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第175話 富士の樹海13
しおりを挟む――――――次の日。
朝日が差し込む食堂に、俺たちは眠気をこらえながら集まった。テーブルにはずらりと並んだご馳走が目に飛び込んでくる。そのラインナップを見て、俺は思わず息を呑んだ。
「おおお!これが山の恵みってやつか!」
目に飛び込んできたのは、ピカピカに輝く焼きヒメマス。皮はこんがりと焼けて香ばしく、湯気とともに立ち上る香りが俺の食欲を一気にかき立てる。
その隣には甘辛く煮付けられたワカサギの小鉢。黄金色の身が艶やかで、見ているだけでほろ苦い風味が口いっぱいに広がりそうだ。
さらに、山菜の煮物が彩りを添えている。フキやゼンマイがしっとりと煮込まれ、香り高い出汁の香りが食欲をそそる。鮮やかな赤いニンジンと緑の木の芽が添えられ、見た目も美しい。
そして、なめこ汁の湯気が立ち上る大きな椀。とろりとしたなめこの食感と、山のキノコの香りがたっぷり染み込んだ味噌汁が、目にも心にも温かい。
「それじゃ、いただきます!」
全員が箸を手に取り、勢いよく朝ご飯に手をつけ始めた。
一口目を食べた瞬間、俺の目が見開かれる。
「う、うめぇ……!これ、今まで食ったどんな朝飯よりもうまいぞ!」
俺の驚きに貴音が頷きながら、ヒメマスをぱくりとほおばる。
「本当に美味しい!お魚がこんなにふわふわだなんて!」
麗華も感心したように山菜の煮物を箸でつまみ、口に運ぶと、小さく息を漏らした。
「出汁の味がすごいわね……手間暇かけてるのが伝わるわ。」
焔華はワカサギを一口で頬張ると、勢いよく拳を突き上げた。
「うおぉぉっ!これぞ山のご馳走じゃぁぁ!!」
雪華はなめこ汁を一口飲み、柔らかい微笑みを浮かべる。
「ふふ、この優しい味がじんわり染みますね……。」
そして霧羽。彼女はなめこ汁をじっと見つめた後、慎重に一口飲み込む。しばらく静かに味わった後、神妙な顔で頷いた。
「……この汁……深いな……。やはり人間は良いものを作る。わたしはこの地の人間たちを見直したぞ。」
その真剣な口調に、俺たちは思わず笑いながら頷き返した。霧羽も楽しんでいるのが伝わるのがなんだか嬉しい。
こうして、俺たちは山の味覚が詰まった朝ご飯を堪能した。食べ進めるごとに全員の表情が柔らかくなり、昨日の疲れもどこかへ吹き飛んでいく。美味しい食事とともに、俺たちの冒険は今日も元気にスタートするのだった。
――――――――――――
美味しい朝食を食べ終えると、俺たちはそのまま作戦会議を始めた。
「それで、夜嵐が行おうとしている“風神の儀”ってなんなんだ?」
俺の問いかけに、霧羽が静かに説明を始める。
「……“風神の儀”とは、富士山の霊脈に蓄積された膨大な霊力を、自らの内に降ろし込む儀式だ。その結果、夜嵐は風神と呼ばれる存在に等しいほどの力を手にする。」
「霊力……?それって具体的に何なんだ?」
俺がさらに尋ねると、麗華が少し姿勢を正し、落ち着いた口調で補足してくれた。
「霊力は、すべての生物や存在が持つエネルギーのことよ。人間や妖怪、動植物だけじゃなく、山や川、大地、風といった自然そのものにも宿るわ。生命活動や自然現象の背後にある『見えない力』として機能しているの。」
「なるほどな……それで富士山にはその霊力が大量に溜まってるってことか?」
霧羽が頷きながら続ける。
「そうだ。富士山はこの世界において『天と地を繋ぐ霊的な柱』とされている。この山には長い年月をかけて動植物や自然現象から発せられた霊力が集まり、100年もの間、蓄積され続けている。」
「だから夜嵐はその霊力を手に入れようとしてるってわけか……。」
俺は腕を組みながら考え込んだ。そんな力が夜嵐のものになったら、一体どれだけの破壊をもたらすのか、想像するだけで背筋が寒くなる。
霧羽が真剣な表情で言葉を継ぐ。
「もし“風神の儀”が成功すれば、夜嵐は富士山そのものの力を掌握し、この地だけでなく、周囲の自然や命までをも支配する存在になるだろう。だが、その力は……危険だ。彼の憎しみによって、この世界が荒廃する可能性が高い。」
その言葉に、全員の表情が険しくなった。俺は拳をぎゅっと握りしめ、強く言葉を吐き出す。
「…………そんなこと、絶対にさせねぇ!」
その気迫に触発されるように、焔華が勢いよく立ち上がり、拳を振り上げて叫んだ。
「そうじゃ!富士山はみんなのもんじゃ!夜嵐だけのものにさせてたまるか!」
一瞬、微妙な沈黙が流れる。麗華がため息をつきながら、冷静な声で呟いた。
「……焔華、それ、何かズレてる気がするわ。」
しかし焔華はまったく気にせず、胸を張って言い返す。
「ズレてないぞ!夜嵐は食い物も独り占めするつもりじゃろ!わしはあのワカサギがもう一度食べたいんじゃ!」
その堂々たる主張に、雪華がくすくす笑いながら、優しい目で焔華を見つめる。
「焔華さんらしいですね。でも、実際に夜嵐さんが“風神の儀”を成功させてしまえば、朝食で食べたワカサギが食べられなくなる可能性もありますね。」
その言葉に、貴音が顔を青ざめさせて立ち上がった。
「そ……そんな……!!じゃあ、さっき食べたふわふわのヒメマスも、もう食べられなくなっちゃうの!?」
雪華は神妙な顔で頷き、静かに続ける。
「はい……環境が荒れて、富士山の霊力が暴走すれば、きっと自然も壊れてしまいます。それに、暴走した夜嵐さんが全部ヒメマスを食べてしまうかもしれません。」
俺は思わずツッコまずにはいられなかった。
「おいおい、なんで急に夜嵐がヒメマス泥棒になってんだよ!そいつの計画、世界征服とかじゃなくて魚食い尽くすことなのか!?」
俺の突っ込みに周りもくすくすと笑い出すかと思いきや、次の瞬間、貴音が衝撃を受けたように胸に手を当て、目を大きく見開いた。
「そ……そんな……!!」
「え、どこにそんな衝撃受けるポイントがあったんだよ!?」
俺がさらに驚いてツッコむ間もなく、貴音はぐっと拳を握り締め、決意を込めた目で声を張り上げた。
「そんなの……絶対にダメ!私、もう一度ヒメマスの塩焼き食べたいもん!」
その真剣すぎる表情と強い口調に、俺は思わず呆然とした。
「いや……貴音、それ本気で言ってるのか?そんなにヒメマスが大事なのか?」
「大事だよ!あんなにふわふわで美味しいヒメマス、食べられなくなるなんて耐えられないもん!」
「お前の正義感、魚の塩焼きで燃え上がってんじゃねぇか!」
俺は頭を抱えながらも、なぜかその場の空気が熱くなるのを感じた。
焔華がすかさず拳を突き上げ、貴音に同調する。
「その通りじゃ!ワカサギの煮付けも、山菜の煮物も、わしらの命の糧じゃ!全部守るぞ!」
「いや、どんだけ食べ物中心なんだよ!」
俺は再びツッコミを入れつつも、全員の目が輝き始めるのを感じた。
そのやり取りを聞いて、麗華が少し呆れながらも、思わず微笑む。
「……まったく、みんなのモチベーションが食べ物っていうのも、ある意味でブレないわね。」
俺はその光景を見て笑いをこらえつつ、拳を握り直した。そして力強く言い放つ。
「よし!なら富士山の恵みを守るためにも、絶対に夜嵐を止めるぞ!ヒメマスもワカサギも、みんなで美味しく食べ続けられる未来を守るんだ!」
全員が力強く頷き、その場の空気が一気に引き締まる。焔華のズレた発言から始まったが、不思議と全員の士気は高まっていた。こうして俺たちは、食べ物への愛と共に、夜嵐の野望を阻止するために再び立ち上がったのだった。
――――――――――
俺たちは民泊を出発し、富士の樹海の静かな緑に包まれながら歩き始めた。足元にはふかふかとした落ち葉の絨毯が広がり、木漏れ日がちらちらと顔を覗かせる。鳥のさえずりや風に揺れる木々の音が、自然のオーケストラのように心地よく耳に届く中、ふと俺は疑問を口にした。
「富士山の登山ってさ、なんか大変なイメージあるよな。」
思い出したのは、以前テレビで見たドキュメンタリーの映像だ。俺は歩きながら熱を込めて話し始めた。
「ほら、この前テレビで見たんだけどさ!真っ暗な山道をヘッドライトだけで登ってんだよ。息切らしながらさ、『ここで諦めるわけにはいかない!』って言って、すごい真剣な顔してたんだ。」
俺はその時の登山者の声色を真似てみせたが、誰も真剣に聞いている様子はない。それでも続ける。
「で、途中で酸素が薄くなってさ、酸素缶をシュッて吸ってんの!それでもフラフラで、後ろの人に『大丈夫ですか?』って声かけられてさ、なんかもう、人生の一大イベントみたいな空気だったんだよ!」
両手を広げてジェスチャーを交えながら真似してみせると、隣の貴音が不安そうに俺を見上げる。
「私、大丈夫かなぁ?途中でへばっちゃいそう……」
その言葉に答えたのは、後ろから聞こえた冷静な声だった。
「ご安心ください!」
振り返ると、いつの間にかメガネを装着した雪華が真剣な表情でメガネをくいっと押し上げ、完全に解説モードに入っていた。その姿は、まるでプロのツアーガイドのようだ。
「貴音さん、雷丸様、ご安心を。今回は無理なく一泊二日で登るプランを立てております。」
「えっ、一泊二日?富士山って途中で泊まれるの?」
貴音が驚いて尋ねると、雪華は優雅に頷きながら、さらなる情報を披露する。
「はい!登山道の途中には山小屋があり、そこで宿泊が可能です。高地でしっかり休息をとり、安全に登頂を目指せるようになっています。」
俺たちが感心していると、隣で麗華がクールに補足を加えた。
「ちなみに、その山小屋の予約なら、私たちが既に済ませておいたわ。」
「えっ、いつの間に!?」
驚いて全員が麗華を振り返ると、彼女は微笑みながらさらりと答えた。
「みんなが疲れて寝ている間にね、雪華と一緒に調べたの。」
その言葉に雪華が得意げに胸を張り、「準備は大切ですからね!」とさらに説明を続ける。
「しっかりと計画を立てておけば、当日も安心して楽しめます!」
俺はその有能ぶりに感心し、思わず笑みを漏らした。
「さすがだな……助かるよ。よし、これで安心して登れるってもんだ!」
その様子を見て、貴音が安心したように微笑む。
「本当に頼りになるね!雪華、お姉ちゃん!ありがとう!」
焔華は腕を組みながら感心した様子で頷いた。
「ふむ、これぞチームワークというものじゃな!」
そして霧羽は神妙な顔でポツリと呟いた。
「……素晴らしいな。これが役割分担というものか。皆の力が一つにまとまることで、こうして準備が整うのだな。」
霧羽が感心したように呟くのを聞き、俺は満面のドヤ顔で胸を張りながら声を張り上げた。
「そうだよ!これが俺たちのハーレムファミリーの力だ!お互いを補い合って、完璧なチームを作り上げてるんだ!」
その言葉に、麗華が苦笑いを浮かべて冷静に呟く。
「補い合うっていうか……飯田君が一番補われてるんじゃないかしら?」
雪華もクスクスと笑いながら頷く。
「でも、そんな雷丸様を支えることで、私たちも成長しているのかもしれません。」
「そうそう!」と貴音が元気よく声を上げた。
「お兄ちゃんだけが頑張るんじゃなくて、私たちも頑張るんだよ!それが家族だからね!」
その言葉に俺は力強く頷きながら拳を握った。
「そうだ!俺はハーレム王だけど完璧じゃねぇ!お前らの力が必要だ!これからも頼むぜ!」
すると、麗華が半眼で突っ込む。
「随分と他力本願な王様ね?」
その一言に焔華が大笑いしながら麗華の肩を叩いた。
「まぁまぁ、麗華!それでも皆が雷丸を慕っとるのが面白いところじゃ!お主もそう思うておるんじゃろ?」
麗華は少し困ったような表情を浮かべながらも微かに微笑む。その様子を見た霧羽が、再び真剣な表情で口を開いた。
「……確かに。雷丸、お前がこのグループの中心にいることで、皆が自然と力を合わせているのは事実だ。」
「だろ!?やっぱ俺、中心人物って感じだよな!」
俺は再び胸を張り、霧羽の言葉に全力で同意する。
「お互いに助け合って、支え合う。それが俺たちハーレムファミリーの真髄だ!霧羽、お前もその一員なんだから、ちゃんと頼っていいんだぜ!」
霧羽は少し驚いたように目を見開き、やがてふっと微笑んだ。
「……そうか。では、私もお前たちに甘えるとしよう。」
その言葉に、俺たちは全員で頷き合った。富士山への道のりはまだ続くが、俺たちはこうして一つのチームとして歩みを進めていくのだった。
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