異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第172話 富士の樹海10

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 霧羽が突然、真剣な表情で富士山の頂上を指さして言い放った。

 

「……では今から行くぞ。夜嵐達がいる富士山の頂まで、共に登ろう!」



 その言葉に全員がぽかんとしながら、思わず山頂を見上げた。青空を背にそびえ立つ富士山の頂は、遥か彼方にある。


 
「いやいやいや、無理だろ……。今日、これ登るのか?」



 俺は呆然と呟きながら、冷や汗が背中を流れるのを感じた。


 全員が無言で頂上を見つめ、心の中で同じツッコミをしているのが手に取るように分かる。だって、今日中に登るなんて話、聞いてねぇ!俺たちは天狗探しに来たんであって、登山計画なんか立ててないだろ!


 すると、雪華が静かに手を挙げ、穏やかな声で提案した。

 

「その『風神の儀式』?まで猶予もあるみたいですし、一度、下に戻りましょう?」



 その提案に、全員が一斉に雪華の方を向き、心の中で「ナイスだ!」と叫ぶ。


 
「そうね。登山は明日にした方が良さそうだわ……」



 麗華が即座に賛成し、冷静に状況をまとめる。その隣で貴音も、「お兄ちゃん、登山って結構大変なんだよね。ちゃんと準備しないと!」と、真剣な顔で言い添えた。

 霧羽は最初、目を見開いて驚いた顔をしていたが、次第にその表情がしょんぼりと変わっていく。


 
「……そうか。では、今日は休むことにしよう。」



 彼女の黒い翼が少しだけ下がり、なんとなく肩を落としたように見える。その姿に、俺は少し罪悪感を覚えたが、無理なものは無理だ!


 
「よし、今日は下山して作戦会議だ!富士山の頂上は逃げねぇ!体力を万全にして、明日に備えよう!」



 俺がそう叫ぶと、焔華が勢いよく拳を突き上げながら、「よし!その間にわしも登山の秘策を考えるぞ!」と元気よく応えた。いや、お前が考える秘策ってなんだよ……。


 こうして俺たちは、一時休憩と称して下山を決めた。次回の頂上挑戦に向けて、まずは英気を養う時間だ――!



 

 ――――――――


 


 全員で富士の樹海を下りてきた俺たちは、最終的にキャンプ場と民宿が点在するエリアで泊まることにした。


 民宿に到着し、荷物を降ろした俺たちは広々とした和室に案内された。畳が一面に敷き詰められた部屋は木のぬくもりを感じさせ、窓を開けると静かな樹海の緑が広がる。

 そよそよと吹き込む風が心地よく、これまでの疲れが一気に癒されるようだった。


 俺はそのまま畳にゴロンと横になり、天井を見上げながら深いため息をついた。


 
「なんで旅館の部屋ってこんなに落ち着くんだろうな……。」

「確かに、旅館って落ち着きますよね~。」



 雪華が同意しながら、カバンをゴソゴソと漁る。そして、誇らしげに和菓子を取り出して見せびらかしてきた。


 
「こういうところで甘いものを食べながらのんびりするのが、また格別なんですよ。」

「おいおい、雪華!お前、さっき樹海でも同じこと言ってただろ!」



 俺が呆れて声を上げると、雪華は「あら、そうでしたっけ?」と悪びれもせず笑顔を浮かべる。まったく、どれだけ甘いものが好きなんだよ。


 ふと視線を横にやると、霧羽が落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見回している。知らない場所に連れてこられた猫みたいに挙動不審だ。


 
「どうした、霧羽?落ち着かないのか?」



 俺が尋ねると、彼女は一瞬きまり悪そうに目を逸らしながら、小さな声で答えた。


 
「……人間の建物に入るのは、これが初めてでな。どうにも慣れない。」



 その言葉に、思わず笑いがこみ上げてくる。


 
「なんだよ、霧羽。お前みたいな強そうな天狗が、こんな普通の旅館でソワソワしてんのか?」

「……うるさい。これはこれで、私には新しい経験なんだ。」



 霧羽はぷいっと顔を逸らしながらも、その瞳にはどこか新鮮な好奇心が宿っている。


 その様子を見ていた麗華が、少し呆れたように肩をすくめた。


 
「飯田君、霧羽の気持ちもわからなくはないわ。妖怪にとって、こういう人間の生活空間は異質なんじゃない?焔華と雪華は別として……。」



 焔華が布団にゴロンと転がりながら、豪快に笑い飛ばす。


 
「わしは人間の食事も布団も気に入っておる!快適じゃからな!」



 雪華もにっこりと笑いながら頷く。


 
「私も、こういう空間は好きですよ。甘いものとセットなら、最高ですし。」

「お前らは馴染みすぎだろ!」



 俺は心の中でツッコミを入れつつ、霧羽の方に視線を戻す。


 
「まあ、慣れるのも大事だぞ。霧羽も少しずつ人間の生活を体験してみるといいよ!」



 霧羽は少し考え込むように沈黙した後、真剣な表情で頷いた。


 
「……わかった。これも共存のための一歩だと思えば、悪くないのかもしれないな。」



 そんな空気を破ったのは、部屋の隅で施設紹介の冊子をパラパラとめくっていた貴音だった。


 
「ここ!温泉あるみたいだよ!」



 その言葉に全員が一斉に貴音の方へ視線を向ける。


 
「温泉?」



 俺が思わず聞き返すと、貴音は満面の笑みで冊子をこちらに差し出しながら指をさした。


 
「そう!旅館の中に温泉があるんだって!露天風呂もあるみたい!」



 彼女の目はキラキラと輝いていて、温泉の存在に心底ワクワクしているのが伝わってくる。その笑顔につられて俺もつい興奮気味になる。


 
「おいおい、露天風呂だって!?最高じゃねぇか!」



 その瞬間、焔華が立ち上がり、豪快に手を叩いて叫んだ。
 
「風呂じゃ風呂じゃ!温泉に入るのは久しぶりじゃぞ!早く行こう!」



 勢い余って布団を蹴り飛ばし、焔華は部屋を走り回る。


 
「落ち着けって!まだ準備もしてねぇだろ!」



 俺が突っ込むも、焔華のテンションは最高潮だ。

 そんな中、雪華が柔らかい笑顔で霧羽に声をかけた。


 
「霧羽さん、せっかくだから温泉行きましょうよ。とても気持ちいいですよ。」



 霧羽はその誘いに少し戸惑いながらも、周りの熱気に押されて小さく微笑む。


 
「……そうか。温泉というもの、少し興味があるな。」

「じゃあ決まりだな!全員で行くぞ!」



 俺が号令をかけると、麗華も仕方ないと言いたげに立ち上がる。


 
「温泉で疲れを癒すのも悪くないわね。さっきまで樹海を歩き回っていたし。」

「だろ!?温泉ってだけでテンション上がるよな!」



 俺たちは全員で準備を整え、ワイワイと話しながら民宿に併設された温泉へと向かった。



 
 ――――――――
 

 【霧羽視点】

 

 湯の心地よさに身を委ねながらも、私は湯船の縁に静かに腰掛けていた。周囲からは楽しげな声が聞こえ、貴音、雪華、麗華、そして焔華が湯の中で女子会のように笑顔を交わしている。その光景はどこか穏やかで、私には少し眩しく映った。


 そんな中、ふと胸に浮かんだ疑問が抑えきれなくなり、私はそっと口を開いた。


 
「……聞いてもいいか?」



 彼女たちは一瞬動きを止め、全員が私の方を振り向いた。その視線に少し緊張しながら、私は続けた。


 
「ハーレムというのは……何だ?」



 その問いに、最初に反応したのは雪華だった。彼女は柔らかな笑みを浮かべながら、静かに答える。


 
「ハーレムとは、雷丸様が愛する女性たちに囲まれて、彼自身も女性たちを守ろうとする――そんな関係なんですよ」

「……愛する女性たちに囲まれる……?」



私はその言葉を頭の中で反芻した。聞けば聞くほど奇妙な響きに思える。だが、彼女たちの表情は真剣そのもので、冗談を言っている様子はない。

 

「お前たちは……それでいいのか?」



 つい、そんな率直な言葉が口をついて出た。私には理解しがたい状況だ。普通、こんな状況を受け入れるものだろうか?


 その言葉に反応したのは雪華だった。湯気に包まれた彼女の穏やかな笑顔が、ふわりと柔らかい空気を生み出す。


 
「最初は、正直嫌でしたよ」



 雪華の言葉に続き、麗華が軽く苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「ええ、確かに。最初は私も呆れてばかりだったわ」



 さらに、貴音が湯船の中で勢いよく手を挙げる。


 
「私も!最初はお兄ちゃん、大っ嫌いって思ったし!」



 彼女たちが口々に語る言葉に、私はさらに深く疑問を抱いた。最初は嫌だったと言いながら、どうして今の状況を受け入れているのだろうか。


 雪華は私のそんな戸惑いを見透かしたように、続けて言葉を紡いだ。


 
「でも段々と、ハーレムもいいなって思ったんです」



 雪華は微笑みながら、静かにその理由を説明してくれた。


 
「彼の根底にあるのは『自分の好きな人たちを幸せにしたい』という思い。その考えがあるからこその雷丸様で、その考えがあるからこそのハーレムです。筋は通ってますからね」


 
「そうね」と麗華も湯に身を沈めながら頷いた。


 
「飯田君の言葉はいつも適当で浅はかだけど……その根底には、強い思いやりがある。だからこそ、私たちもつい支えたくなるのよ」



 次に貴音がにっこりと笑いながら声を上げた。


 
「私はね、ハーレムファミリーのみんなが優しくて綺麗で、一緒にいて楽しいから賛成派になったんだ!お兄ちゃんがみんなを大切にして、私たちもみんなを大切にする。本当の家族みたいで、私は本当に嬉しい!」



 彼女の無邪気な笑顔は、まるでそれがこの世で最も自然なことだと言わんばかりだった。その純粋さに、私はしばらく言葉を失い、彼女たちを見つめたまま、湯船の中で小さく息をついた。


 最後に焔華が湯の中で大きく伸びをしながら声を張り上げた。

 

「わしはまぁ、最初からハーレム賛成派じゃったがな。雷丸は……とにかく熱い奴じゃ!仲間のために自らを投げ出してでも助けようとするし、何より、いつも楽しませてくれる!あいつは最高の男じゃからな!」



 焔華の熱っぽい言葉に貴音が笑顔で付け加える。


 
「そうだよ!お兄ちゃんはみんなのヒーローなんだよ!」



 彼女たちの言葉には嘘偽りのない想いが込められているのが伝わってくる。私は何も返せず、ただ静かに彼女たちを見つめた。湯気の中で浮かぶその笑顔には、確かに揺るぎない信頼と、心の底からの安心感が漂っていた。


 
「……そうか」



 ぽつりと漏らしたその言葉が、湯気の中に溶けて消えていく。彼女たちが雷丸をどう思っているのか――少しだけ理解できた気がした。それでも、この「ハーレム」という奇妙な関係に馴染むには、まだ時間が必要なようだ。


 私は湯船に身を沈め、ぼんやりと天井を見上げる。この空間には、不思議なほどの温かさが満ちていた。それが雷丸という存在がもたらしたものなのかもしれない、と思いながら。
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