧だし、これは間違いなく天狗だよな!」



 俺は美女を再び指差しながら力説するが、そこで貴音が心配そうな声を上げた。


 
「でも、天狗さん倒れてるよ?お腹減ったのかな?」

「いやいやいや!」



 俺は勢いよくツッコミを入れる。



 
「天狗が腹減らして倒れるとか、そんなカジュアルな存在じゃねぇだろ!あの羽と気品を見てみろよ!この天狗が倒れてるのはきっと神秘的な理由があるんだ!」



 しかし貴音は、まったく悪びれずに続ける。


 
「でも、もしお腹が空いてるだけなら、私のお菓子あげてもいいよ?」



 そう言いながら、バッグの中のお菓子を取り出そうとする貴音。いや、いい子なのはわかるけど、そこでスナック菓子を差し出すのは違うだろ!


 麗華が再び冷静に割り込む。



 
「飯田君、でも貴音の言うこともあり得なくはないわよ。妖怪だって生き物なんだから、普通に空腹で倒れてるかもしれないじゃない。」

「そんなわけあるかー!!」



 俺は思わず天を仰ぐ。


 
「もっと壮大な理由で倒れてるはずだろ!たとえば、人間界を守るために激しい戦いを繰り広げて力尽きたとか、そういうヤバい背景があるに決まってる!」

「……背景を勝手に作るのはやめてくれる?」



 麗華が半眼で俺を睨むが、俺は全然気にしない。


 
「いいんだよ!だって、この美しさを見てみろ!ただ倒れてるだけなんてあり得ねぇ!」

「でも、お菓子渡したら起きるかもよ?」



 貴音が無邪気に微笑みながら、手に持ったスナック菓子を差し出そうとする。その光景に、俺はもう頭を抱えるしかなかった。


 
「お前ら、もうちょっと神秘的な想像してくれよ!頼むから!」



 しかし俺の懇願もむなしく、メンバーたちはあくまでマイペースだった。俺の熱弁とみんなのズレた反応の温度差が、富士の樹海に妙な空気を漂わせていた――。
 
 
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